食事とボディイメージ(人間が身体について持つイメージ)を専門とする臨床心理学者のロミ・ラン博士によると、近年ではSNSが個人の食べるものや自尊心に影響を及ぼすと懸念する声が多い。なぜなら、InstagramやTikTokなど絶大な影響力を持つプラットフォームで、ユーザーたちは完璧に見えるような“健康的な食事”と理想的体形のイメージを頻繁に浴びせられているから。こんなふうに食べればインフルエンサーのような体形になれるとほのめかすような投稿も少なくない。そのため、多くの人が自分に不十分さを感じたり、自信を失くしたりしているという。

このような投稿に絶えず晒されていると、自分とインフルエンサーをどうしても比較してしまいがち。そして、こんな意見がよく上がる。「なにを食べたらいいかわからない」「相反するアドバイスが多すぎる」「どれも自分には効果がない」「自分にもっと意志力さえあれば」「あの人のようになれたら、私ももっと幸せになれるのに」

実際にSNSが悪影響を及ぼすという証拠はある?

SNSの過度な使用は、摂食障害の増加、体形の不満、メンタルヘルスの悪化と相互に関係していることが研究で示されている。最近のレビュー論文では、この影響は欧米社会に限らず17ヵ国以上でみられており、西洋の美の基準がSNS上で簡単にアクセスできるようになったアジア諸国でも、こうした懸念が広がっていることが浮き彫りになっている。その結果、以前はこうした問題がそれほど顕著でなかった地域でも、体形の不満や摂食障害が驚くほど急増しているという。

英メンタルヘルス財団「Mental Health Foundation」のオンライン調査によると、10代(13歳〜19歳)のイギリス人の若者の40%が、SNSによるボディイメージへの懸念を露わにしていることが明らかになった。でもこれは、10代の若者に限ったことではない。米Florida House Experienceが実施した調査では、成人女性の約50%と男性の約37%が、自身の体形をSNSやメディアに映し出される理想体形とネガティブに比較してしまっているとのこと。

SNSの影響がこれほど大きな理由とは?

食べものとの関係はとても複雑。それは、幼少期の経験や家族、文化的信念、社会的規範、遺伝的要因、習得した習慣のパターンなど、さまざまな要因が重なり合っての結果であるからだという。これらのすべての要因が、無意識のうちに私たちの食事パターンの大部分を形成している。実際にこれらは、広告が機能する仕組みと同じで、特定の食品を「低カロリー」や「ヘルシー食品」などと微かにラベル付けすることにより、私たちの認識を導き、行動に影響を与えている。SNSも同じで、単に私たちに影響を与える別のフォーラムに過ぎない。

でも、広告とSNSの決定的な違いは影響力の大きさにあるという。従来の広告とは異なり、SNSでは圧倒的な数のコンテンツが毎日配信され、特定の商品を購入するだけでなく、達成することが不可能であるかのような「理想の自分」を受け入れることを、知らず知らずのうちに説得されている。

このようなコンテンツに常に晒され続けていると、あらゆる面で自分を変えなきゃいけないといったプレッシャーが増幅し始め、食べものやボディイメージとの健全な関係を維持することが難しくなっていくのだそう。さらに厄介なのは、SNS上では誰もが自分をなにかの専門家という位置付けで意見を共有することができること。たとえその考えが、まったくもって無秩序で不真実で、有害であっても......。

この問題をさらに複雑にしているのが、SNS上のアルゴリズムの性質。ある特定の体形やライフスタイル、食事をテーマとした投稿に関心を寄せたり、「いいね」を押したりするだけで、エコーチェンバーが生じ始め、同じ美の理想を絶えず追求するはめになってしまう。その結果、同じような理想体形の写真を繰り返し見続けてしまうことで、そうでない体形を持つ人々の自尊心を侵食し、現実とはかけ離れた基準に合わせようとするプレッシャーが増幅していくのだという。

こうした困難な状況を、どう乗り越える?

まずは、食べものとの関係が不健全であることを示す兆候を認識すること。ここでラン博士は、鍵となる重要な原則を強調した。「食べものと健全な関係を築けている人は、食事中でない限り、食べもののことを考えることは滅多にありません。一方で食べものと不健全な関係にある人は、食事をしているとき以外にもずっと食べもののことを考えています」とラン博士。もし、あなたが食べもののことで常に頭がいっぱいで、実際に食事をしている最中には食べる行為そのものに集中できないようであれば、それは危険信号の可能性がある。

摂食障害や自分の体形に悩んでいる場合は、以下の重要なステップを踏んでいこう

woman with red hair looking on screen of her mobile phone
Guido Mieth//Getty Images

SNSのすべてがリアルではないことを理解する

まずは、一個人としてデジタルリテラシーを養う必要がある。つまり、SNSのコンテンツは大きく加工されており、信頼性に欠けることを理解しておくこと。見たものすべてを信じることはできないと理解したうえで、スクロールを楽しんで。

境界線を設定する

SNSの利用には、境界線を設けることも不可欠。あらゆる体重や体形、サイズを共有するアカウントをフォローし、自分にポジティブな影響を与えてくれるような、バランスの取れた現実的なフィードを確保するなど、オンライン空間を意図的に整えることが大切。

助けを求める

もしボディイメージや摂食障害で苦しんでいる人は、専門家の指導を求めること。

SNSが精神的健康や幸福に与える影響についての提唱と教育は、今こそ社会全体で求められている。メンタルヘルスの専門家や教育者、政策立案者が協力的に取り組むことにより、ボディイメージや食事関連の行動に対し、SNSが及ぼす悪影響を軽減するための戦略を実施することができる。そしてもちろん、SNSのプラットフォームがより健全なオンライン環境を提供するという責任を認識することも大切。

プラットフォームは多様性を積極的に奨励し、有害な美の基準を退け、ポジティブな精神的健康を支援する機能を導入するべきだという。プラットフォームが責任を持って監視することで、ユーザーたちが食べものやボディイメージとの健全な関係を築くのに役立ち、よりバランスのとれた支援的なデジタル空間を提供できるようにもなる。

要約すると、SNSが食べるものやボディイメージに与える影響は否定できない。この複雑なデジタルの世界とうまく付き合っていくためには、食べものとの関係が良好でないときの兆候を見極められ、デジタルリテラシーを身につけ、必要に応じて専門家の助けを求めることが重要になる。SNSが精神的健康にさまざまな影響を及ぼすことから、心理専門家、教育者、政策立案者たちによる協力的な提唱や教育を含め、社会のより広範な取り組みを実施する必要がある。意識を高め、デジタルによる悪影響を軽減するための戦略を実行していけば、SNSとの関係もより健全でバランスのとれたものとなり、自身の精神的・感情的な幸福を優先することができるようになるはず。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: DR ROMI RAN Translation : Yukie Kawabata

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川畑 幸絵
翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。