健康でいるためには、1日10,000歩歩くとよいというのは本当? 長い間そういわれてきたけれど、実は違ったみたい。この数字は、1964年に歩数計を発明した日本人学者によるマーケティング戦略にすぎなかったよう。

イギリスの国民健康サービス(NHS)は、健康を増進するには毎日10分の散歩で十分だと述べている(もちろん、体重を減らすために1日何歩歩くべきかは人によって大きく異なる)。とはいえ、ずっとウォーキングにチャレンジしてみたかったというイギリス版ウィメンズヘルス編集部のエマは、「朝の10時までに10,000歩歩く」を一週間やってみることに決めたそう。

実をいうと、彼女は朝型人間とはかけ離れている。朝目が覚めて、二度寝することに喜びを感じる人だから、たとえ調子がよくても、毎朝ベッドから起き上がるまでが一苦労。

そんなわけで、チャレンジの1日目は大失敗に終わった。彼女はこの日を「チャレンジ0日目」 または 「習得のための日」と名付けた。だってこの日は、朝の11時に目が覚めた時点ですでに失敗していたから。

この日は皮肉にも、ほとんど体を動かさず、ウォーキングのことだけを考えて1日を過ごした。彼女はこのチャレンジに対して、科学的なアプローチをとろうと考えた。10時までに10,000歩を歩くことを達成するには、自分自身のどんな習慣を手放し、どんな新習慣を取り入れるべきかを振り返って考察した。この詳細をイギリス版ウィメンズヘルスから見ていこう。

エマが朝起きて最初にすることは、スマホを手に取り、ソーシャルメディアをスクロールしながら、メールとWhatsAppをチェックして、最近ハマっているアプリのクロスワードパズルをすること。そして猫にご飯をあげ、薬を飲ませたら、慌ててバタバタと出勤する。そしてスマホに膨大な時間を費やしていたことを不意に悟った。

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Emma Gritt

<学習1>

朝のルーティンから徹底して変える必要があった。WhatsApp、TikTok、Instagram、それぞれの使用時間を1日15分に制限し、パズルはランチ休憩のときか、通勤電車の中、あるいは就寝前までおあずけにする。朝食は食べない派なので、ウォーキングの前後で朝食を食べる時間をとる必要もない。

さらに、このチャレンジを妨げる最大の要因も発見。それは、そもそもエマの起床時間が遅いこと。なので最初は10,000歩を目指すよりも、「毎日30分歩く」を2週間続けてみるとか、リラックスして挑めるやり方から実践したいとも考えた。

<学習2>

朝早くから出社してデスクワークをする人にとっては、これがチャレンジでもないことに気づいた。9時出勤であれば、9時から1時間はすでに椅子に座って過ごしている。エマは週に数回、10時出勤の日がある。10,000歩を達成するための時間になんとか余裕がありそう。

朝早く起きるなら、そのための準備も必要だった。それは、早く寝ること。チャレンジ0日目は、7日間の挑戦のためにいくつか「実験」を計画した。まずは、夜の9時に就寝すること。これに関しては難なくクリアできた!

1日目:プラン調整!

7時に起きると、目を開けた瞬間にFitBit(ウェアラブル活動量計)を手首に装着! チャレンジに対するエネルギーが湧いてきた。小さなタスクを済ませることに気が散ったけど(これは前日に済ませておくべきだった)、猫に朝ごはんを食べさせ、コーヒーを淹れて、シャワーを浴び終えた時点で500歩を記録できていた。これには驚くほどモチベーションが上がり、「20分の1を達成!」と一人大声で叫んだ。朝10時までに10,000歩を目指す勢いが加速した。これからの実験を、「ハーフハーフ通勤」と名付けた。

これは、自宅から駅までと、駅から職場までの道のりでそれぞれ5,000歩ずつ歩くというプランだった。さっそく30分かけて普段とは違う駅まで歩いた。この時点で4,049歩を達成!

fitbit
Emma Gritt

だが、今度は駅から職場まで、あと6,000歩を歩く時間に余裕がなかった。結局この日は午前10時の時点で5,258歩。できるだけ早く10,000歩を達成したくて、昼休みは郵便物を送るために郵便局へ歩き、用事を済ませるために数軒の店を訪れ、ランチのサラダを買いにスーパーへ行き、職場に戻って午後2時、ようやく10,000歩を達成できた。すごく嬉しかった。

結局、「朝10時まで」というチャレンジには失敗した。でも、10時の時点で5,000歩を超えることができたから、よいスタートを切れたと思う。明日はもっと早めに家を出て、駅から職場までのロンドンの街を歩く時間を増やそう。今日の就寝タイムは8時、いや、7時にしよう!

