ニューヨークやホノルル、国内のマラソンなど、大会に出場したいと考えている人にとって、栄養はレース当日も、その前日までのトレーニングでも、パフォーマンスを左右する重大な要因のひとつ。すでにフルマラソンで42.195キロメートル(26.2マイル)を走った経験がある人は、きっと栄養についてもある程度の知識があるはず。
だが、栄養をとるための“最適”な方法について、ここ数年で何か変化したことはないのだろうか? ランニングの前には何をどのように食べるべきかについて、最近ではどのように言われているのだろう──? これらの点について、栄養学の専門家3人に話を聞いた。以下、その内容をお届けする。
今回話を聞いた専門家は次のとおり:
- ブライアン・サンピエール:栄養に関するコーチングを専門とするプレシジョン・ニュートリション(Precision Nutrition)社のスポーツ栄養ディレクター、管理栄養士(RD)、認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)
- モリー・キンボル:医師、非営利団体オシュナー・イート・フィット(Ochsner Eat Fit)創設者でディレクター、ポッドキャスト番組『FUELED Wellness + Nutrition』のホスト、RD、スポーツ栄養スペシャリスト(CSSD)
- キャスリーン・ガルシア・ベンソン:全米スポーツ医学協会(NASM)認定パーソナルトレーナー、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性たちをサポートする活動なども行う、RD、CSSD
最も重要な栄養素は?
サンピエール氏によれば、1日1時間までのランニング(または一般的な運動)をする人は、いわゆる“健康的”な食事で十分な栄養がとれているはずだという。また、週に約5~8キロメートルのランニングをしている人、10キロメートル・マラソンのトレーニングをしている人にも、特別な栄養管理は必要ないとのこと。
ただ、食事は「最低限の加工をしただけの食品」を中心にすることを心がけるのがいいという。
「低脂肪のタンパク質、野菜、フルーツ、全粒穀物や豆類、ジャガイモ、サツマイモなどの質の高い炭水化物をしっかりとること。ナッツ類・種子類やアボカドなど、健康的な脂質をとるようにすることです」
また、食べるものに気を付ける“分岐点”となる距離は、およそ21キロメートルだという。サンピエール氏は、「ハーフマラソンのトレーニングをするようになると、1日に必要な炭水化物の量は、体重0.45キログラムあたり約2~3グラムに増加します」と述べている。
小柄な人は同2グラム、大柄な人は同3グラムにするのがいいそう。そして、フルマラソンのトレーニングをしている人に推奨される量は、同2.5〜4.5グラムになるという。
これらを運動する時間に置き換えて考えた場合、推奨される1日あたりの炭水化物の摂取量は、週の運動量が5~10時間の人はハーフマラソンのトレーニングをしている人と同じ量(体重約68キログラムなら、1日300~450グラム)、5時間以下の人は、体重0.45キログラムあたり約1.5~2グラムとなる。
さらにサンピエール氏は、タンパク質について次のように説明している。
「タンパク質もまた、適切なリカバリーに重要なものです。通常は1日に、体重0.45キログラムあたり約0.75グラムが必要です。マラソンのトレーニングでかなり長距離を走ったという日には、同1グラムまで増やすのがいいでしょう」
つまり、体重およそ68キログラムの人の摂取量の目安は、普段は1日あたり約112グラムまで、長距離を走った日は約150グラムまでとなる。
脂質については、「ナッツ・種子類やアボカド、魚油などの健康的な脂質を十分に摂取することが重要。ただ、持久力を高めるために脂質を大量に摂取する必要はありません」とサンピエール氏。
おすすめの食べ方は、オートミールに刻んだクルミを加えたり、サラダにかけるドレッシングで摂取すること。また、ライスとチキンの食事に、スライスしたアボカド4分の1個を合わせるなどもいい。
走る前は絶食すべき?
