運動は、年齢を問わずすべての人にとって重要。でも、運動がシニア世代に与える影響は特に大きい。年を取ると体が自然と衰えて、慢性疾患や関節炎、関節痛のリスクが高くなり、筋肉と骨が弱くなり、気分の落ち込みや不安を感じやすくなる。でも、だからといって、こうした変化を遅らせたり、その影響を多少なりとも減らすことがまったくできないわけではない。詳しく見ていこう。

「定期的な運動は、シニア世代が良好な健康状態を維持して、生活の質とウェルビーイング全般を改善する上で役立ちます」と話すのは、パーソナルトレーナーで公認管理栄養士のメアリー・サバト。「運動をしていると筋力、柔軟性、持久力が向上するため、日常生活に必要な活動を行って、自立した生活を維持するのが楽になります」

効果の程度が違うだけで、シニア世代がしても意味のない運動は実質上ないけれど、サイクリングは手軽なぶんシニア世代に向いているし、関節にやさしいので関節の痛みやケガのある人でも無理なくできる。「サイクリングなら、個人のフィットネスレベル、身体的な能力や制限に応じてワークアウトの内容を調節するのも簡単です」とサバト。「体のモビリティやバランス感覚に問題がある人も、リカンベントバイク、リカンベントトライク、電動自転車を使えばサイクリングが楽しめます」

69歳のサイクリストで偶然にも自転車事故を専門とする弁護士のロバート・パターソンは、40年以上のサイクリング生活で有酸素能力と筋力が向上した。メンタルヘルスに対するサイクリングの効果も感じている。「サイクリングは私のメンタルヘルスにもよい影響を及ぼしています。自転車に乗ることで、物事に対する姿勢や集中力が改善してきていると思います」

外やジムでペダルを漕ぐ理由がもっと欲しいなら、科学的裏付けが十分にある次の点を考慮して。

1.心臓が強くなる

有酸素運動は心臓の健康管理のカギとなる。心臓は筋肉で出来ているので、定期的に鍛えないと筋力や最適な動きが維持できない。心臓と肺は静脈系と連携して酸素化された血液を筋肉に運ぶため、心拍数と呼吸数を一定時間増やすのは、心臓の健康状態と心血管機能全般の改善に役立つ。

また、20~30分でも自転車を漕げば、間違いなく心拍数が上昇する。サイクリングの反復運動は中強度~高強度の有酸素運動で、個人のフィットネスレベルにも合わせやすい。よって数年ぶりに運動する場合でも、まずは低い強度でスタートし、自分の心拍数に応じて内容を変えていけば、安全かつ効果的な運動が可能になる。

「心疾患のリスクは年と共に高くなります」とサバト。その中で「サイクリングは、心臓血管の健康状態を改善し、心筋を強化して、血行を促進するのに役立つ低衝撃の有酸素運動です。心臓発作や脳卒中、高血圧のリスクを下げて、心臓を元気にするのを手伝ってくれますよ」

事実、2019年に行われた2本立ての研究(スポーツ医学誌『British Journal of Sports Medicine』掲載)では、あらゆるタイプのサイクリングが心血管疾患のリスクを下げ、心臓の健康状態悪化につながるリスク因子を減らすことが判明した。言い換えると、サイクリストは体組成と血中脂質プロファイルが良好で、心肺のフィットネスレベルが高く、運動時間が長いということになり、このような要素が重なることで心疾患の発症リスクが軽減する。

2.慢性疾患のリスクが下がる

定期的なサイクリングで予防可能な慢性疾患は心疾患だけじゃない。2型糖尿病、関節炎、がんを含む大多数の慢性疾患は、定期的なサイクリングで食い止められる。これは、運動によって血流と身体機能の正常な働きが保たれて、細胞のターンオーバーが進み、それが全体的な健康を促進するから。例えば、高強度のサイクリングによって血糖値が改善し、2型糖尿病のリスクが下がることも考えられる。

定期的なサイクリングで、がんのリスクが下がることも証明されている。一例として、医学誌『The Lancet』に掲載された2020年5月の研究結果は、自転車通勤によってがんによる死亡率が16%低下して、がんの発症リスクが11%下がることを示している。

「シニア世代は、普段からちょくちょく自転車に乗ることで慢性疾患のリスクを下げることができます」と説明するのは、スポーツ理学療法士のジョシュ・ウェイト。「慢性疾患は心身を弱らせますが、定期的な運動という事前措置をとることで、予防と管理が可能になります」

3.関節が強化・保護される

高齢になると、関節炎や古傷からくる関節痛が生じることも珍しくない。エイジングに関する米国の世論調査では高齢者の約7割が関節痛を訴えた。ヒザをはじめとする関節の痛みは、座りすぎや動かなすぎの生活が直接の原因となって悪化することがある。

大したことではなさそうに聞こえるかもしれないけれど、関節痛や関節炎によって可動域が制限され、バランス感覚やコーディネーション能力、さらには日常的なタスクをこなす能力が失われることもある。そうすると、転倒のリスクが高くなるだけでなく、生活の質も全体的に下がってしまう。だからシニア世代の健康とウェルビーイングには、関節痛を引き起こしたり悪化させたりすることなく、関節の安定に必要な身体構造(筋肉、腱、靭帯)を保護・強化する運動が絶対不可欠。

「サイクリングは、関節に最低限の負荷をかける低衝撃のアクティビティなので、関節に問題がある人にもオススメです」とサバト。「ヒザや股関節、足首に過剰な負担をかけることなく、心血管系を鍛えることができますよ」

