人生に「痛み」はつきものだが、自ら積極的に経験したいものではない。そんななか新たに発表された研究で、定期的な運動が痛みへの耐性を高める可能性があることが明らかになった。

医学誌『Plos ONE』で発表されたこの研究は、ノルウェーで平均年齢50歳以上の男女1万732人を対象とし、自己申告による身体活動レベルと痛みに対する耐性を分析した。なおこの耐性は、手を氷水に浸したときの痛みをランク付けして測定。各参加者あたり、約8年の間隔を空けて計2回の測定が行われた。

その結果、身体活動レベルが高いと回答した参加者は、痛みに対する耐性が高いことが明らかに。2度目の測定までの間に運動をした人ほど、痛みに対する耐性がより高くなったという。

調査の結論では、「これらの結果によって、身体活動レベルの強化が、慢性の痛みを軽減または予防する非薬理学的な手法として考えられ得る」と述べられている。

痛みの管理は非常に複雑で、その原因を突き止めることは非常に難しいと、多くの専門家は言う。では具体的に、なぜ運動が痛みの軽減に有効だと考えられるのだろうか。

定期的な運動が「痛みへの耐性」を高める理由

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痛みへの耐性と運動を関連付ける研究は、今回が初めてではない。1998年にスポーツ医学誌『British Journal of Sports Medicine』で発表された研究では、レジスタンス運動(筋力トレーニング)を5分間行うことで、痛みを感じるまでの“しきい値”が著しく高くなることが明らかになっている。

今回の新たな研究では、定期的な運動が痛みへの耐性を高める理由については解明されておらず、関連性を見つけるにとどまった。しかし医師によれば、患者の状態から次のことが明らかになったという。

「臨床的に見ると、慢性的な痛みを抱える患者が身体活動を行うことで、痛みへの耐性が改善されたり、痛みを和らげたりする傾向があることがわかります」こう話すのは、米カリフォルニア州にあるメモリアルケア・オレンジコースト・メディカルセンター内スパイン・ヘルス・センターで、非手術的治療プログラムのメディカルディレクターを務める、医師で疼痛管理の専門家メドハット・ミカエル氏。

ミカエル氏によると、その理由にはいくつかの説があるという。ひとつは、体を動かすことで心拍数が上がり、“幸せホルモン”とよばれる神経伝達物質セロトニンのレベルが上がるということ。「身体活動は、伝達・表現・理解・遂行するための高度な機能の総称である高次脳機能に変化をもたらし、痛みを調整する可能性があります」

定期的に体を動かすことで、神経伝達物質エンドルフィンの分泌を促すことも可能、とラトガース・ニュージャージー医科大学で麻酔学の助教授を務める医師のハイジュン・チャン氏。「苦痛を取り除くモルヒネと同じような作用があるため、多くの人が運動後に良い気分になるのです」

smiling friends running together in park
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また、ラトガース大学の理学療法博士プログラムで助教授を務めるエイドリアン・H・シモンズ氏によると、免疫システムも一役買っているとのこと。

「通常、私たちの免疫システムはサイトカインとよばれるタンパク質を分泌するのですが、これには炎症性のものと抗炎症性のものがあります」「運動や身体活動は、IL-2、IL-4、IL-10、IL-13を含む抗炎症性サイトカインの分泌を促進します」と、シモンズ氏は説明。これらの物質は体の炎症反応の抑制を促すため、「定期的に運動している人は、体の痛みが軽減され、痛みに対する耐性が向上する可能性があります」

「運動には痛みを和らげるメカニズムがあり、また、運動の継続を促す働きもあるのです」と述べるのは、ペンシルベニア大学医学大学院で臨床物理医学とリハビリテーションの分野で准教授を務めるジョン・ヴァスデヴァン氏。

また、ミカエル医師は、運動することで筋肉が鍛えられ、背中や関節の負担を減らすため、慢性的な痛みを長期的に軽減することにも役立つと述べている。

慢性的な痛みがあるときに何をすべきか?

