女子サッカーの価値を高めるべく活動する、JEF UNITED所属・大滝麻未選手。次世代のために行動・発信するアスリートとして注目を集めている。「女子サッカーを起点に、他の女子スポーツや社会にも変化を波及させたい」と話す彼女の取り組み、そして思い描く未来を聞いた。

女子スポーツを取り巻く課題

木登り、かけっこ、うんてい……夢中で校庭をかけ回っていた頃、スポーツはみんなにとって平等だった。しかし、歳を重ねるごとに「女の子」の枠で自ずと決まるスポーツを選び、いつの間にか継続をしない選択をして、体を動かす機会を失った女性も少なくはないはずだ。事実として、男の子の約2倍の数の女の子たちが14歳までにスポーツをやめている(※1)。また、サッカーや野球、相撲などをみても、そこには圧倒的な男女の格差が否めない。その要因には、スポーツを継続する機会・環境の不足や、「女性はこうあるべき」という社会からのプレッシャーを感じている女性が多いこと等があるという。

ナイキ
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女子サッカーにおいては、13歳から15歳のアスリートの受け皿が不足していたり、指導者によるセクハラが問題になっていたりと、課題は多い。大滝さんはそれらの解決を図るためにも、まずは日本に根強く残る「サッカーは男性のスポーツ」というイメージを“選手から”払拭していきたいと、2019年に一般社団法人「なでしこケア(以下なでケア)」を創設し、活動をスタートさせた。

選手自身が、自分の価値を理解する

──「なでケア」は今年、プレー・アカデミーwith大坂なおみ(※2)のパートナー団体にも採択されましたね。主にどのような活動を行なっているのでしょうか。

「3つの取り組みを主軸にしています。まず、ユース年代の選手が1人で抱えがちないじめやハラスメントの相談窓口の設置。次に、女子サッカー選手に対して、次世代のロールモデルとなるためのキャパシティ・ビルディングのワークショップを行っています。そして、そのワークショップを受けた選手が中心となって、次世代の子たちに向けて行うイベントの実施です。そのイベントは、人間形成やキャリアに関する座学の講座とサッカーの実践を組み合わせた内容になっています。どの活動も共通して大切にしているのは、現役選手と中高生アスリートの対話。これまでは現役選手が若い世代に一方的に何かを教えるのが常でしたが、お互いに情報共有する場を作りたかったんです。というのも、女子サッカーの価値を向上していくには、まず根底を変えていくこと、つまり選手自身のマインドセットを変えていくことが重要だと思っています。選手の中には、男子サッカーと比較して、『自分は与えられる影響が少ない』とか、『自分のプレーを見ている人なんていない』と思っている人も多い。でも若い子たちからしたら、選手としてピッチでプレーしている姿は、男子も女子も変わらずキラキラした存在になっているはず。選手が女子サッカーないしは自分の価値を理解していなければ、伝わる魅力も伝わらないと思っています。

なでケア
大滝麻未
出典:なでケア

中高生アスリートにとっても、生き生きとプレーしている現役選手とのコミュニケーションが、サッカーを続けることへの自信に繋がればいいな、と。その自信が、少ない女子選手の受け皿を自分で作るという行動になるかもしれません。誰かがやるのを待つのではなく、現役選手も中高生アスリートも一人ひとりがリーダーとなって変革できる存在だということを、なでケアを通じて伝えたいです」

スポーツが与えてくれる、自分らしさ

──大滝さんがそのようにご自身の価値について考え、「なでケア」の活動を始められたのには、何か特別な体験があるのでしょうか。

ナイキ
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「中学生でアメリカに渡航した経験は大きかったです。今まで見たことのない世界を見て、視野が広がり、色々なことに興味を持つようになりました。2015年に一度現役を引退し、2017年にまた復帰したのですが、引退していた2年の間にヨーロッパでFIFAマスター(※3)を修了しました。世界中から集まったサッカー好きの仲間と日々を過ごす中で、サッカーを仕事として続けることがどんなに幸せなのか、改めて感じることができました。その気づきが、現役復帰するきっかけになり、もう一度サッカーをするなら『これまでとは違うことをしよう』と、なでケアの活動に繋がりました」

