「もしあなたが一つだけ、世界中の人が従わなければならない法律を作るとしたら、それは何ですか?」これは、人気ポッドキャストOn Purpose主宰のインタビュアー、ジェイ・シェティ氏がプログラムの最後によくゲストに聞く質問です。 

“Be true. (本心に忠実であれ)”

私だったらそう答えるかなぁと、ある日ふと、心の中でひとり会話を繰り広げている自分に気がつきました。

辺りを見渡せば、今こそ私の法「本心に忠実であれ」が最も試される時なのかも、と感じています。パンデミックのいち早い終息を真摯に願った人々は、緊急事態宣言明け、従来の自分の生活には戻れない、戻りたくない、モヤモヤした思いの中で足踏みしながら動き始めているように見えます。まだ用意ができていない新しい地図を探そうと右往左往する中、かつてウイルスに向けられていた恐れは、いつの間にか裏返しになったように「未知なる将来へ踏み出すことの恐れ」に変わっているのかも。最近、そんな風に思うことがあります。

みんなの心の内の会話を表に出したら、きっとこんなことが聴こえてくるのではないでしょうか:

「以前のように満員電車に乗って毎日この会社に通いたくない。けれど次の仕事は決まっていないし、辞めるのは怖い」

「しばらく人と会えなかった期間、恋しくなった友達もいるけど、正直会えないことで気が楽になった付き合いもたくさんあった。この先、どうやったら面倒なことを避けられるかな?」

「仕事のスタイルが変わり、自分で自分のペースを作るようになった。そんな生活が可能だと知ったら、もう前の自分には戻れない。戻ろうとするのは苦しい。どうしよう?」

仕事にまつわる考えは特に、大人の人生の時間の大半を占めるだけでなく、どうやって生計を立てるかに直結しているだけあり、多くの人にとって悩みどころ。きっとみなさんの中にも私のように、ああでもないこうでもないと、心の声が悩みについて良い点と悪い点をセッセか天秤にかけ、しまいにはこんがらがってしまって「じゃあ、何が正解なの?!」と行き詰まった感覚を覚えている方も少なくないのではないでしょうか。

けれども、一年半経った今、私達にとってコロナによる異常事態はもう真新しいことではなくなりました。同時にこのような行ったり来たりを繰り返す心の会話も、もう新鮮なものでもないのかもしれません。少し遠目で見てみると、悩み尽きている私の心は「本当は既に答えを知っている」とも思えるのです。

自分の仕事が、今後も続けていきたい大好きなものか否か。

誘われたあの人に、今日、本当に会いたいのか否か。

おうち時間と合わせて「ひとり時間」や「家族時間」が増えた分、自分が本当にしたいこと、したくないことについて敏感に感じとる能力は少なからず養われてきたはず。そういった意味で、私達のライフスタイルにおける選択肢は、意外と既にふるいにかけられているのではないでしょうか。

ならばなぜ、まだ「何が正解か?」の答えが出ない、自分が進みたい道が分からないモヤモヤが続くのでしょうか? 

答えが出せずにモヤモヤしている時。立ち止まって、まずは「その問いは的を得ているか」を見直してみることは、マインドフルな暮らしを生きるための大きなヒントになります。よく考えてみれば「正解」なんて十人十色。いつ誰がどこでどのように問うかによって答えは変わり、一つの決定的な「正解」なんてない。そう本当に分かっているなら、そもそも正解を求めるクエスチョンの方が的外れなのでしょう。

では、質問を変えてみたらどうでしょう? 「何が正解なの?」ではなく、ちょっと角度を変えて「今の私にとって一番合っていることは何?」とか「一歩でも、自分が本当に進みたい道に近づく決断は?」「私の心にとって最も心地よい、腑に落ちる選択は何?」など。あるようでない自分の外の答案を求めるのではなく、すべての人の中に必ずある「本心」に注目してみること。そして、徹底的に内なる真実と外に向けて生きる行動や言動を整えてみたらどうでしょう。

new me versus old me, dilemmas concept
natasaadzic//Getty Images

すると、モヤモヤ足踏みしている本当の理由が浮き彫りになってきます。そこで見えてくることは、自分の本心の答えを見つけ出すことより、実はそれを知った上で決断し、遂行する力。すなわち実行力の方が本当の難関だということ。

本当は行きたくない飲み会に、今日のあなたは「付き合いだから」やっぱり行く? 断りたいのにNoと言えないのなら、それはなぜ? 

