最新の研究で妊娠中のつわりの原因となりうるホルモンが特定されたことにより、この問題を解決する糸口が見えてきた。
2023年12月の科学情報誌『Nature』に掲載された研究結果は、妊娠初期に生じやすい吐き気と嘔吐の原因がGDF15という単一のホルモンであることを示している。GDF15はもともと女性の体内にあるけれど、胎児によっても作られるため、妊娠前のGDF15値が低い人は妊娠初期の3ヶ月間で急上昇する影響を受けやすいそう。イギリス版ウィメンズからみていこう。
今回の発見の意義
科学者いわく今回の発見は、妊娠中のつわり(心身を衰弱させるほど重度で反復的な妊娠悪阻を含む)の治療の改善につながる可能性がある。女性の約80%は妊娠中に吐き気と嘔吐を経験し、そのうちの2%は妊娠悪阻に悩まされる。妊娠悪阻では脱水症状が現れたり体重が減ったりして入院が必要になることも。
米南カリフォルニア大学ケック医学校の人口・公衆衛生科学臨床助教授で、この論文の筆者であるマルネラ・フェイゾ博士は『Guardian』紙に対し、「今回の研究で、妊娠中のつわりはGDF15の値が通常より高くなると生じることが分かりました」と述べている。
GDF15ホルモンについて
妊娠悪阻の女性は無症状の女性に比べて妊娠中のGDF15の値が著しく高いことから、つわりの程度は、このホルモンが妊娠中の体内にどのくらいあるかによって決まるものと思われる。つまり、このホルモンの値を下げるか、このホルモンの影響を阻害する薬があれば、重度のつわりは防げる可能性がある。妊娠前の体をGDF15にさらして慣れさせておくのも有効な手段と言える。
妊娠中のつわりに100%効果的な治療法はいまのところ存在しない。これには、つわりに対する科学的な理解が不足していることや、妊娠中の薬の服用に対する懸念が関係している。
新たな治療法の可能性
この論文の執筆に携わった著名な内分泌学者のサー・スティーブン・オライリー教授によると、妊娠前の体をGDF15に長期間さらしておけば予防・保護効果が得られ、胎児によってGDF15値が急激に上昇した際の影響を受けにくくなる。なお、妊娠促進剤として処方されることがあるメトホルミンという薬剤は、GDF15の値を上昇させることが分かっている。
現在行われている研究で妊娠中に薬剤を服用することの安全性が確認されれば、妊娠悪阻の患者もGDF15が脳に及ぼす作用を阻害する薬剤を服用できるようになるかもしれない。
妊娠悪阻は妊娠100件中1~3件に見られるとされており、一部の人は1日に50回も気持ちが悪くなるという。また、妊娠悪阻は栄養失調や体重減少、脱水症状を引き起こすだけでなく、血栓や妊娠高血圧腎症(妊娠および分娩中の高血圧)、早産のリスクも高める。
吐き気や嘔吐が非常に一般的な症状だからか、妊娠悪阻は重度のケースでも精神的なものとして見過ごされがち。でも、専門家いわく妊娠悪阻は妊娠初期の入院の主な要因。過去の妊娠で妊娠悪阻を経験した女性は将来の妊娠でも妊娠悪阻に悩まされる可能性が高い。
サー・オライリー教授が英BBCに語ったところによると、「母体の脳にある極めて特異な受容体」にGDF15がアクセスできないようにすることが「妊娠悪阻の効果的かつ安全な治療法の基礎」となる。
一日も早く、つわりの予防法や治療法が確立し、つわりで悩む妊婦が減ることを祈りたい。
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。
Text: Kate Cheng Translation: Ai Igamoto
Kate puts together fitness content that covers functional and strength training, cardio, workout challenges, interviews and news. She's often doing gym laundry or listening to music.
ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。