イライラや感情の高ぶり、無気力感といったPMSの症状については、ほとんどの女性が理解し合えるはず。でも、一部の人にとってその苦しみは、水準をはるかに超えるものだという。それが、PMSの重度型であり、人生に深刻な影響や精神的苦痛をもたらす月経前不快気分障害(PMDD)という病気なのだそう。

20人に1人が影響を受けるとされるPMDDは、激しい感情の浮き沈みや憤り、暗いうつ症状が現れ、ひどい場合は自殺願望を抱くこともある。

PMDDによってキャリアを失ったり、人間関係が壊れてしまい、これによって残酷なセルフイメージを抱きやすくなる。正しい診断を受けることは難しく、自分の極端な行動や激しい感情の揺れが病気のせいだと気付かないままの人も多いそう。

まだまだ理解されないこの問題の深刻さと複雑さをみんなに知ってもらうために、イギリス版ウィメンズヘルスはこの分野で活躍する専門家と実際にPMDDに苦しむ女性たちに話を聞いてみた。

月経前不快気分障害(PMDD)とは?

婦人科学のコンサルタント兼インペリアル・カレッジ・ロンドンの名誉上級講師で、全米月経前症候群協会(NAPS)の会長を務めるニック・パナイ博士によると、PMDDはPMSよりはるかに深刻であり、このホルモン障害が生理的変化を引き起こし、「体調や感情、普段の言動」を通して現れる。

PMSの症状が限界にまで追いやられるという感覚を想像してみてほしい。何日も寝込み、精神的にひどく落ち込み、その苦痛は学業やキャリア、人間関係にまで影響が出てしまうほど。

PMDDの原因とは? 

PMDDの具体的な原因はまだはっきり分かってはいないけれど、ある研究では遺伝的な要因が関係していたり、過去のトラウマによってもたらされたり、毎月の生理周期によって起こるホルモンの変化が関連していると示唆している。

通常、PMDDの症状が現れるのは排卵前で、エストロゲン値が下がり始め、セロトニン値も低くなるこの時期。排卵後のプロゲステロン値の増加も同様に、影響を受けやすい女性たちの気分を落ち込ませる原因になるという。

PMDDの症状

woman clutching her head in mental anguish
Peter Dazeley//Getty Images

「PMSの症状は100以上ありますが、患者をもっとも苦しめるのは基本的に情動性症状です」とパナイ医学博士。PMDDの症状には、以下のようなものがある:

  • 気分の変動
  • 鬱と絶望感
  • 苛立ち
  • 攻撃的な行動や態度
  • 自信喪失
  • 睡眠障害
  • 自殺願望

PMDDとPMSの違いとは?

PMDDは重度型のPMSであるためこの2つを区別するのは難しいけれど、PMDDの場合は症状が以下のような状況につながりやすい。

  • 私生活や社会的な生活、仕事に支障が出る
  • 人間関係が崩れる
  • 欠勤日数が増える
  • ひどい場合、PMDDに苦しむ女性の15%が自殺未遂を起こしている

通常、PMDDの症状は生理が始まる1〜2週間前に出現し、生理が終わる頃に落ち着いてくることが多いが、PMDDによる経験はもちろん人によって異なる。

PMDDはメンタルヘルスの問題?

PMDDは、一般的に内分泌疾患と定義されており、精神疾患というよりも、ホルモンに関連する障害として扱われている。

けれども、PMDDを患う人たちはこの時期になると精神的な面でひどく苦しまされていることから、最近ではDSM-5(医師が精神疾患の診断分類に使用する主なマニュアルのひとつ)にPMDDがリストされ、精神障害として認められるようになった。

PMDDは年齢とともに悪化する?

女性であれば誰もがPMDDに苦しむ可能性はある。でもパナイ医学博士の経験によれば、PMDDの発生率がピークに達する時期がある。

「生理が始まったばかりの思春期に発症するのが一般的ですが、残念なことに、この年代の患者さんのほとんどが適切な治療を受けられていない状況です」

「退学処分を受けてからオールAを取るようになった10代女性のPMDD患者を何人も治療してきました。非常に優秀な生徒たちでしたが、PMSやPMDDの症状が学生生活に影響を及ぼしていたのです」とパナイ医学博士。

また、ホルモンの変化がもっとも顕著に現れ、卵巣機能が低下し始める35歳以上の女性にも多くみられている。

それでも、PMDDの原因については依然として医学的議論の的であり、最終的に正確な診断を受けるのはほぼ不可能だという状況が今も現状に反映されている。

PMDDと診断を受けるには?

