いま、肥満は世界的な問題となっている。

過去50年の間に世界中で増加し、現在では肥満のパンデミックと喩えられるほどの域に達した。

肥満は生活の質を下げるだけでなく、糖尿病や高血圧、がんなどの病気のリスクを大幅に高め、寿命を縮めることにもつながる。

肥満のパンデミックを収束させるべく、栄養学、運動生理学、睡眠医学、進化論など現代の科学がこの問題の解決に日夜挑み、その結果、いくつかの肥満の「攻略法」を導き出した。

一方で巷には、「一瞬で」「ラクして」など甘い言葉を謳った書籍や動画が溢れている。

それらに対し「ダイエットは簡単ではない」と述べたうえで、現代の科学が明らかにしている肥満のメカニズムを知り、エビデンスに基づいたその攻略法こそ成功への近道だと強調するのは、理学療法士である庵野拓将氏だ。

庵野氏は理学療法士として病院勤務をする傍ら、自らのブログで科学的に正しいと証明された筋トレ法、スポーツ栄養学、ダイエット法について紹介している。

今回は最新の研究でわかった、ダイエットに関する5つの新常識について教えていただいた。

私たちは太るようにデザインされている

健康のために、魅力的な身体をつくるために、ダイエットをはじめる人は多くいる。ところが、思い通りにダイエットを進めることができる人は少数派だ。

庵野氏は「ダイエットが続かないのはあなたの問題ではない」と語る。砂糖や脂を美味しく感じるのはなぜだろう?

そもそも、私たちの心や体は太るようにデザインされている。数百年前の旧石器時代、ヒトは狩猟民族として食うや食わずの半飢餓状態を生きてきた。そのため、特に脂肪として蓄えることができる糖類や脂質をできるだけ多く食べようと進化してきたからだ。

現代の私たちはこのプログラムを生得的にインストールされたまま、飽食の時代を生きている。ダイエットが続かないのも無理はないのだ。

ダイエットの土台は「睡眠」によってつくられる
young woman sleeping peacefully
Luis Alvarez//Getty Images

「毎日、忙しく働いているのに体重が増えていく」

「運動をしても、思うように効果がでない」

「おやつを食べるのが習慣化してしまっている」

そんな悩みを抱えているのなら、睡眠に問題があるのかもしれない。睡眠不足はダイエットの大敵だ。睡眠不足になると食欲が高まる。

特に甘くて脂っぽい嗜好性の高い超加工食品が食べたくなり、ダイエットが続かない原因や、リバウンドのきっかけとなる。

また、運動のパフォーマンスも低下させてダイエット効果を損ねてしまう。ダイエットのためにやせる食事をしっかり食べて、運動を頑張っていても、睡眠不足では意味がない。ダイエットを成功させるなら、毎日しっかりと睡眠をとることが重要だ。

たくさん食べてもやせる炭水化物がある

白米、パン、パスタの炭水化物は「ダイエットの敵」といわれるが、その理由をご存知だろうか?

炭水化物は糖質を多く含む。つまり、炭水化物の摂取は、砂糖を食べることと同義だ。では、炭水化物が含まれるものをすべて避ければ良いかというと、それも違う。

近年では「太る炭水化物」だけを避けて「やせる炭水化物」を食べることにより、体重を減らすことができると考えられている。

やせる炭水化物とはなにか。それは玄米や全粒粉パンなどの「食物繊維」を多く含む炭水化物だ。食物繊維は満腹感を高めるだけではなく、太る要因となるグルコースやフルクトースの吸収や血糖値を低下させ、体重の減少を促進させる。

多くの人がダイエットに挫折するのは、炭水化物の制限がつらいからだ。太る炭水化物からやせる炭水化物に「置き換える」ことできれば、炭水化物もダイエットを続ける手助けとなるだろう。

ダイエット成功の鍵はタンパク質!

食事量を減らすことは、ダイエットで最も重要な手段だ。しかし、近年、ダイエットにおける新たなパラダイム・シフトが起きている。「食事を減らす」から「食欲を減らす」へ。

その鍵となるのがタンパク質だ。タンパク質の摂取は食欲のメカニズムに作用して、空腹感を減らし、満腹感を高めてくれる。さらに、タンパク質には食べるだけでエネルギー消費量が増える「食事誘発性熱産生」を増やす。

積極的に摂りたいタンパク質だが、牛肉や豚肉といった「赤い肉」やソーセージやハムなどの「加工肉」だと逆効果だ。鶏肉を代表する「白い肉」を摂取しよう。

リバウンドを防ぐ処方箋がある

ダイエットを始めたばかりの1〜2カ月間は食事制限だけでも体重を減らすことができるが、やがて減りにくくなる。

これは脂肪が減ったことを感知した脳が「これ以上、脂肪を減らさない」という生理的反応を引き起こすからだ。

また、最新の研究報告では、脂肪の減少のほかに「筋肉の減少」もリバウンドの要因であることが示唆されている。ダイエットでエネルギーの摂取量を減らすと脂肪だけではなく筋肉量も減ってしまう。

では、どうすれば良いのか。リバウンドを防ぐために推奨されているのがジョギングなどの有酸素運動や筋トレだ。筋肉量を増やすだけではなく、運動をすると食欲促進ホルモンを抑制し、食欲が減ることもわかっている。

ジョギングや筋トレはリバウンドを防ぐ処方箋。食事制限のみで頑張るのではなく、運動も加えていきたい。

『科学的に正しいダイエット最高の教科書』もあわせてチェック!

科学的に正しいダイエット 最高の教科書

科学的に正しいダイエット 最高の教科書

科学的に正しいダイエット 最高の教科書

¥1,540
Amazon で見る

5万部を超えたベストセラー『科学的に正しい筋トレ最強の教科書』の著者である庵野拓将氏による第2弾『科学的に正しいダイエット最高の教科書』がKADOKAWAより好評発売中だ。スタンフォード大やハーバード大といった世界最高水準のエビデンスをベースに真に効果的なダイエット法について解説している。これを読めば、あなたのダイエットが続かない理由がわかるかもしれない。

<目次>
序章 ダイエットに関する5つの新常識
第1章 ヒトはなぜ太りやすいのか
第2章 良い睡眠で、ダイエットの土台をつくろう
第3章 食事管理の第一歩は、超加工食品をやめること
第4章 やせる食事、太る食事の見分け方
第5章 やせグセがつく、ボディメイク
第6章 「食事×運動×睡眠」が成功の方程式

Hikari Inagaki(side dishes)