昨今のランニングシューズ業界には、サステナブルを謳い文句にネットゼロの目標を掲げ、革新的な素材を使う企業が増えている。だから、ランニングがエコなスポーツに思えるけれど、こうした変化を製造者が起こしても、実際は問題の表面を撫でているだけ。現在のアンサステナブルな製造基準や消費パターンが継続すれば、必然的に地球環境および生態系が報いを受けると科学者たちは警告する。

イギリスのラフバラー大学の持続可能なモノづくりおよびリサイクル技術研究センター(SMART)のインダストリアル・エンジニア集団によると、製造業が気候変動に与える影響を和らげるために敷かれた現在のイニシアティブ、投資、規制は、すでに生じたダメージを取り除いたり修復したりするというより、せいぜいダメージの拡大スピードを遅らせるだけ。

科学者たちも、地球温暖化を年間2%にとどめるためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%減らす必要があると考えているにも関わらず現在の目標は、この数字に遠く及ばない。最新の予測では、既存のポリシーや目標を考慮しても、温室効果ガスの排出量は2050年までに50%以上増加する。

「どれだけ簡略化して控えめに言っても、私たちは十分に意味のあるアクションを取っていません」と話すのは、SMARTサステナブル・エンジニアリング部門のシャヒン・ラヒミファード教授。そして、グローバルなフィットネスシューズ業界は、この問題の大きな一部。この業界が国だったら、イギリスと同じだけ二酸化炭素を排出する世界で17番目の環境汚染国になる。

そもそも、サステナビリティ(持続可能性)とは?

まずは基本に立ち返るところから始めよう。サステナビリティの明確な定義にはバラツキがあるけれど、大まかに言えば、環境を守ることで地球上に末永く生存するという意味になる。

でも、ラヒミファード教授に言わせると、サステナビリティという言葉は本来の意味を失いつつある。確かにサステナビリティの名のもとに生まれるのは、多くの場合「一番マシなオプション」や「ほかよりは悪くないソリューション」。でも、そんなことで地球上の製造および消費に関する問題は解決されない。しかも、独自の排出量削減目標を掲げる企業はこぞって環境用語を好き勝手に解釈する。

この言葉の曖昧さに着目した英ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションとマスメディア企業『コンデナスト』は、共同でサステナブル・ファッションの用語集を作成した。それによると、“カーボンニュートラル”は“ネットゼロ”の同義語として定義され、化石燃料に頼らない経済に移行することで実現する。つまり、フットウェアなら再生可能なエネルギーと再生型のオーガニック素材で作られた持ちのよいフットウェア。また、その素材と製品は、化石燃料に頼らない方法で梱包・輸送されねばならない。

エコフレンドリーなランニングシューズとは?

young sportswoman running at sunset by lakeside sports hobby for pleasure
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いま現在、大手ブランドの中でもっともエコフレンドリーに近いのはたぶんオールバーズ。この企業は2016年の設立当時から「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」という明白なミッション・ステートメントを掲げてきた。

オールバーズのイノベーション&サステナビリティ部長、ジャード・フィンクは「悪いものを少しずつ減らせばいいというわけではありません。私たちが目指しているのは、より現代的なビジネスモデルを構築し、再生型の技術と手法で最終的にカーボンを取り除くことです」と説明する。「既存のビジネスの最大の課題の1つは、古いビジネスが残した負の遺産を処理することです」

オールバーズはカーボン排出量のオフセットで目標を達成しようとしていない。でも、多くのブランドは主にカーボン排出量をオフセットすることで、自らが設定したネットゼロの目標を達成しようとしているばかりか、その方法が不透明なときもある。

一例として、植林で二酸化炭素を回収するという取り組みは、それ自体がエネルギーを必要とする。このように、カーボンオフセットの考え方は現状維持を許し、カーボンを大して減らさないことで厳しく批判されている。フットウェア業界が製造工程の抜本的な改革を回避してこられたのも、これが原因。ラヒミファード教授によると、カーボンオフセットの大部分は「まったくもって乱雑」で、少し詳しく調べれば問題ばかりだという。

「私たちに必要なのはカーボンの排出を止めることですが、カーボンニュートラルを実現してもカーボンの排出は止まりません」とラヒミファード教授。「これは予測型のアプローチ。ネットゼロ、カーボンニュートラル、サステナビリティといった言葉は、私たちが直面している問題を解決しない時代遅れの考え方になりつつあります」

このような言葉に取って代わるのは、クライメートポジティブ、ネガティブエミッション、ネットポジティブなどの新用語。「唯一可能性があるのは、ネットポジティブなアプローチです。サステナビリティ単体では不十分ですからね」とラヒミファード教授。「ネットポジティブは、私たちのエコシステムと製造業界に対する回復・再生・治癒的なアプローチで、搾取されるより多くのものを社会と地球環境に還元します」

フットウェア業界が直面している課題とは?

