私の友達の友達は、ゴシップ好きであることを理由に長年付き合っていたグループから破門された。ときどき人の噂話をしていたら、「ゴシップガール」というあだ名を付けられ、いつの間にか勘当されていたという。このようにゴシップ好きが原因で友達を失うケースもあるけれど、最近はゴシップが一種の社会機能として見られるようになってきた。

現代人のゴシップ欲は頂点に達している。ゴシップの宝庫として知られるインスタグラムのアカウントDeuxMoiは、2013年にライフスタイル系情報サイトとしてスタートしたものの、最初の7年は潜伏期間でフォロワー数も4万人弱だった。それがパンデミック中に雪だるま式の大成長を遂げ、現在ではフォロワー数200万人を誇るマンモス級のゴシップ専用アカウントに。このフォロワーには、ベラ・ハディッド、カーディ・B、クリッシー・テイゲンのような有名人も含まれているというから驚きだ。DeuxMoiは大手マスコミの“ブラインドスポット”になっている小ネタを拾い集め、巧みに編集したうえでSNSにアップするという手法を用いており、最近ではビジネスの幅を毎週のポッドキャスト・ニュースレター・小説の配信、ネットショップの運営、HBOのドラマ(製作準備段階)にまで拡大している。

米リアリティ番組『The Kardashians/カーダシアン家のセレブな日常』のエピソードの中で、キム・カーダシアンはDeuxMoiを「聖書」と呼んで承認・支持した。これにより、DeuxMoiの「ネット上で最高(かつ最大)のゴシップ専用アカウント」としての立ち位置は一層強固なものになった。DeuxMoiがセレブ界の破局、復縁、大げんかに関する噂を広めると、大抵は本人か関係者が最終的に認めざるを得なくなる。まさにゴシップのプロ。

もちろん、ゴシップのリブランディングを支えているのはDeuxMoiだけじゃない。政治的・ポップカルチャー的なゴシップを扱うニュースレターPopbitch、ファッション業界の不正を暴いたことで有名なサイトDiet Prada、SNSインフルエンサーに焦点を当てたブログTattleもチームの一員。TikTokではゴシップ・サーベイランス(ゴシップの監視)というムーブメントが流行中。ゴシップ・サーベイランスは、公共の場で見知らぬ人の会話を盗み聞きして、TikTokの視聴者に“お茶”という名のネタを出し、場合によっては関係者を特定するための情報まで提供するというもので、#Surveillanceというハッシュタグの付いた動画はTikTok上で6億回近く再生されている。2023年は間違いなくゴシップに溢れた1年だった。

ソーシャルスキルとしてのゴシップ

ゴシップは悪趣味で不快なコミュニケーションと思われがち。でも、ゴシップは社会的な絆を形成するうえで役に立つ。米ノックス大学心理学部のフランク・マクアンドリュー教授いわく「ゴシップは人間の性(サガ)の一部」。マクアンドリュー教授は世界的に有名なゴシップの専門家で、ゴシップには見過ごされがちな長所があることを発見した。「有史以前の人間は150人程度で形成される小さな集団に属し、その中で一生を過ごしていました。そして、集団の中では信頼できる人とできない人を見分ける必要があるため、みんなが人の評判に聞き耳を立てていました。そうしないと人に利用され、自分が苦労することになりますからね」

マクアンドリュー教授によると、ゴシップ欲は人間に生まれつき備わっている本能に他ならない。「私たちは、他人のことが気になって仕方なかった人々の子孫です。その意味ではゴシップも私たちの本能に他なりません。社会の中で生き延びるために必要なスキルです」

監視目的で使われるゴシップ

female gossip
Carol Yepes//Getty Images

でも、もはや“社会通貨”とも言えるゴシップの拡散に伴って、私たち人間がより孤独になっているのは単なる偶然? 140カ国以上を対象とした最近の調査によって、世界人口の約4人に1人(=10億人以上)は「とても/かなり孤独」と感じていることが分かった。米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の調査結果を見る限り、職場における“悪い”噂を流しても(嫌われて孤独を感じる)可能性は意外と低い。調査チームによると、悪い噂を流す人には、そうすることで自分に権力や支配力があるように見せかけたいという魂胆がある。でも、その噂を聞かされた人たちは、その情報を権力や支配力と結び付けず、単なる不平不満として一蹴していた。

