自分のコレステロール値を気にしたことがない人も、俗に言う“悪玉”コレステロール値が高いのは体に悪いということだけは知っているはず。悪玉コレストロール値が高すぎると、心臓発作や脳卒中、末梢動脈疾患などのリスクが高くなる。

でも、いま現在、悪玉コレステロール値が高いからというだけで悲観的になることはない。とくに、あなたがランナーの場合は将来に希望が持てる。ランニングのような持久力系エクササイズは、悪玉コレステロールを減らす一方で善玉コレステロールを増やすことが分かっているため、コレステロール値の管理に役立つ。

もちろん、普段から走っていればなにをしてもいいというわけじゃない。食習慣は当然ながら、飲酒や喫煙といった生活習慣も運動と並行してコレステロール値に影響を与えるからだ。でも、これらは通常パズルの小さなピースに過ぎず、高コレステロール血症の数ある要因の一部に過ぎない。高コレステロール血症は遺伝する可能性があり、年齢、性別、人種・民族、体重、一部の基礎疾患に起因することもある。

さて、早速本題に入りたいところではあるけれど、まずはコレステロールの基礎知識を押さえておこう。

そもそもコレステロールとは?

英スポーツ・運動・健康研究所(ISEH)の循環器専門医ナイジェル・スティーブンス博士によると、コレステロールはステロール(小さな分子)の一種で、人体の細胞膜に不可欠な構成要素。

肝臓と一部の食品によって作られるコレステロールは、血液中のタンパク質によって全身に運ばれて、体内の細胞の健康を維持するために使われる。

コレステロールとタンパク質が結合した物質はリポタンパク質と呼ばれており、リポタンパク質には、“悪玉”コレステロールとして知られる低比重リポタンパク質(LDL)と、“善玉”コレステロールとして知られる高比重リポタンパク質(HDL)という主に2つのタイプがある。LDLはコレステロールを肝臓から血液中の細胞に運び入れる役割を持つ一方、HDLはコレステロールを細胞から運び出して肝臓に戻す役割を持つ。肝臓に戻ったコレステロールは分解されるか、老廃物として体外に排出されるか。

自分のコレステロール値を把握するには?

高コレステロール血症(悪玉コレステロールが多すぎる状態)は無症状の健康リスク。自分のコレステロール値を確認するもっとも簡単な方法は病院で血液検査を受けること。近親者にコレステロール関連の疾患を持つ人がいる場合はとくに検査を勧められる可能性が高い。

悪玉コレステロール値が高いとどうなる?

悪玉(LDL)コレステロールは私たちの動脈内に蓄積するため、その値が高い状態を放っておくと命取りになりかねない。

「悪玉コレステロールは血液中を循環しながら少しずつ酸化されます。ちょうどバターが常温で腐っていくような感じです」とスティーブンス博士。「酸化された悪玉コレステロールの粒子は有害で、血管内壁の炎症細胞と相互作用を起こします。酸化された悪玉コレステロールが多いのは、アテローム性動脈硬化(動脈が硬くなって狭くなる病気)の原因にもなります」

どの動脈も詰まる可能性を秘めており、実際に詰まると「心臓発作、脳卒中、血管性認知症のリスクが高くなるだけでなく、足の爪が剥がれたり、男性ではEDが生じたりすることもあります」とデイヤー博士は警告する。

悪玉コレステロール値が高くなる要因は?

悪玉コレステロール値はさまざまな要素によって高くなり、その中には自分でコントロールできるものと、残念ながらコントロールできないものがある。

スティーブンス博士によると、悪玉コレステロール値が高くなる最大の要因は遺伝。「一般的に、個人差の85%は遺伝的背景によるものです」。遺伝的に悪玉コレステロール値が高いのは、コレステロールを血液から取り除くために必要な遺伝子の1つに欠陥があるからであり、家族性高コレステロール血症(略してFH)と呼ばれている。この場合は、強力なスタチンを使用して悪玉コレステロール値の上昇を抑える必要がある。

コレステロール値には、その人の年齢、生物学的な性別、人種・民族も関係する。コレステロールとトリグリセリドは成人期を通して自然と増えるため、高コレステロール血症のリスクは年と共に高くなる。男性は女性よりも悪玉コレステロール値が高くなりやすい。これは南アジア系の男性にも言えること。甲状腺機能低下症をはじめとする一部の疾患も要因の1つとなりうる。