ランニングシューズの世界でネットポジティブを実現するには、複雑に入り組んだサプライチェーン、シューズを構成する多数のコンポーネント(平均で65種類)、そしてグローバルな流通経路を見直す必要がある。一般的なランニングシューズのライフサイクル(原料採取から廃棄に至るまでのプロセス)で排出されるカーボンは1足あたり14kg。特に排出量が多いのは製造過程(9.5kg)とされている。

シューズの処分過程では有害な化学物質も発生する。「ポリウレタンとポリエステルはカーボンフットプリントの大半を占めています」と説明するのは、スポーツシューズ専門サイトRunRepeatに掲載されたエコ・スニーカーに関するレポートを書いたダニー・マクロクリン。「ナイロンもカーボンフットプリントに驚くほど大きな影響を与えます。この素材の処理には莫大なエネルギーが使われますから」

フットウェア業界は、有意義な変革をもたらすための手段ではなくマーケティング戦略としてサステナビリティを使っており、気候危機に対する取り組みが遅いと批判されている。でも、正しい方向にシフトし始めているという声もある。

「サステナビリティをマーケティングツールとして使っているブランドは間違いなくありますが、最近は、そういうブランドも減ってきていると思います」と語るのは、イギリスのノッティンガム・トレント大学ファッションマーケティング&ブランディング学部のナオミ・ブレイスウェイト上級講師。「今日の世界では、ありとあらゆるビジネスが変化の必要性を認識しています。彼らは本当に変える気ですが、ビジネスを100%サステナブルにするのは非常に難しいことなので、時間がかかると思います」

私たちが環境に配慮した消費者として、グリーンウォッシング(上辺だけの環境配慮)と正真正銘ネットポジティブなビジネスモデルを見分けるのは難しい。オールバーズは、すべてのシューズにカーボンフットプリント(その製品のライフサイクル全体で排出される温室効果ガスをCO2に換算した数値)を表示するという自社の取り組みが業界全体に広がることを期待している。でも、それまでは、増え続ける“サステナブル”なフットウェア製品の長所と短所を消費者自身が比較検討するしかない。

私たち消費者にできるサステナブルな取り組みは?

still life of globe and hiking boots on cliff by sea
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個人レベルでカーボンフットプリントを減らすもっともシンプルな方法は、修理やリサイクルが可能で長持ちする一足を選ぶこと。でも、チャリティーショップや衣類バンクを通じたリサイクルには大きな問題がある。そのアイテムが寄付されたチャリティーショップで販売される確率は、たったの10~30%。残りは繊維や衣類の卸売業に買い取られ、その大半が海外(主に途上国)に送られる。その結果、途上国で衣類が余り、寄付されたアイテムの大半が廃棄されている。

ガーナのカンタマントマーケット(西アフリカで2番目に大きい古着市場)には、毎週1500万もの古着が送られてくる。そのうちの40%は廃棄されるため、ガーナの首都アクラは衣類ゴミでいっぱい。このゴミは道の片隅で燃やされるか、大きな焚火に放り込まれるか、埋め立て地に送られるか。そして、溢れた分は海に流れ着き、ビーチやエコシステム全体を汚染する。

この問題に真剣に取り組んでいるランニングブランドは?

