日本女子体操界の新星、畠田瞳・千愛(ちあき)選手。世界で戦える実力に愛らしいルックス、さらには東京五輪が2021年に延期になったことで“体操競技初の姉妹での五輪出場”という期待もかかっている、目下注目の存在だ。

父はバルセロナオリンピック・団体総合で銅メダルを獲得した畠田好章氏、母も元・体操選手(現在は姉妹のコーチ)という体操一家に生まれた二人。しかし姉妹が本格的に体操を始めたのは姉の瞳さんが小学3年、妹の千愛さんが小学1年と、他の選手と比べてもかなり遅い。二人が体操の世界に足を踏み入れたきっかけとは?

注目の体操姉妹、畠田瞳・千愛のしなやか過ぎる体をチェック!
畠田瞳

瞳:「小さい頃から父の仕事場である練習場で遊んでいたので体操は身近だったけれど、両親はやりたければやればいいよ、というくらいで、強制とかはなかったんです。ただ競技としてやるなら遅くても小3までには始めないと間に合わないからね、とは言われていましたけど。きっかけは、小2の終わりに道徳の授業で読んだ藤子・F・不二雄さんの物語。勉強やスポーツはできなくても大好きな漫画なら誰にも負けない、そんな姿に感動して、私も身近にある体操で頑張ってみようと思ったんです」

千愛:「私の場合は、とくにいつからというのはなくて。物心ついた頃には姉も競技を始めていたし、体育館が遊び場という環境の中で気がつけばやってた、って感じですね」

試合があるから、結果が出せたから続けてこれた

畠田姉妹

以来、体操中心の生活を送る二人。1日5〜6時間の練習を週6日でこなし、週に1度の休みも学業に充ててしまうというから、完全なオフはないに等しい。さらに生活面では厳しい体重管理も課せられている。

千愛:「私の場合、本当は体重を減らせば減らすほど動きやすいけど、あまり減らすと筋肉も落ちてしまうので、これが上限という体重を決めて、それ以上は増えないようにしています。食べちゃいけないものとかは特にないけど、休みの日とかでちょっと食べすぎた時は走ったり半身浴したりして、翌日の練習までには何とか戻すんです。上限から500g超えるだけでも体が重く感じて、練習にも影響が出るので」

まさに体操漬けの日々。その中で二人は、どのようにモチベーションを維持しているのだろう。

千愛:「練習練習で気が詰まった時は、体重を気にしつつも帰りにスタバへ寄ったりスイーツを食べたりして気分転換します。もともと私は練習がそんなに好きじゃないので(笑)、試合があるからひたすらそれに向けてやってる感じですね。ただそれも、今は結果が出せてるから続けられてる。これだけ練習しても結果がついてこなかったらその時点でやめてたかもな、とは思います」

瞳:「それで言うと、私は今回のコロナで初めて、体操をやめるという選択肢が浮かびました。試合がなくなったら、一体何のために練習してるのか分からなくなっちゃったんですよね。そしていざ試合を前にしたら、それはそれで思うように体が動かない。こんな中途半端になってしまうなら、いっそやめた方がいいのかなって」

体操は「来年また頑張ろう」が通用しない競技

畠田姉妹

今回のコロナ禍がアスリートたちに及ぼした影響の大きさは言うまでもないが、とはいえ瞳さんは現在20歳。その若さで引退すら頭をよぎったその要因には、体操という競技の選手生命の短さもあるだろう。選手としてのピークも男子で大学生、女子では高校生頃とかなり早く、ハードな練習で幼少時から身体を酷使している分、それ以降はどうしても怪我が多くなるという。

千愛:「そういう意味では、早めに結果を残しておきたいという気持ちはあります。いくら来年は頑張ろうと思っても、今年と同じように頑張れるか分からないから」

瞳:「やっぱり年齢が若い時の方が回復も早いですし、年々しんどくなっていると私自身も感じています。今日は動けているな、という日でも、3年前と比べたら昔の方が動けていますから。だからこそ、一年一年の結果がすごく大事。どんな試合でも一つひとつ丁寧にこなしていくしかないですね」

自信をつけるには練習しかない

畠田姉妹

一時は全く先の見えなかった競技会開催も徐々にペースを取り戻しつつあり、9月に行われた「第53回全日本シニア・マスターズ体操競技選手権大会」には姉妹揃って出場。瞳さんは個人総合で3位、千愛さんも先輩らを抑え、得意の床で個人3位という好成績を収めた。また千愛さんにとってはこの大会がシニアデビューとなったが、今のところあまり実感はないという。いっそう厳しい戦いの場へ身を置いたことを思い知るのは、有名選手が出揃う海外戦となりそうだ。

