実りの秋を迎えると様々な果物や野菜が旬を迎え、いつも以上に栄養豊富で美味しくなる。それと同時に食欲の秋とも言われるように私たちの食欲も増進する。

「秋に食欲が増す理由はいくつかありますが、旬を迎える食材が多いのは理由の一つです。昔はハウス栽培などもなかったため、秋になると収穫物が自然と増えるので、それに合わせて食事量も自然と増えていました」

旬の食材はとても魅力的で、通常のものより栄養価が高く味も良い。そのため積極的に食べたいが、もちろん食べ過ぎてしまうとダイエットの妨げになる。

「いつも通り食べる程度ではダイエット中でも気にする必要はありませんが、食欲が増している分どうしても食べ過ぎてしまう人も多いです。気温も下がり、暑い夏に食欲がなかった反動が一気に押し寄せてくる上に、寒い冬を迎える前に栄養を摂っておく動物的な本能も合わさってしまうと歯止めが効かなくなります」

パーソナルトレーナーの林健太さんは、常日頃から食欲がコントロールできる小さなことを頭に入れておくことがダイエットには大切だと語る。

食欲のコントロールは秋に限ったことではないので、常日頃から食欲にムラがある、コントロールしにくいという人は、改めて初歩的な改善策をしっかりと頭に入れておこう。

①ゆっくり噛んで食べる

満腹感は食事を終えるまでの時間はもちろん、次の食事を摂りだすまでの時間もコントロールする。つまり満腹感のセンサーが鈍いと食べ過ぎてしまう上に、次の食事をすぐに欲してしまう。

「噛むことは、満腹中枢を刺激するホルモンはもちろん、様々なホルモンを分泌する運動です。食欲が抑えられない人はもちろんのこと、あまり空腹を感じず食事量や回数が少ないという人も、咀嚼運動が普段からしっかりできているかチェックしてほしいです」

食事を始めてから血糖値が上がるまでにも時間がかかるので、早食いは禁物。少なくとも20分は食事の時間を取って、噛むことに集中してほしいと林さん。

「ダイエットのために運動時間を確保することも大切ですが、食事の時間を確保することも同じくらい大切です。噛むことで頭部の筋肉が動き、血流が良くなることで脳神経が刺激され、脳の働きも活発になります。咀嚼も筋トレやストレッチと同様に大切な運動だと意識してみてください」

また、脂質やタンパク質をしっかりと含んだ食事は、噛む回数が多くなることはもちろん、栄養バランス面でも満腹感を高めてくれる。急いで食べるおにぎりやパンだけの炭水化物に偏った食事が、食欲コントロールを乱す最も避けたい食事ともいえる。

②水分量の多い食事
steamed rice served in bowl on wood
Yagi Studio//Getty Images

「ダイエット中に水分をしっかり摂りましょうと言われますが、我々の主な水分摂取源は食事です。特にお米などの炭水化物から多くを摂取していますので、トータル水分量が少なくならないように食事とのバランスには注意が必要です」

ダイエットとなると炭水化物を極度に制限する人もいるが、これは食欲コントロールが効かなくなる原因の一つだと林さん。

水分量の多い食事はカロリーの割に重量感があり、お腹に溜まるため満腹感も感じやすい。つまり炭水化物を抜いてしまうと食事の重量も一気に下がってしまうため、気付かぬうちにいつも以上に食べ過ぎてしまうことも。

万が一、炭水化物を抜くような食事をする場合は、デザートに梨やリンゴなど旬のフルーツを食べると、低カロリーながら適度な糖質と十分な水分量で満腹感を感じられる。

「食事中に水を飲むことは胃酸を薄めて消化が遅くなると言われますが、常識の範囲内であれば大きな影響はありません。しかし、ダイエットをしているからと言って食べる前に大量の水を飲んでから食事をすることは、消化不良を起こす可能性があるので注意してください」

③高強度のトレーニング

「運動は胃や消化管の複数のホルモンの分泌に影響を与え、一時的に食事量を低下させます。特に強度が強い運動後に食欲が湧かないという経験をした人も多いのではないでしょうか」

