睡眠時遊行症としても知られる夢遊病は、寝ている間に起き上がって動き回る睡眠障害。ベッドに座ってキョロキョロするだけの人もいれば、ベッドから出て歩き回ったり、出勤するために着替えてサンドイッチを作ったりするどころか、セックスをしようとする人もいる。

夢遊病は基本的に無害と言えども、窓から飛び降りたり、車を運転したり、凶行に及んだりしたのに自分は一切覚えていないという悲惨な結果をもたらした例もある。

そこで今回は夢遊病のトリガー、症状、治療法を理解するべく、心理学者でEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)療法士のシリン・アトチェケン博士に話を聞いた。夢遊病と思われる人に出くわした場合の対処法も併せてチェック。

夢遊病とは

夢遊病は睡眠時随伴症として知られる睡眠障害の一種。アトチェケン博士によると、睡眠時随伴症は「入眠の直前、睡眠中、覚醒途中に生じる異常な行動」で、睡眠麻痺(金縛り)も睡眠時随伴症に含まれる。

夢遊病はノンレム睡眠のもっとも深いステージ、つまり余波睡眠の間に起こる。アトチェケン博士いわく夢遊病者は「周囲の環境に対する認識や反応が限られている」にもかかわらず、通常は完全に意識のある状態で行うような単純な行動を繰り返すことが多いそう。

夢遊病は大人より子どもに多く、子どもの5人に1人は睡眠時遊行を経験すると言われるけれど、ほとんどの人は思春期前に夢遊病を卒業する。大人の夢遊病者は50人に1人程度。

夢遊病の症状

a sleepy woman suffering from somnambulism at home woman with somnambulism sleepwalking on a gray background
Tharakorn//Getty Images

睡眠時遊行は夜の早い段階(入眠から数時間以内)で起こることが多く、大抵は数分で終わるけれど長く続くこともある。夢遊病者本人は遊行していたことを一切/ほとんど覚えておらず、あとで同居人や家族から聞いて知るケースが多い。

睡眠時“遊行”といっても歩き回るだけが症状じゃない。他の睡眠時随伴症と同様、睡眠時遊行は睡眠と覚醒の間で起こるため、夢遊病の人には以下の状態や行動が見られる可能性もある。

  • うつろな目・ぼんやりした表情をしている
  • ベッドから出て家の中を歩き回る
  • ベッドに座り、目を開けてしゃべる
  • 無反応で、支離滅裂なことを言う
  • 起こされると、うろたえたり混乱したりする
  • 夜驚症(突然怯えたような叫び声などをあげて起きる症状)を併発する
  • 日中に疲労を感じる

「夢遊病者の中には、起きて座る、着替える、服の整理をする、家の中を歩き回る、引き出しを開ける、水を飲む、食べる、まったくつじつまの合わない話をするだけでなく、家の外に出てしまう人もいます」とアトチェケン博士。「睡眠時遊行中にバランスを崩したり、半無意識の状態で家具にぶつかったりしてケガをすることもあります」

夢遊病者は、キャットフードを食べたりクローゼットの中で排尿したりといった異常行動を取ることもある。階段から落ちたり車道に出たりして大ケガをすることもあれば、遊行中や突然起こされたときに暴力的になることもある。

夢遊病の原因

夢遊病の正確な原因は明らかになっていない。アトチェケン博士によると「深い睡眠のステージで睡眠時遊行が起こるのは、神経系からの異常な刺激で部分的に覚醒してしまうから」というのが睡眠の専門家たちの見解。

これには遺伝も関係しているようで、近親者に夢遊病や他の睡眠時随伴症の経験者がいる人はリスクが高い。また、以下のような生活習慣や疾患も睡眠時遊行の発生率を高くする。

  • 寝不足や途切れ途切れの睡眠
  • ストレス、バーンアウト、強いストレスを感じる出来事
  • 発熱(とくに子ども)
  • アルコールや娯楽的薬物の過剰摂取
  • 鎮静剤や催眠薬
  • 脳損傷(脳の腫脹など)
  • 閉塞性睡眠時無呼吸などの睡眠呼吸障害
  • レストレスレッグス症候群などの睡眠障害
  • うつ病や不安障害などのメンタルヘルス疾患
  • 胃食道逆流症やてんかんなどの基礎疾患

夢遊病は治療を必要としないケースが多い。これは睡眠時遊行そのものが非常に稀で、寝ている本人や周りの人に及ぶリスクも小さいから。でも、睡眠時遊行が頻繁に生じたり危険をはらむようになった場合や、日常生活に支障を来たし始めた場合は専門医に相談を。原因を特定し、それに合った治療を受けよう。

