「21歳になったときの私の様子は、いまでも友達にからかわれます」と語るエミリー(仮名)は、その話を知っている5人の友達以外にも笑われたくないという理由から本名を明かさなかった。「大学の寮で自分のベッドに座り、あれもこれもまだ成し遂げていないと言いながら泣いたのを覚えています。あの感覚を何と呼ぶのか、正確には分かりませんが、時間がすり抜けていく、自分は(年の取り方を)間違っているというリアルな感覚がありました。その後、必死になぐさめてくれた友達のおかげで気を取り戻しましたが、私は自分の誕生日の半分をこの状態で過ごしました」

いまや30歳目前のエミリーにとって、これは笑い話。むしろ、あのように感情を大爆発させるほど視野が狭く、感謝することも知らなかった過去の自分を恥じている。でも、あのときの感情に嘘はなかった。年を取るのは、いろいろな意味でポジティブなこと。そもそも、死というオプションがある中で年を取れるのは幸運なことだし、ケーキに立てるキャンドルの数が増えるたびに感謝するべき理由も増える。高齢の女性には持ち家があって高収入の人が多いし、目には見えないけれど自分に自信がつくのも年の功。

それでもエミリーが抱いた感情は他人事では済まない。あなたにとって“怖い年齢”が29歳だろうと、56歳だろうと、70歳だろうと、あの感情は潜在意識の中に間違いなく存在する。なぜ、そこまで言い切れるのか? それは王立パブリックヘルス協会の調査によって、老いに対する英国社会全体の考え方が控えめに言っても悲惨であることが分かったから。

この調査の焦点はエイジズム(年齢差別)と、それが差別される側に与える影響に当てられていたけれど、行間を読めば、自分が年を取ったときの生活と、そこに辿り着くまでのプロセスが恐ろしくなるはずだ。しかも、この恐怖をもっとも強く感じているのは一番若い人たちだった。

子どもは6歳という若さで老いに対する既成概念を植え付けられる。そして、老いることをもっともネガティブに捉えているのはミレニアル世代の若者たち。この世代の約40%は、年を取ったら絶対認知症になると思い込んでおり、約25%は年を取ったら不幸で暗い気持ちになるのが普通という認識でいた。また、高齢者が魅力的に感じられることはないと答えた人も25%近くいた。

もちろん、老いることを否定的に捉えているのはミレニアル世代だけじゃない。さらに20代前半の女性たちは老化のサインが現れる前から“若返り”治療を受けているし、10代の少女たちは手の込んだ“アンチエイジング”スキンケアのルーティンをTikTokでシェアしている。しかも、強力な成分を使っているから余計に不安。

このような現象はすべて、老いに対する不安がリアルな問題であることを示しており、この不安のせいで多くの女性は“いま、ここ”を楽しめなくなっている。この問題についてイギリス版ウィメンズヘルスから見ていこう。


女性が老いることを恐れる理由

英ギルフォード出身のプロジェクトマネージャー、アリス・ソルター(32歳)は、老いに対する不安を初めて感じた日のことを鮮明に覚えている。当時、彼女は24歳だった。「友達と行ったクラブのトイレで化粧直しをしていたら、照明で白髪が数本見えて大パニックに陥りました。若くして白髪になるのは嫌でしたが、それよりも自分の年が体に出ているということに対する恐怖のほうが大きかったです」

場所や内容は違っても、鏡に映る老化のサインにショックを受けた経験は誰にでもある。そんなサインを見るたびにいちいち動揺するなんてどうかしていると思うかもしれないけれど、それは生物学的に自然な反応。

具体的に説明しよう。洞窟に住んでいた私たちの祖先は、生殖能力と結び付けて女性を大切にした。というのも、過酷な時代には生存と繁殖が何より大事だったから。つまり、当時は配偶者を見つけて繁殖活動をすることが身の安全を確保する手段だった。

だから私たちは生まれつき、老いに対する偏見を持っている。女性が経済的に自立して、自分の意思で子どもを持つか持たないかを決められる社会に暮らしていても、この偏見からは逃れられない。もちろん、この老化嫌いには現代の生活も関係している。

「現代の子どもたちは、若い人には価値があり、高齢者には価値がないというメッセージを散々聞かされて育ちます」と話すのは、著書に『A Manual for Being Human』を持つ臨床心理士のソフィー・モート博士。「年と共に女性の価値は下がって男性の価値は上がるとハッキリ言われたことはなくても、若い頃から見てきた広告、テレビ番組、映画を通して、そのメッセージを内在化しているはずです」

テレビのない家で育っても、老いることをよしとしない考え方は養われてしまう。成長期に生活を共にした人の考え方や行動は、私たちのボディイメージと同様、年を取ることに対する考え方にも影響を与える。

モート博士によると、「若作りをした中年女性」のようなフレーズは、老いを“受け入れるべきもの”から“恐れるべきもの”へと変えてしまうほどに強力。そして、この状況を説明する上で外せないのはSNSの存在だ。

「老いに対する恐れがこれほど蔓延しているのはSNSのせいでしょう」と話すのは、ローズ・アグダミ博士。身近な人だけでなく社会全体と自分を比較させてしまうSNSの能力により、現代人はよりイメージ重視の生き方をするようになってきた。

時間制限付きのチェックリスト

現在のエミリーは、あの誕生日の自分の涙をFOMOG(fear of missing out on goals)の表れとして捉えている。FOMOGはネット上を飛び交う略語の1つで、「ゴールを逃すことへの恐れ」を意味する言葉。そして、どうやら、このゴールには一定の年齢も含まれているらしい。「ゴールを逃しそうなときの不安は、私が年を取ることに対して感じる不安と似ています」とエミリー。「よいか悪いかは別として、20代の頃は常に砂時計と戦っているような感覚でした。“正しい”人生を送るためには、一定の年齢に達するまでに、すべてをクリアしなければならないと思っていたんです。男友達やパートナーにそう言われたわけではありませんが、女性には一定の年齢までにするべきことが明確に記された行程表がありますからね」

