ロンドンに住むジャーナリストのクロエ・グレーが暑い日もヴィクトリアパークの周りを走り、毎晩フォームローラーを欠かさないのは、一緒に走る友達がいるから。

以前の彼女はランニングが嫌いだった。息がゼーゼーするのも、自分の鼓動が脳天まで響くのも、たった5kmが永遠のように感じるのも嫌だった。

でも、彼女の親友がハーフマラソンに申し込み、ルームメイトも参加すると決めた途端にクロエはランニングが好きになった。あの解放感と自然な感じは癖になるし、何よりも、大好きな人と質の高い時間を過ごしながらできる点が気に入った。それに、足腰が痛いとか自信がないとか言いつつも仲間と一緒に10kmを走り切ると、この上なく強い“つながり”を感じられる。

ランニングは交流の輪も広げてくれた。インスタグラムでランニングに関する動画やコメントをシェアすると、何年も連絡を取っていなかった友達や見知らぬ人が同じルートや各自の経験に関するコメントを残してくれる。その中には、応援のメッセージをくれるバーチャル・チアリーダー的な人もいる。こんな温かいコミュニティの存在を彼女は知らなかった、というよりも知りたいと思ってなかった。

フィットネスアプリ『Strava』のYear In Sport調査報告書2023によると、このアプリのユーザーが人と一緒にエクササイズをする最大の理由は社会的なつながり。大人の約半数がときどき、しょっちゅう、あるいは常に孤独を感じている英国では(サポートネットワーク『Campaign To End Loneliness』調べ)、エクササイズのような健康的な解決策を見つけることが特に重要なのだ。

エクササイズがくれる人とのつながり

『Strava』のユーザーは、いいところに気づいている。2023年の論文レビューによると、グループエクササイズは他のグループアクティビティ(歌唱クラブなど)よりも孤独対策として効果的。でも、エクササイズの一体“何”が強いつながりを感じさせてくれるのだろう?

「一般的に、エクササイズはメンタルヘルスを改善し、心の落ち着き、気分の向上と喜びをもたらします。他の人と一緒に行えば、サポート、応援、責任感、帰属意識も得られます」と説明するのは、運動心理学者でカウンセリングサービス『Mind Advantage』創設者のジョディーン・ウィリアムズ博士。「他のアクティビティと違い、エクササイズでは、友達と楽しい時間を過ごせることに加えて、エンドルフィンの分泌とドーパミンの産生を促進することもできます」

行動・脳科学研究誌『Behavioural Brain Research』に掲載された2023年の論文によると、8週間の水泳トレーニングを受けたマウスは、より社交的になり、より多くのことに興味や喜びを感じるようになった。研究チームいわく、この変化には運動をしたマウスの体内でオキシトシンの量が増えたことが関係している。オキシトシンは“愛情ホルモン”として知られており、これが他のマウスとのつながりを深める上で役に立った可能性もあるという。これと似たような研究により、運動をしたマウスはオキシトシンを産生し、より高い共感力を示すことも判明している。

運動中は人間の体内でもオキシトシンが産生されるので、そのホルモンによる幸福感が他者(この人たちもエクササイズを通じて“つながりモード”に入っている)との絆を深めてくれる。運動によってつながり感が得られるのには、心理学的な理由もあるのだろう。例えば、自然の中を歩きながら癒やされる会話をするウォーク&トークは、バーンアウトとメンタルヘルスを改善し、集中力を高め、仕事から得られる喜びを増幅させて、自尊心とマインドフルネスを養うとされている。これに自然の力が関係しているのは言うまでもないけれど、人と並んで体を動かしているときは、座っているときや向かい合わせのときよりも心を開きやすいという専門家の声もある。

ルーシー(仮名)は20代後半でとてつもなく悲しい出来事に見舞われ、同じ経験がない人に心を開くことができなくなった。「グループエクササイズに参加してインストラクターと話していたら、彼女も彼女なりの悲しみを抱えていることに気付きました。彼女と話をすることで、すごく気持ちが楽になりました。いまは彼女からマンツーマンのボクシングレッスンを受けています」

「自分と似たような経験がある人と知り合えるのは、それだけでもうれしいことですが、体を動かしながらだと、さらに深くつながれるような気がします。別のこと(運動)に集中しているぶん、自分のこともあまり深く考えずに話せます。エクササイズをしているときは自分自身をさらけ出し、周囲の人と感情レベルでつながりながら、お互いの人生経験を共有できます」

コミュニティの重要性

運動中かそうでないかは別として、心の内や自分の弱みを見せ合うと人同士の絆が強くなる。そして、この絆は私たちのモチベーション維持に役立つ。『Strava』ユーザーの41%は、友達や家族と一緒に体を動かすことでフィットネスのマンネリを抜け出している。また、同アプリのデータによると、ランナーは2人以上で走ると自己ベストを更新する確率が83%高くなる。「人間は生まれつき、つながりを求めるように作られています」とウィリアムズ博士。「つながりは私たちの健康に良い影響を与えます。実際に、他の人と一緒だとエクササイズの時間が長くなったりしますから」