夢遊病の危険性

aggravated man punches a mirror
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夢遊病の危険性は睡眠時遊行の最中だけでなく、あとにも及ぶ。「夢遊病者は周囲の状況が把握できず、自分自身を傷つけてしまうことがあります」とアトチェケン博士。「睡眠時遊行中は事故に遭ったりケガをしたりする可能性がありますし、夢遊病が原因で寝不足になり、日中に眠気や疲労を感じたり、身体機能やパフォーマンスが低下したりすることもあります」

夢遊病者は、完全に起きているときは夢にも思わないようなこと(職場の同僚にメールをする、隣人に向かって叫ぶ、卑猥な行為に走るなどの行為)を睡眠時遊行中にしてしまうことがあり、これが羞恥心を生む。何らかの罪を犯したり、暴力を振るったり、人の命を危険にさらしたりすれば、法律問題に発展してもおかしくない。

睡眠時遊行中の人を起こすのは?

どうしても必要な場合を除いてNG。「睡眠時遊行中の人は、介入しようとする人に対する反応が非常に薄く、睡眠時遊行中のことを覚えていません」とアトチェケン博士。そのため睡眠時遊行中の人は、無理に起こされると混乱したり、怒りや恐怖を感じたりする。

アトチェケン博士によると、睡眠時遊行中の人を危険な場所や状況から離したいときは「やさしく」がキーワード。「彼らに危害が及ぶのを防ぐため、少し離れたところから観察して同行しましょう。必要であれば、穏やかな声をかけたり、そっと体に触れたりしながらベッドへ誘導してください」

夢遊病の治療法

sleeping disorder
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睡眠時遊行を完全に防ぐことはできないけれど、いくつかのステップを踏むことで起こりにくくすることはできる。アトチェケン博士いわく睡眠時遊行は大抵一時的なものなので、積極的な治療を要しない。でも、睡眠専門医による治療と特別な措置を要するケースはある。例えば:

✔️危険なものを排除する

アトチェケン博士によると、睡眠時遊行を管理するうえでなによりも重要なのは、有害となり得る環境要因を取り除くこと。「鋭利なものは手の届かないところに置いて、角の尖った家具は排除しましょう。窓を閉め、ドアに鍵をかけ、人感センサー付きのライトとドアの警報装置を設置することも大切です」

✔️トリガーに対処する

睡眠障害のトリガーを見つけて、それに対処するのも大事。日常的なストレスレベルを下げて、基礎疾患の治療を受けるのも、その一環と思ってほしい。「レストレスレッグス症候群や閉塞性睡眠時無呼吸などの疾患は、睡眠時遊行のリスクを高めるので治したほうがいいですね」とアトチェケン博士。「鎮静剤も睡眠時遊行の一因となるので、医師に相談して用量や薬の種類を変えましょう」

✔️睡眠衛生を改善する

就寝前のルーティンを完璧にして、できるだけ快適で心休まる睡眠環境を作るのも睡眠時遊行を防ぐ方法の1つ。「毎日同じ時間に寝て起きるようにして、十分な睡眠時間を確保しましょう」とアトチェケン博士。「カフェインのような刺激物やアルコールの摂取は就寝の4~5時間前にやめ、寝る前の時間はリラクゼーションに充ててください。パソコンやスマホの画面を見る代わりに瞑想したり、やさしい音楽を聴いたりするといいですよ。場合によっては、寝心地のいいマットレスに投資するのもいいですね」

✔️先回りして起きておく

睡眠時遊行は入眠後の数時間以内、それも毎晩ほぼ同じ時間に起こることが多いので、その時間の15分前にアラームをセットすれば、睡眠時遊行が起こるであろう時間帯に起きていられる。「パターンさえ掴めれば、その直前に起きることで睡眠時遊行を防ぐことができますよ」とアトチェケン博士。

✔️薬を飲む

ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用すれば、寝付きがよくなり、真夜中に目が覚めることが減り、朝までぐっすり眠れるようになるかもしれない。睡眠時遊行中のケガのリスクが高い場合や他の治療法が効かなかった場合は病院で処方される可能性があるけれど、睡眠薬は耐性と依存が生じやすいので一時的な処置として捉え、長期的に使用するべきではない。

✔️セラピーを受ける

認知行動療法(CBT)と催眠療法は、どちらも夢遊病に有効であることが小規模の研究で証明されている。メンタルヘルスを専門とするセラピストやカウンセラーは、ストレス関連の睡眠時遊行を防ぐためのテクニックにも精通している。
 
※この記事は、『Netdoctor』から翻訳されました。

Text: Annie Hayes Translation: Ai Igamoto

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伊賀本 藍
翻訳者

ウィメンズヘルス立ち上げ直後から翻訳者として活動。スキューバダイビングインストラクターの資格を持ち、「旅は人生」をモットーに今日も世界を飛び回る。最近は折りたたみ式ヨガマットが手放せない。現在アラビア語を勉強中。