2018年、2019年と連続して世界柔道選手権で金メダルを獲得。女子52キロ級の「東京オリンピック2020」の日本代表にも内定している阿部 詩選手。圧倒的な強さと、キュートなルックスで世界中から注目を集める彼女はなぜ柔道の世界へと足を踏み入れたのか。

阿部詩 柔道 オリンピック

「最初は柔道という競技に興味はなかったんです。兄が柔道を習っていたので、道場について行って、私もまわりの人と仲良くワイワイしたい! そんな軽い気持ちで始めました」

そんな彼女の性格は「小さいころから負けず嫌いでけんかっ早くて気持ちが強かった」。ピアノなどの習い事よりも、人と戦って勝つ柔道が楽しかった。

いつしか全国で1位、2位を争うようになり、試合の舞台もどんどん大きいものになっていった。そんな中でも、柔道をやめたいと思ったことは一度もないという。

「大きい試合で勝ちたいと思うようになったら、練習はしんどくなるし、プレッシャーも大きくなっていきました。でも、勝ったときの達成感や、まわりが喜んでくれて、応援してくれる人が増えていったとき、やりがいを感じるんです。だからやめたいとは思ったことは一度もありません」

彼女が試合で一本勝ちにこだわるのも、目立つことが好きだという彼女の性格がゆえ。

「大きい試合で一本できれいに投げたときのまわりの人の歓声は、すごいなと思うし、それが快感です」

柔道家として先輩でもある兄とは柔道の話はしない

阿部 詩さんを語るときに、必ず挙がるのが兄である阿部一二三選手の名前だ。男子66kg級で兄妹そろってのオリンピック出場・メダル獲得を目指す兄は、妹にとってどんな存在だったのか。

「兄とは、子供のころから柔道の話はしません。中高時代は私が家から離れた学校に通っていたので、兄とは家でも一緒になる時間が少なかったですし、兄は先に大学に行って離れたので、試合会場で久々に兄が勝つ姿を見てすごいなと思ったり、兄の姿から学んだりしていました」

現在、日本体育大学に通う詩さんの普段のトレーニングは、ストイックそのもの。午前中は2時間半の柔道の稽古。午後は1時間から1時間半のトレーニング。午後はサーキットトレーニングやランニングがメインで、終わると疲れ果ててしまい何もできないほどだという。オフは日曜日だけ。でも、出かけると翌日がきつくなるので、昼過ぎまで寝て、映画を観たりYouTubeを観たりと練習を中心に生活を組み立てている。

「試合が終わったときや合宿が終わったときには買い物に出かけたりもしますが、試合が終わるまでは我慢しますね。試合が終わるたびに旅行をするなどしてリフレッシュして切り替えるようにしています」

阿部詩 柔道 オリンピック


人生の目標を達成したときの自分が楽しみで仕方がない

詩さんの視線の先にあるのは、東京オリンピックの金メダルだけだ。

「オリンピックはどこの国の人も人生を賭けて挑んでくるので、今はそこで勝つことしか考えられません。人生の目標を達成したとき、どんな喜びが待っているのか、勝ったときの自分が楽しみです。東京2020は延期になったけれど、リセットして、これからどうもっていくかを考えていきたいと思っています」

実はオリンピックの代表内定に至るまでには、代表内定がかかった試合で負けるという経験もした。

「負けた試合のときには、オリンピック内定を意識しすぎていた気がします。試合中でも、どこか気持ちが萎縮してしまい、思い切っていけないところがあった。その後の『グランドスラムデュッセルドルフ大会』のときは、内定を意識せずに勝負のことだけに集中できたから、勝てたんだと思います。いつもどおりにできれば絶対に勝てる。なので、そこまでの準備がすべてです」

阿部詩 柔道 オリンピック

試合に欠かせないのはバナナの靴下!

遠征で世界中を旅することの多い詩さんは、枕が変わっても眠れるし、化粧品なども現地調達が基本。勝負飯もなく、こだわりは少ない方だというが、試合のときに絶対に持っていくという3種の神器がある。

「どんな試合の日でも、必ず履いているのが、バナナの柄の靴下。そしてタオルと飲みものを入れるボトルは同じものを使っています。その靴下は一足しかないですが、それを履いていると落ち着くので、必ず履くようにしています」

19歳といえば、おしゃれも楽しくて仕方がない年ごろ。ファッションはメイクはどう楽しんでいるのだろうか。

「休みの日には、柔道関係の友人とメイクをして出かけたりもします。洋服は、もともとは派手な柄とか色が大好きなのですが、母や兄から止められて、最近はもっぱら黒などを選ぶことが多くなってきました。実際、アドバイス通りに黒を選ぶと合わせやすいし、大人っぽく見える気がして」

柔道一色の生活の中でも、世の女子と同じく恋愛ドラマに胸キュンしているというかわいらしい一面もある。、

「最近だと『恋つづ』は最高でした! すごく恋愛! という感じなので、キュンキュンしながら観ました。佐藤健さんがカッコよすぎますよね。実は映画を観るのは苦手で、途中で飽きちゃうんです。Netflixなどで観ると早送りできるから、先が気になって先に結末を観てしまうタイプ。最初と終わりを観られれば満足できちゃうんです。ストーリーはプロセスが大切という人もいるけど、私はプロセスがいらないタイプですね(笑)」

今回の撮影とインタビューを通して、ゆるぎない芯のある強さと共に、かわいらしい19歳の女の子としての顔ものぞかせてくれた詩さん。2021年、オリンピックという大舞台で夢を叶えた瞬間、彼女の眼には何が映っているのか。ウィメンズヘルスはこれからも彼女を見守り、応援していきたい。

阿部 詩
2000年生まれ。兵庫県出身。2018年から2年連続で世界柔道選手権優勝。現在は日本体育大学に在学中。「東京2020オリンピック」女子52kg級代表に内定している。兄は66㎏級の阿部一二三。

※本インタビューは2020年5月に発行したエル・ジャポン別冊付録の「ウィメンズヘルス」およびWEBに掲載したものです。インタビュー内容は2020年時点の内容になります。

Photo: Teruo Horikoshi(tron management)Makeup: Masayoshi Okudaira

※価格はすべて税抜きです。

Headshot of Chie Arakawa
Chie Arakawa
ウィメンズヘルス・シニアエディター

タレント・アスリートインタビュー・スポーツファッション・ウェルネス記事などを担当。女性誌FRaUでファッション・スポーツ・ダイエットなどの編集キャリアを積み、その後スポーツライフスタイルマガジンonyourmarkのプロデューサーとして在籍後、2022年までウィメンズヘルス編集部に在籍。