幸いにも最近は、リサイクル対象の自社製品を回収し、素材を粉砕してから新しいシューズの製造に利用するブランドが増えている。2022年の夏、シューズブランドのメレルは埋め立て廃棄物の削減を目指す「ReTread」プログラムを欧州で試験的に開始した。

このプログラムのもとでメレルは、イギリス、スペイン、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、スウェーデン、フィンランドで販売された何十万ものシューズを回収。これらのシューズは修理・改造後に当初の半額で販売されたり、分解されて新しい製品に生まれ変わったり、ほかの目的でリサイクルされたりする。もう使わないシューズを返却した消費者には、インセンティブとして80ポンド以上の購入時に使える20ポンドの割引券が付与される。

また、スイスのシューズブランドOnは革新的なリサイクル・サブスクリプションサービス「Cyclon」の提供を開始した。月額25ポンドで会員は6カ月ごとに履き古したシューズを返却する。返却されたシューズは粉砕されて新しいシューズとして生まれ変わり、会員のもとへ送られるという仕組み。

その一方で、スポーツシューズ専門店のsportshoes.comは、ランニングシューズのリサイクル推進団体JogOnおよび配達会社Evriと手を組み、古いシューズや使わなくなったシューズを消費者から回収し、世界中の慈善団体に分配するイニシアティブを開始した。

でも、ラヒミファード教授をはじめとする評論家の面々は、シューズの返却・再生による短期的な効果を見据えたうえで、フットウェアの配送やクリーニングの過程で生じるカーボンフットプリントを慎重に評価しなければならないと主張する。

エコシューズブランドHylo Atheltics共同創業者のマイケル・ドウティは、フットウェア業界が「限りある資源への依存という問題を拡大している」との見方を示す。

「現在のスポーツウェア&フットウェア市場は、ポリエステルやナイロンといった化石燃料由来の素材に大きく依存しています。サステナビリティ関連の取り組みの多くは、こういった素材のリサイクルに焦点を置いています」

つまり、シューズをリサイクルすれば、バージン素材(未使用の素材)からシューズを生産するときに比べて、製品が廃棄されるまでの時間が長くなり、カーボン排出量が減る可能性はあるけれど、それで根本的な問題が解決するわけでも、気候変動が防げるわけでもないということ。割の良い値段でフットウェアを6カ月ごとに取り替える「Cyclon」のようなサービスで、過剰消費という大問題が解決するわけでもない。

むしろ、このようなサービスで「シューズは500マイル(約800km)ごとに取り替えるべき」という認識が広がれば、過剰消費とカーボンの排出に拍車がかかる。

ランニングシューズの寿命は?

dirty sneakers
Jan Hakan Dahlstrom//Getty Images

ランニングウェアのアップサイクリングコミュニティReRun Clothingの共同設立者でウルトラランナーのダン・ローソンによると、ランニングシューズの交換時期に関するアドバイスは無視していい。「一足のシューズで何千キロも走れます。なぜ多数のシューズメーカーがシューズの寿命は短いと言い続けるのか、私には分かりません。むしろシューズを長持ちさせることに全力を尽くすべきです」。記録破りのウルトラランナーで地球環境に配慮したランニングコミュニティThe GreenRunners共同設立者のジャスミン・パリスも、いまのシューズで3000km以上走っている。

この問題を受けてオールバーズは、独自の製造技術を改善し、2025年までにシューズの寿命を2倍にするというコミットメントを打ち立てた。同社はまた、同じシューズで行ける場所が多ければ多いほど必要なシューズの数が減るという考えから、洗濯機で洗えるフットウェアの汎用性と耐久性の向上にも務めている。「私たちは、1つのカテゴリーに分類されず、ランニングにも使えるけれどビジネスカジュアルやレストランにも合うようなシューズを作りたいと思っています」とフィンク。「時代を超えて愛されるモダンでクラシックなシューズがいいですね」

新規参入企業のZen Running ClubとHylo Athleticsも、プラントベースで耐久性の高いフットウェアを売りにしている。「私たちのシューズは、市場に出ている他のランニングシューズと同じくらい長持ちします」と主張するのは、Zenの共同創業者でデザイナーのドミニク・シノット。一方、Hyloのシューズには近距離無線通信規格(NFC)のタグが付いている。このタグをスキャンすることで消費者は、お手入れ方法や修理・リサイクリングの方法を紹介する「hyloop」というプラットフォームにアクセスできる。「一番いいのは新しいモノを買わないことです」とドウティ。「だからこそ私たちは、最新の技術を駆使して商品の使用期間を伸ばしたいと思っています」

スペインのフットウェアブランドCamperと共にアウトドアブランドNNormalを立ち上げた伝説的なウルトラランナー、キリアン・ジョルネも耐久性に着目している。NNormalの目標は、耐久性が高く、季節の変化やファッショントレンドに左右されないシューズを一足でも少なく生産すること。時間と共に劣化する縫い目を減らし、コンポーネントの数を最小限に抑えるため、ミニマルなデザインを採用した。

