理想的ではないけれど、ランナーのヒザに鋭い痛みや違和感が生じるのは珍しいことじゃない。ランナー膝でも、そうでなくても、ランニングの最中やあとはヒザが痛くなりやすい。

でも、その原因さえ突き止めれば予防や対策を講じられる。このガイドを参考に正しい走り方やシューズの選び方を習得し、ヒザの痛みを過去のものにしてしまおう。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しくご紹介。

ランニングでヒザが痛くなる5つの理由

ヒザに痛みが生じる理由は1つじゃないし、自分で調べられるとも限らない。困ったときは、整骨医や理学療法士に相談を。

でも、よくある原因に関する知識を付けて自分の症状と照らし合わせたいという人は、このまま読み進めてほしい。整骨医のナディア・アリバイがランニングでヒザが痛くなる原因のトップ5を詳しく解説してくれた。

1.ランナー膝(膝蓋骨の痛み)

アリバイ医師によると、ヒザが痛くなる理由としてとくに多いのは太ももの筋肉(大腿四頭筋)が弱いこと。「大腿四頭筋が弱かったり、筋肉のバランスが悪かったりすると、膝蓋骨が上下ではなく左右に動いてしまうため、摩擦と炎症が生じます」

症状:ランナー膝を発症すると、膝蓋骨(膝小僧)の下部に痛みが生じる。ランニングや階段の上り下りをしたあとはとくに痛い。

2.ジャンパー膝(膝蓋腱炎)

「ランニングを続けていると、膝蓋腱に反復的なストレスがかかります。これが炎症につながってヒザの痛みを引き起こします。膝蓋腱は膝蓋骨と脛骨(スネの骨)をつなぐ腱で、ヒザから下を伸ばすために必要です」

症状:ジャンパー膝の症状は、膝蓋骨の下部およびスネの上部の痛み。階段の上り下りをするだけで痛いけれど、走ったときはとくに痛い。

3.半月板損傷

「ランナーが痛めやすいのは半月板の外側よりも内側です。半月板を損傷すると、その瞬間になにかがポンと外れるような音や感覚がすることもあります。その後はヒザが腫れてズキズキしたり、座ったあとはとくにヒザ関節が硬くなったりします。ヒザに引っかかり感が生じて、曲げ伸ばしが困難になることもありますね」

4.腸脛靭帯症候群

ITバンドとしても知られる「腸脛靭帯は、太ももの外側を縦に走る組織の帯で、股関節の上部にくっ付いている大腿筋膜張筋とヒザの外側を結んでいます。大腿筋膜張筋が硬くなって縮むと、腸脛靭帯が引っ張られ、ヒザの外側や腸脛靭帯そのものが炎症を起こすため、ランニング中にヒザの痛みが生じます。腸脛靭帯症候群のもっとも一般的な要因はオーバートレーニング。ウォームアップやクールダウンの不足が原因になることもあります」

症状:ランニングを始めてから5分くらいでヒザの外側に刺すような鋭い痛みが生じ、走り終わると痛みが治まる。でも、重症の場合は、ランニングを終えたあとも痛みが続き、歩行が困難になることも。腸脛靭帯症候群の痛みは通常ヒザの外側に現れる。

5.変形性関節症

「ヒザ関節を覆う硝子軟骨がすり減ると、ランニング中に骨と骨がこすれて痛みが出ます」

症状:ヒザの腫れ。ランニングや日常的なアクティビティで、ヒザに硬直感や痛みが生じることもある。

ランニングでヒザが痛くなるのを防ぐには?

これはヒザの痛みの根本的な原因次第。例えば、ランナー膝の原因は筋肉の不均衡にあることが多いので、それが分かれば治し方も見えてくる。

ヒザの痛みの原因がランニングそのものではなく、筋肉の衰弱、走る場所、不適切なランニングシューズといった外的要因にあることも。ここからは、このような外的要因でヒザに痛みが生じる仕組みと、それぞれの対処法を見ていこう。

1.筋肉が弱い/筋肉のバランスが悪い

「ランニングでは、いつも真っ直ぐ走るとは限りません。ぐねぐねした道を通ったり、地面の凹みを避けたり、交通量の多い市街地では急に止まったりする必要が出てきます」とアリバイ医師。「ヒザを取り巻く筋肉が弱いと、急な一時停止や方向転換でヒザの関節が衝撃を受けてしまい、痛みが出ることも考えられます。ヒザの関節を支えるためには、ヒザ周辺の筋肉を強化・ストレッチしておくことが大切です」

体は賢いと同時にバランスが悪いので、あなたが走れば走るほど一部の筋肉が優勢になり、ほかの筋肉の分まで働くようになってしまう。これが続くと、さまざまな部位に問題が生じるので、筋肉の左右差をなくす努力が必要。