2日目:足の最悪なコンディション

前日はトータルで13,000を歩いた。翌朝目が覚めると、やる気は十分にあったのに、なんと足の裏には巨大な水ぶくれができていた。10時までに10,000歩どころか、片足で飛び跳ねたり片足を引きずったりして、絆創膏を買いに地元の薬局へ行くので精一杯。

結局この日の朝は、足を氷で冷やすことに。彼女は、フィットネスの心理学に触れようと決めた。フィットネスの専門家、ペニー・ウェストンは、モチベーションと一貫性が、フィットネスを成功させる必須要素だと話している。

「一貫性が最も重要であることは間違いありません。集中力を保ち、長期的に継続できる習慣を身につけるうえでも大事ですが、物理的観点からいうと、スケジュールにも一貫性がなければ、体は適応するのがはるかに困難となります」と、ペニー。

「多くの人にとって最大の壁となるのは、多忙なスケジュールの合間に運動の習慣を組み込むことです。HIITトレーニングにせよ、ウォーキングにせよ、運動にあてる時間は1日でもっとも多忙になる前の時間帯に組み込むと有効です。多くのエネルギーを、自分の健康と幸せのために使う機会を確保することができます」

「一貫性は、モチベーションを維持したり、今取り組んでいることに対する自信を持つために重要なカギとなります。運動だけでなく、成功のための原動力となるのです」

また、カリフォルニア・アーモンド協会が実施した夏期の調査によると、イギリス人の半数は、先延ばしによって目標を達成することを諦め、月に10時間以上 (=1日20分)もの時間を浪費していることがわかった。さらに、4分の1の回答者は、先延ばしすることを、エネルギーがないせいにしている。そして、半数以上を占める55%の人が、エネルギーがないことを、目標を達成する障壁のひとつに挙げている。

これにはエマも共感する部分が多かったけれど、マインドセットの理論やデータは別として、自分自身が1日10,000歩歩く動機「なぜ?」をしっかり見つけようと思った。

ポケモン
Emma Gritt

例えばエマのパートナーと彼の息子はポケモンGOの大ファン。ポケモンを探して歩き回り、必死に画面をタップしながらポケモンと戦っている。真剣なプレイヤーほど、毎朝ベッドから飛び起きて、一刻も早く外を歩き回りたくなるだろう。でも自分は小学生でもゲーマーでもないので、この 「なぜ」 は心に響かなかった。

エマの親友のスージーは、2匹の巨大な犬を飼っている。信じられないほど長い脚に恵まれ、競走馬と同じくらいの速さで走れるマラソンにも熱心な彼女に、1日の平均歩数を尋ねてみると?

「朝10時まで? 12,000歩はあっという間」と、彼女はあくびをしながら、「疲れてる」とも話した。

それもそのはず。彼女は毎朝6時に起きて犬たちを散歩させ、9時までに出社する。エマからすればそのスケジュールが苦痛に思えてしまうけど、でも自分も、自分のペットの幸せと健康維持のためならなんでもするってことはわかってる。

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Emma Gritt

プロのドッグウォーカーでもあるエマのキャットシッターは、こんな話をしてくれた。「犬は猫と違って、日々の高度なメンテナンスを必要とするペットであり、散歩は必須。犬にとって散歩は驚くほど楽しいもの。それが、私たちの“ソファから立ち上がって外で体を動かす十分な動機“になる。心拍数が増加し、体内でエンドルフィンが流れ出し、減量効果もあるわね」。

この新しい情報が頭の中でグルグルしながら、絆創膏がエマの足を支えてくれていた。彼女が次に考えている「実験」 は、なんだか成功する予感がしたという。

3日目:よい動機を持つ

エマは純粋に手助けすることが好き。何年もの間、小さな動物慈善団体に多くの資金集めを行い、定期的にフードバンクやチャリティーショップに寄付することを習慣にしてきた。

今日は朝早く起きて、寝具やおもちゃを地元の猫保護施設に寄付し、道路の向かいにあるチャリティーショップにも本を何冊か寄付した。これが彼女の大きなモチベーションとなった。片道45分、途中の下車と雑談の時間も考慮し、2時間と見積もった。

10時前に家に着く頃には、過去最高の8,300歩に到達し、人や動物に親切にできたことで、心の落ち着きを取り戻すことができ、よい気分で1日を過ごせた。

4日目:トレッドミルの上を歩く

猛暑の中、エアコンの効いたジムほど魅力的な場所はほかにないだろうか……。トレッドミルの上をあてもなく歩くという考えは、ベッドから飛び起きるほどの動機にはならなかったけど、涼しい場所に行きたい一心で足を踏み出した。

リサーチと休息日の一環として、エマは友人のフランチェスカ・アンバーにも話を聞いてみた。彼女は2人の双子の幼児とクリエイティブな5歳の子供を持つシングルマザー。彼女の朝10時までの平均歩数は、7000歩!

10,000 steps before 10am challenge review women's health uk
Susie Pool.


