スマホの時刻は午後4時20分。担当編集者と待ち合わせをしているカフェの前に10分も早く着いた。こんなときは、カフェの外をブラブラしながら自己満足に浸るべきなんだろうー現代で時間に余裕があるというのは勝ち星だから。けれど、私はパニックの波に襲われる。

あのインボイス早くもらわなきゃ。いまリマインドしようかな。家を出るまで書いていたメールも送らないと。そんなことを考えているうちに貴重な時間は過ぎていく。私は時間を無駄にしている。

私が生産性の鬼になるのは仕事中だけじゃない。仕事前にランニングをして、洗濯機を回し、手の込んだ朝食を作るため、私は毎朝夜明け前に起きている。土曜日の夜のパーティーに長居しすぎたら、翌日の(プライベートの)残務処理を前にして寝不足になるであろう自分を責める。

体調を崩したときと酷い二日酔いのときだけは本当にスイッチオフするけれど、それすら大変。最近インフルエンザにかかったときも大人しく寝ていられず、ずっと観たいと思っていた映画を競争相手がいるかのような勢いで観尽くした。『ゴッドファーザー』と『テルマ&ルイーズ』にチェックマークを入れたときは心底うれしかったけれど、熱で寝落ちしなければ『アメリカン・ビューティー』も観られたのに、という気持ちを振り払うことができなかった。

私が抱えているのは“時間不安障害”。これは時間が過ぎていくことに対する強迫観念とも、慢性的な時間不足に対する憂いとも言える。友達が待ち合わせの時間に遅れると、あとでTo-Doに充てる時間がなくなることが不安で仕方なくなったり、郵便局が予想以上に混んでいると、焦燥感から足踏みが始まって手のひらがベタベタになったりするのは時間不安障害の典型例だ。

「問題は時間に限りがあることではありません」と説明するのは、臨床心理士のケヴィン・チャプマン博士。「あなたと時間の関係をネガティブなものにするのは、時間を自分でコントロールできないという感覚です」。その感覚にとらわれた私たちは不安でいっぱいになり、自分が時間を無駄にしている(カフェの外で10分立っている)ことばかり考えて、しまいには普通のルーティンさえこなせなくなるという悪循環に陥るわけだ。

「人生に“意味”を強く求める人は、時間を無駄にするという考えに抵抗を示すことが多いです。それが自分の時間でも、他の人の時間でも」と話すのは、著書に『The Undefeated Mind』を持つアレックス・リッカーマン氏。「常に目的を持って行動し、すべてのことに何らかの価値を見い出してこそ幸せだとか成功だとか思っていると、ただ時間の経過を眺めていることが恐怖のあまりできなくなります」

多くの女性が時間の不安を感じる理由

a collection of colorful alarm clocks in retro and vintage style on a bright yellow background the concept of the speed and rapidity of time and the flow of life banner copy space
Aleksandr Zubkov//Getty Images

子どもの頃は時間が無限にあって(夏休みにも終わりがなくて)、大人になると時間の経過が早くなるというのは単なる気のせい。でも、時間以外の物事は間違いなく変化する。

大人になるまでに私たちは喪失を経験し、赤ちゃんの急速な成長過程を目撃し、学校の時間割や学年の区切りにある長期休暇から解放される。そして、長く生きれば生きるほど時間の儚さと貴重さが身に染みて分かるようになる一方で、大人としての義務と目標は増えていく。だから私たちは、その1分1秒が日を追うごとに手放せなくなる。

作家のクラウディア・ハモンド氏は著書『The Art Of Rest』の中で、大人の時間が減った2大要因に「個人の仕事量を一気に増やした2008年の金融危機」と「仕事と私生活の境界線を曖昧にしたテクノロジー」を挙げている。

さらに、最近は忙しいことが名誉の勲章として見なされるし、SNSにはなにかを成し遂げた人の写真が溢れているものだから、平日の効率を上げられるだけ上げて、空いた時間に1つでも多くのことを詰め込まなければならないような気がしてしまう。

