運動の定番と言えば筋トレやランニング。しかし意外に見落としがちなのがストレッチだと言うのはパーソナルトレーナーの林健太さん。
「ストレッチは空き時間や家でもできる立派な運動です。多くの人がトレーニングとストレッチを切り離したり、運動後だけにストレッチを行ったりと疎かにしがちですが、筋トレやランニング、ストレッチに優劣をつけず、しっかりと時間をかけることでより理想的な体に近づけると言っても過言ではありません」
筋トレが筋肉を縮める運動なのに対し、ストレッチは筋肉が伸ばされる運動。
筋肉は縮むことしかできないので、トレーニングばかり行っていると体は硬くなるどころか動きも悪く、姿勢不良に繋がることも。
「筋肉を縮めたら、同じかそれ以上伸ばしてあげることが大切です。あまりにも柔軟な女性は筋量不足も考えられますが、ほとんどの人は体が硬いにも関わらず、筋肉を縮める筋トレばかりに時間をかけていることが多いのではないでしょうか」
林さんがトレーニングを指導する中でも、筋トレ以上にストレッチに時間をかけることも多いという。それほどまでに私たちの体は硬くなっているということを今一度認識し、特に硬くなりやすい部分には、トレーニングと同じくらいストレッチにも時間をかけてみよう。
①ハムストリングス
「最も多くの人に必要なストレッチは、太ももの裏のハムストリングスです。猫背などの姿勢不良はもちろん、腰痛などの緩和にも繋がります。床の上に長座で座ることが辛い人はストレッチが必要なサインです」
デッドリフトなどの可動域向上や、スクワットのエラー動作緩和など、トレーニング効率を上げるだけでなく、運動を長く続けていく上での怪我予防にも重要。
骨盤のポジションは上半身の肩甲骨ポジションにも影響を及ぼすので、ハムストリングスの柔軟性は全身の姿勢に大きく影響する。
「前屈で必死に体を倒そうとする人がいますが、ハムストリングスを伸ばすためには骨盤を立て背筋を伸ばしたまま行うことがポイントです。
体を大きく動かすことも大切ですが、狙った筋肉を効率よく伸ばすためには筋トレ同様にフォームが大切になります」
筋トレと異なるのは、正しいフォームで行いながらも伸ばす筋肉を意識しないこと。筋肉は意識すると縮むので、対となる大腿四頭筋や腸腰筋を意識するように行ってみよう。
ダウンドッグ
「ハムストリングスのストレッチで最も有効な方法です。踵をしっかりと地面に押し付けるようにして、背中は反り腰をキープするくらいのイメージで行ってみましょう」
ヨガのムーブメントの中でも最もポピュラーな方法なので一度はやったことがあるかもしれない。背中が丸くなって骨盤が後傾してしまうとハムストリングスに十分な刺激が入らないので、最初は大きく動かすことよりも、小さな動きでしっかりと太ももの裏に刺激を入れるようにしてみて。
フォワードベンディング
前屈もダウンドッグ同様に骨盤が後傾して背中を丸めてしまうとハムストリングスへのストレッチ効果は半減。背中は丸めず、なるべくストレートな状態をキープするように行ってほしいと林さん。
「自然と重力がかかるので、最初は立位から行うようにしましょう。慣れてきた人は長座の状態で行っても良いですが、全身に力みが生じやすいので注意してください」
②僧帽筋
肩こりの原因筋No.1でもある僧帽筋。
普段から無意識に力んでいる人も多く、筋トレやランニング中にも力が入りやすい。僧帽筋は面積の広い筋肉で、肩甲骨のポジションなどにも大きく関与する。
特に首に近い上部が硬くなると、肩甲骨を上方に持ち上げてしまうので肩の動きも悪くなり、腕が上がりにくいなどの症状にも繋がる。
「肘を伸ばしたまま、前方に腕を上げていき、耳の真横までしっかりと上がらない場合は僧帽筋にも原因が考えられます。可動域が低下した状態を放置して筋トレを行うよりも、可動域をしっかりと確保してから行うほうがダイエットやボディメイクの近道になります」
デスクワークや座位時間が多くなった上に、運動量が減っていることで若年層でも悩む人が多い肩こり。
特に女性は男性と比べて有訴者率が2倍にもなっている。さらには年齢と共に増加傾向にあるので、早期にストレッチを習慣化しておくことで、長期的にトレーニングで養った美しさを持続させることができる。
ネックローテーション
最もポピュラーで自然と行うストレッチなので、無意識に適当に行うことも多い。しかし、林さんが挙げるポイントを意識して行ってみてほしい。
「首が一番短くなる状態と、一番長くなる状態をしっかりと作るように行ってみましょう。特に首が長くなる状態=肩を下に下げる状態をしっかりと作り出すことが大切です。両肩同時ではなく片側ずつ、首の動きと連動させて行うとより分かりやすく、刺激が強くなるのでやってみてください」
スキャプラアブダクション
肩甲骨を脊柱から離すように腕を出す。普段から凝り固まっている人は、肩甲骨を動かすという動作に慣れていないため、少々難しく感じるかもしれない。
「肩甲骨を動かすことに慣れていない人や、動きが難しいと感じる人は両手を組んで行い背中と首を丸めるようにゆっくり行ってみましょう。肘を曲げてしまうと肩甲骨が動くイメージが掴みにくくなるので、肘をロックした状態で行ってください」
