人生で年を取ることは避けられない。そしてそれは、決して悪いことじゃない。でも、老化の進行を徐々に遅らせることができるとしたら? そこで登場するのが、500以上の酵素機能を担う「NAD+」という体内の重要な分子。このNAD+を摂れるサプリは、加齢に伴う身体的な影響(認知機能の低下や筋肉の減少など)を抑制できる可能性があると信じられているとか。果たして、その効果はどこまで本当なのだろう?

「NAD+の補完が認知機能や身体能力の向上、心血管の健康を支えるなど、NAD+が果たす重要な役割について長年探求されてきました」と話すのは、心臓病予防に特化した管理栄養士のミシェル・ラウテンシュタイン。「ですが、これらのメリットの全容と長期的な影響を理解するには、まだまだ多くの研究が必要です」

NAD+の点滴療法について興味がある? NAD+のサプリで本当に寿命を延ばせるか気になっている? NAD+について知っておくべきことは、以下の通り。

NAD+サプリメントとは?

「NAD+のサプリメントには、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)として知られる分子が含まれています。これは、エネルギー代謝やDNA修復における細胞のプロセスに必須なものです」とラウテンシュタイン。「この分子は今、細胞の若返りを助け、抗老化効果があると期待されています」

NAD+は、体がさまざまな方法で自然に生成するものだけれど、加齢と共に生成される量が減ってしまうため、サプリでNAD+の量を補い、老化の影響を遅らせたり、寿命を延ばせたりできると考えられている。研究によると、NAD+量の低下は、認知機能の衰退やがん、代謝性疾患など、多くの加齢関連疾患に関連付けられている。さらにNAD+は、代謝と概日リズムの調節にも重要な役割を果たすことが研究で示されている。

NAD+のサプリは、錠剤、カプセル、注射、または点滴で摂ることができる。NAD+を摂る最適な手段は、あなたとあなたの好み次第。ただし、このサプリは米国食品医薬品局(FDA)による規制対象ではないため、サプリを選ぶ際には必ずリサーチすることが大切。

NAD+サプリを摂るメリット

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管理栄養士のエドウィナ・クラークいわく、人間を対象とするNAD+サプリの研究は初期段階ではあるものの、初期の証拠によると、非常に多くの利点を得られる可能性が示されている。「とくに心臓の健康の指標となる(総コレステロール、トリグリセリド、LDL、HDLなど)に好影響をもたらす可能性がみられています」とクラーク。さらに研究では、高齢者の筋肉機能をしたり、アスリート選手の有酸素能力や持久力を向上したり、インスリン感受性を改善することが示唆されている。「脳の健康と長寿が注目される中、脳の健康を向上すると期待されるNAD+は、今ますます人気を集めています」と話すのは、ニューヨーク在住のスポーツパフォーマンスに特化した管理栄養士のティファニー・MA。

結局のところ、NAD+は、体の機能を向上させ、病気や加齢による筋肉の減少や心臓の健康状態の低下を遅らせるのに役立つという。ただし、こうした説を支持する研究もあるけれど、それがどれほど体にとって有益なのかを決定づけるには、さらなる研究が必要になるとのこと。

NAD+サプリを服用するリスクと副作用

ビタミン剤や他のサプリと同様、注意すべきデメリットはいくつかある。「可能性のある副作用としては、胃腸の不快感、吐き気、紅潮、頭痛などがあります」とローテンスタイン。クラークは、腹部膨満感、筋肉痛、かゆみ、発汗、排便の変化などが生じる場合もあると付け加えている。

専門家いわく、NAD+の長期的な副作用と危険性についてはほとんど未知であることから、服用する際に慎重であるべき。「NAD+が、さまざまな細胞のプロセスに関与している事実を考慮すると、生物学的経路に及ぼす影響に関して、理論上の懸念があります」とローテンスタイン。

このサプリは基本的に、推奨用量で服用する限り、ほとんどの人にとって安全であると考えられている。ただし、とくに基礎疾患を抱える人や他の薬を服用中の人は、新たな習慣を取り入れる前に、必ず医師に相談してから始めることが望ましいとのこと。

NAD+の最良な形態とは?

点滴にせよ、カプセルを朝食と一緒に飲むにせよ、NAD+の服用法は選択肢の幅も広い。「NRやNMNを含むカプセルや錠剤の経口サプリメントは、手に入りやすく、利用するのに便利です」とMA。「NAD+を血中に直接投与し、吸収を促進する静脈内(IV)NAD+療法を選択する人もいます。ただ、静脈注射に関しては、医療監督の下で行われる必要があるため、通常はより多くの費用と時間がかかります」

クラークいわく、臨床試験で使われるもっとも一般的な形態は、カプセル。カプセルをみると、ニコチン酸 (NA) 、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド水素 (NADH) 、ナイアシンアミド (NAM) 、ナイアシンアミドモノヌクレオチド (NMN) 、ニコチンアミドリボース (NR) など、NAD+の異なる形態が含まれていることに気付くかもしれない。「NAD+の最適な形態(NAM、NR、NMN)は、NAD+を服用する個人のニーズや動機によって異なります」とクラーク。例えばNAは、コレステロールやトリグリセリドの数値を改善するのにもっとも効果的。

NAD+サプリの推奨用量に関しても、一概には言えないが、1日あたりの推奨量は100mgから1,000mg以上だと説明するのは、Garage Gym Reviewsの医師でチーフメディカルアドバイザーを務めるラジ・ダスグプタ医学博士。「一度医師に相談するのが最善です。個人の健康状態と目標に基づいた個別のアドバイスをもらいましょう」

点滴や注射は好きではないが、吸収速度を早めたい場合には、錠剤がベストな選択肢となることも。「舌下錠を舌の下に置くと、NAD+が粘膜から直接血流に吸収されます」とローテンスタイン。「一部の消化器系を迂回するため、口腔カプセルよりも速く吸収される可能性があります」

NAD+は、食べものから摂ることもできる?

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「NAD+は、食品から直接大量に摂れるわけではありませんが、ナイアシン(ビタミンB3)を豊富に含む食事を摂取すれば、体内のNAD+量を間接的にサポートすることが可能です」とローテンスタイン。「ナイアシンは、NAD+合成の前駆体として機能します。つまりナイアシンは、体内でNAD+を生成するために必須となる成分なのです」。ナイアシンは、鶏肉、七面鳥、牛肉、豚肉などの肉類、マグロやサーモンなどの魚に豊富に含まれている。

サプリを毎日服用すれば、健康状態が全体的に改善される可能性はあるものの、専門家たちは一貫して、健康的な食事で基礎的な栄養を補うように推奨している。MAいわく、肉や魚に加えて、ナッツやシードを食事に取り入れると、NAD+合成の前駆体を得ることができるそう。「私は栄養士として、サプリメントの前に、まずは食事から栄養を摂取することを優先的にアドバイスしています」とMA。

NAD+サプリを検討中の人が注意すべきこと

サプリの効果がどれだけ期待されているにせよ、一夜にして魔法のように効果が現れるものはない。代謝疾患、肝臓や腎臓の問題、心血管疾患、がんの経歴がある、あるいは治療を受けたことがある人、妊娠中、授乳中の女性は、NAD+の服用を始める前に最善の注意を払い、医師に相談すること。ダスグプタ医学博士は、第三者検査機関にて検査を受けている製品を選ぶことも重要だと付け加えている。
 
※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: TIANNA SOTO Translation : Yukie Kawabata

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川畑 幸絵
翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。