SNSの邪悪な側面がSNSのクリエイターによって映し出されたネットフリックスのドキュメンタリー『The Social Dilemma/監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影』を観たあとは、多くの人が「私もSNS中毒なのか?」と自問する。今回は、SNS中毒とはなにか、その原因、SNSの利用時間の減らし方を見ていこう。

このドキュメンタリーに登場するのは、Google、ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、YouTubeの内通者たち。このようなアプリによって私たちの生活(政治に関する学習から感情まで)がどのように操作され、細部まで管理されているかを90分にわたり暴露している。

その内容は、かなり不安をあおるもの。プッシュ通知やニュースフィードの設計は、ユーザーがSNSに費やす時間を増やし続け、現代人の心身の健康に予期せぬ影響を与えている。10代の自殺と自傷行為がSNSの成長と比例する形で2009年から急激に増えているいま、オンラインで過ごす時間とオフラインで過ごす時間のバランスを取り戻せるか否かは、まさに生死を分かつ問題。

でも、私たちがビッグ・テック企業の言いなりになる必要はまったくない。SNSが生理学的なレベルで私たちの脳に与える影響とSNSの使い方に問題があるサイン、そして、デジタルデトックスを効果的に行うための戦略を理解するべく、臨床心理士のニコラス・ジョール博士と、英国民医療サービスNHSの認可を受けたウェルビーイング・プラットフォーム『Thrive』に所属するビジネス心理士のエリッサ・マクリスに話を聞いた。

SNS中毒とは?

SNS中毒は行動依存の一種。行動依存とは、その行動によってウェルビーイング(身体的・心理的・経済的な健康)に悪影響が及ぶと分かっていても、その行動を繰り返さなければならない気がしてしまうこと。行動依存には、薬物の使用、喫煙、ギャンブル、過度のアルコール摂取などが含まれる。

「インターネットの使いすぎは過去の論文でも説明されてきましたが、SNSの使いすぎが原因で生じる問題はあまり注目されていません」とマクリス。「世界人口の63%(30億8,100万人)がSNSユーザーとなったことで、いよいよ使いすぎによる問題が見られるようになってきました」

ほとんどの人は、友達とつながるため、最新のニュースを追うため、暇な時間を潰すためにSNSを使っている。でも、一体どのタイミングで、その依存は中毒になるのだろう。マクリスによると、SNSの利用が問題あるいは中毒となるのは、そのユーザーが衝動制御障害に似た異常な行動パターンを見せ始めたとき。

その異常な行動パターンとは
・SNSを使いたいという衝動を感じる。使えないとネガティブな精神状態になり、怒りやフラストレーションといった強い感情が湧く。
・自分が逃していること、他人がしていること、自分の投稿の注目度ばかりを気にする。
・SNSから離れていると、不安や異常な欠乏感に襲われる。
・オンラインとオフラインのバランスが取れず、時間と思考の大半をSNSに奪われている。SNSを使っていないときも、SNSのことを考えている。
・極度の不安や執着から、交渉や危険な行為に走ってでもSNSにアクセスしようとする。

「SNSの使いすぎが問題になるのは、それが日常生活に支障をきたし始めたときです」とジョール博士。「生産性が下がったり、人間関係が悪化したり、真夜中に何時間もSNSをスクロールして睡眠パターンが崩れたり、といったことですね」

SNSを気にしすぎている感じがする人、使いたいという衝動が自分で抑えられない人、フェイスブックやツイッターなどのアプリに時間を費やしすぎて、人生の大事な側面に悪影響が出ている人は、これを機にスマホとの関係を見直そう。

SNS中毒の原因は?

SNS中毒の大部分は、ドーパミン系と呼ばれる神経生物学的経路の働きによるもの。「ドーパミンは、欲望をモチベーションに行動を取らせる神経伝達物質です」とマクリス。「ドーパミンは、好きなものを食べたとき、運動したとき、セックスをしたとき、そしてなにより、楽しい社会的交流があったときに分泌されます」

マクリスの話では、なんらかのアクティビティでドーパミンが分泌されると、私たちは満足感を覚え「またやりたい」という気持ちになる。「人間は、満足感の得られる行動を取る生きものです。その満足感を得たいとい気持ちから、特定の行動を頻繁に取ったり、長時間にわたって取ったりする必要が出てくると問題が生じます」

例えば、インスタグラムに写真を投稿したあと「『いいね』の数を見るために何度その写真を見に行きますか?」とマクリス。「いいね数が20のときは、2のときよりも報われた感じがしますか? SNSユーザーの大半は『はい』と答えるでしょう。これは、私たちを満足感のある行動に誘導する“陽性強化”の一例です」