「私たちは売り買いの仕組みを変える必要があると思っています」とジョルネ。新しい商品を売って、まだ履けるけれど“古く感じる”商品と替えさせるのは、もう時代遅れと言える。「簡単そうな話ですが、実際は業界レベルの大きな変化が必要になるでしょう。商品は、お手入れや修理をしながら使うものという認識を広める必要もありますね。そして、いざ買い替える必要が出たときは、その商品が循環型のビジネスモデルで作られていることを確かめなければなりません」

エコフレンドリーと言えるランニングブランドは?

一部のブランドは(ネットポジティブではなく)ネットゼロを実現する手段として、再生素材に着目している。メレルのモアブ・スピード・トレイルシューズは、内張りと靴紐に100%再生メッシュを使用し、ナイキのペガサス・ターボネクスト・ネイチャーは重量の50%が再生素材で作られている。

再生素材を使うのは、もちろん前向きなステップ。でも、それだけでは不十分という声もある。企業のサステナビリティ実現をサポートするGreenspark共同創業者のマット・ウィリアムズによると、再生素材は既存のシステムと相性がよい。「残念ながら、このシステムの中では飲料ボトルや漁網といった消費財が大量に廃棄され、リサイクル製品となっています」

再生ポリエステルはバージンポリエステルより84%少ないエネルギーで生産可能。でも、リサイクルする前にバージンポリエステルを作る必要があるのは明らか。アディダスはパーレイのアッパー部分に海洋プラスチックゴミを使用している。それ自体は間違いなく良い取り組みと言えるけれど、海洋プラスチックゴミを「プライムニット」と名付けられたアディダス独自のニット素材に変える過程では、やはりエネルギーが使われる。ナイキは、埋め立て地から回収したペットボトルから作られたポリエステルを使用している。これも有益な取り組みではあるけれど、エネルギーコストがかかる。

RunRepeatは2021年のレポートで、シューズの素材を変えても、製造過程をアップデートしない限り、大企業がカーボン排出量の削減に大きく貢献することはないと結論付けた。

「エコシューズが地球を救うことはありません。従来のシューズよりもゆっくり地球を殺していくだけです」と語るマクロクリンのレポートによると、エコスニーカー(一部に再生素材を使用したフットウェア)で削減されるカーボン排出量は10%未満、100%再生素材のシューズでも24%。これは、使用する素材の種類に関わらず、製造過程がカーボン排出量の64%を占めているから。

再生素材の割合にも注意が必要。再生されたコンポーネントはシューズのほんの一部に過ぎない。「この市場には、環境志向にあやかってグリーンウォッシングをするブランドが溢れています」とウィリアムズ。

「これが消費者の正しい選択を困難にしています。再生素材の割合は? 100%なのか、それとも20%で残りの80%はバージン素材なのか。それも知らずに正しい選択をすることはできません」

ナイキは?

その一方で、ナイキをはじめとする大手各社はEGMのようなカーボンマネジメント企業と提携し、「カーボンと廃棄物がゼロの未来を目指す取り組み」をアピールしている。ナイキは自社の発電設備を稼働させ、2025年には自社の施設を100%再生可能エネルギーでまかなう予定。それでも、再生素材依存からの脱却は見込めない。

フットウェア業界が本当に(オフセットなしで)カーボンニュートラルを実現し、地球環境にポジティブな影響を与えたいと思うなら、再生可能エネルギー、グリーン輸送、再生素材を使うだけでは不十分。完全に循環型の経済を確立する唯一の方法は、“再生された”素材ではなく、“再生可能な”素材を使うこと。最近では、プラントベースの素材やクライメートポジティブなウールの人気が高まっているけれど、問題は、地球が回復不能なダメージを受ける前に必要な変化が起こるかどうか。

アシックスは?

2022年、アシックスは、カーボン排出量がライフサイクル全体を通して1.95kgのゲルライト3 CMを発売した。アメリカのマサチューセッツ工科大学の調査チームによると、これは従来のランニングシューズのカーボン排出量(14kg)を大幅に下回る。ゲルライト3 CMのミッドソールと中敷きには、サトウキビ由来のバイオポリマーが使われているけれど、このシューズの大部分は再生ポリエステルで作られている。とはいえ、ウィリアムズに言わせれば、これも「正しい方向への第一歩」。アシックスのサステナビリティマネージャー吉川美奈子氏も、これは「始まりに過ぎない」と言う。

オールバーズは世界一サステナブルなランニングブランドになる?