3人の専門家たちはいずれも、30分以下のランニングであれば、何も食べていなくても問題はないとの意見。例えば、毎朝起きてすぐにトレーニングをするという人は、カフェインを摂取する程度でほかに何もとらずに走ってOK。
ただ、長距離を走るのであれば、先にお腹に何か入れておいた方がいいかもしれない。目標とする運動量(ランニングの継続時間)に応じて、専門家たちが推奨するエネルギーの摂取方法は、以下のとおり:
走る時間別おすすめの食事
1)30分以下
走るのが短距離の場合、特にトレーニング前の栄養補給を気にする必要はない。ただ、水分は十分にとっておくこと。もし何か軽く食べる必要がある(または食べたい)場合は、アップルソースやドライアプリコット、ひとつかみ程度のミニプレッツェルなどをとるのがいいそう。そのほか、チーズ(一切れ)やナッツバター(スプーン数杯)なども◎。
水分補給について:ランニングの前には、体重およそ4.5キログラムあたり、約30ミリリットル(約68キログラムの人なら、約444ミリリットル)の水分をとっておくのがいいという。ただ、極端に気温や湿度が高い場合や、高地にいる場合などは、より多くの水分摂取が必要。
2)1時間以下
ベンソン氏は、「ランニングを始める30分ほど前に、消化の良い炭水化物をとっておくのがいいでしょう」と述べている。それは、タンパク質の消化には時間がかかるほか、特にランニングの前にとることに対してあまり耐容性がなかったり、体質的に合わない人もいるため。「2時間未満のランニングに、タンパク質の摂取は必要ありません」とのこと。
ただ、少し満足感が得られるスナックが欲しいというときには、例えばフルーツを添えたギリシャヨーグルトや、ハチミツやジャム、少量のピーナッツバターを塗ったパンなど、30グラム程度の炭水化物と一緒に、7~10グラムのタンパク質をとってもいいという。
カフェインについて:もちろん、カフェインについて触れないわけにはいかない。持久力を高め、疲労を感じるタイミングを遅らせるため、カフェインをとる人は多い。長距離のランニングを始めるおよそ60分前に、わずか一杯のコーヒーを飲むだけでも、十分な効果があるとされている。
3)1~2時間
サンピエール氏は、タンパク質を約10グラムにとどめること(走る距離が長くなるほど、これは重要なポイントになるそう)、炭水化物を45グラムまで増やすことを推奨している。例えば、オーツ麦2分の1カップにバナナ1本、ゆで卵1個、をとるといい。
また、ベンソン氏によると、グラノーラバーとヨーグルト、ピーナッツバターとジャムのサンドイッチなどもおすすめとのこと。キンボル氏は、「電解質を含むカリウムやカルシウム、ナトリウムを摂取することができるターキーとチーズのラップサンドやサンドイッチを好む人も多いようです」と述べている。
サンピエール氏は、走る時間が90分を超えるとき(特に暑いとき)には、途中でスポーツドリンクを飲むことも推奨している。60分のランニング中にボトル1本(約590ミリリットル)のスポーツドリンクなどを飲めば、炭水化物をおよそ30グラム摂取することができる。
4)2時間以上
2時間を超えるランニングをするのであれば、タンパク質は15〜20グラム、炭水化物は60〜90グラムまで、摂取量を増やしてもいいという。例えばボウル1杯のオートミールに、ベリーと1スクープのプロテインパウダーを入れたものや、ピーナッツバターとジャムのサンドイッチなどをとるといいそう。
忘れてはいけないのは、これだけ長時間のランニングでは、走っている途中のエネルギー補給も非常に重要だということ。2時間を超えるランニングの場合、スポーツドリンクやエナジーゼリーなどから、1時間に30~45グラムの炭水化物をとる必要があるという。
ナトリウムについて:90分未満のランニングの場合は、水分が適切にとれていれば、それで十分だという。ただ、90分以上走るというときには、1時間に300~420ミリグラムのナトリウムを摂取することが目安となる。気温や湿度が極端に高い場合は、より多くの摂取が必要になる場合も。