著書に『Grooming, Gossip and the Evolution of Language』を持つ人類学者のロビン・ダンバー博士によれば、ネガティブな噂話が社会に貢献することもある。嫌な話に聞こえるかもしれないけれど、ネガティブな噂話は地域社会を助ける仕組みになっているのだ。マクアンドリュー教授に言わせると、ネガティブな噂話は地域社会が住民の行動を監視する手段の1つ。「その“ネガティブ”な要素にも、ちゃんとした役割があります。住民をまとめあげ、集団の意思に反する行動を取り締まるのは大変な作業です。その点、噂話は効果的。特定の人物の責任を問いやすくする噂話がなかったら、どこかで別の問題が生じるでしょう」

有名人のゴシップも監視目的で使われているからこそ魅力的。マクアンドリュー教授いわく有名人のゴシップは、有史以前の脳が現代のメディアに操られて気にするようになったこと。「有名人のゴシップに触れていると、こういう(世間の注目を浴びている)人たちの情報は他の人たちの情報よりも社会的に重要であると脳が感じ始めます。現代において有名人のゴシップは、一種の“社会機能”としての役割を果たしています。有名人は義理の友達みたいなもので、あなたが誰と話していても、お互いが知っている有名人のゴシップは、リアルな人間関係を構築するための出発点になりますからね」

ここまで読んでゴシップが持つ悪影響の少なさに驚いているかもしれないけれど、ゴシップの定義はあくまで他人に関する“砕けた会話”。それがイジメ(誰かを意図的に傷つける行動)や虐待の色味を帯びているときは、言うまでもなく非常に危険。

ゴシップ上手になる方法

ゴシップを“上手”に使えば、それがイジメや虐待に発展するなることもない。「ゴシップという言葉にはネガティブな意味合いがあると思われていますが、だからといってゴシップが全部ネガティブというわけではありません」とダンバー博士。

マクアンドリュー教授には“善い”噂話をするときの明確なルールがある。まずは「自分のゴシップが利己的ではないと思われるようにすることです。例えば、あなたが会社で『チームメンバーの1人が自分の仕事を十分にこなせていないような気がする』と言った場合、それはチームとしての機能を向上させるためのヒント探しと思われる可能性が高いです。これは“善い”噂話。人の性格や個性を持ち出して、その人の評判を傷つけようとするのは“悪い”噂話です」

つまり、TikTokで赤の他人を監視したり、パラソーシャルでしかない有名人のガセネタをシェアしたりするのは非建設的なゴシップに他ならない。そして、このようなゴシップは孤独感を増幅させる。やはり噂話も“適切に”することが大切なのだ。

最後にマクアンドリュー教授は、私の友達の友達がゴシップ好きであることを理由に破門されたという話を聞いて、かなり厳しい言葉を放った。「得意不得意はあるでしょうが、この世に人の噂話をしない人は1人もいません。私の中でゴシップはソーシャルスキル。ゴシップが上手な人は大抵かなりの人気者で、時事に詳しい人として知られています。ゴシップが下手な人は大抵その逆。でも、噂話をしない人など存在しません。ゴシップが上手な人と、そうでない人がいるだけです」
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Naomi May Translation: Ai Igamoto

Lettermark
Naomi May
Acting News Editor

Naomi May is a freelance writer and editor with an emphasis on popular culture, lifestyle and politics. After graduating with a First Class Honours from City University's prestigious Journalism course, Naomi joined the Evening Standard as its Fashion and Beauty Writer, working across both the newspaper and website. She is now the Acting News Editor at ELLE UK and has written features for the likes of The Guardian, Vogue, Vice and Refinery29, among many others. 

Headshot of 伊賀本 藍

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。