こうした話は、「女性たるもの他の人には目もくれず運動するべき」という通説に反するもの。英国のキャンペーンThis Girl Canの調査によると、女性が運動をしない主な理由の1つは人に良しあしを判断されるのが怖いからで、私たちの32%は自分が人にどう思われているのかを気にしながらスポーツや運動をしている。「ジムに対する恐怖心にも、人との比較が大きく関わっています」と語るのは、理学療法クリニック『Longevity Health and Fitness』創設者で臨床運動心理学者のヴィクトリア・アンダーソン博士。「自分よりフィットな人、強そうな人、優れた人ばかりだったらどうしようと不安になったり、そのジムに通い慣れている人を見て自分が歓迎されていないような気分になったりするのはよくあることです」

自分が誰にどう判断されているかなんて分からない。でも、“スポットライト効果”という心理学用語があるように、私たちは実際以上に自分が人の注目を浴びていると思いがち。それでもジムで人にどう思われているかが気になるときは、自分の周囲を友達で固めればいい。1人では怖くて行けないダンス教室に友達を引きずって連れて行ったことがある人は、その効果を知っているはず。

でも、これは絶対に“友達ありき”の話じゃない。『Strava』の調査では、アクティブな人の84%が1人でも運動すれば孤独感が和らぐと言っていた。「これに関する研究は限られていますが、1人で体を動かすと自分自身とのつながりが感じられると言われています」とウィリアムズ博士。「たとえ自分1人でも、運動すれば気分がよくなり、ストレスと不安が軽減し、自分に対する満足感と自信が高まります。また、その時間を利用して内省し、頭をスッキリさせることができるので心が落ち着きます」

友達と一緒じゃなくても、走っていれば、会釈しながら通り過ぎていく見知らぬランナーとつながっている感じがするし、オンラインでコメントをくれる人もいる。最近では、バーチャルなコミュニティが対面のコミュニティと同じくらい重要な役割を果たすことも少なくない。パンデミックのロックダウンをきっかけに、オンラインのフィットネスコミュニティ『Ladies Who Crunch(LWC)』に参加したマヤにとっては間違いなくそうだった。

「友達や家族と違って私は、屋外スペースのないアパートで長い時間を過ごすことになりました」。ロックダウン以前のマヤはLWCの創設者ナンシー・ベストからマンツーマンのトレーニングを受けていた。

「スマホにプッシュ通知が表示され、人々がお互いに励まし合い、支え合っているのを見たときは感動しました。そこには女性のコミュニティがあったんです。ほとんどの人が初対面でしたが、みんな声を掛け合って、ワークアウトでは励まし合って。ウエイトの重量を増やせたときや新しいチャレンジを終えたときは、みんなが一緒に喜んでくれました」とマヤは当時を振り返る。

「家に1人でいながらも帰属意識を持つというのは少し変かもしれませんが、コロナ禍を乗り越えた人はみな孤独を経験したはず。私が辛い時期を乗り越えられたのは、LWCを通して得たコミュニティとつながりのおかげです。週に数回、友達と合流しているような感覚で、ライブ配信のワークアウトに参加するのが待ち切れませんでした」

エクササイズを使って孤独を乗り越える

この数年でエクササイズは私たちのアイデンティティの一部になった。それには長所(自分は“フィット”な人間という自負がある人は定期的に運動をするかもしれない)と短所(自分のアイデンティティと価値を身体能力に結び付けると、自分の体や能力が変わるたびに危機に陥る)があるけれど、その運動に夢中であればあるほど参加率が高くなり、健康が促進されるのは明らか。でも、2024年1月に発表された論文によると、私たちのウェルビーイングと満足度には、フィットネスグループへの参加率以上に帰属意識が大きく関わっている。

幸い、この帰属意識は多くのスポーツクラブやフィットネス教室のセールスポイントになりつつある。特に一部のクライミングカンパニーは帰属意識の重要性を認識し、カフェやコワーキングスペースを設置したり、夜のクライミング会を開いたりして、メンバーのコミュニティ意識を高めている。そのうちの1社『London Climbing Centres』は初心者を対象とした無料交流会を開催しており、1月には自殺防止ネットワーク『CALM』と提携し、クライミングを通じて孤独を克服する機会の提供に乗り出した。『Say Yes Club』や『Friday Night Lights』といったランニングクラブも人気で、街中をみんなで走る(そして最後はパブへ行く)というコンセプトが好評を博している。いずれにせよ、孤独感を和らげる上で何よりも大切なのは、本当に自分がなじめるアクティビティやコミュニティを見つけること。

グループに付いていくことはできないけれど、孤独感は何とかしたい? ジャーナリストでメンタルヘルス運動家のブライオニー・ゴードンが設立したウォーキンググループ『Mental Health Mates』は、歩きながら話すイベントを英国各地で開催している。また、5kmランのグループ『Run Talk Run』では、やさしいルートを走りながら参加者が近況を話し合う。

友達とアクティブな予定を立てるのも名案。ただ散歩をするにせよ、1人では恥ずかしくて行けないクラスに2人で乗り込むにせよ、ジムで肩を並べながらリフティングをするにせよ、一緒に体を動かしてこそ味わえるつながりがあるから。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Chole Gray Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。