ビールにワイン、日本酒、焼酎、テキーラ。お好きなカクテルやグラスのシャンパンはいかがですか? 言葉を並べるだけでも華やかなイメージを醸し出すお酒たち。「お酒は何が好きですか?」と聞かれることはあっても、「どのお酒が体に合いますか?」とは、アレルギーなどの特殊な体質を持っていない限り、あまり考えたことがないのではないでしょうか。

ヨガを始めて一年ぐらい経った頃。私は、ひょんなことをきっかけにお酒という一見不健康なものまで、ヘルシーな見方でとらえるようになりました。すると、不眠や鬱が当たり前になっていた私の心と体は、みるみる健康を取り戻し始めたのです。

それは当時の私にとってミラクルで、毎朝のヨガを継続する大きなモチベーションとなっていました。一切道具を使わない、呼吸と動作を一致させるだけのシンプルな練習方法の有効さに魅了され、私はそのうち「ならば逆にどこまで健康になれるのか?」と、考え始めるようになりました。

私にとってヨガと呼吸法と瞑想=ボディ、気の巡り、メンタルのトレーニングは三位一体で、理論上区別することはあっても、実践的には境目のないものとして体感していました。そうして、元々は鬱で引きこもりの人だったとは思えないほどのパッションと勢いで、ライフスタイル全体の改善に取り組むようになったのです。

すると、向き合わざるをえなかったのが「食生活の見直し」でした。もともと決して体が柔らかかったわけではない私は、前屈系のヨガポーズを取ろうとすると腹部につっかかるような不快感を感じていました。それをきっかけに「食生活を変えてみようかな」と思ったのです。

当時私のヨガの先生がベジタリアンだったことはなんとなく知っていましたが、食生活について詳しく調べてみると、ベジタリアンにも玄米菜食、マクロビオティック、ローフードなど色々あります。マクロビの本を手に取ると全てのものに火を通すようにと書いてあるし、ローフードの本には48℃で酵素が死んでしまうから加熱調理はNG、と書いてある。正解を求めて頭でアプローチしていたら誰だって混乱してしまうでしょう。そんな時、大学生だった私が考えたのは「この本のメソッドはきっとこの著者に合っていた食べ方で、こっちの方法はこの本の著者に合っていたということ。ならば私の体に合う食べ方は一体どんなものだろう?」という、自分自身に向けたクエスチョンでした。

こればかりは自分の体で試してみるしかないと、その日からすべての本を置いて私が手に取ったのはペンとノート。口に入れるものは「入れる前に」一つ残らず全て書き記すことをルールに食日記をつけ始めました。どこへ行っても書きやすいようにポケットに入るサイズのミニノートにして、肌身離さずペンを持ち歩きました。緑茶一杯からガム一枚まで、必ず口に入れる「前に」書くことを自分に約束しました。私はこの食日記を、実に一年半、満足するまで継続しました。

「書くこと」は、びっくりするほど自覚を促し、書くことが面倒くさすぎて真っ先に飴やガムを卒業した他、無意識にモノを頬張ることがなくなりました。そこから、興味本位でとにかく自分の体質に合う食べ方が知りたくて私がとった方法は、まず動物性のものを一切食べないヴィーガン生活を2ヶ月間。その後、ヴィーガンの状態からある日はエビを食べてみて、様子をみて、観察して、状態を記録する。再び数日間ヴィーガンに戻す。次に卵を食べてみて、様子をみて、観察して、記録する。そして牛乳など、気になる食品を一つひとつ順に体に与え自己研究を続けました。

観察の最大のツールとなったのが毎朝のヨガの練習です。私が専門にしてきたアシュタンガヨガでは、毎朝規則的に同じ一連のポーズを一定の呼吸で行います。そのため、私には「体の硬さや柔らかさ」「重たさや軽さ」そして「呼吸の流れの質感」を観る物差しが明確にあったのです。

最もびっくりしたのは、いかに自分の呼吸に食べ物が影響していたか、という気づきでした。断食(ファスティング)を体験したことのある方なら、ファスティング中の呼吸の深さ、心地よさ、そして透き通るような透明感を体感したことがあると思います。それだけ、消化器官に蓄積されているものがあったり、添加物などの体に合わない不自然なものを処理することに内臓がオーバーワークしていると、横隔膜が広がりにくく、柔らかい動きの呼吸が通ることができないのです。同じように断食をしていなくても、食日記をつけながら食生活を観察していくと、呼吸の感覚がバロメーターとなり、どんどん自分の体に合うものと合わないものがクリアになっていきました。

