トレーニングが楽しくなる! スウェーデン発の「ファルトレクラン」とは?
ペースを変えて、心と体に対する認識、メンタル面、スタミナを向上しよう。
ファルトレク(“スピードプレイ”を意味するスウェーデン語)は、アスリートが頻繁に行うトレーニングの一種。このトレーニングの歴史は、80年以上前、コーチと科学者が運動能力を高める方法や、トレーニングに多様性を持たせる方法を研究し始めた頃にまでさかのぼる。スウェーデン人コーチのグスタ・ホルマーは、1回のセッションでスピードと耐久力の両方を強化するメソッドとして、ファルトレクトレーニングを生み出した。今回は、ファルトレクトレーニングの内容、他のスピード強化トレーニングとの違い、ルーティンに加えるべき理由、実際の走り方を見ていこう。
ファルトレクランとは
ファルトレクランは、ペースを自由に変える走り方で、本質的には体系化されていないスピードワーク。速いペースや楽なペースで一定時間を走り続ける(インターバルトレーニングのような休憩時間はない)。
測定には時間を基準として、速いペースで1分走ってから楽なペースで3分走ってもいいし、距離を基準にして、速いペースと楽なペースで1kmずつ走ってもいい。
ファルトレクは、ランナー自身がコントロールしやすいメソッド。さまざまなペースと距離を速いペースで走るもよし、細かく決めずに気の向くまま走るもよし。
他のスピード強化トレーニングとの違い
テンポランでは、一定のペースを維持しながら、“無理のない範囲内でハードに”走る。通常は、1.5kmを5kmマラソンのペースより20~45秒遅めに走るか、1時間キープできそうなペースで走る。
インターバルトレーニングでは、ハードなワークアウトを短時間行ってから、それと同等または少し長めのリカバリータイム(のんびりしたジョギングをしてもいいし完全に休んでもいい時間)を設ける。一例として、5kmマラソンのペースで400mを8回走った場合は、それに要したのと同じ時間をリカバリーに充てる。
ファルトレクランをルーティンに加えるべき理由5
1.いい足掛かりになる
ファルトレクランは、日頃のトレーニングの中でペースアップや強度アップを図りたい人にオススメ。新しいトレーニングを始めた最初の数週間で体系的なファルトレクランを用いれば、目標のレースが近づくにつれ身体的・心理的な負荷が増したときでも、体がうまく適応する。
2.本番の感覚が味わえる
インターバルトレーニングは効果的。でも、本番のレースでは足を止めて休めないし、一定のペースが保たれることはまれ。一方のファルトレクランでは完全な休憩がなく、レース中の自然なペース変動が体験できるので、本番の練習になる。
3.自分でコントロールしやすい
コーチのもとでは迷わなくて済むし、モチベーションが保ちやすい。でも、ファルトレクトレーニングの主導権はランナー自身にあるので、その日の体の感覚に合わせてセッションの中身を変えられる。レース当日は、ペースを上げろ/下げろと指示してくれるコーチがいない。ファルトレクトレーニングでは、そのスキルが習得できる。
4.トレーニングが楽しくなる
ファルトレクランはトレーニングを楽しくする。内容をガッチリ固めず、多様な地形と起伏のあるルートを走って。GPSのプレッシャーを終始感じながら走る代わりに、自分の体の感覚を信じよう。
5.有酸素機能にフォーカスできる
5km以上のレースでは有酸素エネルギーだけが頼り。ファルトレクトレーニングでは“リカバリー”中も走り続けなければならないので、有酸素機能が一段と向上するだけでなく、体が乳酸を燃料として再利用できるようになる。
ファルトレクトレーニングをルーティンに組み込む方法7
ファルトレクの一番の魅力は、“ルール”がないこと。でも、以下のガイドラインを参考にすれば、時間帯効果が上がるはず。
1.走り続ける
ファルトレクトレーニングでは、走り続けなければならない。それがインターバルトレーニングとの大きな違い。途中で止まったり歩いたりする必要があるときは、ペースを上げすぎているからかも。ペースを落とし、“リカバリー”中も走り続けられるようにして。
2.自分の感覚を信じる
ファルトレクランでは、GPSや心拍数より自分の感覚を信じること。ペースを上げたときは7~9/10、下げたときは4~6/10の疲労度で走ってみよう。