SNSのプラットフォームには、この陽性強化に付け込んだアルゴリズムが使われており、各ユーザーのデータも溜まっている。だからニュースフィードには、個人の趣味趣向に合ったコンテンツが絶え間なく表示される。米調査報道機関『ProPublica』の2016年のレポートによると、フェイスブックは各ユーザーから29,000カテゴリーのデータを集める。それをもとにビッグ・テック企業は各ユーザーのデジタルモデルを作り、そのユーザーの行動と思考を予測して左右する。だからユーザーはスクロールする手を止められない。

「SNSを長期間使っていたら、届いていないはずの通知が届いたという経験をしている人もいます」とジョール博士。「メッセージを受け取った、またはスマホから音がしたと脳が勘違いしたのです。これは、ひっきりなしにSNSやスマホをチェックするという行動につながります。『いいね』やコメントをもらうことで分泌されるドーパミンに脳が病みつきになっている明確なサインです」

SNS中毒に関連する脳の領域は、薬物やアルコールの乱用に関連する脳の領域と同じ。「この領域を長期間、活発なままにしていると、脳の報酬系、ストレス神経系、(判断力、衝動性、論理的思考に影響を与える)実行機能系が変わってしまうこともあります」とマクリス。「それに加えて、強い欲求、衝動、欠乏感といった心理的な副作用が多数生じることもあります」

SNS中毒の診断方法

SNSは私たちの生活の大きな一部。ソーシャルディスタンスが日常化したことで、その存在は一段と大きくなった。だから余計にSNSの習慣が悪化していることに気付きにくい。

ここで挙げるのは、SNS中毒の初期症状のほんの一例。

・1日の大部分をSNSの利用に充てている。または、SNSのことを考える時間やSNSにアクセスしようとする時間が1日の大半を占めている。
・当初予定していたよりも大幅に長い時間をSNS上で過ごしている。
・SNS以外に興味がなく、友達や趣味も少ない。
・友達と出掛けるなどの社会活動よりもSNSを優先する。
・自分の投稿やSNSアカウントに対する人の意見が気になる。
・家族や友達から「SNSに費やす時間が長すぎる」といわれる。
・職場や学校でのパフォーマンスが低下している。または、家族に対する責任を果たせなくなっている。

SNSの利用時間がコントロールできないときは、プッシュ通知をオフにしたり、寝室にスマホを持ち込まないようにしたりして、自分なりの対策を講じよう。SNSは、ストレス、孤独、うつ症状を緩和するメカニズムとして使われてきたけれど、カウンセラーの力が役に立つこともある。

SNS中毒のリスク要因

マクリスによると、子供と若年成人は前頭皮質が成長しきっていないため、ドーパミンの報酬系が影響を受けやすく、SNS中毒になりやすい。これには社会からのプレッシャーも関係している。「若い世代の間では、SNSのアカウントを1つは持っていることが“当たり前”になっているので、仲間から除け者にされたくないというプレッシャーを感じることもあるでしょう」

ジョール博士によると、インターネットバンキング、Eメール、ビデオ通話で1日中スマホを見ている成人や、自尊心が低い人もSNS中毒になりやすい。「とはいえ、リスクは誰にでもあるといえるでしょう。“普通”のユーザーがSNSに依存しすぎるケースや、ネット上のネガティブなコメントや冷やかしによって心のバランスが崩れたりするケースはありますからね」

SNSの利用時間を減らす方法

SNS中毒が疑われるなら、依存症を専門とするセラピストに話してみよう。SNSにコントロールされないための戦略もたくさんある。まずは、以下の8つを試してみて。

1.現在の利用時間を把握する

SNSの平均利用時間は1日4時間以上といわれる。スマホの内蔵機能(iPhoneならスクリーンタイム、Androidならデジタル・ウェルビーイング)を活用し、いま現在のSNSの利用時間を把握しよう。

2.休む

これはSNSを休むということ。「1週間のなかで、SNSにログインすることもSNSを見ることもしない日を決めましょう」とマクリス。

3.時間を制限する

インスタグラムやフェイスブックには、自分で決めた制限時間(1日30分など)に達するとリマインダーが送られてくる機能がある。

4.プッシュ通知をオフにする

気が散るのを防ぐため、一番大事なプッシュ通知以外はオフにする。

5.距離を置く

1日のなかでスマホに近寄らない時間を決める。朝起きてからの1時間でも、夕食の間中でもいい。寝室や浴室をスマホ持ち込み不可にするのも◎。

6.ホーム画面を整理する

ホーム画面のアプリをフォルダに移し、目に入らないようにしてみよう。あまり使わないSNSのアカウントを消すことも検討してみて。

7.オフラインの予定を立てる

SNSに頼らないアクティビティを見つけよう。マクリスいわくウォーキングもよし、瞑想もよし、友達に会うもよし。

8.完全にやめる

SNSを完全にやめて、自分の反応を見てみよう。「それで強い感情が生じた場合は、想像以上に依存していた可能性がありますね」

※この記事は、『Netdoctor』から翻訳されました。

Text: Medically reviewed by Dr Roger Henderson and words by Annie Hayes 

Translation: Ai Igamoto