ヘルス&フィットネスの世界には、フェッドステイト(食べてから行う)トレーニングを好む人とファステッドステイト(空腹状態で行う)トレーニングを好む人の2種類がいる。フリーランスジャーナリストである私と私の友人たちは後者。これといった理由はないけれど、私は早朝にトレーニングをすることが多いし、おなかがいっぱいの状態でスクワットやデッドリフト、ランニングをするのはつらい。

でも、最近はフェッドステイトトレーニングが運動パフォーマンスの向上や筋成長のカギを握る重要な要素であることを示唆する研究結果やエキスパートが増えている。そこで私は、フェッドステイトトレーニングが本当に有益で、フィットネスの目標達成に役立つものかどうかを確かめることにした。

結局のところトレーニングは、ハードというよりスマートにしてなんぼだから。

私は2人の専門家、女性の心理学に詳しい科学者で著書に『ROAR』を持つステイシー・シムズ博士と、栄養・体重管理コンサルティングサービス『Dietitian Fit』のクリエイターで公認管理栄養士のカリーヌ・パテル氏ーのアドバイスを受けながら、最初の2週間はファステッドステイト、次の2週間はフェッドステイトでトレーニングするというチャレンジを開始した。

平等な条件で比較するため、この1カ月間、他の要素(トレーニングの内容、曜日、所要時間など)は変えなかった。食事内容も極力維持して、トレーニングの前後では必ず燃料補給を行った。そして、夜9時半頃ベッドに入り、朝6時半頃起きるという出来るだけ規則正しい睡眠パターンの維持に努めた。

果たして結果は? このままスクロールして、ファステッドトレーニングとフェッドステイトトレーニングのメリットとデメリット、そしてどちらかが本当に優れているのかを確かめて。

1週間のトレーニングスケジュール

4週間にわたって私は、通常通りのトレーニングスケジュールをキープした。そのほうがトレーニングを無事に終え、2つのメソッドを比較して、その違いを公平に判断できる可能性が高くなるから。

私は筋トレが大好きで、フリーウエイトでも自重でもピラティスでも何でもする。通常は(気力次第で)週に4~5回、下半身・上半身・全身の筋肉群をそれぞれ別の日に鍛えている(俗に言うワークアウトスプリット)。

筋トレは私のフィットネスルーティンの要。

一番好きなのはスクワット、デッドリフト、チェストプレスなどのコンパウンドエクササイズ。でも、この2~3カ月は体幹を重点的に鍛えるためのエクササイズを増やしている。それに加えて週に一度は外を走るようにしているけれど、冬は朝晩が特に暗いのでモチベーションがなかなか上がらず、縄跳びに切り替えることが多い。

そのため、この4週間は次のようなスケジュールでトレーニングを行った。

月曜日-上半身のウエイトトレーニング
火曜日-休養日
水曜日-下半身のウエイトトレーニング
木曜日-体幹重視のピラティスワークアウト
金曜日-全身のウエイトトレーニング
土曜日-休養日
日曜日-ランニングか縄跳び

休養日(私には絶対必要)も通常通り取得した。ファステッドステイトの2週間は文字通りトレーニング前に何も食べず、フェッドステイトの2週間はスポーツ栄養士のパテル氏の指導下でトレーニングの約2時間前に朝食(オートミールや卵)か、30~60分前に単純糖質が多いスナック(バナナ1本やベーグル半分)を摂取した。

そもそも“ファステッド”と“フェッドステイト”のトレーニングとは

シムズ博士によると、ファステッドトレーニングはトレーニングの2~3時間前に食事をすることなく実施するトレーニング。

一方のフェッドステイトトレーニングは食後の数時間で行うトレーニング。「食後数時間というのは、ちょうど体が栄養を吸収し、血糖値とインスリン値を上昇させて、食欲を増進させるホルモンを減らし、闘争・逃走反応を引き起こすストレスホルモンのコルチゾールとエピネフリン(アドレナリン)の値を下げている時間です」とシムズ博士。

