「集中」の鍵はやっぱり呼吸! マインドフルネスの権威が伝授する「集中力」を高める方法
「全集中の呼吸」を長続きさせるのは難しい。でも注意のコントロール能力を身につければ幸福度が上がります。
新型コロナウィルスが猛威を振るい、不安などのネガティブ感情に振り回されがちな今、心を整え、集中モードに入りづらいことも……。そこで、一般社団法人マインドフルネス普及機構の代表理事、小西喜朗さんが「集中力」を高める方法を伝授します。流行語にもなっている「全集中の呼吸」。やはり呼吸は、集中力アップの鍵になりそうです。
そもそも集中することは難しいこと
集中力を乱す原因となるものは大きく5つあります。
1 メールや周囲の会話など外からの刺激
2 気がかりなこと
3 疲労の蓄積
4 目的や成果があいまい
5 何から、どのように進めればよいのかが不明確なこと
静かな環境を確保できたとしても、2つめの気がかりなことが心に浮かぶこともありますから、5つすべてをクリアすることは難しいはずです。
またマイクロソフトの研究所の発表では、人が集中できる時間は2000年には平均12秒だったのが、2013年にはたったの8秒となり、金魚の9秒よりも短いといわれたことも……。だから、集中が長続きしないことは当然のこと。集中力は、注意が他にそれないようにする能力ではなく、他のことに注意がそれたことに“気づき”、注意を“戻す”ことができること、そんな注意のコントロール能力を身につける方法がマインドフルネス瞑想です。
コロナ禍は、注意のコントロール力が低下しやすい
コロナ禍の今、これまで私たちが経験してこなかったことが次々に起きています。将来の生活や仕事についても予測することは難しく、ストレスが高まっているでしょう。そんなときには、以前には気にも留めなかった小さな出来事に注意を向ける必要が出てきたり、自然と意識がそちらに向いてしまったりすることもあります。
それだけ、自分のなかにある注意や集中力の資源をたくさん使っていることとなり、毎日の仕事などに使える注意のコントロール力は自ずと低下してしまいます。
人間が持つ注意資源も限られています。コロナ禍では、自分の意識が今この瞬間、何に注意を向けているのかに気づいて節約することも大切になるでしょう。
日常生活の9割以上が、無意識で動いている
朝起きてカーテンを開き、窓を開け、食事をし身支度をする。出かける時間になり、ドアを開け、鍵をかけ、駅へと向かう……多くの人がそんなルーティンを、無意識で行動しているのではないでしょうか? 日常生活の9割以上、脳はオートパイロット(自動操縦)の状態といわれています。
一方で、人の思考や感情は、次から次へとトコロテンのように展開していきます。まるで連想ゲームのように、別の方向へとどんどん注意はそれ、グルグルと堂々巡りをしたり、フラフラとさまよったりするものです。
オートパイロットで行動しながら、仕事のこと、心配ごとなどとりとめもなくいろんな思いが浮かんでは消え…となりがちですが、こうした「心ここにあらず」の状態を「マインドレスネス」といいます。そんなときには、ほんの30秒でもかまいませんので呼吸に注意を向けてみましょう(詳細は後述)。たったこれだけのことで自分の意識がどこに向いていたのかに気づき、注意のコントロールは戻ります。
“集中”にもさまざま。「ゆったり集中」がベスト
“集中する”といえば、肩に力を入れてガリガリと集中している姿を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか? 人気マンガ『鬼滅の刃』で“全集中”して、鬼と戦っているときの主人公のように、歯を食いしばって頑張る集中もありますが、このような強いストレスを伴う集中力は、決して長続きしません。またたとえ、全集中でやり遂げたとしても、無理をして何度も繰り返すと、燃え尽きてしまいます。メンタルヘルス不調を含め、体調を崩すことにつながりかねません。
武道の達人は敵を前に体がガチゴチと緊張したりはしていません。理想は、心は穏やかにリラックスしながらも、やるべきことに集中している状態。ゆったりと広い視野を保ち、自然体で集中しているからこそ、本当に必要な一瞬に、力を注ぐことができます。こうした「ゆったり集中」を身に着けるには、瞑想をするのが近道です。
呼吸を意識する「呼吸瞑想」でトレーニング
ここで、呼吸瞑想を1分間トライしてみてください。
まず、背筋を伸ばし姿勢を整えてから、両肩の力を抜いて口は軽く結び、鼻から吸って、鼻から吐きます。
