米国初のLGBTQ専用ジム『The Queer Gym』が先日オープン10周年を迎えた。ジム開設のきっかけ、そしてここまでの道のりについて創業者のナタリー・ウエルタが語ってくれた。今回はこの内容をアメリカ版ウィメンズヘルスからご紹介。

ドミニカン大学カリフォルニアでバスケットボールチームに所属していた私にとって、フィットネスは人生の一部だった。でも、バスケをやめてから体重が32kgも増えてしまった。卒業式が来るまでに、アスリートから体重113kgの巨漢に変身。

人生の目的はサッパリ分からなかったけれど、体重を減らしたいのは確かだったので、翌年の夏、地元のジムでワークアウトを開始した。ある日、仲良くなったマネージャーから「トレーナーになる気はないか?」と声をかけられた。運動スポーツ医学の学位を持ち、スペイン語を話す人材を探していたらしい。雇用条件は3カ月で体重を減らすこと。今思えば本当にクレイジーな話だった。

最初はクライアントがいなかった。でも、体重は減り始めた。みんなの前で、私の体は着実に変わっていった。すると突然、クライアントが2カ月待ちの状態に。

あのジムで働いているときもレズビアンとしてカミングアウトしていたけれど、クライアントにはストレートで通していた。

ゲイっぽくなればなるほど居心地が悪くなった

そのうち私は髪を切り、ますます男っぽい見た目になった。ロッカールームでは、女性陣が落ち着かないといった表情で見てくる。周りの人が気まずそうにしているせいで、自分も気まずい感じになった。

そのうちジムではクライアントのトレーニングだけして、自分のワークアウトは家でするようになった。公園でバスケをしながら、「ジムで嫌な思いをしているクィアな人は自分だけじゃないはず」と考える日もあった。

実際にトランスジェンダーの人々は、身体的または性的な暴力を受けやすいことが分かっている。ジムで気まずく感じるどころの話じゃない。あの人たちは、ロッカールームで急に襲われたり、レイプされたりすることを心配しながら生きている。トランスジェンダーほど自分の体を本気で変えたいと思っている人はいないのに、それを安全に行う場所がないなんて。

クィアな人にも安全な場所を探してみたら全然なかった

排他的じゃない安全なワークアウト環境を検索しても、出てくるのはポルノ系のサイトばかり。自分のジムを作ろうという考えは、そこから芽生えた。

当初のジムでキャリアを積み、地区担当マネージャーとしてビジネスの基礎を学んだ。2008年の経済危機をきっかけにジムを辞め、MBAを取得するため大学院へ。ゲイ専用のジムを作りたいという思いから、後期にカリフォルニア州オークランドで、米国初となるLGBTQ専用ジム『The Queer Gym』をオープンした。

『The Queer Gym』のミッションは「幸せで健康なホモセクシュアル」を輩出すること。ここのトイレは男性にも女性にも属さない。鏡はないし、トレーナーは全員LGBTQI+を理解するためのトレーニングを受けている。私たちが提供するのは、性別適合手術を受ける予定のトランスジェンダーに合ったトレーニング。コミュニティイベントを主催することもある。

the queer gym
KANE ANDRADE

左から:アラーナ・ギュット、エミリー・フォティアディ、エリック・カマチョ、KJ・ケルシュ、アレッサンドラ・ニコルソン、JT・ラウリン、トッド・トランブル、シャリーナ・レイヤーズバック

次のミッションはLGBTQIのジムを増やすこと

『The Queer Gym』は2020年の6月で10周年を迎えた。この先の10年で何をしよう。新しい事業を始めるためには、とんでもなくクレイジーでなければならない。その事業を続けるためには、自分をさらけ出す必要がある。ビジネスは人を育てることで育つもの。人を育てるには自分が賢くならねばならない。だから私の目標は、この事業を別の場所で展開する意思のあるクィアとトランスジェンダーのトレーナーをサポートすること。

コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、私たちのトレーニングはオンラインに移行した。その結果、利便性が増し、クライアントの数が2倍になった。デジタル化によりビジネスが半径6.5km以上に拡大し、同じ志を持つ人に対するコーチングも開始した。今日の私が創りたいのは「幸せで健康で裕福なホモセクシュアル」。経済力はウェルネスの一部だし、クィアな人々は社会経済活動から排除されやすい。

これまでの成果が誇らしい。でも、何よりも嬉しいのは『Queer Gym』で検索しても、ポルノサイトが出てこなくなったこと。

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Nathalie Huerta Translation: Ai Igamoto