慢性的な痛みにはさまざまな対処法が考えられるが、大きくは薬物療法と補完療法の2種に分けられる。

適切な治療法は、患者それぞれの痛みの状態によって異なるが、オハイオ州に拠点を置くクリーヴランド・クリニックによると、慢性痛の治療には以下の薬がよく使われているという:

  • 神経痛の発作を防ぐ抗けいれん剤
  • 抗うつ薬または三環系抗うつ薬
  • 体内の炎症を軽減させるコルチコステロイド
  • 脳から筋肉への筋肉緊張の伝達を抑える筋弛緩薬
  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)またはアセトアミノフェン
  • 鎮痛薬または鎮静効果のある温感タイプ・冷感タイプの外用剤
  • 激しい痛みを緩和させる鎮痛薬のオピオイド
  • 不安や不眠を改善する鎮静剤

その他の治療法は、下記のような種類がある:

  • 経皮的電気神経刺激療法(TENS):皮膚にパッチを貼って電極を装着し、低周波の電気刺激を与えることで神経疾患の治療などに用いられる
  • 神経ブロック:痛みのある部位の近くに麻酔薬を注射することで、痛みを抑える治療
  • 硬膜外注射:脊椎神経周りの空間に抗炎症薬(ステロイドまたはコルチコステロイド)を注射し、脊椎神経根の刺激や炎症によって引き起こされる慢性疼痛を緩和する

また、慢性的な痛みに役立つ補完療法があることも研究で示されている。アメリカの国立補完統合衛生センター(NCCIH)によると、以下のような治療が対象となるそう。

  • 鍼治療
  • 催眠療法
  • マッサージ
  • マインドフルネスや瞑想
  • 音楽療法
  • 脊髄関節に一定の圧を加える脊椎マニピュレーション
  • 太極拳
  • 気功
  • ヨガ
a group of young people in a yoga pose
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痛みがあるなかで、どんな運動ができるのか?

チャン氏は、痛みを抱えているのなら、どのような運動でもしないよりはしたほうが良いと提案。「通常、患者には耐えられる範囲で運動をするように促しています。時間の長さは関係なく、毎日の運動習慣をつけることが大切です」

具体的な内容については、医師や理学療法士に相談をして決めると良いとのこと。「あらゆる運動が有効です」とチャン氏。「しかし、肩に痛みがある場合は肩を、膝に痛みがある場合は膝の強化にフォーカスしましょう」

他にも、運動をするタイミングが重要だとシモンズ氏は話す。「慢性的な痛みや他の合併症を持つ人が運動を計画する際、時間帯を考慮することが大切です。1日の終わりでは疲労や痛みのレベルが上がり、身体活動が難しくなることがあるため、疲労が少なく痛みのレベルが低い、早い時間帯に体を動かすほうが健康上のメリットを得やすくなるかもしれません」

「または、趣味や興味のあること、好きなことと運動を組み合わせることもおすすめです。運動するために別途時間と設備を確保して費用をかけるよりも、日々のなかに溶け込ませるほうが重要です」と続けるシモンズ氏。「この戦略により、運動への抵抗感を減らし、身体活動に対するフットワークが軽くなるため、モチベーションを向上させることができます」

ワークアウトの習慣は、自分に合うものを取り入れることも大切。「運動は、薬と同じような作用があります。適切な量や頻度、種類によって効果が現れるのです」と、ヴァスデヴァン氏も補足する。

5分の運動でも効果があるとのことで、「(実際にやってみて)まだいけそうだと感じた場合は、時間を延ばしても大丈夫です」とチャン氏は助言する。

※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。

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Korin Miller
Korin Miller is a freelance writer specializing in general wellness, sexual health and relationships, and lifestyle trends, with work appearing in Men’s Health, Women’s Health, Self, Glamour, and more. She has a master’s degree from American University, lives by the beach, and hopes to own a teacup pig and taco truck one day.
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 高校生時代にアメリカンカルチャーの影響を受け、大学在学時にアメリカ・シアトルにてホームステイを経験。海外ドラマに関するWEBメディアでライターを務める。海外エンタメ・セレブ、ロイヤルファミリー、ヘルス・ウェルネス記事をメインに、翻訳を担当。手話技能検定3級、世界遺産検定2級、アロマテラピー検定1級を持つ。