小児ぜんそくと謎のアレルギーを持っていた私は、小さい頃から運動がダメだった。マゾな体育教師によるトラウマ的な経験のせいで体育の授業も見学することが多かった。だから当然20代に入っても運動に興味が持てず、体を動かすのはナイトクラブで踊るときだけだった。

でも、1980年代にエアロビクスが流行り出すと、さすがの私も興味を引かれた。なんだか楽しそうだし、そんなに頑張らなくてもよさそう。これなら大好きなジェラートやチョコレートやコーヒーを諦めなくても体重が減らせるかも。このダサいオーバーサイズのTシャツからも卒業したい。そう思った私は(最初で最後の)レッスンを受けてみることにした。

エアロビクスのスタジオは、オリビア・ニュートン・ジョンの大ヒット曲『フィジカル』のMVを彷彿とさせるハイカットのレオタードを着た筋肉質の女性でいっぱいだった。その光景にすっかり怖気づいた私はスタジオの一番後ろに移動して、できるだけ存在感を消していた。音楽がかかると、周りのみんなはビートに合わせて優雅に動き、ロシアのバレエ団のごとく四肢をシンクロさせている。それに比べて私はメチャクチャで、みんなが足を右に踏み出せば左に踏み出し、あてもなく腕を振り回すだけだった。レッスンが終わる頃には汗だくで、顔は赤信号みたいに真っ赤。私はゼエゼエ言いながら、歩くというよりよろめきながら更衣室に辿り着いた。

30代に入ると、友達と毎晩飲むより、落ち着いた感じのディナーやピクニックに行くことが多くなった。とある週末、そのうちの1人が「サイクリングに行こう!」と言い出した。レギンスを履くことには抵抗がある。でも、体にいいから「行く」と答えた。デイパックにサンドイッチを詰めて、元気よくペダルを漕ぎ出したのはいいけれど、最初のなだらかな上り坂で早くも挫折。できるだけ肺ではなく脚に仕事をさせようとしたものの、運動誘発ぜんそくには勝てなかった。

そして、エアロビクスもサイクリングも続けないまま時が経ち、体の硬さが深刻な問題になってくると、私はヨガに興味を持った。でも、すべてが順調だったのは、戦士のポーズの最中にバランスを崩して倒れるまで。仰向けで横になりながらスタジオを見回すと、みんな私より背が高く、スリムで優美。私にはどうしたって無理な気がした。セッションの最後でみんなと一緒に呼吸エクササイズ+サードアイ(第三の眼)の活性化をしていたときには強烈なめまいに襲われ、踏んだり蹴ったり。副鼻腔が狭いので十分な酸素が取り込めず、あやうく気絶するところだった。

私にとっては、どんなエクササイズも一種の拷問。もうやめよう。私がベリーダンスに出会ったのは、そう思っていた矢先だった。

当時の私はトルコに住んでいた。トルコ人は少しでもおめでたいことがあればすぐに踊る。昔からの友達と数年ぶりに会えたときなど、それが例え路上であってもすべてを忘れて踊り出す。独身最後のパーティーでは女子たちが激しく踊り、誰が一番セクシーかを競い合う。結婚式では、お酒なしで(トルコ人の大半はイスラム教徒なので)何日も踊り続ける。大人から子供まで全員がプロダンサー。

みんなと一緒に踊るのは楽しいけれど、それだけではアマチュアの域を出られない。数年後、47歳で母国オーストラリアに戻った私は、しっかり踊れるようになろうと心に決めた。グーグルで調べてみると、地元のコミュニティセンターが初心者向けのレッスンを低価格で提供している。早速レッスンに参加した私は一発でベリーダンスの虜になった。あの脈を打つようなリズム感。自分の全エネルギーを短い間隔で勢いよく放出するぶん、呼吸もコントールしやすい気がする。しかも、ベリーダンスでは腕・腰・脚を別々に動かすので、もともと動きがぎくしゃくしている私でも問題なかった。

ベリーダンスを始めてからの5年間で、私のスタミナは劇的に向上した。毎回、レッスンの半分は特定の動作の練習に充てられる。“ヒップフリック”の練習で腰をテンポよく上下左右に動かし、“キャメル”の練習で胴体の筋肉を波のように動かせば汗が噴き出す。

ベリーダンスは難しいけれど、いつも楽しい。ステップが正しく踏めない日やミスしてばかりの日はあるけれど、最後は必ず鼻歌を歌いながら教室を後にする。生徒たちは「もっと速く、もっと長く」という先生からの無理難題にも勇猛果敢に立ち向かう。自分のシルエットだけを見つめてテンポよく腰を振り、無我夢中でついていく。最後はみんなコントロール不能になって、ふらふらと鏡にぶつかり、ひたすら笑う。

私のウエストは決して細くないけれど、こういうエクササイズをしているせいで体は随分引き締まったし、自分の意思で動かせるくらい腹筋がついてきた。ベリーダンスにおいてカーヴィーな体のラインは、隠すというより誇示するべきもの。そしてなにより今日の私は、ぜんそく発作で倒れることなくバス停まで走っていける。

私のクラスには10代の女の子からおばあちゃんまで幅広い人がいて、体型や身体能力もさまざま。だから、スタジオの鏡の中で自分を人と比べても気後れしない。私は背が高いわけでも体が柔らかいわけでもないけれど、ベリーダンスはクラスの中でも上手いほう。踊っているときの自分は強くて健康な感じがする。

これまで私は、英語(シドニーに住んでいたとき)とトルコ語(トルコに住んでいたとき)でベリーダンスのレッスンを受けてきた。そして最近リスボンに引っ越してきてからは、ポルトガル語でレッスンを受けている。使用言語が変わってもベリーダンスの楽しさは変わらない。運動をしている感じがまったくしないベリーダンスに出会ったことで、私はやっと長期的に維持できるフィットネスの習慣を身に付けた。
 
※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Lisa Morrow Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。