ウィメンズヘルスでは1年半以上にわたり、瞑想家として瞑想にまつわる連載を執筆している佐々木依里さんは、環境活動家としても四半世紀にわたって活動を続けている。

ウィメンズヘルスが大切にする「心と体と地球を健やかに」というコンセプトを、長年にわたって自らのテーマとして発信してきた彼女に、環境活動に興味を持ったきっかけから彼女の行動の指針までをインタビュー。

自分を愛することがなぜ、地球を大切にすることにつながるのか。そして私たちは今、どんなアクションを取っていくべきなのか。彼女の言葉はきっと、大きなヒントになるはずだ。

11歳の時、オゾンホールのニュースで
地球が生きていることを実感

佐々木依里 インタビュー
Shinsuke Kamioka

子どもの頃から自然遊びが好きで、動物にも興味があったという佐々木さんが、「地球好き」を自認したのは瞑想を始めたのと同じ11歳の頃。

「当時、オゾンホールが問題になり、フロンガスの使用が規制されたんです。地球の状態はどんどん悪くなってしまうのかと思っていたところ、フロンガスの排出をやめたらオゾンホールが修復され始めたというニュースがあり、地球って再生するんだ! 生命体なんだ! と、感動したことを覚えています」

「同時期に姉の影響で仏教の本も読んでいたのですが、そこにあった“ワンネス=私はあなたで、あなたは私。私はこの地球の写し鏡である。生きとし生けるものすべてがつながっている”という考えを知り、私が好きな地球は私そのものなんだ、という意識へと繋がりました。そして私個人の活動としてエコプロジェクトを立ち上げました」

実はこのエコプロジェクトが後にエリプロジェクトとなり、現在のメディテーションジャーニーにもつながっているという。

「自分を大切にして、地球を大切にして、より魂が成長したところで自分を精一杯生きていくということが、メディテーションジャーニーの目指すところです。環境問題に夢中になったり、ある健康法にハマったりすると、自己観察ができず、大切なことがわからなくなってしまうことがありますよね。瞑想は、自分を心地いい状態に常に保ちながら、選択で自分の内側を変えていくために、とても役立つと思っています」

彼女の11歳から現在に至るまでの27年間の活動は、一環して「地球と自分はイコールで、自分を大切にすることが地球を大切にすることにつながる」ということを伝えるためだ。最初は絵や詩でそれを表現しようとし、もっと伝わる手段を探して写真の勉強を始める。それでも伝わらないと感じ、自分の声で伝えるために旅番組のレポーターとなった。現在は、SNSを通じて多くの人とコミュニケーションしながら、メッセージを発信し続けている。

物事の判断基準は「シェア」「フェア」「ケア」
佐々木依里 インタビュー
Shinsuke Kamioka

多くの人が環境問題を自分ごととして考え、行動し始めている今、その行動指針は実に多様だ。ある人はアニマルウェルフェアのためにヴィーガンを選ぶかもしれないし、ある人はプラスチックフリーの生活を目指しているかもしれない。

佐々木さんの場合、行動の指針にしているのは、「Share(シェア)」「Fare(フェア)」「Care(ケア)」の3つだ。

「この3つは私の気持ちを全部統括して表現していると思います。生活していると様々な選択の連続ですが、私の選択はその3つを兼ね備えているのか、常に考えるようにしています」

例えば牛乳か、プラントベースミルクかという問題。佐々木さんは今のように様々なナッツミルクなどが気軽に手に入るようになるかなり前から、自分でナッツを買ってナッツミルクを作ってきた。そのきっかけは、牛乳を作るのに牛が苦しんでいるかもしれないという事実を知ったこと。

「アニマルウェルフェアを訴える方の中には、動物たちの苦しむ姿をシェアすることで、見る人の心を動かそうという考え方もあるかもしれませんが、私はその動物の気持ちになって考えます。私が牛だったら、自分が死んでいく姿を見てもらうより、自分が幸せに生きている姿を見て、やっぱりこの選択が良かったと思って欲しい。選択で良い方を選べる人間になって欲しいと思うんです。自分は牛乳を飲まない選択をすることで、何がベストかを追求するジャーニーが始まりました」

ちなみに、佐々木さんはヴィーガンを実践していた時期もあるが、現在はフレキシタリアンのスタイルをとっているという。

「1人で食事をする時にはヴィーガンを実践していますが、家族との食事や友達との食事では、家族との団らんや友だちの“美味しい”という幸せを大切にしたいので、目的を忘れないようにしています」

佐々木さんにとって、地球との向き合い方も、人との向き合い方も同じ。

「お母さんが子どもを育てる時も、子どもを愛そうと必死になっていると、双方にとって重荷になってしまうこともありますよね。この子にとっていい選択って何かな? と考える方が、気持ち的に楽だと思うんです。この子が病気にならないように、この子を潰さないように、こんなことはだめと言っているより、この子が健やかでいられる選択をしてあげたいな、と思うのと同じ。地球を愛そう、愛そうというよりも、地球にとっていい選択をしていこうということを心がけています」

