“マインドフルネス”という言葉は最近あちこちで聞く、やたら複雑な定義のせいで理解しづらいトレンドになっている。そのため、私が心理療法士として患者さんにマインドフルネスを勧めるときは、「その瞬間に集中し、自分が感じていることを受け入れるための方法です」とだけ言っている。

マインドフルネスはなぜ重要?

これまで多くの患者さんを診てきたけれど、現代人のストレスの原因は、いま感じていることではなくて、これから起こり得る出来事に対する不安や、そのような出来事に自分が耐えられるわけがないという信念にあるケースが多い。そのような負の感情や信念にとらわれると、現在の状況が必要以上に悪くなる。そして、いまの感情から“逃げたい”という強い気持ちは、その感情そのものよりも大きなストレス、多くの涙、強い恐怖を生み出す。

瞑想、呼吸、物事をありのままに捉えること。この3つを掛け合わせたマインドフルネスは、困難な感情に背を向ける代わりに興味を示し、それを受け入れることで対処する手段。マインドフルネスには、心を落ち着かせて癒す効果があるとされている。

もちろん、1分で不安が消える魔法のテクニックではないけれど、マインドフルネスは仏教の主要な支柱の1つとして何世紀にもわたり実践されてきた。いまは亡きベトナム出身の僧侶、詩人、平和活動家のティク・ナット・ハンは次のように述べている。

「マインドフルに集中して生きることで、私たちは現実を深く捉え、恐怖や怒り、絶望を感じることなく無常を目にすることができる」

大昔から存在するコンセプトとはいえ、マインドフルネスが欧米諸国でメンタルヘルスを改善する戦略として使われるようになったのは、ここ15年くらいの話。認知行動療法(CBT)の補助ツールとしての人気はとくに高い。そう言われると難しそうに思えるかもしれないけれど、マインドフルネスを敬遠しないで。実際にやってみると、意外とすんなり入ってくるから。

大人用の塗り絵や呼吸エクササイズも、庭で紅茶を飲みながらのんびりするのもマインドフルネス。もっと詳しく知りたい人は、マインドフルネスに関する書籍やオンラインのチュートリアルを参考にしてみよう。

レーズンを使ったマインドフルネスの練習を自分でしてみるのも面白い。このエクササイズは非常に人気で、レーズンを10分間観察してから食べるというシンプルなもの。起案者は明らかになっていない。でも、私が観たトレーニングDVDの中でデモをしたのは心理療法士のジンデル・セガールだった。以来、私はさまざまな患者さんにこのエクササイズを伝授して、自分自身でも実践してきた。その方法は以下の通り。

  1. レーズンを1粒手に取り、まるで初めて見るかのように集中してじっくりと観察する。レーズンのシワや小さく盛り上がっている部分を数えたり、色むらがないかチェックしたり。形は左右対称かもしれないし、不格好かもしれない。自分の目で入念に観察しよう。
  2. 1分ほど観察したら目を閉じて、レーズンの感触に意識を向ける。ツルツルしてる? 柔らかい? ベタベタしてる? シワの部分は凸凹してる? 親指と中指でレーズンを挟んで転がし、その手触りや持ったときの感触に集中しよう。
  3. 今度はレーズンを鼻に近づけ、その香りを嗅いでみる。ゆっくりと息を吸い、自然のアロマを楽しんで。
  4. レーズンをそっと口に入れ、舌の上でしばらく寝かせてから口の中でやさしく転がし、そのぼんやりとした味わいに思いを巡らす。
  5. 次はレーズンを噛まずに歯で押してみる。そうするとなにが分かる? 香りに変化は? ほんのりとした甘さが広がる? 口の中に自分の意識を集中させてレーズンの風味の強さを感じたら、今度はレーズンをそっと噛み、その味が濃くなって舌に残る感覚を楽しんで。最後にレーズンをやさしく吸って、その形が崩れるにつれ自分の唾液がフルーティーになっていくのを感じ取る。レーズンを十分味わい尽くしたら、ゴクンと飲み込む。
  6. 座ったまま、レーズンが胃に辿り着くまでの感覚に意識を向ける。口の中に残っている味と香り、指先のベタつきも感じ取って。
  7. ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐く。

このエクササイズはマインドフルネスを身に付けるうえで効果的。でも、日常のあらゆることはマインドフルな方法で行える。英国では、さまざまな街をマインドフルな方法で歩く“ストリート・ウィズダム”というムーヴメントが拡大中。ランチタイムにデスクを離れてじっくり食事を楽しんだり、満員の通勤電車の中で意識的にリラックスしたりするのも立派なマインドフルネス。子どもたちには、ゲーム感覚で行えるマインドフルネスのエクササイズがおすすめ。
 
※この記事は、『Netdoctor』から翻訳されました。

Text: Christine Webber Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。