英サリー州出身の小学校教諭フェイ・ミッチェル(31歳)が不安になるのは、皮肉にもスケジュールに余裕があるとき。「時間を無駄にするのが怖すぎて、結局なにもせずに終わってしまう」と彼女は語る。

「体が固まってしまうような感じです。やらなければならないことも、その時間をどう使うべきかも分かっているのに、自分に対する期待値が高すぎてなにも手に付きません。濡れた髪にタオルを巻いたままベッドに座り、時間の経過を眺めているだけ。このままでは遅れてしまうと頭では分かっていても行動に移せないということが週に何度かあります」

チェンジマネジメントを専門とする心理学者で神経科学者のリンダ・ショー博士によると、1分1秒も無駄にしたくないという強い気持ちは、プレッシャーの大きい仕事をしている人や、1日12時間労働がざらにある個人事業主の人たちを苦しめる。これには私も共感せざるを得ない。

フリーランスライターの私にとって時は金なり。実際問題として、時間の使い方を間違えば生活費が稼げない。そして、独身のときですら取りにくいフリーランスのワークライフバランスは、子どもができるとさらにグラつく。

「スーパーママになりたかった」と語るロシェル・ロドニー=マソップ(26歳)は、ロンドンで接客業のパートをしながら双子を育てるシングルマザー。「心理学を専攻中の21歳で妊娠したときは、本気でインターンシップと子育てを両立できると信じていました。でも、卒業してアパレル・マーチャンダイジングの仕事を始めてからは、子育て、長時間の労働と通勤、家の改築を同時並行で行うことが不可能に思えてきました。どんなに時間を効率よく使っても、1日24時間じゃ足りなくて」

ショー博士によると、家族が増えても時間は増えないので、母親はとくに不安を感じやすい。「女性は普段から時間のプレッシャーを感じているだけでなく、周囲の人の精神的な負担を一手に引き受けるところがあります。子どもや親、パートナーや兄弟姉妹の不安を吸収するのは一般的に女性ですから」

時間に対する不安がメンタルヘルスに与える影響

いつも危機感に駆られているのは、生活の質だけでなく健康にも非常に悪い。ロシェルの場合は、自分の人生を上手くコントロールできないという焦燥感が仕事にも波及して、自分には十分な能力があると思えなくなってしまった。

時間が気になって仕方ないときに生じる体が麻痺するような感覚と不眠が有害であることは百も承知。それでも私は、未完了のタスクのことばかり考えて結局は貴重な時間を無駄にしている。時間を無駄にすることに対する嫌悪感は、私の人間関係にも悪影響を与えている。現に私は、街で友達に出くわしたり、おばあちゃんから電話があったりという予定外の出来事を喜べなくなってしまった。理由は簡単ーそうすると、自分で決めたスケジュールに遅れが出るから。

先日も、私と夜の予定を立てようとした友達が10分のボイスメッセージを残してくれたけれど、それを最後まで聞き終えた私は彼女を恨めしく思ってしまった。「いまはこれをやらなくちゃ、次はあれをやらなくちゃ、これは先にやっておくべきだった。そういうことをひっきりなしに考えているだけで、体内では有害な反応が生じます」とチャプマン博士。

ショー博士の話では、どんな種類の不安障害もコルチゾール反応を加速させ、体内の数々のプロセスに悪影響を及ぼす可能性がある。少量のコルチゾールは(バスに乗るために走るときなど)集中力の維持に役立つ。「でも、コルチゾールの分泌が慢性化して、体内のコルチゾール値が高すぎる状態が長く続くと、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の働きが抑制されてしまいます」