千愛:「海外選手との差は常に感じますね。バネも筋力もそもそもの強さが違うというか、アメリカの選手なんて、同じ人間とは思えないくらい(笑)。だから真似したところで無理っていう部分も正直あるけど、それでも強い選手の演技はいろいろ参考になります。ロシアは演技の美しさ。中国は同じアジアということもあって、筋力はないけどそのぶん技術で補うところは日本と似ています」

瞳:「個人的に注目しているのはフランスのメアリー・ドスサントス選手。最近力をつけてきている選手で、脚力があって、背はそれほど大きくないのに技にダイナミックさがあるんです。すでに現役は引退しているけど、ロシアのアリーヤ・ムスタフィナ選手は演技のリズムが私と似ているので、演技中に平行棒が軋む時の音だけを拾って、技の練習に使わせてもらったこともあります」

世界の一流選手との力の差を感じつつ、それでも試合で全力を出し切るためのメンタルはどのように養っていくのだろう? 聞けば、二人とも特別なトレーニングなどは一切していないという。

瞳:「とにかく練習を重ねることで技の完成度を上げて、それを自信にしていく感じですね。演技の直前は、自分の演技が成功する様子をひたすらイメージしています。逆に言うと、技が完成していない時は成功する様子をイメージしようとしてもまったくできないし、そういう時はだいたい失敗する(笑)。それでもやらなきゃいけないので、そういう時は怖さもありますよ。なので国際大会などの重要な試合では、できるだけ100%の完成度に近づけて挑むようにしています」

上に追いつくための時間ができた

久々の試合の感想を聞くと「試合と試合の間隔がこんなに開いたことがなかったので、全然余裕がなかった(瞳)」「試合には試合のための体力が必要だと痛感した(千愛)」と、二人とも試合の勘を取り戻すのに苦戦した様子。しかしコロナ禍による空白も、すでに二人はポジティブに捉えている。

千愛:「上の選手に追いつくための時間ができました。ここでどこまで近づけるか、私にとってはまたとないチャンスだと思っています」

瞳:「長期間じっくりやらないととできない技とか、そういうことに取り組む時間ができたのかなと。1年あくことってなかなかないので、無駄にしないようにしたいですね」

多くのアスリートたちの運命を変えてしまったコロナ禍は、畠田姉妹には期せずして“姉妹でのオリンピック同時出場”というチャンスをもたらした。いくつもの奇跡が重なる、そんな星のもとに生まれた二人は、これからどんな演技で私たちを魅了してくれるのだろう。その活躍を、どうか見逃さないでほしい。

畠田姉妹

畠田 瞳
2000年9月1日生まれ、東京都出身。セントラルスポーツ所属。2019年5月NHK杯体操選手権兼世界選手権代表選考会において個人総合3位。2019年ユニバーシアード(イタリア)個人団体総合を含む4つの金メダル獲得。日本体育大学荏原高等学校卒業。早稲田大学スポーツ科学部在学中。

畠田 千愛
2004年7月14日生まれ、東京都出身。セントラルスポーツ所属。2017年12歳以下全国大会 全種目1位。2018年カナダ女子体操International Gymnixジュニアカップ 総合8位。2019年NHK杯体操選手権兼世界選手権代表選考会において個人総合3位。

衣装クレジット:レオタード(シトロングレー / ブラック)各¥13,000 ブラトップ(瞳さん)¥4,800 ブラトップ(千愛さん)¥3,800 ヘアバンド各¥2,500 ストラップソックス(グレー / ブラック)各¥2,000/ダンスキン(ゴールドウイン カスタマーサービスセンター0120-307-560
photo: Kazuki Takano hair&Make: Masayoshi Okudaira text: Megumi Yamazaki

Headshot of Chie Arakawa
Chie Arakawa
ウィメンズヘルス・シニアエディター

タレント・アスリートインタビュー・スポーツファッション・ウェルネス記事などを担当。女性誌FRaUでファッション・スポーツ・ダイエットなどの編集キャリアを積み、その後スポーツライフスタイルマガジンonyourmarkのプロデューサーとして在籍後、2022年までウィメンズヘルス編集部に在籍。