有酸素運動程度でも食欲は低下するが、運動は高強度になるほど交感神経の働きが活発になり、食欲を抑制するホルモンが多く分泌されると考えられる。

ダイエット中に運動を取り入れていくのであれば、HIITなどの高強度運動を取り入れて今の運動と組み合わせるのがおすすめだと林さん。

「逆に食欲を増進させてしまう運動が水泳です。まだ詳しい原因となるメカニズムは分かっていませんが、水圧をかけて運動している状態であることに加え、体温以下の環境が続きます。そのため回復に必要なエネルギーが増えることで、結果的に食欲が増してしまうと考えられます」

ダイエットには不向きな運動ではあるものの、水泳運動には多くの健康効果があるので、プールで運動を頑張っているという人も落胆しないでほしい。

常に一つの運動に固執せず、様々な刺激を入れて自身の食欲とのバランスをチェックして、最適なトレーニングルーティーンを獲得しよう。

④甘いものを控える
woman drinking orange juice
Flashpop//Getty Images

血糖値と食欲は非常に深い関係があり、血糖値が下がると空腹を感じる。野菜や肉、魚などバランスの良い食事をゆっくりと噛んで食べることが血糖値を急上昇させることはないが、砂糖を使ったジュースやお菓子は他の栄養素が含まれておらず、ゆっくり噛んで食べることも少ないので血糖値を急激に上げてしまう。

「急激に上がった血糖値はインスリンの過剰分泌で急激に下げられ、通常時よりも低くなってしまいます。この血糖値の急上昇と急降下を繰り返す状態を血糖値スパイクと言い、食欲コントロールが効かなくなっている状態とも言えます」

血糖値スパイクは血管にも大きなダメージを与えるため、なるべく引き起こさないような食生活が大切。特に空腹時に甘いジュースを一気飲みなんて行動は非常に危険。

最悪の場合、糖尿病や動脈硬化を引き起こすので、甘いものがどうしても手放せないという人は、少しでも栄養豊富なサツマイモなどに置き換えてみてほしいと林さん。

「間食で甘いものを摂取する場合は運動前に限定し、その後しっかりと体を動かすことで血糖値の上昇を穏やかにすることができます。我慢も大切ですが最高のタイミングで間食を摂ることでも食欲はうまくコントロールすることができます」


⑤ダイエット休止期間にする

「痩せるためのダイエットは一年中行うものではありません。無理な食事制限は必ず反動が来ますので、夏に頑張ってダイエットをした人は、秋は食事ルーティーンを身につける時期にしてみてもいいのではないでしょうか」

冒頭でも述べた通り、旬の食材は栄養価も高くなる。どの食材にどんな栄養が多いのかをこの機会に学んでおけば、また次の減量期がスムーズに進むことは間違いない。

食を楽しむ時期に無理な減食をするよりも、正しい食事方法や食事内容を身につけることで、長期的な食欲コントロール術を身につけてほしいと林さん。

「正しい栄養や食事は食欲も正しい状態にしてくれます。体重を落とすダイエットばかりに目を向けず、自身の体調や健康状態をブラッシュアップするダイエットの期間を作ることができれば、食欲だけでなく体重や体調もコントロールできるようになるでしょう」

食欲はどうしても抑えようと頑張ってしまいがちだが、本来はその欲をどのように満たすかが大切。実りの時期に栄養価の高い食材で正しく満たす習慣を身につけてみてはいかがだろうか。

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林健太
NESTA公認トレーナー SIXPADオフィシャルトレーナー

 幼少期よりプロレスラーに憧れ、中学生の頃からジムに通い始め、高校・大学はアマチュアレスリング部に所属。
 卒業後、一度は就職するもプロレスラーの夢を諦めきれず2011年プロレスリング・ノアに入門。練習中の怪我により
 選手としてデビューすることはできなかったが、トレーニングを続けることで心身のモチベーションを維持し続けたことがきっかけでトレーナーとしての活動を始める。
インスタグラム: www.instagram.com/kenta_0327_/