次に、鼻先かおなかのどちらかひとつに決めて、体の感覚に注意を集中します。鼻先の空気の出入り、もしくはおなかが膨らむ、へこむことで、吸っているときに吸っていると気づき、吐いているときには吐いていると気づきます。これを1分間続け、もし呼吸から注意がそれたら、そのことをただ観察し、判断・評価せず、再び呼吸にやさしく戻します。
瞑想を終了するときには深呼吸をするなど、少し大きめの呼吸を意識的に行なって、全身をもう一度感じてから終わるとよいでしょう。
注意がそれたことに気づき、戻すクセをつけよう
呼吸瞑想を初めて体験した人は10人10色で、さまざまな体験、感じ方があると思います。瞑想では「ありのままの体験、状態に“気づく”こと」がいちばん大切です。集中できても、できていなくても、そのことに気づくことがポイント。
たとえ思考や感情が堂々巡りをしたり、フラフラとさまよったりしても、そうなることを責めたり、後ろめたさを感じる必要は全くありません。さまよったら、さまよったと気づけばそれでOKです。
ありのままの心の状態に気づき、ただ客観的に眺め、そして注意を元に戻すこと。それが、腕立て伏せをして筋トレするようなもので、注意をコントロールする力を養うことにつながります。呼吸瞑想は1日10分習慣にできるのが望ましいです。
“箸を持つこと”を意識するのもひとつの方法
日常で簡単にできるのが生活瞑想です。そのなかの「お箸のワーク」を紹介しましょう。まず食卓でお箸を手に取る前に“食べようとしている気持ち”、“お箸に手を伸ばそうとする気持ち”を確認します。次に、心のなかで「お箸を取ります」とつぶやいて手に取ります。⼿に持ったお箸の感覚を確認し、「お箸を持ちました」と⼼のなかでつぶやいたら、“⾷事をいただく気持ち”を確認します。
自動操縦で動いている日常の行動のいくつかを、こんなふうにマインドフルに意識しながら行うことで、自分の感情や思考の動きに気づき、注意をコントロールする力を鍛えることにつながります。お箸以外にも、歯磨きや洗面、ドアの開け閉め、ガスコンロに火をつける、パソコンの電源を入れる操作など、いくつかマインドフルに行う動作を決めて、無意識に流れていく日常生活に句読点を打ちましょう。
ちなみに、24時間すべての行動をマインドフルに行うのは、通常の生活ではムリです。マインドフルネスのモードと自動操縦モードの切り替えが大切です。
「ゆったり集中」ができると、トラブルにも強くなる
日常で予期せぬトラブルは、しばしば起こります。オートパイロットの状態や、何かをやり遂げるための緊張型集中のときには、次の行動ばかり意識が向いて、周囲の状況が見えなくなっています。結果、精神的にもパニックになって、同じ間違いを自動的に繰り返しがちです。
そんなとき、脳の「気づきの回路」を働かせます。まずは呼吸に注意をむけ、「ゆったり集中モード」をオンにするのです。観察と気づきに注意を向け、行動にストップをかければ、情動に振り回されにくくなりますし、どうすれば解決できるのかに着目する“解決モード”にすんなり切り替えることができます。トラブルのときにも集中力をうまく発揮することができると覚えておいてください。瞑想を習慣にしてゆったり集中ができるようになれば、きっと日々のストレスが軽減されて、幸福度が上がるはずです。
小西先生のオンライン講座や瞑想アプリをチェック
エレベーターや駅で、それから歩いているときなど、日常の行動で1日に50回くらい瞑想をしているという小西先生。生活瞑想や歩行瞑想をマスターするのがおすすめと言います。講座を受けてみてはいかがでしょうか?
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小西先生がガイドをしてくれる瞑想コンテンツが多数搭載されたアプリもApp StoreとGoogle Playにて展開中。心を整えるための癒しのプログラムや、小室哲哉さんや大沢伸一さんによる瞑想用音楽など、100以上のコンテンツからニーズやシーンに合わせて聞いてみるのもおすすめです。(初月無料、300円/月)
小西喜朗先生
Profile●一般社団法人マインドフルネス普及機構・代表理事。精神保健福祉士、産業カウンセラー。京都大学工学部を卒業後、出版社勤務、ウェルリンク・メンタルヘルス研究所所長等を経て、現職。日本マインドフルネス学会理事、日本マインドフルライフ協会理事等を歴任する。一般企業へのマインドフルネス講習など、マインドフルネス実践会を開催し、関連セミナーは通算300回以上。
著書は『思考を整え集中力を高める練習』(方丈社)、『メンタルヘルス・マネジメント』『メンタルヘルス入門』(以上、PHP研究所)『ポジティブ心理学再考』(ナカニシヤ出版)ほか多数。