フェッドステイトトレーニングのメリット

homemade rustic muffins with cheese pepper and vegetables
Stefan Tomic//Getty Images

エッグマフィンは私がトレーニング前に好んで食べるスナック。

シムズ博士によると、フェッドステイトトレーニングには以下のようなメリットがある。

・自覚的運動強度(RPE)が低下するので、ハードなトレーニングがさほどきつく感じなくなる。

・無酸素性運動能力が向上するので、より長く、よりハードなトレーニングができるようになる。

・トレーニング後の筋肉のタンパク質合成を促すシグナル伝達が増強される。筋肉のタンパク質合成は新しい筋肉を作る上でも役に立つ。

・運動中と運動後のコルチゾール値が低下する。「むしろ、コルチゾールの生成量自体が減ると言ったほうがいいですね」とシムズ博士。「食べたあとなら、コルチゾールを使って活動中の身体組織に燃料を届ける必要性が減りますから」

・内分泌機能(ホルモン分泌プロセス)を低下させる視床下部(体内のバランスを維持して、内分泌系と神経系をつなぐ役割を担う脳の領域)へのシグナル伝達が減少する。ただし、「内分泌機能を低下させるシグナル伝達を止めるためには、運動後45分以内に食べる必要もあります」とシムズ博士。こんなときこそプロテインシェイクが役に立つ。

・スポーツ医学専門誌『Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports』に掲載された2018年の論文レビューによると、フェッドステイトトレーニングは有酸素性運動能力を向上させる。言い換えれば、体が酸素を上手に使えるようになるので、いままで以上に身体的負荷の高い運動ができるようになるということ。

フェッドステイトトレーニングのデメリット

私は上半身と下半身をそれぞれ別の日に鍛えている。

食べ物が完全に消化されていない状態でトレーニングをすると、体がだるくなったり満腹で動けなかったりすることがある。

これまでの研究により、おなかがいっぱいの状態で運動すると吐き気を感じる可能性が高いことも分かっている(私もその1人)。「そのため運動前は適切な物を食べ、その食べ物に対する体の反応を見てから運動を開始することが大切です」とパテル氏。

シムズ博士によると、トレーニング前に食べすぎて「運動能力が下がってしまう」人もいる。じゃあ、トレーニング前に食べるなら、どのくらい食べればいいの?

運動前は120~150kcalのカロリーを摂取しましょう。そうすれば血糖値が上がり、コルチゾールによるストレス反応が弱まって、運動能力が向上します」とシムズ博士。「これまでの研究から、有酸素運動の前は糖質を30gほど、筋トレの前はタンパク質を15gほど摂取するのが適当とされています」。でも、本当は糖質とタンパク質を組み合わせるのが理想的。「90分以上のトレーニングをするときは、トレーニングの途中でも燃料補給をしてください」

ファステッドステイトトレーニングのメリット

これはまだ完全に明らかになっていない。シムズ博士いわくファステッドトレーニングをしても「女性にとってよいことは何もない」。その一方でパテル氏は「ファスティングとトレーニングに関する研究のほとんどは女性ではなく男性を対象に行われたものなので、女性に対するファステッドトレーニングのメリットは分かっていません」と説明する。

ちまたでは、空腹状態で有酸素運動をすると体脂肪が燃えやすいと言われている。表面上は確かにそう。

でも、栄養学専門誌『British Journal of Nutrition』に掲載された2016年のメタ分析結果を見ると、それは一時的なことに過ぎない。つまり「空腹状態で有酸素運動をしている間は脂肪の燃焼率が高まりますが、長期的に見ると、それで全身の体脂肪が減るわけではないということです」とパテル氏。

