海では船酔い、空では飛行機酔い、地上では車酔い、遊園地では乗りもの酔い。呼び方は少しずつ違っても、あの気持ち悪さと不穏な感覚は全部共通。

ティム・ハイン医学博士によると、私たちの体が移動中も正常に機能するのは、いくつかのシステムのおかげ。このシステムには内耳、目、体性感覚、自分の動きを予測する感覚などが含まれる。「こうしたシステムの間で1ヶ所でもズレが生じると、乗りものに酔う可能性が出てきます」とハイン博士。例えば、でこぼこ道や曲がりくねった道を走る車の後部座席で本を読むと、内耳は「体が飛び跳ねている」と言っているのに、目は手元の本に釘付けというズレが生じる。これは確実に車酔いをするパターンの1つ。

みんながみんな乗りものに酔うわけではないけれど、酔ったときの症状は分かりやすい。通常はめまいがして冷や汗をかき、顔が青白くなって吐き気を感じる。そして、その状態が長く続くと吐いてしまう。乗りもの酔いの症状は一度現れると止めるのが難しく、吐き気が生じたら大体手遅れ。でも、この記事で紹介するテクニックを用いれば、乗りもの酔いの症状がやわらいで早く引く可能性があるどころか、荒波で体が転がるくらい船が揺れても酔わずにいられるかもしれない。

1.乗りもの酔いのことを考えない

「乗りもの酔いの原因の一部は心理的なものです」と説明するのはホルスト・コンラッド医学博士。「絶対に吐くと思えば、たぶん吐くことになるでしょう」。こういうときは自分の置かれた状況よりも楽しいことを考えて。

2.看病は人に任せる

あなたが海釣りを楽しんでいると同乗者が船に酔った。でも、そこで同情心から背中をさすってあげたりすると、今度は自分が気持ち悪くなってきて、そこからはドミノ倒しのように犠牲者が増えていく。残酷に聞こえるかもしれないけれど、コンラッド博士いわく酔っている人は可能な限り無視するべき。そうしないと文字通り運命共同体になってしまう。

3.悪臭を避ける

コンラッド博士によると、車の排気ガス、漁船の後ろで氷の上に寝かされている死んだ魚、CAさんが運んでくる機内食などのニオイは吐き気をもたらすことがあるので、吸い込まないようにしよう。

4.タバコを吸わない

喫煙者なら、タバコで気分を落ち着かせれば酔わずに済むと思うかもしれないけれど、これは間違い。コンラッド博士いわく喫煙は切迫した吐き気の要因となる。非喫煙者は胃のムカつきを感じた時点で禁煙エリアに避難して。

5.暗くなってから移動する

ロデリック・W・ギリアン元検眼医によると、夜間の移動では日中ほど周囲の動きが見えないので、乗りものに酔う可能性が低いそう。

6.お酒を控える

five gin tonic cocktails in wine glasses on bar counter in pup or restaurant
SimpleImages//Getty Images

「お酒を飲みすぎると脳が周囲の情報を上手く処理できなくなるので、乗りものに酔いやすくなります」とコンラッド博士。それどころか、アルコールが内耳の中の液体に溶け込んで頭がクラクラすることも。飛行機や船で飲むときは控えめに。

7.胃に食べものを入れておく

マックス・ルヴィーン博士によると、乗りもの酔いをする可能性があるときはなにも食べない人が多い。確かにそのほうがよさそうに思えるけれど、実際は逆効果。「空きっ腹で乗りものに乗るのはやめましょう。胃には暇をさせるより、通常の収縮リズム(消化活動)を取らせておいたほうが無難です」。その昔、ルヴィーン博士は参加者を座らせて、白と黒の縞模様が描かれた回転式ドラムの中に数分間頭を突っ込んでもらうという実験を行った。すると、実験前にプロテインシェイクを飲んだ人はなにも食べなかった人よりも症状が少なく、胃にも過剰な攪拌運動が見られなかった。乗りもの酔いをする可能性があるときは、事前に低脂質・高タンパクの軽食をとっておこう。ただし、チーズバーガーのような高脂質の食品は逆効果になるので避けること。

8.しっかり寝ておく

ギリアン氏の話では、疲れていると乗りものに酔う確率が高くなるので、旅行前は十分な睡眠をとっておこう。また、車や飛行機の中で少し寝れば、乗りもの酔いのもとになる刺激を一時的にかわすことくらいはできる。

9.自分で運転する

ルヴィーン博士によると、その状況を自分でコントールする、あるいはコントロールしている気になるだけで吐き気が和らぐこともある。縞模様の回転式吐き気マシンを使った別の実験でルヴィーン博士は、一部の参加者に回転をコントロールしている“気になれる”ボタンを渡した。すると、他の参加者と同じくらいドラムが回転しても、ボタンを持っている参加者の症状だけは軽かった。移動中は乗客でいるよりも運転手になったほうが酔いにくいかもしれない。ハイン博士によると、車の揺れ方を予測して目的地に最速で辿り着けるよう、走り慣れた道を選ぶことも大切。

10.本を読まない

woman reading book in car
Dougal Waters//Getty Images

車の中で本を読むと酔いやすい人は、もちろん読まないほうがいい。読書をすれば時間が早く過ぎるかもしれないけれど、気持ち悪くなったら最後、移動が異常に長く感じる。ギリアン氏によると、どうしても読まなければならないときは前かがみの姿勢になって、読みものを目の高さに持ってくるといいそう。「吐き気の原因は読書そのものではなく、読んでいるときの角度です。移動中の車の中で下を向くと、流れるように過ぎていく外の景色が変な角度で目に入り、乗りもの酔いの症状を引き起こします。でも、この方法なら道路を見下ろしているときと同じ位置に目を持ってくることができます」。こめかみの横に手を置くか、窓に背を向けるかして外の動きを遮断しよう。

