「怒りっぽい人」という印象を持たれたい人はいない。でも、私たちの中で、鬱積した怒りや恨みという感情が蠢いているのは事実。自分だけ仕事に復帰して育児から解放されたパートナーを恨めしいと思っていたり、自分が昇進・昇給したからといってバンバン注文したあげく堂々と「割り勘しようね」と言ってきた友人に内心ムカついている人は絶対いるはず。

もしかしたら不安定な政治情勢で私たち1人ひとりがピリピりしているからかもしれないけれど、最近は人と人、あるいは人となにかの間に不協和音が生じ、シャワーヘッドに溜まる石灰と同じくらい頑固な恨みつらみに発展することが多い。

ロンドン市内で働く34歳のフィービー(仮名)が友達を恨む原因はいつも、自分が友達に期待する行動と、友達が実際に取る行動のギャップにあった。「私は八方美人です。本当に過剰なまでの八方美人。いつも争いを避け、ときには自分の望みやニーズを犠牲にしてまで相手が満足するような解決策を選びます。これは私なりに平和な関係を維持するためですが、それが結局は内面の混乱を引き起こし、この苦々しい感情を残します。結果、その友達が嫌になり、自分のことも嫌になる。本当に惨めです」

フィービーのように恨みを抱えながら生きている人は少なくない。恨みは水に垂らしたインクのように広がって、あなたが飲み込んだ瞬間に内面を激しくかき乱す感情。「もともと恨みには依存性があります」と説明するのは、心理療法士のシャーロット・ダンスビー=ファーガソン博士。「通常、恨みは自分が不当な扱いを受けたという感情から生まれるので、あなたは頭の中で当時の感情や出来事を延々とリプレイし、自分の正当性を自分に証明しようとします」

その出来事は、あなたが思っているよりも身近で小さい。例えば、上司から送られてきた不気味なまでに無愛想なメールを1週間経っても読み返していたことはないだろうか? 周りの人に「あなたのせいじゃない」と言ってほしくて、口論の内容を触れ回ったことはないだろうか?

あるいは、ネット上で元カレをストーキングしていたら、新しい彼女が超美人であることに気付いてしまい、ふつふつと湧き上がるドス黒い感情に飲み込まれたことはないだろうか?

小さくて陰湿な恨みという感情は、どこからでもサッと忍び寄ってきて私たちの中に蓄積していく。そして、この現代社会は人々の恨みつらみで飽和状態。その影響は非常に大きい。専門家いわく恨みは、慢性的なストレスや不安と同じくらい、私たちの免疫力と心に大きなダメージを与えるという。

恨みの根本的な原因

portrait of angry little girl at classroom
Maskot//Getty Images

ダメ出しばかりされて育った私たちの親とは違い、20世紀後半生まれの子どもたちは前向きな言葉をかけられて成長してきた。そして「なりたいものには何でもなれる」と信じ込まされ、「大事なのは努力すること」と教え込まれたものだから、大人になると現実の人生に失望する。

「子どもたちに世の中は公平であると教えても、あとで失望することになるだけです」と語るのは、英シェフィールド・ハラム大学で教鞭をとる心理学者のアン・マカスキル教授。そして、見事に打ち砕かれてしまった期待をさらに木っ端みじんにするのがSNSだ。

SNSは情報の宝庫なので、昨今は何でもかんでもSNSのせいにしてしまいがち。確かにSNSには恨みを誘発するような罠が仕掛けられている。「SNSを使っていると、つい自分を人と比べてしまいます」と話すのは、英マンチェスター大学心理学部のケーリー・クーパー教授。「それが自己肯定感の低下を招き、恨みの根本的な原因を作ります」

自分に自信がないときは傷つきやすいし、本来の自分らしくいられない。その昔、SNSがなかった頃は別れた人(パートナー、友達、同僚)と二度と会う必要がなかった。

でも、SNSがあるいまは完全に縁を切ることが難しいため、恨みという火が大きくなる一方で、それを消す私たちの能力は低下していく。「オンラインストーキングはとくに恨みを増幅させます。もうすでに恨んでいる人がいるのなら、その人に対する恨みを自分でどんどん大きくすることになります」

テクノロジーの進歩は心の知能指数(EQ)にも負の影響を与えている。「最近は対面でコミュニケーションを取る機会が減ってきました」とクーパー教授。「非対面形式のコミュニケーションでは、社会的手がかり(相手の立場を理解するために必要な情報)を見つけたり、相手の意図を読み取ったりすることができないため、早とちりする可能性が高くなります」

対面では単なる皮肉と思ってもらえるような冗談も、メールでは受動攻撃と思われる。友達にメッセージでドタキャンされると、声になら表れるストレスや誠意が感じられない。にもかかわらず、私たちは直接会って話すこともせめて電話することもなく、心の中で激しく怒り、恨みという名の無言の壁を作っていく。

恨みがもたらす悪影響

couple sitting outdoors with woman holding head in hands
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ときどき恨みに飲み込まれることは誰にでもあるけれど、その芽は早いうちに摘んでおかねばならない。というのも、なにかに恨みを感じると、それが原因で悪いことが続くから。

「まず、人に冷たい態度を取られたとか、期待を裏切られたと感じることが多くなります」とクーパー教授。「そして、その過敏さゆえに、もともと自分が持っていた劣等感や悲観性が強くなるという悪循環に陥ります」

すでに大きな恨みを抱えている場合はますます心に余裕がなくなり、あなたが使おうとしていたセルフレジをさりげなく奪っていった男性に寛容な態度を取ることもできなくなる。「最初はみんな同情してくれますよ」とマカスキル教授。「でも、その同情心は確実に薄れていくので、あなたは誰も自分を気にしてくれないという事実を前に、ますます嫌な気持ちになります」。そんな状態で人と接していれば、あなたが「あのー、私が先なんですけど」と言うより早く友達が去って行く。