改善策:ランナーにも筋トレが必要なのは、まさにこの理由から。おすすめのルーティンは後ほど紹介。

2.地面が硬い

硬い地面(コンクリートなど)はランニングの衝撃をあまり吸収しないので、ヒザに返ってくる力が大きい。

改善策:芝や土砂といった柔らかい地面を走れば、ヒザが痛くなりにくい。

3.ランニングのフォームが悪い

人の体は1つひとつ違うけれど、ランニングには正しい走り方というものがある。

「土踏まずがない人や中臀筋が弱い人は、ヒザが少し内側に倒れた状態で走ります。骨盤が傾いていたり左右の脚の長さが違ったりするせいで股関節屈筋が硬くなっている人も、ランニングのフォームが崩れがちです」とアリバイ医師。「フォームが崩れるとヒザ関節に過剰な負担がかかり、ヒザに痛みが生じます」

改善策:ランニングを始めたばかりの人は最初から無理をせず、強度を徐々に高めていくこと。また、ストライドを広くしすぎたり(足が体の真下ではなく前に着地するケース)、ヒザが内側に倒れたり、足を引きずるように走ったりすることがないように注意して。

4.ランニングシューズが合っていない

自分に合わないランニングシューズは、さまざまな問題を引き起こす。ランニングシューズには、クッション性の高いものからサポート力が高いものまでいろいろあるけれど、ヒザを痛めることなく走るためには、適切なシューズの選び方を知っておくことが大切。

「サポート力やクッション性の低いランニングシューズでは、足首、ヒザ、股関節に伝わる衝撃が大きくなります」とアリバイ医師。「ランニングを始めたばかりの人がペースを上げすぎるのも、筋肉、関節、靭帯の負担になるので危険です」

改善策:アリバイ医師によると、ランニングシューズを選ぶときは以下の9つのポイントをチェックするべき。

1.つま先からかかとまで、しっかりフィットする。シューズを履いたら、つま先でピアノが弾けるくらいのゆとりがあることも確かめて。
2.いつも通りのストライドで楽に走れる。
3.シューズを買うときは必ず足のサイズを測ってもらう。シューズのサイズはメーカーによって違うので、試着するのも忘れずに。
4.インソールが自分の足の形をしていて手触りがよく、足を動かしにくいと感じたり擦れたりすることがない。
5.かかとの履き口のカーブや裏地がアキレス腱を刺激しない。
6.ヒールの形状がよく、足首を動かしやすい。
7.シューズのトゥーガード(つま先が入る部分)は、つま先を守る緩衝材で覆われている。この部分が縦にも横にも十分広く、足の指を重ねずに曲げたり広げたりできることを確かめて。
8.アウターソール(地面に接するゴムの面)が軽量で柔らかく、足元を安定させる耐久性とグリップ力を持ち合わせている。
9.フォアフット(足の前のほう)に入っているクッションは、足の構造を守ってくれる。理想的なのは、クッション性と地面を押している感覚の両方がバランスよく得られるシューズ。

ランニングはヒザに悪い?

これは昔からある疑問。ランニングによるケガで走れなくなった人はみな「間違いなくヒザに悪い」と言うし、先ほどのようにヒザの痛みの原因を並べられると、どうしてもランニングがヒザの関節によいようには思えない。でも、アリバイ医師によると、ランニングがヒザに悪いと言えるのは、あなたのヒザが弱いときだけ。

「ランニングは、適切な部位を鍛えていれば安全に楽しめるスポーツですが、鍛えなければもっとも危険なスポーツの1つになります。ランニングがヒザに悪いと言えるのは、ヒザ関節を取り巻く筋肉が弱いせいで関節が十分にサポートされず、関節に大きな負担がかかる場合。ランニングの初心者は、走り出す前にヒザ関節周辺の筋肉を強化して、柔軟性を高めておく必要がありますよ」

ランナーにとってもっとも重要なことの1つは筋トレ。ここからは、その理由を見ていこう。

ランナーにも筋トレが大事な理由

「筋トレをすると、ヒザ関節および周辺の筋肉が強くなります」と説明するのは、理学療法士でピラティスインストラクターのトレイシー・ワード。周辺の筋肉の一例は股関節屈筋。「股関節屈筋は、ヒザのアラインメントだけでなく体の左右の動きもサポートします」

抵抗する力に反して動く必要のある運動は、なんでも筋トレになる。その意味では自重トレーニングも立派な筋トレ。筋肉の増強に適した自重トレーニングは、ランナーにとって欠かせないものであると同時に筋持久力の強化にもなる。

「筋トレをすると筋持久力が高くなるので、長距離を走ったり頻繁に走ったりするのが楽になります」とワード。「筋トレは前に走るだけのランニングとは違う種類の刺激になります。筋肉を継続的に適応・成長させることができる点でも筋トレはオススメですね」

ランナーにとって理想的な筋トレの頻度とは?

