“幸せになりたい”生きていれば誰でもそう願うものではないでしょうか。とはいえ、どうしたら幸せになるのかその方法を考えると難しいもの。心理学では幸せについて考える上で、『ウェルビーイング』が注目されています。ウェルビーイングとは何か、心理学的に幸せを作っていくためには?という視点から、臨床心理士がお話しします。

心理学的に考える、“幸せ”とは?

i just wanna celebrate life
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「どうしたら幸せになれるのか」ということを解明するために、心理学でも研究が進んでいます。幸せについては、心理学の中でも、『ポジティブ心理学』と呼ばれる学問の中で扱われています。その中で欠かせないのが『ウェルビーイング』という概念です。

ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味し、1948年WHO(世界保健機関)の憲章の中で、

——健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。——

と記載されており、その満たされた状態のことを“ウェルビーイング”と言い、幸福と訳されることもあります。

ポジティブ心理学の第一人者であるマーティン・セリグマン氏によると、私たちが幸せを感じるために大切なのは、一瞬で終わるその場限りの幸せではなく、持続的な幸せを追求していくことが必要であり、そしてこのウェルビーイングが高い状態で保たれることで幸せな日々や充実した人生が送れると言われています。

ウェルビーイングにも様々な種類がありますが、この記事では心理的・精神的ウェルビーイングを中心にお話ししていきます。

女性と心理的ウェルビーイングとは?

below view of playful family having fun while piggybacking in nature
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女性の場合、男性に比べてライフイベント(人生の中で起きる様々な出来事)の数が多く、それに伴うワークライフバランスへの影響、ホルモンバランスの変化によって体調が乱れる機会が多いです。そういうことから、気持ちが不安定になったり、鬱々としたりすることが多く、心理的ウェルビーイングを持続するのがなかなか難しいと言えるかもしれません。しかし、ウェルビーイングは育児やパートナーとの関係性、仕事の生産性など私たちを取り巻く様々な出来事に深い繋がりがあります。なので、女性こそウェルビーイングを維持していくことが必要だと筆者は考えています。

心理的ウェルビーイングを作っているものは?

speaking to the doctor
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心理学者のキャロル・リフ氏によると、心理的ウェルビーイングは、以下の6つの要素で成り立っていると言われています。

① 人格的成長(Personal growth)
自分自身がいつも進歩し、成長しているという感覚

② 人生における目的(Purpose in life)

人生に目標や目的、方向性や信念を持っているという感覚

③ 自律性(Autonomy)

自分の基準で自分を評価している、自分の意思で行動をコントロールしているという感覚

④ 環境制御力(Environmental mastery)

複雑な周囲の環境を統制できる、周囲の環境を自分の必要性や価値に合わせて選択することができるという感覚

⑤ 自己受容(Self-acceptance)

よい面だけでなく、悪い面も含めてあらゆる自分を認めて受け入れているという感覚

⑥ 積極的な他者関係(Positive relationship with others)

温かく信頼できる他者との関係を築けているという感覚

心理的ウェルビーイングを高めるために、私たちができること

young woman sitting on terrace at home practicing yoga
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① つながりやコミュニティを持つこと

他者とのつながりがあることは、心理的なウェルビーイングを高めてくれます。特にコロナ禍において、他者とのつながりが薄くなりがちなので、つながりの大切さを改めて感じる機会が増えているのではないでしょうか。家族やパートナーなどの身近な人もそうですが、自分の趣味や関心があることなどのコミュニティに所属するのもオススメです。

② 身体的運動を行うこと


自分が楽しめて、そして生活の一部になるような身近なものでいいので、体を動かすことをしましょう。運動と言わなくても、散歩をしてみる、いつも降りるバス停や駅のひとつ前で降りて歩く時間を増やすなどでもいいと思います。

③ 小さいことでも自分で決定してみる


もし普段から何かを決めることを誰かに委ねたり、自分で決められないというところがある人は、小さいことでいいので自分で決める習慣を意識してみることをオススメします。例えば、今日着ていく服やアクセサリーでもいいし、今日食べたいものなどでもいいでしょう。自分で自分の行動をコントロールしているという感覚を持てるようになることが大切です。


④ ネガティブな感情も大切にする


幸福になるために大切なのは、ポジティブな感情だけではありません。実はネガティブな感情もとても大事です。ネガティブな感情を否定し、感じないようにすればするほど、逆に増幅していきます。そしてそれが長期的に溜まっていくと、心身の不調を来すことにもなりかねません。ネガティブな気持ちを感じたときは、誰かに話したり、今感じている気持ちを書き出してみるなどして距離を置きましょう。そうして気持ちが落ち着いてきたら、『こんな風に思ってたんだな』『〇〇だから怒っていたんだな』など、自分の感じた気持ちを受け止め、整理してあげましょう。

⑤ 今この瞬間に注目すること(マインドフルネス)


マインドフルネスとウェルビーイングは親和性が高いと言われています。私たちは普段、様々な情報を得ながら生活しています。それがいいことでもあり、時には悪いことでもあるでしょう。周囲の様子や周りからの視線などを必要以上に気にし、自分の考えや感情を押し殺さないといけないなど、周囲と自分との間で頭の中がグルグルしてしまうと、ウェルビーイングを低めてしまう原因にもなりかねません。だからこそ、マインドフルネスな瞬間を作っていくことが必要なのです。マインドフルネスにも色々な種類があります。呼吸に集中してみる、いつもより丁寧に食べる時間を作る(マインドフルネス・イーティング)、体の感覚に意識を向けながら歩いてみる(歩くマインドフルネス)など。自分に合うものを行ってみましょう。

ウェルビーイングは、短期的に成り立つものではありません。日常的なことの積み重ねによって高めていくことができます。そして、無理に新しいことを取り入れようとする必要もありません。まずは自分の生活の中で出来そうなことは何か? そしてすでにやれていることがあるか? とった視点で自分自身を見つめ直してみましょう。そうして見えたところに、持続的な幸せのヒントが隠れているかもしれませんよ。

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南 舞
ライター

臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。   公式HP: mai-minami.com Instagram: @maiminami831