この恨みが持つ一連の弊害を考慮して、ドイツ人の精神科医マイケル・リンデン博士は“心的外傷後憤慨障害”(PTED)という医学用語を生み出した。PTEDは恨みが根深すぎて体に長期的な影響が出ている状態。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)では自分の命が脅かされているように感じるけれど、PTEDでは自分の信念体系が丸ごと攻撃されているように感じる。「PTEDの患者は世界が自分を不当に扱っていると感じています」とマカスキル教授。「彼らにとっては、それが自分の在り方。恨みがアイデンティティの一部になってしまっているのです」

PTEDの診断を受けていなくても、恨みを抱いて生きていれば、健康が著しく損なわれてもおかしくない。もともと依存性があることを考慮すると、恨みは一種の永続的なストレスとも言える。そのため、あなたが恨みに執着すればするほど体は苦しむ。「積年の恨みは免疫機能を低下させ、頭痛、不眠、慢性痛を引き起こすことがあります」とダンスビー=ファーガソン博士。

また、クーパー教授いわく米オハイオ州立大学の複数の論文は、自分の感情を封じ込めると免疫機能が低下して、長期的な病気になる可能性が高いことを示している。

「これまでに発表された多数の研究結果を見る限り、コーピング戦略として自分の感情を抑え込むのは、一番してはいけないことの1つです(それ自体が恨みにつながると言っても過言じゃない)」とクーパー教授。そんなことをしても「いずれ怒りが爆発するか(でも、自分が恨んでいる相手に向けて爆発させるわけではないので精神的に余計苦しくなるだけ)、病気になるかのどちかですから」

精神神経免疫学(心理学x神経学x免疫学)の研究者たちは、ネガティブな感情を持ち続けていると、体内の炎症を悪化させるサイトカインが過剰に産生されてしまうことを突き止めた。体内の炎症は、循環器疾患、2型糖尿病、アルツハイマー病、一部のがんのリスクを高める。

また、ダンスビー=ファーガソン博士によると、自分の中の憎しみを別の依存性物質で置き換えてしまうケースもある。「恨むことに疲れた脳は、アルコールでもドラッグでもコーヒーでも何でもいいから、とにかく別の物質を使って『この状態を変えてくれ!』と叫びます。そして、その物質がその人の心の支えになっていきます」

恨みから解放されてハッピーに

summer selfie
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大事なのは、自分の中に生じた恨みを早い段階で認識すること。「恨みが内在化され、アイデンティティの一部になってしまうと、取り除くのが大変になりますからね」とマカスキル教授。もちろん「さっさと相手を許して忘れなさい」と言っているわけじゃない。残念ながら、自分を恨みからを解放するのはそんなに簡単なことじゃない(その恨みの原因が社会に蔓延る不当な行為ー性差別、女性蔑視、人種・宗教・政治理念に対する差別などーにあるならなおさら)。でも、人々はちゃんと打開策を見い出している。

フィービーは、心理療法士の助けを借りて、人が自分と同じように考えるとは限らないというシンプルな事実を受け入れられるようになった。人はみな自分の行動パターンに従って行動している。そして、人の行動が気に入らないなら、自分が一番苦手なことをして(=その人と向き合って)問題を解決すればいい。その人との関係はもう自分のためにならないと判断し、付き合うこと自体をやめるというオプションもある。

「以前の私は極度の不安を抱えていました。私は人との対立を避けるタイプなので、いつも心にわだかまりがあって、その原因となった状況のことを何度も何度も考えていたんです」。フィービーは友達に自分の気持ちを打ち明けた。その友達との関係は終わったけれど、これはハッピーエンディング。

「人と向き合うのは怖いですし、友達を失うのはつらいですが、いまのところは恨みという重荷を背負い続けるよりもいいような気がしています。いまのほうが幸せです」

恨みを手放す方法

次の4つの質問を自分にして、恨みの芽を早いうちに摘み取ろう。

1.ひょっとして単なる早とちり?

自分が早とちりしたせいで過剰に反応したり、不必要に傷ついたりすることは誰にでもある。そんなときは自分の気持ちを客観的に評価してみて。「誰かと一緒に考えてみるといいですよ」とクーパー教授。「ただし、あなたに対して思ったことを正直に言ってくれる人を選んでください」。何にでも「はい」という人はお呼びでない。

2.そもそもの原因を考えた?

その人は、あなたがモヤモヤしていることを知っている? 「恨んでいる人と向き合う前に、なにがそのような状況を招いたのか、じっくり考えてみてください」とクーパー教授。「そのうえでなにを言うか考えれば、論理的なアプローチで問題に対処できます。あなたが攻的になると相手が守りに入ってしまい、余計ムカつくという事態になるので注意しましょう」

3.自己肯定感が下がってない?

「自分に自信がないときは、人から尊重されたいという気持ちが強くなり、してもらえないと腹が立ちます」とクーパー教授。自己評価を高めたいときは、自分がまともな人間であることを思い出させてくれるアイテムでスクラップブックを作ってみよう(紙でもデジタルでもOK)。自己満足的な行為ではあるけれど役に立つ。ただし、自分の自信になるような褒め言葉を期待してSNSに投稿するのは絶対NG。

4.ネガティブ思考に陥ってない?

しつこく内省するタイプの人は一度考えるのをやめること。「思考は感情に影響を与えるので、毎晩10分は、その日にあったいいことや自分の長所に目を向けるようにしてください」とマカスキル教授。「そうすればネガティブ思考から抜け出して、もう少しポジティブな考え方ができるようになりますよ」
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Sarah Ewing Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。