クライミングという競技は、その頂点を目指すために、登る前にルートを考えるオブザベーションと呼ばれるその時間は、マインドフルネスそのもの。メダル候補として期待される世界のクライマー、野口啓代さんは、今この状況にどんな意味を感じているのだろうか?

練習した分だけ、体と心は強くなる。
そこに年齢は関係ない

「東京2020オリンピック」が2021年へ。今年の3月下旬、その延期が決定したとき、野口啓代さんは実家で過ごしていた。家には父親が手作りした本格的なボルダリング壁がある。そこは小学生の頃から今まで、鍛錬してきた彼女の原点ともいえる場所だ。

「去年の8月の世界選手権でオリンピック内定が決まると、オリンピック関連やメディア取材などの仕事も急増していったんです。オフの日は、ほぼそういった仕事が入っていたので、とにかくめまぐるしい毎日でした。でも、この1カ月は一転。実家に引きこもり、トレーニングばかりしています。登る以外、毎日やることがない(笑)。小さい頃を思い出しますね。昔もここに引きこもって、ずっとクライミングしていました。ここで一人、自分と向き合い続けてきた。今は、世界中が直面しているこの状況を、一日でも早く乗り越え、安心してオリンピックが東京で開催されることを願っています」

野口さんは、「東京2020オリンピック」を最後に、競技生活を終えようと決めていた。史上初の延期の決定を、どんなふうに捉えているのか?

競技人生が1年増えた。これは神様からの贈り物

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「1年延びたということは、クライミングをする時間がその分増えたということ。私はその1年間分さらに強くならなければならないし、必ず強くなるって確信しています。そのためにまだまだ、やることはたくさんある」

現在、五輪内定者は来年に延期された「東京2020オリンピック」の出場権利維持が決定している。彼女はこれからも登り続ける。来年の夏、さらに強くなった姿が楽しみでならない。

野口啓代
1989年生まれ。茨城県出身。W杯で4度の総合優勝に輝くなど、ボルダリングとリード、コンバインドで世界5指に入る実力の持ち主。2019年世界選手権では銀メダルを獲得。「東京2020オリンピック」スポーツクライミングの日本代表に内定。

Photo: Kazuki Takano Hair&Make: Masayoshi Okudaira

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Chie Arakawa
ウィメンズヘルス・シニアエディター

タレント・アスリートインタビュー・スポーツファッション・ウェルネス記事などを担当。女性誌FRaUでファッション・スポーツ・ダイエットなどの編集キャリアを積み、その後スポーツライフスタイルマガジンonyourmarkのプロデューサーとして在籍後、2022年までウィメンズヘルス編集部に在籍。