クローゼットに並ぶキャメルのニットや何の変哲もない白いシャツ、ロゴのないバッグは、控えめな上質ファッションで身を包む“静かな贅沢”が流行った証拠。定時でパソコンの電源を切り、ランチタイムを1時間しっかり取るのは必要最低限の仕事しかしない“静かなる退職”の名残り。でも、騒々しくなる一方の世の中で、私たちはもっと必死に働いて、もっと早く動いて、もっと立派ななにかになって、人よりベターになることを迫られている。だから、“静か”な響きのものには何だって興味を示す。

そしていま、私の中で起こり得る静かなことは“静かな革命”をおいて他にない。

静かな革命は、人間であることの意味を思い出すまでスローダウンするムーヴメント。随分高尚な話に聞こえるかもしれないけれど、この革命は地味なキャメルのニットを着たままでも十分起こせる。私たちは、群衆が叫びながらダンボール製のプラカードを揺らすような革命に慣れているし、そういう革命も悪くはない。でも、私たち、最近ちょっと疲れてない? 現代人の生活はいまかなり混沌としていて、多くの人がその影響を感じている。私たちは間違いなく改革を起こせる世代。けれど、その方法は大きく変える必要があるかもしれない。いかんせん私たちはヘトヘトに疲れている。

だから静かにしてみよう、というのが私の提案。私たちは、ファストファッションやファストフードなど、何事も早ければよしとする社会の中でなんとか息をしているけれど、なにかにつけて“最高”であることを目指すのではなく、この狂気じみた人生に落ち着いて対応するだけで十分よしとする生き方をしてみてはどうだろう? それなら非常に限られた時間の中でもできるはず。

丸1日かかるほど長い朝のルーティンを必死にこなして、最低限の休みを取ることにさえ後ろめたさを感じるのは、もうやめない?

私のもとには、元気で幸せに生きる秘訣はヨガやマニフェステーションのクラスにあると言われたけれど、高くて行けないという人々から多数のDMが送られてくる。お金ばかりかかるせいで、多くの人がウェルネスの世界から取り残されたように感じていることを知り、もっと身近な方法があるはずだと思った。

そこで私は、この5年間で築き上げたコミュニティの声に耳を傾け、自分自身の生き方を書き留めて、それを『The Philosophy of Doing Less, Being Present, and Feeling Moreーすることを減らし、いまを生きて、もっと感じる哲学』というマニフェストのようなものにまとめた。そして、無数のルールやステップを作る代わりに物事の見方に着目し、要点を次の4つのポイントに落とし込んだ。さあ、ここからは“静か”という言葉のオンパレード!

「することを減らし、いまを生きて、もっと感じる」哲学とは

このマニフェストの1つ目のキーポイントは静かな喜び。これもまたひとりっ子の症状なのかもしれないけれど、私は毎朝、地球に初めて降り立った観光客のフリをする。今日が地球で過ごす初日と思えば、日常の平凡な出来事が有意義に思えるし、辛い出来事の中にも小さな喜びを見い出せる。そう、立ち止まって雲を見上げたり、足元の鳩と仲よくなったりするだけで、私たちは笑顔になれる。

2つ目のキーポイントは静かな癒し。ここで重要なのは完璧であることや正しくあることから離れて、自分の内面と向き合うこと。インスタグラム上の誰かに言われた通りアファメーションを555回唱えなかったからといって、罪悪感を覚える必要はまったくない。人の成長は一筋縄ではいかないことを受け入れて、昨日と同じブラでもいいから3分間の瞑想を。

そして3つ目は静かな抵抗。世の中の問題の多くは組織的なもので、すべてが“あなた”の問題というわけではないのに、私たちは自分を責めてしまいがち。だからこそ社会の規範や期待を捨て去って、ハッスルカルチャーに立ち向かい、私たちが自由に感じられない原因となっている物事に疑問を投げかけ、忙しさと成功を同一視しないことが大切。

こうして少しずつ、あなたの中で静かな革命が始まって、落ち着きとまとまりのない生活への対抗手段になっていく。私たちは1人で生きていくために生まれたわけじゃないし、オウムがしゃべり、地下に菌類のネットワークがある地球で生きられるのはラッキーなこと。だから、目が回るほど忙しい毎日の中に少しでも余裕を作り、もっと楽に息をしよう。海外の5つ星ウェルネスリゾートには行けないのなら、好奇心と驚きと冒険に満ちた遠足気分で近所のスーパーに行けばいい。なんなら、それも静かにね。

筆者のジゼルは作家、講演者、スローライフの提唱者としての顔を持ち、ゆったりとした生活や今日の社会で人間として生きることについての講演会やワークショップを頻繁に行っている。今後のイベントや出版物に関する情報はhttps://gisellelpm.com/で。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Giselle La Pompe-Moore Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。