大滝さん
大滝麻未

──近年になって特に、スポーツとジェンダーに関するニュースをよく見かけるようになりました。サッカー界におけるジェンダーの平等は、どう実現されていくと思いますか。

「平等というと報酬格差を話題にされることが多いですが、今それを実現するのは正直難しいと感じています。プロならその対価を生み出せられるだけの何かが求められるのは当然。2011年のFIFAワールドカップでなでしこジャパンが優勝した時、女子サッカーは盛り上がりを見せましたが、その人気は長く継続しませんでした。当時はメディアに多く取り上げられ、それによって試合の観客数も興味を持ってくれる人も増えました。でも、選手を含め女子サッカーに関わる全ての人が、そのチャンスを最大限に生かす準備ができていなかったように思います。いつどんな変化が起きても自信を持ってプレーができるように、選手一人ひとりが技術はもちろん、プロ意識を持って自分の価値を高めておくことが大切だと強く感じました」

──先日公開された、日本の女子スポーツが抱えるジェンダー課題を描いた「ナイキ」のキャンペーンフィルム『New Girl』にも出演されていますね。

ナイキ
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「ナイキがこうしたフィルムを通して、問題提起をしたことは、ジェンダーの壁を打ち破る大きな一歩ですね。自分1人だとメッセージを届けられる範囲は限られています。でも、大きな企業がいろんな思いを持った選手と一緒に、その声を届けてくれることで、小さな波も大きくなっていくのではないでしょうか」

──「なでケア」、そして大滝さんは、スポーツを通して今後どんな変化を生み出していくのでしょうか。

なでケア
なでケア


「スポーツは多様な個性を持った人が、そのスポーツが“好き”という共通点を持って集まります。私にとって女子サッカーは、個性を表現できる場所。そうした素晴らしいフィールドにいる選手自身が、自分たちの価値を理解し、高めていけたら、女子サッカーの価値も上がっていくと思います。今は女子サッカーの中だけで取り組んでいますが、ゆくゆくはサッカーやスポーツの垣根を飛び越えて発信、行動していきたいです。自分らしくいられる場所が必要なのは、スポーツ選手だけでなく、みんながそうだと思うから」

次世代の日本女性のために新しい道を切り開くアスリート(大滝麻未選手、葛西里澄夢選手、島野愛友利選手など)が登場するフィルム『New Girl』。スポーツの中でのジェンダー不平等に立ち向かい、行動する彼女たちの姿は、見る人にもスポーツを通して自信を得ることが可能だと教えてくれる。

フィルムに加え、 ナイキの公式インスタグラム「@niketokyo」やNIKEアプリでは、挑戦し続ける女性アスリートたちがどのように身近な世界を変えていったのか、スポーツがどのように彼女たちを変えてきたか、というストーリーも発信しているので必見だ。

(※1)参照:www.nike.com/jp/playacademy-naomiosaka
(※2)ナイキとローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団が連携し、大坂なおみと実施するプログラムは、女子のスポーツ参加を促進し、将来リーダーになるための成長をサポートや、助成事業などを展開する。
(※3)スポーツ人文科学や、スポーツマネジメントを通して、スポーツ界で幅広く活躍する人材を養成する目的でFIFAが運営する教育機関。

Text: Sawako Motegi   Supported by: NIKE

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Chie Arakawa
ウィメンズヘルス・シニアエディター

タレント・アスリートインタビュー・スポーツファッション・ウェルネス記事などを担当。女性誌FRaUでファッション・スポーツ・ダイエットなどの編集キャリアを積み、その後スポーツライフスタイルマガジンonyourmarkのプロデューサーとして在籍後、2022年までウィメンズヘルス編集部に在籍。