体に不具合を感じて病院へ行くたびに、いつも「不思議だな」と思ってたまらないことがあります。一般的な病院へ行くと聴診器で心臓や肺の音を聴いたり、検尿や検便、採血などで内臓器官の働きをチェックします。漢方では脈診や舌診、目の色を確認し、問診で詳しく生活習慣をチェックするでしょう。インド医学のアーユルヴェーダでもやはり問診を詳しく進めることで月経周期、睡眠や食べ方、お肌の調子などを詳しく診ます。 けれど、どのドクターも「あなたはどんな呼吸をしていますか?」とは聞かないのです。なぜでしょう? そんなことを聞かれても、そもそも自分の呼吸を意識していない人が多いからかもしれませんね。であれば「もし、呼吸を観察する方法を全ての学校で子どもたちに指導したら?」私は、そんな可能性を夢描くようになりました。

医師が検便、検尿を確認するように。お母さんが赤ちゃんのおしめの内容をしっかりと目視してチェックするように。ヨギーは、一日を通して自らの呼吸の流れを観察し、それに気づきます。呼吸の流れに気づくトレーニングを習慣化してきているのです。

まずは自分にとって軸となる均等呼吸の感覚を知ること、確保すること。様々な体勢をとっていても、安定した状態で呼吸を保てるようになること。その上で、均等、均一の呼吸がどんな時に、どのように、どれくらい乱されるかに気づくこと。食生活の見直しを通して自分に合わない食べ物に敏感に気づくようになったのと同じように、自分を取り巻く人間関係や心の中で慢性化しているネガティブな思考癖も、呼吸の流れに繋がっていると感じるようになりました。

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CSA Images//Getty Images

これは私にとってあまりにも大きな気づきだったため、私は思い立って食べ物と同じ方法で「自分の体に一番合うお酒」を一つひとつ試してみました。 ヴィーガンでクリーンな状態からある晩はビール。ビールと決めたらビールだけを飲み続ける。記録を付ける。その後しばらくお酒なしのヴィーガンに戻す。またある晩はビオワイン。ビオワインと決めたらビオワインばかりを飲み続ける。そしてまたある晩はテキーラ。このようにして呼吸をバロメーターとした私の緻密な研究は続きました。

結論から言うと、お酒がどれだけ呼吸に影響しているかということ自体に驚きました。彼氏やパートナー、または自分自身がお酒を飲んで寝た晩にかくいびきの激しさに気づいたことのある方ならわかるでしょう。ズバリ、お酒は肝機能や血中のアルコールだけでなく、呼吸にも大きな障害をきたしているのです。私なりのランキングでは、ワーストワンはテキーラをはじめとするハードリカー類。近いワースト2位は意外とビールだったのです。これは添加物の影響を物語っていると私は考えています。なぜなら、ナチュラル系のビールだと呼吸への影響がまた異なるからです。焼酎は苦手なので、焼酎はわからないのですが、日本酒も強い割にはハードリカーやビールほどガツンと呼吸に影響を及ぼしていなかったように思います。比較的呼吸に優しかったのは、間違いなくビオワインでした。その上、呼吸への影響がベースにあるからこそですが、それぞれのお酒を飲んだ翌朝のヨガの練習では体の硬さも全然違いました。ぜひみなさんも、ご自身の体で呼吸の影響を観察してみてください。

「呼吸」は、誰もが内蔵している最強のバロメーター。 「自分をよりよく知ること」のツールとして活用してみたら、お酒の量や種類、食生活のバランスなど、これから迎えるホリデーシーズン、そして年末年始の過ごし方がちょっと変わってくるのではないでしょうか。まずは「気づくこと」という角度から見てあげると、呼吸に教わることはたくさんあります。そして、気づけたからこそ「変えるチャンス」がついてくるのも呼吸の特長。自分にしかわからない、今日の自分にとって最も豊かで心地いい、透き通るような呼吸。それを実現する生き方も、たった一つのチョイスから始まるのではないでしょうか。

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吉川めい
ヨガマスター

MAE Y主宰、ウェルネスメンター。日本で生まれ育ちながら、幼少期より英語圏の文化にも精通する。母の看取りや夫との死別、2人の息子の育児などを経験する中で、13年間インドに通い続けて得た伝統的な学びを日々の生活で活かせるメソッドに落とし込み、自分の中で成熟させた。ヨガ歴22年、日本人女性初のアシュタンガヨガ正式指導資格者であり『Yoga People Award 2016』ベスト・オブ・ヨギーニ受賞。adidasグローバル・ヨガアンバサダー。2024年4月より、本心から自分を生きることを実現する人のための会員制コミュニティ「 MAE Y」をスタート。https://mae-y.com/