③小胸筋
名前のとおり、胸にある小さな筋肉。
腕立て伏せやベンチプレスなどで意識的に鍛える大胸筋の深部に存在するので、ストレッチやマッサージは疎かになりやすい。
大きく力の強い筋肉が、美しい見た目や姿勢を作る上で大切なことはもちろんだが、小さな筋肉や直接見た目に関わらない深部の筋肉も、動きや呼吸にとっては非常に大切。
「小胸筋は肋骨と肩甲骨を繋ぐ筋肉でもあるので、姿勢だけでなく呼吸にも影響を及ぼします。巻き肩や猫背になり、呼吸が浅くなってしまうのも小胸筋が原因です。フォームローラーやマッサージボールなどでリリースを行うことで、適度な柔軟性を取り戻すことができます。肩甲骨の安定と可動のバランスが整い、大きな筋肉の動きがスムーズになることでダイエットの効率も上がります」
小胸筋の下には大きな血管や神経も通っている。ストレッチ不足が腕や手のしびれなどの神経症状にも繋がることがあるので、デスクワークなどの多い人は要注意。
ソラシックエクステンション
「腰椎ではなく胸椎の柔軟性を養っておくことで、小胸筋の柔軟性はもちろん、背骨のしなやかさを維持することにも繋がります。ドリンクを飲み干す際などに上を向くときも、胸椎の柔軟性が大切になるので、日常生活においても大切なストレッチになります」
胸椎の柔軟性が損なわれると頻繁に腰を反ってしまい、腰痛などを引き起こす可能性も。
ゴルフやテニスなど、体を捻る動作の多いスポーツを趣味にしている人は、競技パフォーマンスの向上にも繋がるのでやってみて。
チェストダウン
四つ這いの状態から両手を前に出し、お尻をゆっくりと引きながらお尻を踵に近づけるストレッチ。猫の伸びのような姿勢で、胸をしっかりと床に近づけることで、こちらも胸椎の柔軟性をアップさせる。
「胸椎や広背筋の柔軟性が十分でない方は、できるところまでにしてください。フォームを崩して行うよりも、肘を曲げず適切なフォームで行うことで、対象筋をしっかりとストレッチすることができます」
手のひら天井に向けて上にすることで広背筋のストレッチとしても効果的。片腕ずつ行っても良いので、難しい人は調節しながら行ってみて。
④腹筋
ストレッチで意外に見落としがちなのが腹筋。
私たちは常に前を向いて生活しているので、体の前面の筋肉は使っている時間が多い。その中心でもある腹筋は、ストレッチの最重要部位でもあると林さん。
「様々な動作の最初に動く筋肉が深部の腹筋です。体幹を安定させる役割はもちろん、呼吸でも毎回使われるので、体の中で最も動いている筋肉の一つとも言えます。長時間の座位が続いたとき、多くの人が大きく伸びをすると思いますが、この動作こそが前面の筋肉をストレッチしてほしいという合図です」
腹筋が硬くなると骨盤のポジションに影響することはもちろん、特にハムストリングスと合わせて硬い人は、骨盤をうまく動かすことができず、常に猫背の状態になっていることも。
「疲れた時や座りっぱなしが続いたときに、腰を反らせる動作を行う人も多いですが、これは背中ではなく腹筋のストレッチになります。もちろん、腰が痛い、疲れたから行う動作ではあるものの、実は腹筋が最もストレッチを必要としているのです」
コブラ
筋肉の柔軟性はもちろん、背骨の柔軟性も大切なことは何度も述べている通り。
「背骨がしなやかに動き、それをしっかりと固めることができる体幹の筋力が必要です。しかし、姿勢不良や運動不足などで、背骨が硬く、筋力が弱いという逆転現象が起こっているように感じます。筋力や柔軟性は急に戻すことや手に入れることはできないので、毎日少しずつの積み重ねを怠らないようにしましょう」
コブラの姿勢は腕立て伏せが苦手な女性にもおすすめ。二の腕のトレーニングとしても取り入れられるので一石二鳥だ。
サイドベント
呼吸や姿勢に大きく影響する腹斜筋。体幹回りは筋肉が何層にもなっているので、トレーニングと合わせてストレッチを習慣化することで、より深部まで様々な刺激を与えることができる。
サイドベントは腕を上げることで肋骨のポジションが持ち上げられるので、腹斜筋のストレッチがより効率的に行える。
「多くの筋肉は、体の中に真っ直ぐではなく曲線的に付着しています。つまり、ストレッチやトレーニングも、直線的な動きだけではなく捻るような動きを加えていくことで、より効率的に動かすことができます」
サイドベントストレッチも真横に倒すだけでなく、斜めに倒したり、捻じりながら倒したりすることも有効。上げた手をクロスして組むことでも体に捻じれが生じるので、より様々な角度からアプローチできる。
幼少期よりプロレスラーに憧れ、中学生の頃からジムに通い始め、高校・大学はアマチュアレスリング部に所属。
卒業後、一度は就職するもプロレスラーの夢を諦めきれず2011年プロレスリング・ノアに入門。練習中の怪我により
選手としてデビューすることはできなかったが、トレーニングを続けることで心身のモチベーションを維持し続けたことがきっかけでトレーナーとしての活動を始める。
インスタグラム: www.instagram.com/kenta_0327_/