もちろん、過剰な飲酒、過体重、喫煙、不健康な食生活(飽和脂肪の過剰摂取など)、運動不足といった生活習慣的な要素も悪玉コレステロール値に影響を与えるけれど、幸い、このような要素は自分の意志で変えられるし、悪玉コレステロール値は食生活の改善と運動(ランニングなど)で下げられる。

ランニングでコレステロール値は下げられる?

active lifestyle
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運動でコレステロール値が下がるのは臨床的に証明された事実。これまでの研究により、定期的な運動は善玉(HDL)コレステロールを増やす一方で、悪玉(LDL)コレステロールとトリグリセリドの増加を防ぐ(理論的には相殺する)ことが分かっている。「アクティブな人、その中でもにとく持久力系の有酸素運動をしている人は、善玉コレステロール値が高い傾向にあります」とスティーブンス博士。「これは、ほぼ間違いなく、身体的にアクティブな生活を送っているとコレステロールの代謝がよくなるからでしょう」

とくにランニングはコレステロールと用量反応関係にあり、走行距離はコレステロール値に直接的な好影響を与えることが証明されている。医学専門誌『Jama Internal Medicine』掲載の研究結果は、善玉コレステロール値が走行距離の増加に伴って少しずつ改善し、軽度から中等度の強度で週11.2~22.5kmを走ったときにもっとも大きな変化が見られたことを示している。悪玉コレステロールとトリグリセリドの値、そして総コレステロールに対する善玉コレステロールの割合も週を追うごとに改善した。

また、内科学専門誌『Archives of Internal Medicine』掲載の研究結果を見る限り、走行距離が週80km以上の熱心なランナーは週16km未満のランナーよりもコレステロール値が改善しやすい。この研究では、前者の集団で善玉コレステロール値が臨床的に低い人の割合が85%低下して、善玉コレステロール値が臨床的に高い人の割合が後者の2.5倍に増加した。

悪玉コレステロール値は食生活の改善と運動で安全な範囲内に戻せる?

生活習慣の改善だけでは悪玉コレステロール値が下がらないこともあり、その場合には投薬が勧められる。

スティーブンス博士とデイヤー博士によると、危険なほど高いコレステロール値を下げるのにもっとも効果的なのはスタチンのような薬剤。スタチンは肝臓にあるHMG-CoA還元酵素(コレステロール合成に不可欠な酵素の1つ)を阻害することで悪玉コレステロール値を下げる。「実際問題として、心血管リスクが高い場合は薬で治療することになります」とスティーブンス博士。

一方のデイヤー博士は、日常の中で些細でも健康的な選択を積み重ねることの重要性を強調する。「要は、悪玉コレステロール値が高いことによる影響を他のありとあらゆることで減らすわけです。ただし、それで悪玉コレステロール値が大幅に下がるとは限りません。残念ながら、悪玉コレステロール値には遺伝と年齢が大きく関係していますから」

「でも、食習慣や生活習慣を改善すると、コレステロール値に限らず、多くの面でいい変化が現れます。そのときは、そういう変化を起こした自分を誇りに思うべきですし、それによって長生きできると思ってください」

悪玉コレステロール値を下げる食品は?

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循環器系疾患の研究を支援する英国の慈善団体The British Heart Foundation(BHF)は、飽和脂肪(加工食品、赤身肉、全脂肪の乳製品など)の摂取を控える代わりに、悪玉コレステロール値を下げるのに役立つ不飽和脂肪(ヒマワリ/オリーブ/菜種油などの植物油、ナッツ、シード、アボカド、脂の乗った魚など)を摂取するよう勧めている。

また、食物繊維が豊富な食品を摂取すると、腸から血液中に取り込まれるコレステロールの量が減るため、悪玉コレステロール値が改善する。そのため、米ハーバードメディカルスクールが発行する健康・医学情報誌『Harvard Health』は、食生活にオーツ麦のような全粒穀物、豆類、フルーツ、野菜をふんだんに取り入れるよう勧めている。

ファスティングで悪玉コレステロール値は低下する?

前述の通り、総コレステロール値はLDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセリドの値で構成されているけれど、デイヤー博士いわくトリグリセリド値は直近の食事内容に応じて若干アップダウンする。「そのため、ファスティングで総コレステロール値が変わることは考えられます。長時間のファスティングをすれば、コレステロール値は下がるでしょう」

でも、デイヤー博士が言う通り「ファスティングをずっと続けるわけにはいかない」ので、これは一時的な解決策と言わざるを得ない。
 
※この記事は、イギリス版『Runners World』から翻訳されました。

Text: Charlie Allenby Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。