ドーパミンが不足すると「やる気がなくなり、楽観的でいることができなくなります」とショー博士。「一方のセロトニンは気分、睡眠、食欲、感情の調節に不可欠です。そのため、セロトニンが不足すると、気分のむらが激しくなって、ぐっすりと眠れなくなり、イライラするようになります」。これまでの研究により、コルチゾール値が慢性的に高くなると、うつ病、高血圧、心疾患のリスクが高くなることも証明されている。

だったらもっと生産性を上げればいいと思うかもしれないけれど、ショー博士によると、それで問題が解決するわけじゃない。確かに、これ以上生産性が上げられないから不安になっている人に生産性を上げろと言っても仕方ない。生産性ハックと同様、瞑想やヨガのようなリラクゼーションメソッドも役に立つとは限らない。

「自分の生産性が低すぎて不安になっている場合、いま(そこでなにもせずに座っている瞬間)に意識を向けても、それ自体が無意味に思えてしまいます」とリッカーマン氏。また、ハモンド氏によると、時間の心配をすればするほど身動きが取れないような感覚が強くなるので、まずは“時間を無駄にした”という考え自体を手放すことから始めたほうがいい。

「ポイントは休息を大事にすることですが、みんながみんななにもしないでソファに座っていられるわけじゃない。そわそわして落ち着かない人もいます。だから休息の本質は、日常的な思考を止めるアクティビティ、つまり、あなたが本気で夢中になれるアクティビティを見つけることにあるのです」とハモンド氏。

このアクティビティは、読書でもガーデニングでも音楽鑑賞でも構わない。それが無理なら、椅子に座って目を閉じるだけでもOK。「ちょっと時間が空いたときに休んでください」

「郵便局で10分待つことになったら、イライラせずに自分の見方を変えてみましょう。電車の中ではメールを読まず、窓の外の景色を眺めてください。目的地に向かっていれば、それだけでなにかを成し遂げていることになります。すべての瞬間を有効活用する必要はありません」。これからは、これをマントラにして生きていこう。

時間が気になって休めない人向け「時間の上手な使い方」

time emergency concept
J Studios//Getty Images

不安な気持ちはアファメーションで置き換える

「時間や日にちが足りないという強迫観念を手放すためにも、破滅的な思考(私には〇〇をするための時間が一生ない)は現実的で前向きなアファメーション(この時間では1つのことしかできないけれど、その1つはしっかりやろう)で置き換えましょう」とチャプマン博士。

思い切ってタスクを減らす

ショー博士によると、「私たちは所要時間を短く見積もり、2時間や半日ではなく1時間で終わると考えてしまいがち」。だから、やらなければならないことを全部書き出すよりも、その中から2~3個選んで、その日中に終わらせることにコミットしたほうが効率的。それ以外は明日でいい。

定期的に休憩をとる

ショー博士は社会心理学者のグラハム・ウォラスが考案した生産性向上メソッドを引き合いに出し、「1日30分でもいいので、なにもしない時間を予定に入れておきましょう」とアドバイスする。「解決すべき問題が特定できたら、“潜伏期間”に入ってください。その間はまったく違うことをして、その問題に関することを考えないようにします。そうすれば、あなたの潜在意識に解決策を見い出すための“ゆとり”が生まれます」。なるほど!

問題はひと晩寝かせる

ショー博士によると、時間が気になって眠れないときは、考えていることを紙に書き出し、翌朝に対処するべき。「まだ完全に目覚めてはいないけれど、眠っているわけでもない。そういうときは脳が軽い瞑想状態に入り、アルファ波を発しているので、さまざまな疑問に対する答えが浮かびます」。散歩中や空想中、窓の外を眺めているときや自分の呼吸を数えているときも、この状態に入りやすい。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Lauren Clark Translation: Ai Igamoto

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Lauren Clark

Lauren is a lifestyle journalist with digital and magazine experience. Find her covering all aspects of wellness - from fitness, nutrition and mental health, to beauty and travel. Morning HIIT, a lunchtime oat latte and evenings ensconced in a hyaluronic acid-infused sheet mask are her own personal feel-good pillars.

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。