ウィメンズヘルスの記事でもたびたび、プロテインのメリットについてはご紹介してきたが、「必要のない人までプロテイン剤を摂りすぎている」と、プロテイン過多のリスクを教えてくれたのは、トップアスリートの栄養指導も行う管理栄養士で栄養学の教授でもある鈴木志保子さん。
「食事でタンパク質を摂る場合、例えばプロテインが10g含まれたヨーグルトを3パック食べると、食べすぎたな、と実感できますよね。ところが水や牛乳などに溶いて飲むパウダータイプのプロテインだと、1杯で30gのプロテインを摂ることもできて、それが多すぎるという自覚が持てません。食事でどれだけのタンパク質を摂取できているのかも把握せず、むやみにプロテインを摂っていると、余剰なプロテインを分解する働きを担う肝臓に負荷がかかってしまうんです」
また、同じタンパク質を摂取するにしても、食品から摂るのとプロテイン剤から摂ることにはもうひとつ大きな違いがある。食品の場合にはタンパク質以外にも多数の栄養を摂ることができるのに対し、タンパク質を凝縮したプロテイン剤は、摂取できる栄養素に偏りが出てしまいがちだ。
「まずは、自分にとって1日に必要なプロテインの量を把握することが必要です。それを食事で補うことができればベストですが、どうしても食事で補いきれない場合に、プロテイン含有食品やプロテインドリンクで補うのはOK。ただし、自分にとっての必要量以上は摂らないようにしましょう」
プロテインとの付き合い方4ステップ
- 自分に必要なタンパク質量を知る
- どの食品にどの程度のタンパク質が含まれているかを把握する
- 一日の食生活でどの程度タンパク質を摂っているかを見直す
- タンパク質が足りない場合は、不足分を補う(食品がベストだが、栄養補助食品を利用しても)
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によると、成人女性の場合は、一日に約50gのタンパク質を摂取することを推奨されている。長時間のトレーニングを日常的に行う場合のみ、通常の基準より1.2倍から1.4倍のタンパク質を摂ることが望ましいため、持久系の運動をする人は70~80gを目安に考えればいいということになる。
まずは、高タンパク食品に含まれるタンパク質量を覚えておこう。
鶏ささみ100g(タンパク質24.6g)
焼いた銀鮭の切り身1切れ70g(タンパク質17.6g)
木綿豆腐1丁300g(タンパク質21g)
卵Mサイズ1個(タンパク質約7.3g)
納豆1パック(タンパク質約8.3g)
牛乳200ml(タンパク質約6.6g)
主食にもタンパク質は入っています。
めし150g(タンパク質約3.8g)
食パン6枚切り1枚(タンパク質約6.2g)
逆に、プロテインを積極的に補うべき人はどんな人なのかも聞いてみた。
●食べることに興味がない人
「『食べなくても生きていける』が口癖のようになっていて、食べなくていいなら食べたくないというタイプは、タンパク質に限らずあらゆる栄養素が不足している可能性が高いです」
●食事がパンだけ、おにぎりだけになってしまう人
「パンやおにぎりだけしか食べないということは、炭水化物中心ということになり、タンパク質が足りません。タンパク質と、ビタミン・ミネラルも補って欲しいですね。逆に食事をプロテインだけで済ませている人は、おにぎりなどの炭水化物と、ビタミン・ミネラルを補うべきです」
●持久性のトレーニングを1時間以上行う人
「1時間以上のジョギングをしている人は、体重あたり1.2gのタンパク質が必要です。しかし、1時間以内のジョギングなら、タンパク質を基準(体重あたり1g)より多く摂取する必要はありません。スポーツ栄養的サステナブルは、その人に必要な量だけ取ること。思い込みで摂取量を増やすのはサステナブルではないのでやめましょう。」
●健康=野菜だと信じて疑っていない人
「野菜さえ食べていれば健康だと信じて疑わない、ベジタリアンを履き違えてしまっている人は、タンパク質以外にも不足している栄養があるはずです」
バランスがいい食事の基本は、「主食・主菜・副菜」の3つが揃っていること。プロテインはこのうち主菜の役割しか果たせないので、プロテインを取り入れる場合でも、エネルギーを作り出す主食(炭水化物)と、体の調子を整えてくれる副菜(ビタミン・ミネラル)も併せて摂ることを忘れないようにしたい。
まずは、自分の食生活を振り返り、どんな栄養素が足りていないのか、把握するところから始めてみよう。
お話を伺ったのは……
鈴木志保子さん
公立大学法人神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科学科長/管理栄養士/公認スポーツ栄養士
東京都出身。実践女子大学卒業後、同大学院修了。東海大学大学院医学研究科を修了し、博士(医学)を取得。2000年より国立鹿屋体育大学体育学部助教授、2003年より神奈川県立保健福祉大学栄養学科准教授、2009年4月より教授、2021年4月より現職。(公社)日本栄養士会副会長、(一社)日本スポーツ栄養協会理事長、日本パラリンピック委員会女性スポーツ委員会委員、車いすバスケットボール日本代表チーム(男女)、パラ水泳日本代表選手やマツダ陸上部の栄養サポート など。専門分野はスポーツ栄養学。著書は、「理論と実践 スポーツ栄養学」(日本文芸社)をはじめ多数。
『エル・オンライン(現エル・デジタル)』のファッションエディターを経て、フリーランスに。女性ランナーによる企画集団「ランガール」を設立。その後女性誌立ち上げやWebメディアの立ち上げを経て2017年にウィメンズヘルス』日本版ローンチ時から編集長に。2023年夏よりエル・グルメ編集長も兼務。趣味は料理を作って友人たちに振る舞うこと。