11.地平線を見つめる

車で移動するときは助手席に座り、正面の道か地平線に視線を合わせて。そうすれば、体からのシグナルと目からのシグナルにズレがなくなる。これは船やボートで移動するときにも言えること。水面を見下ろすと船の浮き沈みや波の動きが目に入ってしまうので、水平線の一点(できれば海岸線などの動かないもの)を見つめよう。

12.酔い止め用リストバンドでツボを押す

マリンショップやトラベルグッズ専門店の多くは、手首の内側にある“内関”というツボを押すプラスチックのボタンが付いた軽量のリストバンドを扱っている。そのボタンを数分押すと、理論上は気持ち悪くならない仕組み。

13.市販の酔い止めを飲む

health and medicine
Gogosvm//Getty Images

ハイン博士によると、ドラマミンやメクリジンのような市販薬は役に立つ。でも、気持ち悪くなる前に飲まないと意味がないので、酔いやすい人は移動開始の30分前に飲んでおこう。ただし、酔い止めは眠気をもたらすので、ウトウトできないときには不向き。

14.傷は時間が癒してくれる

この傷には乗りもの酔いも含まれる。死ぬほど気持ち悪くても乗りもの酔いで死ぬことは絶対ない。数日かかるかもしれないけれど、体はいずれ船やボートの動きに慣れるので、辛抱強く待っていれば事態は必ず好転する。

15.乗りもの酔いに効果的なものを食べる

乗りもの酔いの民間療法はたぶん車が誕生する前からあった。その中でも次の3つはとくに試す価値がある。

生姜:乗りもの酔いに対する生姜の効果は実証済みで、生姜の根の粉末カプセル2錠はドラマミンより効果的な酔い止めであることを示す研究結果も存在する。

オリーブとレモン:一部の医師は、乗りものに酔うと唾液が過剰に分泌されて吐き気を催すと考えている。オリーブには口を乾燥させるタンニンという成分が含まれているため、気持ち悪くなりそうと思った時点でオリーブを2~3個食べれば、レモンを吸ったときと同様、理論上は吐き気が和らぐ。

ソーダクラッカー:これで唾液の分泌が止まるわけではないけれど、乾燥したソーダクラッカーは胃の中の余分な液体を吸収してくれる。これはソーダクラッカーに重炭酸塩と酒石英が含まれているから。

宇宙飛行士のために開発された
究極の乗りもの酔いの治療法とは?

「......4、3、2、1、発射!」。乗組員4人を乗せたNASAのスペースシャトルSpacelab3は、大地を揺るがす轟音と共に飛び立って成層圏に突入した。その揺れで気分が悪くなったのは地上管制のスタッフだけじゃない。飛行開始からわずか7分で、乗組員の1人が1回目の嘔吐をした。乗りもの酔いは宇宙飛行士にとって深刻な問題で、ミッションの最中に嘔吐は何度も繰り返される。

「乗組員全員がいつダメになってもおかしくありません」と話すのはパトリシア・カウィングス博士。「悲惨な事態に陥ることも考えられます。ヘルメットを被ったまま吐くのは命に関わる行為ですから」。酔い止め薬には危険な副作用があるため、簡単な解決策は存在しない。

でも、バイオフィードバック・トレーニングプログラムのおかげで新たな可能性が見えてきた。カウィングス博士のチームは、宇宙飛行士の気分をよくするために一般人の気分を悪くするという実験を何十年も行っている。「一般の人を研究所に連れてきて吐かせるのが私たちの仕事です」と語るカウィングス博士は、同僚の間で“ゲロ男爵夫人”として知られている。

この実験で使われるのは、有志の被験者の頭をさまざまな角度に動かしながら回転し、内耳の平衡感覚を数分で狂わせる椅子。「これで気持ち悪くならない人はほとんどいません」。椅子が回転している間、研究チームは被験者の生理学的な反応(心拍数、呼吸数、発汗量、筋収縮など)を観察する。「まったく同じ反応を示す人は1人もいません」とカウィングス博士。「乗りもの酔いは、その人固有の指紋みたいなものですからね」。その人の指紋が判明したら、その指紋に合った深いリラクゼーションと筋肉(血管内の筋肉など、私たちが自分で動かせることに気づいていない筋肉)のエクササイズで、その人固有の生理学的な反応をコントロールすればいい。

初期の反応を上手くコントロールできるようになれば、より強烈な反応が現れるのを防げる可能性もある。このメソッドの成功率は、カウィングス博士の研究チームが特許を申請したほど高い。「被験者の約60%は同じ椅子で再検査をしても症状が一切現れず、25%は生理学的反応が大幅に減少します。そして、このトレーニングの効果は最長3年続きます」。この有望な研究結果を受けてカウィングス博士は、近い将来に乗りもの酔いが完治する日が来ることを期待している。

この記事のアドバイザーは……

パトリシア・カウィングス博士はNASAエイムズ研究センター心理生理学研究所の主任研究員で、米カリフォルニア大学の精神医学教授でもある。

ロデリック・W・ギリアン氏は米オレゴン州ユージーンに住む元検眼医で、現在も乗りもの酔いに関する教育を続けている。

ティム・ハイン医学博士は米ノースウェスタン大学医学部の神経学・耳鼻咽喉学・理学療法&人間動作科学部教授。

ホルスト・コンラッド医学博士は米南イリノイ大学医学部の耳鼻咽喉学教授。

マックス・ルヴィーン博士は米シエナカレッジの心理学助教授で、吐き気に関係する心身の問題を専門としている。
 
※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Prevention Translation: Ai Igamoto

Headshot of 伊賀本 藍
伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。