“行程表”なんて楽しい遠足のように聞こえるかもしれないけれど、これは実際、子どもが欲しいなら出産適齢期が終わる前にキャリアと恋愛を同時に成功させなければならないという女性特有のプレッシャー。ミレニアル世代は2008年に出産適齢期を終えている。その上、世界は相変わらずの不況で、高収入の仕事に就いたりマイホームを買ったりというマイルストーンが地平線のはるか彼方に沈んだ状態。そう考えると、誕生日が来るたびに自分の成果を棚卸しするエミリーのような女性がいるのもうなずける。

このような将来に対する不安は、生活の質と健康の両方に悪影響を及ぼしかねない。「老いることが不安になると身動きが取れなくなって、やりたいことができなくなるかもしれません」とアグダミ博士。そして、それが結果的にメンタルヘルスに悪影響を与えてしまう。老いることを否定的に見ていると、うつ病や不安神経症と診断される可能性が高くなる。ただし、その逆もまたしかり。

「不安を感じやすい人ほど、老いることへの恐怖を感じやすいのは紛れもない事実です」とアグダミ博士。「この恐怖には、加齢に伴う喪失が関係しています。この喪失には、家族や友達の死だけでなく、自分の健康・身体能力・記憶力の喪失も含まれます。年を取って自分の世話ができなくなったら、誰に面倒を見てもらおうという不安もあるかもしれません」

英マンチェスター在住のソーシャルワーカー、マリア・エヴェレット(42歳)も似たような不安を感じている。「昨年のクリスマス、家族と過ごしたときの写真を見たら、すごく悲しくなりました。両親は弱々しいし、私と妹はすっかり中年女性。しかも、我が家には子どもがいません。自分の人生には総じて満足しています。でも、この写真を見ていたら、私たちがみな老いているという事実からは逃れられないんだなという気持ちになって。年を取るということは、喪失と衰退以外の何でもないと感じてしまうときがあります」

年齢に対する見方を変えて

反対に、「あと半分しかない」ではなく「まだ半分ある」という前向きな見方をすれば、寿命が延びるかもしれない。パーソナリティ・社会心理学専門誌『Journal Of Personality And Social Psychology』掲載の論文によると、老いることを肯定的に捉えている人は、否定的に捉えている人に比べて寿命が平均7.5年長い。この延命効果は、タバコを吸わず、運動をして、健康的な体重をキープしたときより高い。

複数の専門家の話では、私たちは年を取ると、生まれつき持っている偏見を自分自身に当てはめるようになる。でも、健康状態が悪化するのは避けられず、健康的な食生活や定期的な運動などの予防措置を取っても無駄と信じ込むのは、自己成就的予言になるから要注意。

前出のレポートは、加齢を前向きに捉える社会づくりの一環として、社会交流(ご近所さんとのおしゃべりなど)を通じた多世代間の人間関係構築や、政策の変更(託児所と青少年クラブと介護施設を1つ屋根の下に置くなど)の必要性を提言している。

多世代間の人間関係が年齢を取り巻く不安の軽減に役立つことは他の研究でも裏付けられており、2017年の論文レビューによると、若者と高齢者の日常的な交流は、若者の老いに対する不安を和らげる。また、黒人、アジア人、少数民族は親族に幅広い年齢層の人がいるケースが多いため、白人よりも年を取ることに対して前向きな傾向がはるかに強い。

老いに対する不安を和らげたいなら、まずは自分の気持ちに正直になることが大切。たとえ醜くても、その気持ちと向き合うことには絶大なパワーがある。具体的には、高齢だからという理由で人を軽く扱ったり、お年寄りを可哀想な目で見たり、自分の服装を若作りと言って非難したりしている自分に自分自身で気づくこと。モート博士によると、小さい頃から「年を取るのは怖いことですよ」と社会に教えられていれば、このような偏見を抱いてしまっても仕方ない。「でも、その話を受け入れる必要はありません。自分の中に埋め込まれた信念が表面に出てきたら、それに気付いて考え方を切り替えられるようになりましょう」

ポジティブ心理学において人間は、3つの点で満たされる必要があるとされている。アグダミ博士によると、その3つとは「快楽の人生(自分が楽しいと思えることにあふれた人生)、エンゲージメント(楽器の演奏やスポーツ、ガーデニングなど自分が無我夢中になれること)、そして意義(子どもや動物の世話をしたり、何らかの活動に参加したりすることで感じるもの)」。この3つの点を満たせば、老いることに対しても前向きになれるそう。

心理学者のマルガレータ・ジェームズ博士によると、これまでの自分の人生を振り返り、認めてあげることも大切。「これまでに自分が学んだこと、経験したこと、起こした変化、得た知識をすべて思い返してみましょう。普段は気にも留めませんが、大事なことです」

そして、マインドフルネスは感情面の健康管理に役立つ。「マインドフルネスは(インプットとアウトプットの間に)間を作り、感情の無条件反射的な反応を防いでくれます」とモート博士。「この反応には、老いに対する不安も含まれます」。瞑想・マインドフルネスアプリがイマイチなときは、スマホを持たずに自然の中を歩き、その景色・音・匂いに集中してみて。

そして、最後に1つ。社会は「年齢を気にしろ」と言うけれど、いつだって自分のルールは自分で作れる。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Charlotte Haigh Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。