必要な炭水化物とナトリウムを摂取するには、スポーツドリンク約590ミリリットルと、エナジーゼリー2分の1~1杯をとるといいそう。
大会1週間~前日までの食事
大会当日のスタート時刻の48~72時間前、さらにはその1週間前から食べるものは、レース中のパフォーマンスに影響を与える可能性が高い。ベンソン氏は、「体内の炭水化物の量は、たった1日で変わるものではありません」と指摘している。
そのため、筋肉のグリコーゲン貯蔵量を最大に引き上げるための戦略的なアプローチを、大会の数日前から取る必要があるという。摂取カロリーに占める炭水化物の割合を大きくすれば、レース中に筋肉が必要とするエネルギーを蓄えておくことができるようになる。さらに、重要なのはその量と質。全粒穀物やフルーツ、豆類などの「質の高い炭水化物を選んで」摂取するといいそう。
もし、体重68キログラムの人がハーフマラソンに出場する場合、2~3日前から、1日の炭水化物の摂取量を最大およそ272~340グラム(体重1キログラムあたり4~5グラム)に、レース前日には同544〜816グラム程度(同8〜12グラム)に増やすのがいいとされている。
また、フルマラソンに出場する場合は、2~3日前から最大で体重1キログラムあたり5~7グラム(体重およそ68キロなら約340~476グラム)、大会前日には同8~12グラムに増やすことが勧められている。
興味深い事実:アスリートのトレーニングに関する最近のトレンドは、「練習中は低く、大会時は高く」。つまり、トレーニング時はグリコーゲンの貯蔵量が少ない(炭水化物の摂取量を減らした)状態を保ち、競技には炭水化物を多めに摂取した状態で臨むということ。
ただ、そうすることでパフォーマンスが向上するというこの見解には、いまだ疑問視する声もあり、一般的に推奨されることとはされていない。
マラソン大会当日
トレーニングで2時間以上のランニングをしていれば、大会当日に特別なことをする必要はないという。大切なのは、「(当日に)新しいことに挑戦しない」ということ。
トレーニングで長距離を走っている間の毎日の食事は、多めの炭水化物、適度なタンパク質、少なめの食物繊維と脂質にすることが推奨されている。具体的な食材は、ここまでに紹介しているもの。
またキンボル氏は、全粒粉のワッフルやベーグル、サツマイモ、全粒粉またはひよこ豆のパスタなど、いわゆる“ランチ”のメニューにありそうなものもおすすめとしている。
そのほかランニング中の栄養補給について、サンピエール氏は、約237~473ミリリットルの電解質を含む水分をとるほか、1時間あたり最大45~60グラムの炭水化物を摂取する必要があるとしている。
走る直前に「避けるべき」食品は?
脂質が多いものや揚げ物など、明らかに避けるべきもの以外にも、どちらかといえば避けた方がいいものもある。
ベンソン氏によれば、食物繊維が多い食品は、胃の不快感につながる可能性があるとのこと。食べるのであれば、走った後にした方がいいという。また、キンボル氏は市販のグラノーラバーの多くに含まれる希少糖(糖アルコール)について、「ガスがたまったり、下痢の原因になったりする」と注意を促している。
そのほかニンニクやタマネギなど、走っている間もずっと口の中に味が残ってしまう可能性がある食品も、避けた方がいいと考えられる。
※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。
From Women’s Health US
翻訳者。学業・仕事のため、5カ国の7都市でおよそ10年を過ごす。帰国後は経済・ビジネス関連の文書やニュース記事の翻訳を中心に、ウェルネス系の専門誌やアート関連の書籍、映像翻訳も手掛けるなど、長年にわたってフリーランスで活動。常に新たな情報に触れる仕事柄、心がけているのは、「浅くても、 何でも広く知ろうとすること」。