ちょっとグサッとくるこの質問の方が、漠然とした「正解」を求めるよりよっぽど心に効く。いや、人生に効くのかもしれない。私は、恐れと対面するこのクエスチョンを、どこかで避けようとしていた自分の側面にもうっすら気づくようになりました。

しかし、恐れと対面してこそ気づけたことがいくつもあります。ここで、私が「恐れを通して知ったこと」をいくつかシェアしたいと思います:

  • Trust and empower yourself to know that “the choice is yours.”
    自分のことを信じ、「選ぶ力は自分自身にある」ことを紛れもなく知ること。

これまで “ねばならぬ”の下敷きになって生きてきた人ほど大切なことです。なぜなら、“ねばならぬ思考”は自分の「自由意志」を奪ってしまうものだから。それは自分が自分として生きることのパワーを静かに削ってしまうもの。反対に、自分のことを信じ、選ぶ力を自分の元に戻すことは、セルフエンパワメントにつながると感じるようになりました。

  • 失敗はない

しくじりを恐れている自分に気がついたら、何度でも自分にリマインドする言葉です。失敗を経験に置き換えると、そこから何かを学んでいれば、無駄な経験なんてない。つまり、失敗なんて存在しない。これだけ覚えていれば、失敗を恐れて縮こまることを避けられます。

  • 決めたことはすぐに行動に移すこと

頭の中に置いたまま沸々煮たたせても意味がない。実際に手、脚、体を動かし、思考止まりにしないことで初めて自分が決めたことの結果が見えてきます。

  • もし“間違えた”と思ったら、成功するまでまた変えればいいだけ

恥もなければプライドもない、フルスウィングする生き方は気持ちがいいし、「間違えてもいいよ、人間なんだから」という余裕を自分に与えられている寛容さが心地いい。

  • ひとりでこもらない

「自分の中で改められた本心」について人と話してみましょう。少しずつでもいいので、自分を恥じらない。隠さない。自分の決断に沿って堂々と生きることができる自分を、実現を通して自分自身に見せてあげることです。

  • 決断を迷っているうちは、とびっきり自分に優しくすること

それだけ迷っているなら、きっとそれだけ重大なこと。自分のことを突き放さず、寄り添うようにとことん優しくしていた方が、自分の中の本心と仲良くいられるように思います。

2021年、残すところ2ヶ月半。私が一番お勧めしたいことは「当たり前に以前と同じ生活に戻らないで」ということ。変化を選ぶことには勇気が必要かもしれません。新しい自分が生まれようとする時、「これまでの自分」が一番の妨害となることもあるからです。繰り返してきた自分史のパターンを塗り替えるには、変わることのリスクを感じつつも、自分に変化を許可してみる、ちょっとの大胆さではないでしょうか。

世界が不意に大きな一時停止をした期間。そこから目覚める「あなた」がもう一歩自分の中の「本心」に近づいたら、まだ見えないことや分からないことがある中でも、この先の人生がより良くなることは確かだと思うのです。むしろ本心とつながることにしか、悔いのない人生を生きる保証はないのではないでしょうか。

本心に忠実であると、自分を取り巻く環境や人間関係が真っ直ぐになります。ごまかしや相手に合わせた微調整がなくなる分、身軽でシンプルに本当の自分から生きられるようになります。そうして自分は在るべくして自分として生まれてきたのだと、自分自身に見せてあげること。私はいつか振り返ったら、これこそがコロナの最大のギフトだった、と言えるようになっていたいと思います。



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吉川めい
ヨガマスター

MAE Y主宰、ウェルネスメンター。日本で生まれ育ちながら、幼少期より英語圏の文化にも精通する。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児などを経験する中で、13年間インドに通い続けて得た伝統的な学びを日々の生活で活かせるメソッドに落とし込み、自分の中で成熟させた。ヨガ歴22年、日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格者であり『Yoga People Award 2016』ベスト・オブ・ヨギーニ受賞。adidasグローバル・ヨガアンバサダー。2024年4月より、本心から自分を生きることを実現する人のための会員制コミュニティ「 MAE Y」をスタート。https://mae-y.com/