PMDDと診断されるのは簡単なことではない。なぜなら、PMDDは双極性障害の症状と非常によく似ているため、誤診されることが多いよう。

誤診される一因の一つが、気分が激しく乱れたかと思えば、生理が始まる頃には落ち着いてくるところ。PMDDの患者はよく、「悪夢のような1日から目が覚めて、いつもの自分に戻ったかのような感覚」と表現している。

正確な診断を受けるには、数ヶ月間、自分の症状や言動パターンを事細かに記録して、それをかかりつけ医に持って行くこと。

PMDD治療法:PMDDにもっとも効果的な薬は?

治療法は多岐にわたり、中には患者にとって負担がかかるものもある。現在行われているPMDDの治療には、次のようなものがある:

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):抗うつ剤
  • ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモン(GnRH)の注射(一時的に月経を止める)
  • 子宮摘出:手術によって子宮を完全に摘出する

PMDDの発症の引き金とは?

具体的にはまだ特定されてはいないけれど、一部の専門家の間では、生理周期によるホルモンの変化に対する異常反応だと考えられている。

PMDDは双極性障害の一種?

米国国立衛生研究所によると、双極性障害とPMDDはともに「周期性気分疾患」に分類されている。両者は異なる病気にもかかわらず、気分の浮き沈みに共通点があるために、PMDDは双極性障害と誤診されることが多い。PMDDは、生理周期に関連して現れる気分障害とされている。

PMDD遺伝子とは?

2017年に、ハーバード大学の研究者たちは「PMDD遺伝子」を発見し、長年にわたって提唱されてきた仮説をようやく裏付けることができた。

要するに、PMDDは単なるホルモンの異常が原因ではないことが明らかになった。生理周期によって引き起こるホルモンの変動に対し、遺伝的に弱い体質であることから、一部の女性はうつ症状やその他の症状に苦しんでしまうとのこと。

「ひどいPMSやPMDDがれっきとした病気であることが証明されたのです。これによりPMSやPMDDを、仕事や学校を休む都合のいい言い訳と思っている人々を納得させることができるでしょう」とパナイ医学博士。

歴史的に精神障害を患う女性はヒステリー扱いを受け、「女性ホルモンが女性に及ぼす影響」が軽視されてきた社会において、今回のハーバード大学の研究のように、この病気に対する理解を示し解明していくことは非常に意義がある。これでようやく、長年症状に苦しんできた人たちは周りから理解を得られるようになり、必要な支援を受けられるようにもなる。

PMDDは運動にも影響を与える?

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TravelCouples//Getty Images

「地獄の2週間、穏やかな1週間、自分を取り戻すためのリカバリー期間が1週間あります」と話すのは、バスケットボール選手でスポークン・ワード詩人のアスマ・エルバダウィ。

「私生活にもキャリアにもかなり影響を受けています。私生活では、どうしていつもそんなに疲れているのか、どうして突然興味を失うのか、周りからの理解を得ることは難しいです。仕事では、午前中にトレーニングをするのが難しくなりました。自主練習の時間は余計苦労しています」

「今はフリーランスで働いています。朝が辛くて。この働き方が唯一、スケジュールを自分で管理することができます」とエルバダウィ。

彼女は何年もの間、不安障害やうつ病と診断を受けてきたという。。PMDDと診断されたことでようやく、自分の体でなにが起きているかを理解し始めることができるようになったと話している。

「PMDDはPMSやうつ病、双極性障害などと酷似した症状がいくつもあるため、残念なことに、PMDDと診断されるまでに長い時間がかかることはよくあります」と話すのは、婦人科コンサルタントで、英国王立産婦人科医協会の広報担当を務めるキャロライン・オーバートン。

「自分で症状を事細かに記録することは、診断されるための大切なプロセスの一環です。医師は、症状のパターンを観察するため、少なくても2ヶ月間は日常についてあなたに質問を続けるでしょう」

1ヶ月を通して背景症状があるかもしれないが、PMDDを診断する手がかりとして重要な鍵となるのは、症状が悪化する時期があるかどうか。

「生理前のタイミングで症状が悪化していることは、患者本人や友人、親族、医療従事者からさえも見落とされがちです」とパナイ博士。

「これが、気分の乱れが激しい症状とよく似ている双極性障害に間違えられる主な理由です」

「PMDDがあまりにもひどかったので、子宮を摘出することに決めました」

イギリスのイースト・ミッドランズで国民健康サービス(NHS)のヘルスワーカーとして働くエミリー・グレース(30)が、自身のPMDD体験について語ってくれた。

「感情が激しく揺れ始めるたび、家族からは『生理前?』と聞かれていました。普通なら、それで不機嫌になったり泣いたりするかもしれませんが、私の場合はそれだけで済みませんでした」

