よく朝食を抜いて運動すると、脂肪分解が促進され痩せやすいとされているが、どんな根拠からそう言われるようになったの? ちゃんとした知識がないままでやってしまうと、肌の老化や隠れ肥満の促進につながる可能性もあると警鐘を鳴らすのはボディーワーカーの森拓郎さん。糖質はダイエットの敵ではない? その本当の理由を教えてもらった。

朝は体内の糖質が枯渇している状態

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Maria Korneeva//Getty Images

「私達は、寝ている間も基礎代謝で脳など生命維持のためにエネルギーを消費しています。体内の血糖の維持は肝臓に蓄えられた糖質(グリコーゲン)を使っているのですが、この肝臓のグリコーゲンはあまり沢山蓄えることができないため、夕食〜朝食の間が約10時間あったとしても、半分程度まで減ってしまっていて、朝は体内では糖質が枯渇している状態になります。糖がなくなってしまうと死の危険があるため、体内でエネルギーを作ろうとする作用が高まります。コルチゾールやアドレナリンといったホルモンは、体内のアミノ酸(タンパク質)を分解して糖質を作ったり、糖質の節約になるように体脂肪を分解し、血中に脂質を放つことでエネルギーのバックアップをさせます」

その原理で言うと、糖が枯渇している状態で有酸素運動を行えば脂肪を分解してくれるから、”痩せやすい”のではないのか?

朝食を抜いた状態で運動するデメリットは”老け”や”隠れ肥満”に?

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Malte Mueller//Getty Images


「要は、朝はいきなり分解から始まるから効率的に脂肪を減らして痩せられるということになるのは間違いありません。しかし、体内のアミノ酸もそんなに多く蓄えていませんから、運動をすることで逆にどんどん筋肉が削られやすくなるということも忘れてはいけません。体内のアミノ酸は筋肉だけでなく、皮膚や髪や爪、そして赤血球などの材料にもなりますから、これのせいで皮膚がたるみやすくなったり、髪がバサバサになって老けやすくなったり、貧血になってしまったりなどのリスクが伴います。アミノ酸のサプリをとってから運動するのも悪くはありませんが、サプリのアミノ酸の量は3-5g程度、糖質枯渇状態での必要な栄養素の分解を抑制するほど十分な量とはいえません。また”脂肪分解促進”といわれると魅力的に感じますが、これが意外と危険です。体脂肪はついている場所で直接エネルギーとして使われていくのではなく、脂肪分解をされて、遊離脂肪酸という状態になって血中に放たれて全身を巡り、筋肉を始め他の細胞のエネルギー源として消費されることで燃焼されるのです。分解を促進されても、それをエネルギー源として使うだけの代謝がないと、余った遊離脂肪酸はお腹周りや肝臓といった内蔵脂肪に再合成されてしまうのです。無理なダイエットで筋肉は分解されて、でも体脂肪率は高い隠れ肥満や、お酒を飲んでいないのに脂肪肝になっている女性が急増していることも最近では問題になっています。また、遊離脂肪酸は界面活性作用により細胞を破壊する作用もあるので、血中で燃焼できないほど濃度を高めてしまうのは、これも老けの原因となっていまいます」

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Anatolii Shcherbatiuk//Getty Images

貧血になると肌が老ける?
コラーゲンを合成するときは鉄が必要になるが、貧血の状態だとその合成がしづらくなってしまう。それは肌のたるみを引き起こす原因にも。女性は月経もあるため、男性に比べて鉄を消費しやすい体になっている。糖を枯渇させた状態の運動は、さらなる鉄不足を引き起こす要因になってしまうというわけだ。

遊離脂肪酸とは?
アドナリンが出た時に、体脂肪から血中に出てくる脂肪の一つ。この脂肪は小さすぎるため、細胞に溶け込んでしまうそう。糖が足りない状態になると、急激に遊離脂肪酸が血中に高まってしまうため、心臓などに負担がかかり、命の危険にさらされてしまうことも。太り気味の中高年の人などは遊離脂肪酸をエネルギーに変える能力が低いため、血中に遊離脂肪酸が出過ぎると、負担のほうが上回ってしまうのだ。

代謝が悪い人がダイエット目的で空腹の状態で有酸素運動をするのは危険!?