服を買う時には、その服の寿命を考える

佐々木さんは、服を買う時でも「シェア」「フェア」「ケア」を軸に考える。

「自分がモノによって満たされることはない、ということを知らないと、モノに頼ってしまったり、その一瞬満たされた気持ちになりたいからと必要ではないモノを買ってしまったりします。それを知った上で、本当にそれが必要なのかを考え、購入する時にはまずは古着から探すようにしています。そして、必ずその服の寿命を考えます。10年着られる服なのか? 一生着られる服なのか? 直して着られる服なのか?」

最近は、少し汚れてしまったり、飽きてしまった服を京都の紋付染め店に黒く染めてもらうというアップサイクルも実践しているそう。

「自分で藍染めもしているので、だんだんクローゼットの中が黒っぽくなっていきますが(笑)、白かった服が黒くなるとまた新鮮な気分で着られてとても気に入っています」

自分のアクションで誰かの苦しみが止まるなら
見て見ぬふりはできない

佐々木依里 インタビュー
Shinsuke Kamioka

自らの行動指針に沿って日々の選択を行い、その考え方を周囲の人にシェアするだけでなく、佐々木さんは20年以上にわたって、企業に対してもメッセージを送り続けているという。

その範囲は多岐にわたっており、電車で車掌さんがいい行いをしていたという報告から、点字ブロックに荷物が置いてあって危険だったというお知らせ、メーカーに対してパッケージ改善の提案をしたり、好きなパン屋さんにはヴィーガン対応のパンを作ってもらえないかとお便りをしたこともある。

「私が見て見ぬふりをしたら、その課題がテーブルに上がらないまま、水面下でなかったことになってしまいます。それでは誰かの苦しみが止まらないから、企業への働きかけは大切だと思います。その時に気をつけているのは、意見をいうのではなく気づきがありました、という報告の形にすること。いいところはちゃんと褒めることも忘れず、併せて私はこうしてもらえたらうれしいですと伝えると、企業からは必ず返事があります」

彼女はまだ企業の問い合わせ窓口がインターネットではなく、お手紙だった時代からこの活動を続けている。そして、大企業こそ消費者の声に真摯に耳を傾け、誠実に対応してくれるということを知っている。

「今の日本は裾野を広げ、どんなことができるのかをブレストしている段階だと思うんです。だから意見は伝えるべき。大企業がアクションを起こしてくれると、私個人の発信ではリーチできないような多数の人に伝わるので、面白いですよ」

私たちはつい、「自分の声なんて小さくて届かないに違いない」「大きな企業の姿勢が簡単に変わるはずはない」と思い込みがち。でも佐々木さんも大切にしている考え方でもある、1人の100歩より100人の 1歩が、大きな山を動かす力になる可能性は、大きい。システムチェンジは一人一人の気づきや行動の集大成に他ならないのです。

常に心に留めておきたい
アヒムサ(非暴力)の教え

佐々木依里 インタビュー
Shinsuke Kamioka

最近では、環境破壊や気候変動に対して、怒りや不満、罪悪感、憂うつ感や喪失感を抱いてしまう「エコ不安症」という病気まである。地球=自分、そして地球環境が破壊されていくと感じたら、それだけで不安を覚えそうだが、佐々木さんの根底にある「アヒムサ(非暴力)」の教えが、そんな感情を扱うのに役立つ。

「インド古代哲学で、するべきではない行いのもっとも大切なこととして、アヒムサという教えがあります。それは自分を傷つけない、他人を傷づけない、自分が苦しみ続けることを選択しないという教え。何かを否定し続けたり、自己否定を繰り返しているだけでは、この教えに反していることになります」

「私たちを含む全ての生きとし生けるものが幸せであり、この地球と共に成長していく中で、搾取や強欲、暴力といった不調和が環境破壊という形で現れているのだと思います。私たちは、話し合いで解決する方法を学びながら、自分の心の中に搾取や強欲、暴力などがないか見つめる必要があると思います。環境破壊を止めることは、自分の心に向き合うことから始まると思うのです」

日々の行動の中で、それが自分にとって、地球にとってより良い選択なのかを考える。そして自分を傷つけず、他人を傷つけないためにも、まずは自分を慈しみ、自分の中に平和を作る。多くの人がそんな風にして自分や他人を尊重していけば、きっと世界はよくなっていくに違いない。

Headshot of Kiriko Kageyama
Kiriko Kageyama
エル・グルメ編集長/ウイメンズヘルス編集長

『エル・オンライン(現エル・デジタル)』のファッションエディターを経て、フリーランスに。女性ランナーによる企画集団「ランガール」を設立。その後女性誌立ち上げやWebメディアの立ち上げを経て2017年にウィメンズヘルス』日本版ローンチ時から編集長に。2023年夏よりエル・グルメ編集長も兼務。趣味は料理を作って友人たちに振る舞うこと。