「筋量と筋力の維持・増強でランニング中のケガからヒザを守りたいのであれば、週に少なくとも3回は筋トレをしてください」と話すのは、オンライントレーニングプロバイダ『P.Volve』専属理学療法士のエイミー・フーバー。「ヒザは蝶番のような関節なので、衝撃のほとんどは、ヒザよりも可動性の高い下半身の関節(足、足首、腰から足の付け根にかけて)で吸収したいところです。腰から足の付け根にかけての筋肉がランナーにとって重要なのは、そのためですね。この部位には下半身でもっとも大きく、もっともパワフルな筋肉が集まっていますから」

でも、デッドリフト、スクワット、ランジといったエクササイズで下半身だけ鍛えていればいいというわけじゃない。正しいフォームで走るためには体幹の強さも必要。

「ランニングをはじめとする衝撃の高い運動には、脊椎と骨盤を支えるだけの体幹の強さが必要です」とフーバー博士。運動には矢状面、前額面、水平面という3つの面があるけれど、「ランニングは矢状面中心の運動なので、ランニングをしていると、その面の運動に必要な大腿四頭筋やハムストリングスといった筋肉が強くなります。でも、体のバランスと対称性を維持するためには、筋肉を3つの面で鍛えなければなりません」

走っている最中にヒザの痛みを感じたら?

ランニング中にヒザが痛くなったときや、なかなか痛みが引かないときは、次の行動を取ってほしい。

「ヒザに痛みが生じたら、1~2日はアイシングをしつつヒザを休ませてあげましょう。そのうえで原因を探ります。ランニング中に転んだり、ヒザをひねったりしませんでしたか? 慣れないシューズで走ったり、凸凹道を走ったり、いつもより長い距離を走ったりしましたか? 間を開けず、頻繁に走りすぎている可能性もありますね」

「痛みが続くときや原因が分からないときは、理学療法士に診てもらいましょう。理学療法士なら、ケガの診断に基づいたリハビリプランを立てるだけでなく、シューズ、ペース、ランニングや筋トレのスケジュールに関するアドバイスもすることも可能です。また、キネシオテープを使うとリハビリ中の痛みが和らぎ、治りが早くなりますよ」

ヒザの痛みを和らげるストレッチ

筋肉が硬くなりすぎてヒザ周辺の靭帯を引っ張ってしまうのは、ランナーによくある問題。

スポーツ医学専門誌『Sports Medicine』掲載の論文によると、「近年の研究によってストレッチは、腱が有する粘性に大きな影響を及ぼすことが分かっている」。つまり、ストレッチをすれば腱が強い衝撃に耐えられるようになるので、ケガのリスクが下がるということ。

ランニング前後のストレッチの重要性を疑問視する声もあるけれど、やるだけの価値があることを示す事例証拠は星の数ほど存在する。

そこで今回は、アディダスのアンバサダーでランニングコーチのチャーリー・ブラウンがヒザを痛めたランナーにオススメのストレッチをデモしてくれた。

どのストレッチも、伸びた状態で少なくとも1分はホールドしよう。長いと思うかもしれないけれど、これでヒザを守れるのなら万々歳。

1.立った状態で大腿四頭筋ストレッチ

standing quad stretch

HOW-TO:体の後ろで片方の足の甲をしっかり掴む。両ヒザを揃えて、股関節を前に押し出すイメージ。

なぜ:1日の大半を座って過ごす人は大腿四頭筋に頼りがち。脚の前面が頑張りすぎると、そのツケをヒザが払うことに。

2.股関節屈筋のストレッチ

hip flexor stretch

HOW-TO:右脚を大きく前に出した状態で、左ヒザを床につく。体を前に倒して股関節を伸ばしたら、左右を入れ替える。

なぜ:大腿四頭筋と同様、座りがちの生活を送っていると股関節屈筋が冗談抜きで硬くなる。そこにランニングを加えれば、股関節が縮んでばかり。

クロストレーニングには左右の動き(サイドランジなど)も加えよう。

3.ヒザを胸に引き寄せる

knees to chest

HOW-TO:仰向けになり、胸の前で両ヒザを抱き締める。

なぜ:これは腰の緊張をほぐすストレッチ。理学療法を受けると一瞬で分かるように、体は頭のてっぺんからつま先まで見事につながっている。

体の背部には、さまざまな結合筋肉、靭帯、腱が走っているので、その1つ、例えば腰が硬くなると(体幹が弱いランナーにありがち)、そこから遠く離れていてもヒザに問題が生じてしまう。

4.バタフライ

butterfly

HOW-TO:床に座って背筋を伸ばし、両足の裏を合わせてヒザを地面に押し付ける。ヒジを使ってヒザを押してもいいけれど、背中が丸くならないように気を付けて。

なぜ:このストレッチで内もも、股関節、鼠径部を伸ばせば、股関節が柔軟性を取り戻す。正しいフォームとストライドを維持して走り、ケガや痛みを防ぐためには欠かせないストレッチ。

5.脚をクロスさせた状態で側屈

crossed leg side bend stretch

HOW-TO:片方の脚に重心を置き、その後ろで反対の脚をクロスする。上体を横に倒して、両腕を頭上で伸ばす。

なぜ:これは腸脛靭帯を全体的に伸ばすストレッチ。腰の外側と太ももの筋肉が硬くなると、ヒザ関節が引っ張られてしまうので、このストレッチで体の側面をほぐしておこう。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Morgan Fargo and Bridie Wilkins Translation: Ai Igamoto