「うつ症状、不安症、摂食障害に10年以上悩まされてきました。自分の人生を自分でコントロールすることがまったくできませんでした。それでも、これが生理のせいだとは誰一人本気で信じてくれませんでした。私は優しい家族に囲まれ、幸せな幼少期を過ごしました。でも、12歳になった頃から、突然目が覚めると頭には暗い雲がかかっていて、パニックや不吉な予感に襲われるようになり、自傷行為をするようになっていたんです」

10代の頃は、無価値観に支配されていた

「頭痛、不眠症、無気力感など、身体的症状もありました。骨がまるでコンクリートでできているかのように感じていましたね。10代の頃は、すべてに価値を見出すことができませんでした。失敗を常に恐れ、試験のことを考えだけで極度に不安を感じ、パニック発作を起こし、過呼吸でクラスを飛び出したこともありました」

「いろんな医者に診てもらいましたが、慢性疲労症候群、不安症、うつ病、最終的には拒食症と診断されました。私は、なんとかして自分をコントロールする術がないかと、ずっと探していたんです」

「理学療法を学ぶためにサウサンプトン大学に入学したときは、この苦しみから抜け出せるような気がしていました。原因が家族にあったわけではないですが、引っ越しがきっかけで問題も消え去るのではないかと期待していたんです」

「友達を作り、無理をしてでもパーティーに参加したりしましたが、私の心はどんどん深い闇の中に沈んでいきました。そしてあるとき、私は公園のベンチに座っていて、気づけばドラッグを過剰摂取していたんです」

不安から解放されたかった

「死にたかったわけではありません。私を苦しませる不安や虚無感から解放されたかっただけです。でも、ドラッグを過剰摂取することが常態化してきた頃、私はNHSの危機管理チームの監視下に置かれるようになりました。これがきっかけで、さらに自分の殻に閉じ込もるようになり、周りとの関わりを避けるようになっていきました」

「その後も3回ドラッグを過剰摂取したことが知られ、大学の最後の1年間はずっと入院していました。卒業して数年が経ち、定期的に診察を受けていると医師があることに気づいたんです。それは、私の症状がひどくなるのは毎回生理前だということでした。担当医は、私が月経前不快気分障害(PMDD)ではないかと考え始めました。それはPMSがさらに深刻化した症状で、極度の不安や精神病、鬱を引き起こし、最悪の場合は自分や他人に危害を加えたくなる病気です」

「仕事や社会生活、人間関係がうまくいかなくなるほど自分でコントロールができなくなるのは本当に辛いものです。原因はまだはっきりしていませんが、全体の5.5%の女性がPMDDを患っており、患者の約30%が自殺を考えていると言われています」

「最初はこんなの馬鹿げていると思いました。ただの生理が、生活にこんなに支障をきたすなんて考えられなかったからです。ですがここ数年、生理周期をカレンダーに記録し、メンタルヘルスについてブログを書いたりしていました」

「生理が近づくたび、私の精神状態は急激に悪化していた」

「記録していたカレンダーとブログを見てびっくりしました。生理前になると、私の精神状態は急激に悪化していました。そして2016年、26歳でPMDDと診断されました。医師の勧めにより、薬で一時的に生理を止め、正常値を維持するためにエストロゲンを補いました」

「これで私は、もし子宮を摘出して体がエストロゲンとプロゲステロンを分泌しなくなると人生がどう変わるかをシミュレーションすることができました。人生で最高の3ヶ月でした。気分が落ち込む日は1日もなかったのです」

「医師に、子宮全摘出を検討するように言われました」

「この治療法は長期的な解決策にはならないため、医師は私に子宮全摘出手術を受け、子宮、卵巣、卵管すべての摘出を検討するように言われました。自分の子どもを授かることができないと考えるとつらかったですが、PMDDが私にもたらす苦痛とは比べものになりませんでした」

「家族や専門家ともよく相談した末、私は2019年5月7日に子宮摘出手術を受けることを決心しました。その日は自分の中に強さが芽生えたと同時に、なにも変わらなかったらどうしようという不安もよぎりました。私が過去に経験してきた苦しみを、子宮摘出手術が消し去ることは当然できないですから」

「でも、この手術のおかげで私は自由を手にしました。PMDDの症状はすべてなくなりました。術後は摂食障害に苦しむこともなくなり、自傷行為をすることもありません。生涯にわたってホルモン補充療法を続けることになりますが、その代償は私にとってごく小さなものです」

「PMDDで苦しんでいる女性は、自ら命を絶っています。私もそのうちの一人になっていたかもしれません。でも私は、自分の人生を取り戻すことができました」 
 

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: LAUREN BROWN & CHLOE BURCHAM Translation : Yukie Kawabata

Headshot of 川畑 幸絵
川畑 幸絵
翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。