2050年を待たずにカーボン排出量ゼロを目指すオールバーズは、その道のりの長さを自覚している。でも、アディダスとカーボンフットプリントが2.94kg CO2e(温室効果ガスをCO2に換算した数値、つまりカーボンフットプリントの単位)のフューチャークラフトを開発するなどして、この業界のイノベーションを牽引している。サトウキビ、ユーカリ、ゴム、メリノウールのような天然の再生可能原料を使用して、オールバーズは原材料の使用とカーボンフットプリントを2025年末までに25%削減する見込み。とはいえ、「持続可能な方法で調達された原料を75%使用する」という同社の目標には、いまのところ天然素材とリサイクル素材の両方が含まれている。「長期的にはバイオベースの天然素材の使用を考えています」とフィンク。「再生可能な資源でカーボンの排出量が少ない上に、再生型の素材ですから」

もっともエシカルなランニングブランドは?

group of women running through urban area
MoMo Productions//Getty Images

材料科学の探究も、Hyloが掲げるビジョンの1つ。同社は現在、オーガニックコットン、トウモロコシ、藻、天然ゴムを使用して、原料の60%がバイオベースのシューズを生産している。「その道のりは長いですが、新しいシューズの開発において私たちは、パフォーマンスをただ高めるだけでなく、100に高める方法を考えます」とドウティは説明する。

同様にZen Running Clubは、シューズのパフォーマンスに重点を置きながらも、トウゴマ、ユーカリ、天然ゴム、サトウキビでイノベーションを試みている。まだ発展途上ではあるけれど、この企業は着実に進歩している。「もうすぐシューズの素材の60%がサトウキビになりそうです」とシノット。「数年前は、これが30%止まりでした」

では、俗に言う“スーパーシューズ”はどうだろう? スーパーシューズは、化学物質の力で着地の衝撃を前進力に変えるミッドソールを搭載している。「私たちは窒素を注入したバイオベースの素材を作るため、バイオテクノロジーに多大な労力を注ぎ込んでいます」と説明するのは、Zen共同創業者のアンディ・ファーンワース。バイオテクノロジーの時代到来を感じるけれど、「カーボンプレートとエコなロッカーソールを搭載したスーパーシューズの開発には至っていません」

再生可能な素材への移行は、サステナビリティの実現に向けた大きな一歩になるかもしれない。しかし、ラヒミファード教授いわくオーガニックの素材は分解時にメタンを発生する。メタンは強力な温室効果ガスなので、ライフサイクル全体における環境負荷の評価にはメタンを含めなければならない。それゆえにオールバーズは、ニュージーランドで用いられる再生型農業の技術を活かし、カーボンを吸収するウールの使用をソリューションの1つとしている。このウールの生産過程では、カーボンが排出される以上に吸収される。

フットウェア業界におけるプラスの変化は、さまざまなスピードで起きている。でも、私たち個人の取り組みを語る上で最も効果的なのは、単純に消費量を減らすこと。いまの消費行動を続けるのは実質不可能。ラヒミファード教授は、世界中の人が一般的な米国市民と同じ速さでモノを消費しようとしたら、地球5個分の資源が必要になることを証明した論文を引き合いに出す。

マインドセットの転換は私たち個人だけの問題じゃない。「フットウェアメーカーを含む製造者に求められるもっとも重要なアクションは、モノの大量生産や消費の拡大を促すことなく、経済を成長させる方法を特定することでしょう」とラヒミファード教授。とはいえ、私たち消費者にも重要な役割がある。「消費者も変わらなければなりません」とブレイスウェイト。「消費者の意識と行動もシフトする必要があります」

あなたも地球環境保護の一翼を担いたいなら、シューズの買い替え時に、できるだけサステナブルなオプションを選んでほしい。RunRepeatによると、これであなたのカーボン排出量が約9%削減できる。でも、「一番効果的なのは年間のシューズ購入数を一足でも減らすこと。これでカーボンフットプリントが3分の1減少します」

※この記事は、イギリス版『Runners World』から翻訳されました。

Text: Lily Canter Translation: Ai Igamoto