ストレスに負けない、質の高い睡眠を手に入れるには?
ぐっすり眠って日中元気に過ごすために、心がけるべきこととは?
“質のいい睡眠が健康や美容に必要不可欠”というのは誰もが知るところ。しかし現実は、「寝つきが悪い」「途中で何度も目が覚める」「日中も眠い」……など、睡眠に関する悩みは尽きない。それに伴い「肌荒れする」「ニキビが増えた」「目の下のクマが取れない」といった美容面での悩みを訴える人も多い。しかも昨今は、マスク着用、リモートワーク、旅行や会食の自粛など、無理を強いられるニューノーマルにより今まで以上にストレスを感じ、睡眠の質が低下していると実感する人も。そこで、質のいい睡眠の取り方と美容の関係について、睡眠学研究者であり、睡眠に関する著書や講演、企業との共同プロジェクトなど、睡眠の啓蒙活動にも尽力するRESM(リズム) 新横浜 睡眠・呼吸メディカルクリニックの院長、白濱龍太郎先生にお話を伺った。
Text:Yuumi Fujii(dis-moi)
「睡眠と美容を語るうえでよく言われるのが、22~2時までの“ゴールデンタイム”。確かに睡眠中に成長ホルモンが分泌され、それによって皮膚の新陳代謝が活性化するのは事実です。しかし、成長ホルモンが分泌されるのは“時間帯”ではなく、深い(ノンレム)睡眠のタイミング。つまり睡眠の前半、入眠から1時間~1時間半くらいのときに集中します。ここで睡眠ホルモンであるメラトニンが働き、体内時計リズムが整うのです。これは昼夜逆転の生活をしていても同じ。ですから、睡眠の前半を深く眠れるように持っていくのが理想です」
近年の睡眠の常識は、“時間”よりも“質”。どうしたら睡眠の質を高められるのか、美を育むための睡眠TIPSを白濱先生に教えてもらった。
1.血行をよくする
「入眠は深部体温が下がっていく過程と、交感神経が副交感神経に変わっていくタイミングに起きます。そのためにはリラックスできるのと同時に血行を促し、その後、放熱させることで入眠しやすい状態へと導く入浴が有効です。血行促進効果が高い炭酸入浴剤や、ゲルマニウムなどを織り込んだリカバリー寝具を用いるのもいいでしょう。また、就寝前は五感から交感神経を刺激しないよう、ブルーライトを遮断する、軽いストレッチをする、心落ち着く音楽やアロマなどを取り入れるのもおすすめです」
2.ブルーライトを遮断する
「ブルーライトはメラトニンの分泌を低下させるため、寝る1時間半前くらいからスマホをいじったり、パソコンを開くのはやめたほうがいいです。見る必要がある場合は、スマホのブルーライトカットモードをはじめ、ブルーライトを遮断する眼鏡やカットシートを使用して。そもそも現代人は情報過多な傾向。スマホはその人の嗜好性を取り入れ、興味があることをリアルタイムで与えてくれるだけに、目の前にそれがあればその情報に引きずられるのが当たり前。それによって考える原因を作ってしまい、交感神経を優位にしてしまいます。だからこそ、寝る前はそこに近づかないようにするのも手です」
3.自分の生活を可視化する
「睡眠は日常生活に大きく関係しているため、睡眠環境を整えるだけではなかなか改善しません。コロナ禍で在宅勤務になり、時間軸が自分基準になることで、相対的にパソコンやスマホを見る時間が長くなっています。これまでであれば、オフィスを出たら仕事は終わりだったのに、今は自宅で際限なく仕事ができてしまう。おまけに、通勤がなくなったぶん、運動量が圧倒的に足りず、睡眠の質が悪くなったという相談も増えています。だからこそ、まずは1週間の生活パターンを書き記し、自分がどういった生活をしているのかを知ることが大切。そのうえで、運動量を増やしてみたり、意識的に仕事をする時間を決めたりなど、現実的にできることを取り入れて。とはいえ、記録することにフォーカスしすぎてしまうと、それがストレスとなって眠りの妨げになってしまうことも。ある程度自分の睡眠パターンが見えたら、あとは記録とは距離を置くことも忘れずに」
4.適度に運動を取り入れる
「近年は頭ばかり使って体が疲れていないパターンが多く、これが不眠の原因になっていることも。運動は、週3回30分ほど取り入れるのが理想です。激しいトレーニングは交感神経が優位になるため日中に。寝る前は、ゆっくりと筋肉をほぐし、副交感神経を優位にするヨガやピラティスなどがおすすめです」
5.生活のリズムは変えない
「世界的に見ても睡眠時間が短い日本人。 “睡眠負債”という言葉もあるほど睡眠時間の不足が注目されていますが、たとえ睡眠時間が短くても、日中のコンディションがよければ問題はありません。逆に、日中のパフォーマンスが落ちているときは、夜の睡眠に問題が。その場合は、午後3時までに30分くらいの昼寝が有効です。また、睡眠負債を解消しようと休日は朝寝坊をしがちですが、そうすると生活リズムが乱れ、不調や不眠の原因に。休日でも平日と同じ時間、もしくは+2時間までで起き、その後、昼寝を30分取り入れるなどして負債を解消するようにしてください」
「自分の生活を意識することで睡眠の質を高めることは可能」と、白濱先生。
睡眠の質が向上することによって日常生活のパフォーマンスが劇的にアップしたり、美肌サイクルが整う、メンタルが安定するなどメリットがいっぱい。ストレスが多い現代だからこそ、今一度睡眠を見直してみてはいかが?
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックの白濱 龍太郎 院長
筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学医歯学総合研究科統合呼吸器病学修了(医学博士)。同大学睡眠制御学快眠センター等での臨床経験を生かし、総合病院等で睡眠センターの設立、運営を行ってきた。それらの経験を生かし、睡眠、呼吸の悩みを総合的に診断、治療可能な医療機関をめざし、2013年に、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックを設立。2014年には、経済産業省海外支援プログラムに参加し、インドネシア等の医師たちへ睡眠時無呼吸症候群の教育を行った。2018年にはハーバード大学公衆衛生大学院の客員研究員として睡眠に関する先端の研究に従事。社会医学系指導医、睡眠学会専門医、認定産業医を有し、教育、啓発活動にも取り組んでいる。