ファステッドステイトトレーニングのデメリット

栄養・代謝学専門誌『Current Opinion in Clinical Nutrition and Metabolic Care』に掲載された2023年の論文レビューによると、ファステッドステイト(この研究では体内の糖質が少ない状態を指す)トレーニングは筋肉のタンパク質合成を遅らせて、無酸素性運動能力を低下させる。

しかも、空腹状態でトレーニングを行うと、体は大事な生殖機能のために脂肪と糖質を温存しようとするので、筋肉がエネルギーとして使われる可能性が高くなる。

そのため「女性から『体組成を改善するためにファステッドトレーニングをしている』という話を聞くと『えっ、体脂肪を増やして筋肉を減らしたいの?』と思わずにいられません」とシムズ博士。

今回の比較検討から学んだ教訓

smiling female athlete carrying kettlebell while standing by wall in gym
Cavan Images//Getty Images

この4週間で私が学んだことを話す前に伝えておきたいことがある。今回のチャレンジはジャーナリズムの名の下に行われたものであり、専門家の指導を受けずに似たようなチャレンジをするのは勧められない。また、私たちの体は1つひとつ違うので、あなたの結果と私の結果は大きく異なる可能性が高い。私が得た教訓をトレーニングに活かしてほしいとは思うけれど、何よりも大事なのは自分の体の声であることを忘れずに。

1.慢性的に疲れているのは“普通”じゃない

最初にファステッドトレーニングを持ってきたのは、もともと私が空腹状態でトレーニングをすることに慣れていたから。それに、4~5年続けて成果が出ている方法を変える必要はないでしょう?

この2週間を終えたあとは例のごとく疲れていたけれど、それは私だけじゃないはず。実際、慢性的に疲れている人があまりにも多いことから、英国民医療サービスNHSは“Tired All The Time”の頭文字を取って“TATT”という略語まで生み出した。でも、フェッドステイトトレーニングをしてみて初めて分かった。いつも疲れているのは当たり前のことじゃない

2.食べると頭がシャキッとする

パテル氏はトレーニング中のプロテインシェイク摂取を勧めていない。

アトピーや過敏性腸症候群の治療に腸内環境が絡んでいるのは周知の事実。でも、腸内細菌叢が独自の体内時計を持っていて、24時間周期で動いていることはあまり知られていない。

私はフェッドステイトトレーニングを通して、それをじかに体験した。食べ物が燃料であることは当然分かっていたけれど、朝食が消化された直後は頭がシャキッとして、その日の仕事とトレーニングに対する心の準備が整う気がした。案の定、トレーニングを終えたあとはメンタル的にもフィジカル的にも最高の気分だったし、トレーニングの効率も上がったと思う。

3.食べるとすぐにヘタらない

フェッドステイトでは運動中も運動後もグッタリしなかった。

これはトレーニングの前と最中だけの話じゃない。私の場合、トレーニング前に食べたことによる影響が1日中続いた気がする。

通常、私はファステッドトレーニングの直後にエンドルフィンの分泌を感じ、その波に午後2時まで乗っていられる。けれど、そこでその日最後のコーヒーを飲んだとしても午後3時のスランプは避けられず、とぼとぼと歩きながら午後5時のフィニッシュラインを切ったときにはエネルギーが完全に枯渇している。

ところが、フェッドステイトトレーニングを始めてからは午後3時のスランプに陥ることも、午後5時で力尽きることもなくなった。単なるプラセボ効果かと思ったけれど、パテル氏いわく、そうではないことを示すエビデンスがある。

「トレーニングの前に燃料、特に単純糖質(糖やデンプンは消化・吸収されやすく、すぐに燃料として使える)を補給すると、パフォーマンスが向上し、より強度の高いトレーニングが行えるようになります」とパテル氏。

「これは、その糖質がトレーニングの燃料になるからです。なお、トレーニング前に摂取したタンパク質は少しずつ消化され、トレーニング後の筋修復に使われます」

4.自分に合った時間帯を見つけることが大切

フェッドステイトトレーニングの2週間で、私には食べてから2~3時間後にトレーニングをするのが一番良いことに気付いた。実際は、もう少しあとに食べても、吐き気を感じることなく朝9時前にトレーニングを終わらせることができると思う。