4.筋力、持久力、パワーがつく

あなたの自転車がエアロバイクであれ、ロードバイクやマウンテンバイクであれ、サイクリングで脚が鍛えられることだけは間違いない。ペダルを漕ぎ続けるには筋力とパワー、持久力が必要だし、坂道を上ったりマシンの抵抗を強くしたりする場合はなおのこと。でも、サイクリングで鍛えられるのは下半身だけじゃないーー肩、上背部、体幹も鍛えられる。

もちろん、サイクリングだけで大腿四頭筋がムキムキになることはないかもしれないけれど、筋力をつける目的は見た目よりも生活の質を維持することにある。

筋肉量は30歳以降10年ごとに3~8%減少すると言われている。60歳以降は、そのスピードが一段と加速するので、階段の上り下りや食料品の持ち運びがますます困難に。だからサイクリングのような運動で筋肉量の維持・増強をはかり、日常生活に必要な活動を自ら行う能力を守ることが大切。

エイジングと運動に関する学術誌『European Review of Aging and Physical Activity』が掲載した2015年の論文によると、70歳以上の成人が少なくとも週3回のサイクリングを12~16週間続けたところ、筋力とパワーが向上した。年を取ってから筋肉をつけるのは不可能と思われているけれど、実際は可能だし、シニア世代の健康と身体機能を守る上でも重要なこと。

5.バランス感覚とコーディネーション能力が向上する

サイクリングがバランス感覚とコーディネーション能力に及ぼす影響は特に大きい。鍛えられた筋肉はそうでない筋肉よりも素早く刺激に反応するので、サイクリングで筋肉を鍛えれば、自然とバランス感覚とコーディネーション能力が向上する。でも、この2つは、もともと自転車を漕ぐために必要なもの。

「体を起こしてペダルを漕ぐには、バランス感覚とコーディネーション能力が必要です」と説明するのは、ホームジム専門サイトProのオーナーでパーソナルトレーナーのアンドリュー・ホワイト。「このような能力が年と共に低下すると転倒やケガのリスクが高くなるので、シニア世代にはサイクリングが特に有益と言えるでしょう」

これは単なる推測にとどまらない。『Journal of Aging and Physical Activity』に掲載された2018年のプロスペクティブ研究 (前向き研究)の結果報告書によると、サイクリングを日課にしている65~85歳の高齢者は、していない人に比べてバランス感覚が良く、歩くペースが速く、下肢機能が高かった。このことからも、サイクリングはバランス感覚とコーディネーション能力、そして転倒防止に必要な下肢機能の維持に役立つことが分かる。

6.体重管理が楽になる

年を取ると、筋肉量の減少に伴って体組成が変化して、体重が増えることも少なくない。体重が増えると、そのぶん心疾患や慢性疾患、特に肥満のリスクが高くなる。でも、中強度~高強度の運動をしていれば、筋肉量が維持されるだけでなくカロリーの消費量も増加する。サイクリングも例外ではなく、体重の増加を防ぎ、他の疾患のリスク要因を最小限に抑えてくれる。

「サイクリングは、シニア世代が健康的な体重をキープして、余分な体脂肪を減らし、肥満関連の問題を防ぐのに役立ちます」とサバト。

7.社会交流の機会が増える

社会的に孤立したせいで心身の状態が悪化する高齢者は少なくない。孤立する理由としては、家族や友人が介護施設に入ったり亡くなったりして、社会の輪が徐々に小さくなることが挙げられる。足が悪くなったり運転が困難になったりで出歩くこと自体が難しくなり、家族や友人、コミュニティ全般との交流が制限されるシニアも多い。社会的なつながりは長生きに直結するので、それを失うのは実に残念。

でも、サイクリングを始めれば出歩くのが楽になり、幅広い年代の人と交流する機会が増える。「サイクリングは、シニア世代が楽しめる社会的なアクティビティです」とウェイト。「自転車で外を探検したり、グループライドや地元のサイクリングイベントに参加したりすることで、仲間意識や他者とつながっている感覚が生まれます」

サイクリングを始めようにも始め方が分からないという人には、スキルの習得とネットワーキングが一度にできるサイクリングサークルがオススメ。

8.メンタルヘルスとウェルビーイングが向上する

(特に屋外で行う)サイクリングは社会交流以外の点でもメンタルヘルスに良いと言える。「アウトドアのサイクリングで自然に触れると癒やされますし、ストレス解消になります」とホワイト。

事実、情動障害に関する学術誌『Journal of Affective Disorders』に掲載された2022年の研究結果は、外でサイクリング(またはウォーキング、ジョギング、チームスポーツ)をする人は出不精の人に比べてうつになりにくいことを示している。また、1回でも屋外で運動すると、屋内で運動したとき以上に気分が良くなるというエビデンスも存在する。

外で体を動かせる環境にいなくても、運動は総じてメンタルヘルスに良いので大丈夫。サバトいわく定期的に運動すれば、気分を高め、うつや不安の症状を和らげるエンドルフィンが分泌される。

9.認知機能が向上する

サイクリングがシニア世代に良いと言える最後の理由は認知機能の向上。「運動は認知機能に良い影響を及ぼすので、認知知機能の低下や認知症のリスクを下げる上で役立つ可能性があります」とサバト。「体を動かすと脳への血流が増え、脳の健康をサポートするホルモンの分泌が促進されるだけでなく、記憶力と注意力も高くなります」

※この記事は当初、アメリカ版『Bicycling』に掲載されました。

※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Laura Williams Bustos, M.S. Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。