3.焦らない
人間は確実なシステムに従うことを好むので、ファルトレクランを始めると、最初は不安になるかもしれない。頑張りすぎて足が止まってしまったり、ペースをコロコロ変えすぎたり。ファルトレクトレーニングは時間をかけて習得するもの。だから、諦めずに続けてみよう。トレーニング日記をつけて、うまくいったことと、いかなかったことを書きとめる習慣をつければ、現状が見える化するし、だんだんコツがつかめてくる。
4.身近な環境を利用する
身の回りの環境もセッションの一部にしよう。丘の上までダッシュして、次の街灯に到達したら、ゲートまではのんびり走る。身の回りにあるものでセッションの中身を決めて。また、オフロードや起伏のある道を走れば、GPSではなく、自分の感覚を重視しやすい。
5.目標にフォーカスする
トレーニングの方法は無数にある。速いペースで30~60秒走ってから、しばらく楽なペースで長く走ったり、一定のペースで走ったり、Tペース(いき値)走をしたり。短いリカバリーを挟みながら、5~20分走るのもあり。目標のレースのニーズを頭に入れて。マラソン大会出場を目指しているなら、目標のペースに近い速めのペースで長距離を走ってみるといいかもしれない。ランニングを始めたばかりの人や、短距離レースを目標としている人は、ペースを変えながら30秒~4分走ってみよう。
6.フロートする
リカバリー中のランニングは、頑張っているときと同じくらい重要。ファルトレクトレーニングの難易度を上げたいときは、“フロート”リカバリーにトライしてみて。速いペースで走ったら、軽いジョギングより速い一定のペースで走る(これをリピート)。リカバリーをハードにすれば、負荷が高まる。
7.リカバリーを大事にする
ファルトレクトレーニングはフレキシブル。でも、ハードなことには変わりないので、リカバリーをないがしろにしてはいけない。ファルトレクトレーニングをしたら、少なくとも1日は体を休めて(ほとんどのランナーは、2~3日置いたほうがいい)。
主要なファルトレクトレーニング5選
1.フリーファルトレク
この方法なら、最も自然かつ効果的にファルトレクトレーニングを始められる。地形に幅があるルートを選び、15秒~4分間隔で10~25回ペースアップ。街灯や丘などを目標物にしてもいい。リカバリー中は、のんびりと一定のペースで走る。
2.ブリッジングファルトレク
トレーニングプランの初期段階で導入すれば、インターバルトレーニングへの橋渡しになる。速いペースで30秒、安定したペースで90秒を10~15回繰り返す。最終的には、速いペースと安定したペースを1分ずつ走れるようになるといい。ウォームアップとクールダウンも忘れずに。
3.“モナ”ファルトレク
オーストラリア出身の長距離ランナー、スティーブ・モネゲッティが行った42分のトレーニングで、使い勝手がいいのが特徴。短距離にフォーカスするなら、オフタイム(少し楽に走る時間)のペースを落として、オンタイム(一生懸命走る時間)のペースを上げる。長距離にフォーカスするなら、オフタイムを一定のペースで走る。
ウォームアップ 10分
オンタイム90秒+オフタイム90秒を2回
オンタイム60秒+オフタイム60秒を4回
オンタイム30秒+オフタイム60秒を4回
オンタイム15秒+オフタイム15秒を4回
クールダウン 10分
4.ミックスペース
5~10kmのレースやクロスカントリーのトレーニングに向いている。時間を6分から1分ずつ減らす一方で、ペースを毎回上げていく。一定のペースで走るオフタイムを90秒ずつ間に挟んで。あるいは、3分→2分→1分を4セット行って、60~90秒のオフタイムを挟んでもいい。
5.マラソン向け
厳密にはファルトレクではないけれど、このトレーニングをすれば、マラソンの最後の10kmが楽になる。マラソンのペースで4kmを4~5セット(セット間のオフタイムは1km)。または、75~90分のコースを選び、そのうちの60分をマラソンより少し遅いペースとマラソンより少し速いペースで3分ずつ交互に走る。
※この記事は、イギリス版ランナーズワールドから翻訳されました。
Text: Tom Craggs Translation: Ai Igamoto