スポーツは世界中の人々をつなげ、感動を与えてくれる。でも、スポーツ界では、いまだに女子選手やLGTBQI+コミュニティが平等に扱われていない。プロサッカー界の男女格差は特に明白。FIFA(国際サッカー連盟)は、男子W杯の優勝賞金を5000万ドルから35000万ドルに引き上げた一方で、女子W杯の優勝賞金を1500万ドルから3000万ドルにしか引き上げなかった。LGTBQI+コミュニティに対する世間の風当たりも強く、彼らから各種競技大会に参加する権利を奪うための運動が世界各地で行われている。

これだけでも、現代社会の幅広い価値観をスポーツに反映させることの大変さが分かるはず。でも、ランニングコミュニティは、他のスポーツのコミュニティよりひと足早く、この価値観の変化に適応している。ボストンマラソンの運営団体は今年9月、2023年大会にノンバイナリー部門を新設すると発表(ノンバイナリーとは、自身の性自認・性表現に男性・女性といった枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティのこと)。11月6日に開催されたニューヨークシティ(NYC)マラソンでも、運営団体『New York Road Runners(NYRR)』によって、これまで軽視されてきたLGBTQI+およびノンバイナリーのコミュニティ、そして障がいを持つランナーと授乳中のランナーをサポートするための数々の取り組みが行われた。オーストラリア版ウィメンズヘルスより詳しく見ていこう。

ノンバイナリーのランナーを積極的に受け入れる姿勢

2022年のNYCマラソンでは、2021年に新設されたノンバイナリー部門のランナーにも賞金が授与された。これによりNYCマラソンは、ノンバイナリーのランナーに初めて賞金を授与したワールド・マラソン・メジャーズ(世界6大マラソン大会)となる。賞金が授与されるのはトップ5に入った選手で、優勝賞金は5000ドル。ただし、現段階でプロのノンバイナリー部門はないため、登録できるのは一般のランナーだけ。

同様の取り組みを行った大会は過去にもあり、フィラデルフィア・ディスタンスランとブルックリン・フルマラソン/ハーフマラソンは数年前からノンバイナリーの勝者にも賞金を授与している。とはいえ、このような変化が世界6大マラソン大会の1つに見られたのは喜ばしいこと。NYRRによるとノンバイナリーの参加者は増え続けており、今年のレースには2021年の16名から大幅アップの60名以上が参加した。

NYRRのCEOケリン・ヘンペルは『SELF』誌に対し、「私たち運営団体は、人々に自分が受け入れられていると感じてほしい、さらには帰属意識を感じてほしいという思いで、このようなイニシアティブを展開しています」と語っている。

授乳中のランナーに対するサポート

赤ちゃんの存在がレースを諦める理由になってはならない。でも、授乳中の人にとって、サポートがないのは追いやられているのと同じ。そこでNYCマラソンは、オリンピックの中距離走者アリシア・モンタノが共同で設立した非営利団体『&Mother』とタッグを組み、授乳中のランナーに対するサポートを拡充した。モンタノは今回のNYCマラソンにも参加している。

NYRRは授乳ステーションの数を増やし、エキスポ、スタートライン、コースの途中、フィニッシュライン付近にはプライベートな授乳ステーションを設置。スタートからフィニッシュまで続く搾乳器の運搬も、これまでと同様に行われた。

これは、スポーツに参加したい人々が直面する障害を取り除く大切なイニシアティブ。ヘンペルが言うように、NYCマラソンの1日は長い。「お母さん方にはベストコンディションで参加してもらいたいので、それを阻むすべての要素を取り除きたいと思っています。また、スタート地点にもコース途中にもフィニッシュ地点にもリソースを用意することで、安心感を持ってほしい。とにかく彼女たちにとって最高のマラソン大会にしたいという想いです」

障がいを持つアスリートにも同額の賞金

今回のNYCマラソンでは、プロの車いす部門で新記録を樹立した選手にも、一般のプロの部で新記録を樹立した選手と同じ50000ドルの報奨金が授与された。これは、パラアスリートが長きにわたり直面している報奨金格差をなくすための大事な一歩。米国オリンピック委員会(USOC)も、パラリンピック選手の報奨金をオリンピック選手と同額に引き上げている。

ランナーにとっては、難易度の高い歴史ある大会に出場したというだけでも大きな自信になるけれど、さまざまな年齢、ジェンダー、身体能力のランナーが平等に支えられる中で走るというのは、また格別だったに違いない。

※この記事は、オーストラリア版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Jessica Campbell Translation: Ai Igamoto