マラソン選手など、アスリートレベルの筋肉量を持った人であれば、わざと糖を枯渇させて体力をつけるといったトレーニングを取り入れることもあると話す森さん。しかしこれはあくまで燃焼させる力を持った人に限った話であるという。

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bymuratdeniz//Getty Images

「運動経験の少ない人、体脂肪率が標準よりも高い人(女性だと体脂肪が30%以上の人)、隠れ肥満と言われているような極端に筋肉が少ない人が、糖質を制限して有酸素運動で体重を落とすようなことをするのはおすすめしません。なぜなら、脂肪を分解しても燃焼する力が弱いため、負担の方が大きくなってしまう可能性が高いからです。これは運動だけの話に限らず、普段から糖質制限をしてしまっている人も注意をしたほうがいいと思います。糖が枯渇していると、アドレナリンが出ます。すると”冴える”とか”テンションあがる”と感じる人もいるでしょう。それはアドレナリンが出て、脂肪分解がされて、血中に遊離脂肪酸が出ている状態でもあります。それを燃焼できずにいたら、先ほど述べたような悪循環が起きてしまいます」

脂肪を分解しても、燃焼されなければ意味がない!

「そもそも、僕は脂肪分解はあまり促進させすぎない方がいいと思っています。急激に痩せようとして、脂肪分解を促進させるのは、交感神経を過剰に刺激しすぎているというのと、心臓や細胞への負担がかかってしまうからです。血糖値が上がりすぎると体に良くないというのは一般的に浸透してきている情報だと思うのですが、血中に遊離脂肪酸の値が上がりすぎるのも危険。先程の遊離脂肪酸の界面活性作用になる細胞へのダメージだけでなく、肥満の方や筋肉量が少ない人、中高年など、脂肪の燃焼能力が低い人が脂肪分解を運動で高めすぎると、遊離脂肪酸が心臓の興奮性を高め心臓突然死につながるリスクもあるからです。空腹時の運動は、分解作用が強くなる分、それだけ負担が大きいということを知っておいてほしいのです」

運動で体脂肪を燃やそうとするのがナンセンス

運動中に体脂肪をどれくらい燃えたかを意識しすぎると、逆に代謝が落ちていって、痩せづらい体になってしまうというのが森さんの考え方だ。

smiling sportive twins posing in front of a yellow and pink wall
Westend61//Getty Images

運動している時に痩せるのではなく、運動したことの刺激によって痩せやすい体を作ることが重要です。しっかりと糖を取り、運動の刺激を強くした方が長い目でみればちゃんと効果を感じるようになると思います。糖をしっかりとり、運動によって糖をたくさん使えば、体内の糖が減るので、回復するために糖を体に取り込もうとし、代謝が上がるようになります。回復するためにまたエネルギーを使うようになるんで良い循環が生まれるのです」

体は何をするにも、じっとしていたとしてもカロリーを消費するものだ。運動はあくまで体の代謝を良くするためのフックとして取り入れることをおすすめする。

まとめ

運動能力が高くない人が、糖を枯渇させた状態で体脂肪を燃やすようなことをやると、逆に内臓に負担がかかってしまい、死亡リスクや内臓肥満の原因になることも。空腹の状態での運動は意外とリスクが高いということを覚えておこう。脂肪分解が促進されることは聞こえはいいが、分解しても燃焼ができる体でなければ、逆効果になってしまうということだ。

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森 拓郎
パーソナルトレーニングスタジオrinato 代表取締役

 トレーニング至上主義であるフィットネス業界に疑問を感じ、運動の枠だけにとらわれない独自の角度からのアプローチにこだわりを持つ。ファッションモデルや女優などの著名人の支持を集め、『運動指導者が断言!ダイエットは運動1割、食事9割』(インプレス)、『オトナ女子のための食べ方図鑑(ワニブックス)』、『30日でスキニーデニムの似合う私になる(ワニブックス)』など、著書も多数。 

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Chie Arakawa
ウィメンズヘルス・シニアエディター

タレント・アスリートインタビュー・スポーツファッション・ウェルネス記事などを担当。女性誌FRaUでファッション・スポーツ・ダイエットなどの編集キャリアを積み、その後スポーツライフスタイルマガジンonyourmarkのプロデューサーとして在籍後、2022年までウィメンズヘルス編集部に在籍。