私はいま、もう5年近くアパートをシェアしている親友と地下鉄のプラットフォームに立っている。スマホを見ながら電車の到着を待っていると、猫背になっているからか腰が痛くなってきたので、目線を上げて肩を動かし、糸で背骨が釣り上げられている状態をイメージした。

すると、友人が私を見て驚きの声を上げた。「えっ、私より背高かった?」

この友人は、この5年間ほぼ毎日私を見てきた女性である。そして私たちは2人とも、いまのいままで彼女のほうが長身と信じて疑わなかった。でも、私が背筋を伸ばして立つと、実はそうではないことがハッキリ分かった。

自分の姿勢が悪いことは以前から自覚していた。でも、あのルームメイトの反応を見て初めて私は、本気でなんとかしようと思った。別に自分の背を高く見せたいわけじゃないけれど、姿勢の悪さは活力の低下、ストレスの増加、糖尿病と循環器系疾患のリスクの上昇など、ありとあらゆる問題に関連している。

そこで私はニューヨークシティのカイロプラクター、ジャレド・ホフマン氏とレスリー・ドレイファス氏からアドバイスをもらいつつ、1週間、背筋を伸ばして過ごすというチャレンジを開始した。その結果やいかに?(ネタバレ:背筋を伸ばすというのは口で言うほど簡単なことじゃない)。

自分の姿勢の悪さを嫌というほど実感した

自分の姿勢が悪いことは前から知っていたけれど、それは周りの人に言われたからで、自分で姿勢を意識していたからじゃない。でも、このチャレンジを始めた途端、初日から姿勢のことしか考えられなくなってしまった。会社の椅子に座っているときも、帰りの電車の中で立っているときも、夕食を作っているときも、洗いものをしているときも、ベッドの中でパソコン作業をしているときも、姿勢のことで頭がいっぱい。これには本気でイライラした。

正しい姿勢で立てるようになった……数分くらいは

姿勢のことばかり考えていれば自然と背筋が伸びるというのは、私の大きな勘違いだった。私のヨガの先生が生徒の背筋を伸ばすために使うトリックを拝借し、肩を丸めてから胸を突き出しても、その姿勢は2~3分しか保てない。そして、姿勢を意識するのをやめると、一瞬でもとの猫背に戻ってしまう。でも、ドレイファス氏にしてみればすべて予想の範囲内。「背中に鉄筋が入っているイメージで、あるいは頭のてっぺんに付いた糸を上から引っ張られているイメージで、と言われても、みんな鉄筋や糸のことばかり考えているわけにいきませんから」。そして、考えるのをやめた途端に姿勢が悪くなるというのは、むしろ当然のことなのだ。

背中を伸ばすのは最高に気持ちいい

正しい姿勢をキープするのが異常に難しいのは、人間の体が放っておいても正しい姿勢を保てるように作られていないから。ちょっと工夫する(例:座り方やシューズの種類を変えてみる)だけで劇的に姿勢がよくなるとたかをくくっていた私は、ホフマン氏とドレイファス氏の「背骨を支える筋肉を鍛えないとダメですよ」というアドバイスに意気消沈。「ほとんどの人は体のバランスが崩れています」とドレイファス氏。「仕事中はタイピング、家に帰ってもスマホで1日中前かがみの姿勢になっていますし、背中や首の後ろの筋肉を伸ばすこともありません」

ホフマン氏によると、目で見て分かるくらい姿勢をよくする唯一の方法は背中の筋肉を鍛えること。それにはピラティスがいいそうなので、私はヨガマットを広げ、YouTubeの動画に沿ってピラティスをしてみたところ、背中の筋肉が驚くほど伸びて本当に気持ちよかった。さすが、ホフマン氏とドレイファス氏はいいところに目を付けている。

電車の中で変な目で見られた

少しずつ、確実に姿勢をよくする唯一の方法はエクササイズ(本当に姿勢が悪いときはエクササイズにプラスしてカイロプラクターによる姿勢矯正施術)しかないけれど、ホフマン氏いわく「スマホを見るときは画面を目の高さに持ってくる」といいみたい。それで姿勢が改善することはないけれど、姿勢を悪くする最大の要因の1つー猫背で画面を覗き込む癖は防げる。

そのくらい余裕かと思いきや、これが意外と大変だった。私の通勤時間は電車で片道1時間半。その間、ずっとスマホか本を見ているということは、今週まで毎日少なくとも3時間は首と肩を下に向けて過ごしていたことになる。

ホフマン氏に言われた通り、スマホの画面を目の高さに持ってきたら本当に背筋が伸びた。でも、腕がすぐ疲れるうえに、ずっと自撮りをしている人みたいになってしまうという問題があったので、今週はスマホを見る時間自体が大幅に減った(これもまた、このチャレンジのうれしい副作用の1つと言える)。

人間観察をする時間が増えた

電車やバスには、他の乗客を凝視して気付かれたら気まずそうに目を反らす人がいるけれど、前述の理由からスマホを使う時間が減った私は見事その1人になってしまった。とはいえ私は、なんの意味もなく他人を見ていたわけじゃない。みんなと比べて自分の姿勢がどのくらい悪いのかを知りたかった。とにかく、ニューヨークシティの地下鉄でスマホを見ながら背中を丸めているのは私だけじゃない。それだけは絶対確か。

いくらか進歩はしたけれど、私の姿勢は依然として悪いまま

姿勢の改善には時間がかかる。ホフマン氏もドレイファス氏も、現代人の姿勢が「たった1週間でよくなることはない」と言う。いまの状態次第では、ピラティスを1ヶ月どころか1年くらい続けないと完全に直らない可能性もある。

ホフマン氏によると、姿勢というのは何年もかけて悪くなるもの。「ほとんどの人は10代の頃から少しずつ姿勢が悪くなります」。でも、私はこの1週間で猫背が少しだけ改善したような気がしている。姿勢のことをずっと考えていたからかもしれないし、久しぶりに背中の筋肉を動かしたからかもしれないけれど、このチャレンジには意味があるように思うので、これからも姿勢の矯正に効果的なピラティスを続けるつもり。そうすれば、自分で意識しなくてもまっすぐに立てる日が来るかもしれない。
 
※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Kasandra Brabaw Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。