私たちは糖質か脂質を燃料にして走るけれど、リカバリーの燃料を意識したことはある?

パフォーマンスにおける糖質の重要性はともかく、リカバリーやファット・アダプテーション(脂質をエネルギーとして使いやすくする体づくり)における糖質の重要性を分かっていない人は意外と多い。でも、これだけは覚えておいて。しっかり回復していない体をトレーニングに適応させることはできない。つまり、トレーニングの後になにをするかで、そのトレーニング全体の効果が変わるということ。

なぜリカバリーにも糖質が必要なのか?

糖質は、ランニングの最中とランニング後の2つのステージで重要になる。

まず1つ目のステージ、つまりランニング中の筋肉は、脂質か糖質の代謝過程で作られるATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーの分子で動く。燃料になる脂質と糖質の割合は、ランニングの強度で決まる。全力で短距離を走る場合は主に糖質、のんびりと長距離を走る場合は主に脂質が燃料になると思っていい。

そして2つ目のステージ、つまり長距離を一生懸命走ったあとは、体内の糖質タンクがほぼ底をつく。そこでタンクを補給しないと、トレーニングへの適応能力が低下して、ちょっと走っただけでオーバートレーニングになってしまう。

糖質はアスリートを極度の疲労から守ってくれる

female runner exhausted after a race
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サイクリストを対象とした実験において、糖質が多め(体重1kgあたり1日8.5g=体重が80kgの人で680g)の食事をした人は、あえてオーバートレーニングを引き起こすように設計されたプログラムでも、疲労の影響を受けることが少なかった。それに対して、糖質が少なめ(体重1kgあたり1日5.4g=体重80kgの人で430g)の食事をしていた人はパフォーマンスが急速に低下した。糖質が多めの食事をしていた人はタイムトライアルでも疲労の影響を受けにくかった。

低糖質の食生活では気分や心の状態が不安定になることも他の研究で明らかになっている。つまり、栄養に気を配り、枯渇した糖質タンクを補給すれば、普段のトレーニングがより一層効果的になるということ。

糖質は筋損傷を防いでくれる

あまり知られていないけれど、ランニング中に糖質を摂取すればランニング後のリカバリーが加速する。筋損傷は、オーバートレーニングを防ぐうえで重要なバロメーター。トレーニングをしすぎると、筋肉がずっと軽度のダメージを受けた状態になるため、安静にしていても筋肉がズキズキ痛む。これまでの研究により、運動中の糖質の摂取量を増やすと筋損傷が軽減することが分かっている。よって、糖質には筋肉を守る作用があると言っても過言じゃない。

糖質は生理的なストレスを減らしてくれる

portrait of grimacing woman outdoors
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糖質を切らさないようにしていれば、オーバートレーニングにもなりにくい。糖質は副交感神経系にかかるストレスを軽減するので、筋肉へのエネルギー供給を担うホルモン系が少し休まる。つまり、糖質の摂取量が多ければ、いつもよりハードなランニングや長距離のランニングでも生理的なストレスが減り、リカバリーも早くなるということ。


糖質は、どのくらい摂取するべき?

サイクリストは自転車で大量のドリンクを運べるので、1時間あたり40~60gの糖質を摂取するのも比較的簡単。でも、ランナーが大量の糖質を持ち運ぶのは現実的に考えて難しい。しかも、最近は運動中に摂取する糖質の量をさらに増やす傾向が強まっていて、トライアスリートやサイクリストの中には1時間あたり90~100gの糖質摂取を目指す人もいる。

一流のマラソンランナーも同じ傾向にある様子。キプチョゲの2時間切りチャレンジ(1回目は失敗で2回目は成功)を支えたチームも地道に実験したようで、彼が2時間切りに成功したのは、たぶん炭水化物酸化量を増やしたからだと言っている(でも実際は、どちらかというとシューズのおかげという説もある)。

でも、これは大量の燃料をもとに高い強度で2時間以上走り続ける世界的なアスリートの話であって、一般のランナーにそれほど多くの燃料は必要はない。私たちの運動強度は脂質からのエネルギーで十分まかなえるほど低く、糖質は1時間あたり40~60gもあれば十分。そのくらいなら、液体やジェルの形で簡単に摂取できる。

ただし、マラソンの自己ベスト更新を目指しているなら、1時間あたり90gの糖質摂取にトライしてみる価値はある。レース終盤では、そのくらいのペースでエネルギーを補給する必要が出るかもしれない。

つまり、インターバルトレーニングのような長時間かつハードな運動をするときは、糖質が速いペースで燃える分エネルギー補給を優先的に行う必要があり、ランニングの最中に糖質を摂取すれば、リカバリーが加速するということ。さほど難しくないシンプルな習慣だし、実践すればよりハードなトレーニングが可能になるだけでなくリカバリーも早くなるので、トレーニング全体の効果が高くなる。

ランニング中の燃料補給にオススメなのは?

スポーツドリンク

energy drinks
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市販のスポーツドリンクの大半は糖質の含有量が100mlあたり7~9g。仮に100mlあたり8gのドリンクで1時間あたり60gの目標を達成するには、1時間ごとに750ml飲む必要がある。

でも、1時間あたり90gの糖質摂取で筋肉に送られるエネルギー量を最大化したいなら、1時間ごとに1.2リットル近く飲まねばならない。それで糖質の含有量がさらに高いドリンクを飲もうとすると、今度は胃に問題が生じかねない。その意味でも、グルコースとフルクトースの両方を含むドリンクは、どちらか片方しか含まないドリンクよりも安全と言われている。

実際のところ一般のランナーには1時間あたり60gの糖質摂取が適当で、マラソンでも40gあれば恐らく十分。この場合は、手元のスポーツドリンクを1時間につき600ml飲むだけでいい。なお、粉末のスポーツドリンクにもほぼ同量の糖質が含まれている。

エナジージェル

エナジージェルは種類によって糖質含有量の振れ幅が大きい。でも、ほとんどのジェルには18~15gの糖質が含まれているので、1時間に2~3本飲む計算になる。ただし、ジェルは糖質濃度が非常に高く、水で薄めて飲まないと胃の調子が悪くなるので要注意(ジェル1本につき200~300mlの水でOK)。

この方法なら1時間あたり60gの糖質と600~800mlの水が同時に摂取できるけれど、速いペースで走る場合は、もっと飲む必要があるかもしれない。いずれにせよ、トレーニングの負荷と同様、糖質の摂取量も本番に向けて少しずつ増やしていくようにして。
 
※この記事は、イギリス版『Runners World』から翻訳されました。

Text: Ross Tucker Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。