実は彼女はイギリスのトップクラスのポッドキャスターであり、「引き寄せの法則が私の人生を変えた(Law Of Attraction Changed My Life)」のプレゼンターでもある。彼女はエマに、就寝時のマントラをプランに加えるように提案してくれた。エマは「毎朝元気に目を覚まし、10,000歩を歩き抜く準備が整っています」といいながら頷くのは少々難しかったが、いわれる通りにやった。

トレッドミルで90分ほど走ると、もう退屈の域に達していた。10,000歩まであと数百歩足りなかった。トレッドミルで歩くことの利点は、速度と傾斜を変えられたり、軽いダンベルを握って歩いたり、歩行中にエクササイズバンドを使って上背を伸ばしたりできることだった。

涼しいジムを出て蒸し暑いロンドンの街に戻ると、目標には到達できなかったけれど自分の健康を優先できたことに対して、なんだか素晴らしい気持ちになれた。

5日目::時間枠にとらわれない

朝の10時ではなく夜の10時までにしたら?と、何度も周りから提案されていた。友人や同僚の励ましによって、もっと頭を柔らかくして考えようという気になれた。

この日は友人の結婚披露宴に出席した。帰宅したのは深夜の1時半。初日と同じく、翌朝起きるととっくに10時を過ぎていた。やっぱり朝の10時までにこだわるのはやめようかな、とも思えた1日だった。

6日目:ワクワクな気持ちで目が覚める

1週間のチャレンジも残すところあと2日。今日は、自分が10,000歩歩く「なぜ」について、もう一度追求するためのよい時間になった。趣味やペット、仕事、健康、家族、モラル。これらが、朝10時までに10,000歩を達成するための行動を起こす素晴らしいきっかけではあったけれど、やっぱり一番に重要なのは、自分自身が楽しむこと。

「楽しい」はとても主観的で、あなたにとっての楽しいことと、自分にとっての楽しいことは、おそらく別世界の話になると思う。

ある人にとってはゴミでも、それがほかの人にとっては宝になる。趣味やアドベンチャーに関してもそう。あなたならどんな楽しみが待っていれば、日曜日の朝、ワクワクする気持ちでベッドから飛び起きたくなると思う?

7日目:習慣化に努める

チャレンジの最終日を、尊い気持ちで迎えることができた。この10日間、何度か寝過ごしてしまった自分への嫌悪感や、恐ろしい水ぶくれにも耐えながら、肉体的にも精神的にも、自分自身と向き合う旅をしてきたように思えた。そして最終日の今日は、10時までに10,000歩を必ず達成しようと決意した。

だが、努力はしたものの、10,000歩を達成することはやはりできずに終わった。でも、そのために最善を尽くせた自分を誇りに思えた。

時計の針が午前10時02分に回るのを見ていたら、ペニーにいわれた別の言葉を思い出した。「その一貫性を貫けるようになるまでは、きっと長い時間がかかるかもしれない。でもそれが日常生活の一部になったら、しなきゃ、ではなく、するのが当たり前になる。そこまで来れたら、運動の真の価値に気づくようになる」

この歩く習慣を、「通勤」という手段で毎日の日課として取り組んでいくことは、自分にとって、短い期間である程度の一貫性を築く素晴らしいやり方であり、これからも継続していきたいと強く思っている。

もしこれがうまくいかなかったとしたら、「自分の家族に元気なワンちゃんを迎え入れる時期が来た」という、宇宙からのサインだと捉えることにする。


チャレンジを終えた、エマの気づき

▶︎「なぜ(動機)」 を見つけること

大切にしていること、頑張っていること、楽しいと感じること。無意識に行動を起こしたくなるような「なぜ」を持つこと。人に親切にすること、郵便局へ行って荷物を送ること、その動機がどんなに些細で小さなことであっても、目標達成に必要なやる気と行動を自然と起こさせてくれる。

▶︎時間を浪費しない

1日24時間は、すべての人に平等に与えられている。このチャレンジに挑んだおかげで、エマはスマホを見て多くの時間を浪費していたことに気付いた。パズルにせよ、ソーシャルメディアにせよ、「意識を向けるところにエネルギーは流れる」。自分に厳しくあり、スマホを触らないときは、自分が成し遂げたいことに意識を向けるようにする。今の自分は間違いなく、自覚を持って行動している。

▶︎楽しむ

日常生活には、疲労がつきもの。普段のルーティンになにか新しいことを取り入れてみることは、その疲れを紛らわせてくれる素晴らしい方法にもなる。

▶︎毎日続けるのは難しいときもある

今のライフスタイルに新しい習慣を取り入れるのが難しいときは、それを毎日しようと思う必要はない。まずは1カ月、毎週土曜日と日曜日に試してみるという柔軟な考え方を取り入れてみて。

▶︎良質な靴下に投資する

今までの人生で、水ぶくれが7cmにもなるなんて思いもしなかった!

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: EMMA GRITT Translation : Yukie Kawabata