これまでの研究から、女性がトレーニングをするのにもっとも適した時間帯は早朝とされていて、これには私も同意する。でも、早朝が万人に適しているわけじゃない。トレーニングのモチベーションを維持するので一杯いっぱいのところに時間帯という条件を付け加えるのは、火に油を注ぐようなもの。トレーニングに最も適した時間帯は、あなたにとって都合のよい時間帯。

5.自分に合った物を食べることも大切

私は筋トレの前にピーナッツバターを塗ったベーグルを食べることが多い。

ご存じの通り、食べ物の好みは人それぞれで、あなたが食べたいと思う物を他の人が食べたいと思うとは限らない。これはトレーニングの種類にも言えること。

私の場合、ランニングのあとはバナナしか食べられなかった(長距離を走ると気持ち悪くなるというのは本当)。でも、45分の筋トレ前は、ピーナッツバターを塗ったベーグル(半分)やエッグマフィン、プロテインヨーグルトを食べても問題なく消化して、トレーニングの燃料にすることができた。

私と同じくトレーニングの前にガッツリ食べられないタイプの人には「バナナがいいですね」とパテル氏。「ベリーやブドウといったフルーツも、消化されやすい糖質源なのでオススメです」

でも、トレーニング中にプロテインシェイクを飲むのはオススメできない。「プロテインシェイクは高タンパク・低糖質なので、トレーニング前に飲んでも十分な燃料補給になりません」とパテル氏。「その一方で、牛乳とバナナ、フルーツで作ったスムージーは非常に効果的と言えるでしょう。フルーツは丸ごと食べるより液体にしたほうが消化されやすいですよ」

結論

フェッドステイトトレーニングを始めてからわずか3日で、私は自分の体の状態が大きく違うことに気付いた。その日の私は、個人的に上半身のトレーニングよりきついと思う下半身のトレーニングをしていたけれど、45分が経過しても頭が超シャキッとしていて、いつもより高重量でスクワットやランジ、レッグプレスができそうなくらい元気だった。

2週間のフェッドステイトトレーニングを終える頃には、疲労のあまり足を引きずりながら走っているような感覚も、ベッドを出てトレーニングをすることが急な上り坂のように感じることもなくなった。むしろエネルギーが湧いて自分が力強く思えたし、トレーニングの成果が“本当に”出ている気がした。

正直なところ、ランニングの前に食べるのはいまでもつらく、バナナ1本で精一杯。でも、パテル氏はそれで十分と言っていたので、今後完全に空腹の状態でトレーニングをすることはないと思う。今回の専門家たちの言葉にはかなり説得力があったし、私は自分の体の声に耳を傾けることの重要性を心から信じている。それに開始からたった2週間で私の体調を改善したトレーニングメソッドをやめる必要はまったくない。

このチャレンジを終えたいま、私の体と心にはフェッドステイトトレーニングのほうが良いと言い切れる。この方法で行くためにはトレーニングの時間帯を30分から1時間遅らせなければならなかったけれど、食べ物を十分に消化して、パフォーマンスとトレーニングの成果を高められるようになったことを思えば小さな犠牲。

私にとって最大の変化は、いままで以上にエネルギーが湧いて自分が強く感じるようになったこと。睡眠の質も改善した。これまでも睡眠は優先してきたし(夜9時には寝るタイプ)、もともとよく眠れるほうだと思うけれど、朝の目覚めは(極寒の朝でさえ)良くなった。

2週間という期間は、筋肉の付き具合などで見た目の変化を実感するには短すぎる。でも、私にとっては前述の変化が十分大きな意味を持つ。だから私は、これからも間違いなくフェッドステイトトレーニングを続けていくと自信を持って言い切れる。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Rebecca Shepherd Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。