コロナによるロックダウン生活から私たちが学んだこと言えば、屋外に出て自然の中で過ごすことと、メンタルヘルスを優先させることの2つの重要性。普段は家の中で過ごし、必要なときだけマスクをして、半径5キロメートル以内のスーパーへ行き、トイレットペーパーや除菌剤を買い込む。こうした日々を送ってきた私たちの多くは、自然の存在を当たり前に思いすぎていたことに気づかされた。当然ながら、私たちが生きるうえで大切な「人生の優先順位」の見直しにもつながった。これからはフィットネスを習慣化するのと同じように、メンタルヘルスとウェルビーイングも習慣にして、生活の一部にしていこう。

今回は、オーストラリア版ウィメンズヘルスからウォーキングでどのコースを歩く方がメンタルヘルスによいのかを見ていこう。

仕事の日も「歩く時間」を意識的に取り入れること。仕事帰りにそのままトレーニングシューズに履き替えてジムに直行する人もいれば、都市部の歩道を歩く人もいる。信号ひとつない自然の中を散歩する人もいる。実際のところ、自然の中を歩くことは、メンタルヘルスが向上し、ストレスが軽減されるもっとも効率的な方法であることがわかっている。国際科学誌「Molecular Psychiatry」に掲載された小規模な研究によると、自然の中の散歩は、身体的な健康だけでなく、精神的な健康にも素晴らしい効果をもたらすことが明らかになった。

運動がメンタルヘルスによいことなんて、もはや周知の事実。だけど今回注目すべき点は、同じ1時間でも、自然の中を歩くのと都会を歩くのとでは、前者のほうがより効率的にストレスが緩和されること。この研究では、63名の被験者を「自然コース」と「都会コース」にランダムに振り分け、「自然コース」のグループはベルリンの森の中を、「都会コース」のグループは賑やかな繁華街の通りを歩いてもらった。途中でスマホを触ったり、店に立ち寄ることは禁止され、戻るときに指示を出すための、30分のタイマー付き電話と昼食のみが提供された。

散歩をする前に、被験者たちには諸々のアンケートに回答してもらったあと、脳内のfMRIスキャンを受けてもらい、2つの課題に協力してもらった。最初の課題は、無表情と怖い表情をした女性15人、男性15人の顔写真を見てもらい、その間の脳活動を記録。2つ目の課題は、「モントリオールイメージングストレスタスク(MIST)」。この課題は、一定の時間内に難易度の高い数学の問題を解いてもらい、その間のストレスレベルを計測。散歩後も同じ課題を受けてもらったあとで、別のアンケートに回答してもらった。

young woman next to trees with arms in the air
Tim Robberts//Getty Images

この結果、自然コースを歩いた被験者たちには、散歩後にストレスレベルの低下がみられている。この研究論文の筆頭著者であるソニア・スディマック博士は次のように言及した。「これは、自然の中をほんの1時間歩くだけで、ストレス処理に関与する脳領域の活動が低下することを示しています」

自然の中を散歩した人には、ストレスや恐怖への反応を司る脳活動の低下がみられ、都会を歩いた人にはみられなかった。この結果からも、都会環境が人々のメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、不安やうつ、気分障害などの精神疾患の発症率を増加させる可能性を、ますます否定できない。

また、忙しく人通りの多い都市部がメンタルヘルスを損なう可能性を示唆する過去の研究を、本研究はさらに支持する結果となった。しかし、この研究にも制限があり、今回の研究に参加した全ての被験者たちは、生い立ちや経歴などが似ている。そして「自然の中を1時間歩く効果」に焦点を当てたものなので、メンタルヘルスに与える好影響は短時間なものにすぎない場合もある。

自然の中を歩くことがメンタルヘルスにもたらす効果は確実なものであり、呼吸やマインドフルネスも改善されるが、屋外で時間を過ごすだけでも、ないよりはずっと健康的でいられると話すのは、米国オハイオ州にあるクリーブランドクリニックに勤務する心臓臨床医師のタマンナー・シン博士。「私たちの多くが、自然を十分に味わい尽くせていません。散歩とは、新鮮な空気を吸い込み、母なる大地を歩き、木の葉の擦れる音や鳥のさえずりを聞くもの、本質的には「森林浴」に集中するための素晴らしい方法なのです」と、シン博士。

自然保護区やハイキングコースが近くにない場合は、地元の公園に出かけるだけでも十分に心の落ち着きを取り戻せる。究極のところ、ワークデスクから離れて自分の時間を持つだけでも、生産性だけでなく、心の平穏やメンタルヘルスに十分効果的。

※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: JESSICA CAMPBELL Translation: Yukie Kawabata