ヘルス&フィットネス業界には、ワークアウトやダイエットのトレンドが溢れている。でも、これだけは聞いておきたい“ヴィーガンブームは終わったの?”

パンデミック、EU離脱に生活費危機で、ここ数年は英国内のスーパーの棚がガラガラになっているけれど、スウェーデン発のオーツミルクメーカーOatly(オートリー)のアイスクリームが大好きでもない限り、一部のヴィーガン商品が棚から消えたことには気付かないかもしれない。

2019年、市場調査会社ミンテルは、ミートフリー商品の売上が翌年までに110億ポンド(2兆円弱)を上回ると予測した。ところが最近、そのヴィーガン市場の売上が右肩下がりで、オートリーを含むプラントベースのメーカー各社が思わぬ苦境に陥っている。

ヴィーガン旋風の一部としてオートリーのアイスクリームが発売されたのは2019年秋のこと。この年にイギリスで発売された食品の約4分の1はヴィーガンだった。

それから4年。オートリーのスポークスパーソンは「英国のアイスクリーム市場から当面の間撤退する」という同社の決断を発表した。

ヴィーガン商品の生産を中止したメーカーはオートリーだけじゃない。今年3月上旬には、米ヨークシャー州に拠点を置くソーセージメーカーのHeck(ヘック)も、購買意欲の低下を理由にミートフリーのアイテムを10品目から2品目に減らした。

同様にネスレも、同社が所有するヴィーガン食品ブランドGarden GourmetとWundaの英国内での販売を取りやめ、コカ・コーラのエシカル飲料ブランドInnocent Drinksも、乳製品不使用のスムージーの生産中止を発表した。いずれも3月。

歌手のリゾやビリー・アイリッシュから女優のパメラ・アンダーソンに至るまで、多くのスターがヴィーガニズムを提唱している。そのうえプラントベースの食生活は健康にも環境にもいいことが証明されているので、いまさら売上が減少するというのは不思議でならない。

ヴィーガニズム衰退に関する専門家の視点を得るべく、私たちはナチュロパシック栄養スペシャリストのジェス・シャンド、公認管理栄養士のリリー・スーター、栄養コーチのジェス・ブルーム、栄養学者で栄養士のアズミナ・ゴヴィンジに話を聞いた。

oat milk giant oatly makes public debut on nasdaq
Scott Olson//Getty Images
世界中のスーパーにはヴィーガンフレンドリーな商品がズラリと並ぶ。

「残念ながら、ヴィーガニズムをある種のファッショントレンドのように見せる有名人に影響されて、ヴィーガンの食生活を送っている人は少なくありません。私のクライアントにも同じ理由でヴィーガンになったと言う人がいました」とシャンドは説明する。

「多くの人は、ヴィーガンに求められる努力のレベルを知らずにヴィーガンになります」

ブルームも「ヴィーガンの食生活がダイエット目的で使われることも多いです」と指摘する。

「ヨーヨーダイエットをしている人がすぐにヴィーガンをやめるのは分かっていました。その人たちは、サステナビリティを理由にヴィーガンの食生活を始めたわけではありませんから」

「もともとエシカルな考え方のない人に、クリスマスの七面鳥や夏のシーフードパエリアを諦めることはできないでしょう」

2023年のVeganuary(毎年1月に1カ月間プラントベースの食生活を送る国際的な運動)には、過去最高となる70万6965人が参加した。にも関わらず代替ミートの売上は伸び悩み、リサーチサービスNIQの最新のデータによると、冷蔵・冷凍代替肉の売上は前年1月比で平均15.2%減となった。プラントベースの代替ミルクは、辛うじて0.9%の成長を見せている。

アナリストたちはヴィーガニズムを“トレンド”や“煽り”と呼んできた。実際のところ、そうかもしれない。ヴィーガンという食生活を推すことで社会からの批判に応じる意思を見せておきながら、どのメーカーも利益が出ないと手のひらを返してしまう。

シャンドとスーターは、生活費危機とヴィーガン商品の値段も売上減少の一因と考える。「肉、魚、乳製品、卵の代替品は値段が高く、生活費の削減で最初にカットされるアイテムの1つかもしれません」

でも、シャンドはヴィーガン商品の生産停止を前向きに捉えている。「これからは、化学物質だらけで栄養価が低い割に高価なヴィーガンの既製品を買う代わりに、みんなが自分なりに創造性を発揮してプラントベースの料理を作ろうとするでしょうから」

ブルームとスーターの話では、一部のメーカーの売上が落ち込んでいるからといってヴィーガン市場全体が落ち込んでいるわけではなく、ヴィーガニズムに対する消費者の関心はいまも大きい。

非営利のヴィーガン認証団体The Vegan Societyも「プラントベース市場はまだ若いため、この業界が革新を続け、市場が安定する過程でアップダウンがあるのは想定の範囲内です」と楽観的な見方をしている。

その一方で「ニッチなヴィーガン商品は今後減るかもしれません」とゴヴィンジ。「でも、持続可能な食生活を送るためにプラントベースの食品を増やす消費者の傾向は間違いなく強くなるので、美味しくて栄養価が高く、環境に配慮した商品に投資する価値はあると思いますね」

物事が試行錯誤の末に軌道に乗って安定するのには時間がかかる。にも関わらず私たちは、0か100かの白黒思考で新しいことに着手して、困難な状況に自分を追い込む。その意味では、2019年のヴィーガンブームも実験だった。そして各種メーカーは、その結果を受けて変化している。

ブルームが言うように「ヴィーガン商品のバラエティが増え、競争が激化したいま大切なのは、味や価格、ブランド認知を高めながら、商品が生産停止に追い込まれるリスクを最小限に抑えること」

NIQの調査によると、英国内スーパーの顧客は代替肉の消費を徐々に減らしており、2022年9月までの会計年度で売上が3730万ポンド(66億円弱)減少した。その一方で、市場・消費者動向調査会社スタティスタの調査結果は、イギリスにおける代替肉の市場規模がヨーロッパ最大の100億ユーロ(約1兆5千億円)以上であることを示している。

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SolStock//Getty Images
インスタントのヴィーガン商品は各国で急増している。

やはり消費者がプラントベースの食品に対する興味を失ったわけではなさそう。でも、ゴヴィンジいわく突然100%ヴィーガンになろうとする人は減っており、「逆に栄養価の高いヴィーガンの食生活をベースにしつつ、少量の肉製品を取り入れようとする人が増えています」

売上の減少を理由に各種メーカーがヴィーガン商品の生産を減らしているのは確か。でも、だからといってヴィーガンの友達に「それ見たことか」と得意顔を見せるのは大間違い。一部の商品が撤退しても、売れ行きが好調なヴィーガン商品は山ほどあるし、ヴィーガンの新商品だって続々と登場している。本当の試合はこれから。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Eve Davies Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。