今日のテーマは脳腸相関。脳腸相関は、その名の通り“腸と脳のつながり”を意味する言葉で、そのつながりは非常に強い。

もう少し専門的な言い方をすると、脳腸相関は、脳の感情中枢および認知中枢と腸機能をつなぐ中枢神経系と腸神経系の間のコミュニケーション。これまでの研究により、腸が健康であればあるほど脳も健康であることが分かっている。また、腸内細菌叢はストレス、不安、記憶機能に関連する神経内分泌系にも影響を及ぼすとされている。

脳腸相関は大きな注目を浴びており、オーストラリアでも腸内細菌叢をアルツハイマー病の診断と治療に用いるための研究に多額な資金が提供された。

「腸には私たちの感情、ストレス反応、認知をコントロールする力があります。そのため、腸は“第二の脳”と呼ばれています」と説明するのは豪マッコーリー大学博士研究員のプラディープ・マヌニーディ・チョラン博士。

腸内細菌が作り出す代謝物は脳の炎症に影響を与え、アルツハイマー病の進行を早めたり逆に遅らせたりする可能性があるのだそう。オーストラリア版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

脳腸相関の仕組み

脳腸相関は、脳と腸の間にある“化学的なつながり”と“物理的なつながり”の両方から成っている。

“化学的なつながり”には、細菌叢によって腸内で作られる神経伝達物質と他の化学物質が関係している。これらの物質は私たちの気分と精神機能だけでなく、視床下部ー下垂体ー副腎(HPA)軸にも影響を与えている。

“物理的なつながり”とは、脳幹から消化器系にかけて伸びる迷走神経(副交感神経系の主な構成要素)のことである。

「悪い知らせを聞くと胃がずーんと重くなったり、緊張すると落ち着かない気分になったりしますよね(英語では後者の状態を“おなかの中に蝶がいる”と表現する)。ストレスで下痢や便秘になったり、緊張で吐き気がしたりすることもあります。これは迷走神経が脳から消化器系にシグナルを送るからです」と説明するのは、ヘルスコンサルティング『The Longevity Remedy』を創設した自然療法士で栄養士のミカエラ・スパロウ氏。

「脳と腸には、それぞれ1000億個と5億個のニューロンがあり、ニューロン(神経細胞)には私たちの体に『このように行動しなさい』という指示を出す役目があります。そのため、腸機能のバランスが(腸内細菌叢のディスバイオシスや腸透過性の増大などで)崩れると、腸内のニューロンが脳内のニューロンに影響を及ぼして、迷走神経から異常なシグナルが送られるようになり、神経伝達物質の欠乏が生じることもあります」

これが理由で気分障害の治療には、腸内細菌叢と腸壁の健康維持が不可欠とされている。腸がハッピーなら、脳と心もハッピーというわけだ。

遺伝子と脳腸相関

スパロウ氏によると、脳腸相関の健康状態や強さには遺伝子も関係している。

「人間の遺伝子の中には、神経伝達物質の産生、腸壁の完全性、炎症、免疫反応に影響を与えるものがあります。そのうちの1つであるMTHFR遺伝子は、葉酸を活性化し、ホモシステインの値を上昇させて免疫反応を阻害する遺伝子ですが、女性の44%には、このMTHFR遺伝子の変異が見られると言われています。MTHFR遺伝子の変異は、私たちの気分や脳腸相関の健康状態などに深刻な影響を与えることがあります」

遺伝子に加え、幼少期のトラウマや病気も脳腸相関の強さに影響を及ぼす。

脳腸相関と不安

スパロウ氏によると、脳腸相関は次の理由から不安の原因となりうるそう。

腸内細菌は、セロトニン(幸福ホルモン)、GABAの略称で知られるγーアミノ酪酸(抑制/鎮静ホルモン)、ドーパミン(人をやる気にさせるホルモン)などの神経伝達物質の産生と、その量に影響を与える。これらの神経伝達物質は、どれも気分の調節に不可欠。腸内細菌叢の健康状態とバランスが崩れると、こうした神経伝達物質(とりわけGABA)の量に悪影響が出て、不安などの気分障害を引き起こす。

腸壁の健康状態は免疫系に影響を与えるため、腸壁が弱まると免疫反応が強く出る。免疫反応は不安などの気分障害に関係しており、脳内の炎症を引き起こす。

視床下部ー下垂体ー副腎(HPA)軸はストレス反応を調節し、神経系を安定させる。でも、腸透過性が高まったり腸内細菌叢のディスバイオシスが生じたりすると、そのHPA軸がストレスを感じてしまい、その結果、交感神経系(闘争・逃走反応)が活発化して不安が生じる。

脳腸相関に悪影響を与えるものは?

・ストレスレベルとコルチゾール値が慢性的に高い状態

・抗生物質

・トラウマ

・深い悲しみ

・栄養不足(マグネシウム、亜鉛、ビタミンB群、ビタミンD)

・頻繁な飲酒

・運動不足(歩くだけでも全然違う!)

・遺伝子

・多様な微生物に生後早い段階でさらされること

脳腸相関を支えるために食べるべきなのは?

腸と脳の炎症を抑える食品。これにはベリー、赤/オレンジ/紫色の果物や野菜、脂の多い魚などが含まれる。

亜鉛とマグネシウムが豊富な食品は、腸壁の健康と神経伝達物質の産生を支えてくれる。例としては、チアシード、ヘンプシード、ぺピタス(カボチャの種)、鶏肉、緑の葉物野菜、赤身肉、牡蠣、豆類、ボーンブロスなど。

腸壁と脳の健康、神経伝達物質の産生、メチル化には、ビタミンB群(B1、B2、B3、B5、B6、B9、B12)が豊富な食品も必要。代表例は赤身肉、鶏肉、卵、サーモン、乳製品。

腸内細菌のエサとなるプレバイオティクスの食品。オリーブオイル、緑茶、フェンネル、アスパラ、玉ねぎ、ニンニク、アーティチョークなどを摂取して。

善玉菌を豊富に含む発酵食品。キムチ、ザワークラウト、ケフィア、クワス、ピクルス、アップルサイダービネガーなどがオススメ。

※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Scarlett Keddie Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。