「サーカディアンリズム(概日リズム)」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 私たちには睡眠に関する遺伝的な傾向を示す、「クロノタイプ(日周指向性)」がある。つまり、私たちが「朝型」か「夜型」かということは、体内時計の影響によって、すでに決まっているのだ。
そして、その自然なリズムを尊重して生活することが私たちの全般的なウェルビーイングにとって重要なものであることは、すでにこれまでの研究によって確認されている。
クロノタイプを理解する
クロノタイプは私たちの身長と同じように、遺伝的に決められているものだという。アメリカ睡眠医学会(AASM)の会長でもあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校デイビッド・ゲフィン医科大学院教授(内科学)のジェニファー・マーティン氏は、こう述べている。
「クロノタイプは生物学的なものであり、人の態度や意志の力、あるいは生産的な人であるかどうかとは無関係であることが、理解され始めています」
また、遺伝に加えて、環境因子も関連しているという。臨床心理士で睡眠行動医学が専門のシェルビー・ハリス氏によると、例えば夜遅い時間にスマホを使用しているなど、睡眠環境や睡眠衛生に問題があることも、睡眠のパターンやクロノタイプに影響を及ぼし得るという。
そのほか、食事をとる時間が不規則になったこと、日中に十分な自然光を浴びていない人が増えたことも、現代になってクロノタイプが細分化した理由のひとつだとされている。
さらに、睡眠には年齢や性別も関連している。アメリカのシンクタンク、ランド研究所の睡眠科学者、ウェンディ・トロクセル氏は、「ティーンエイジャーが遅い時間まで起きているのは自然なこと」であり、単なる好みの話ではなく「生物学的なもの」だと話す。
この年齢層の若者たちの体が、眠気を感じさせるホルモンの「メラトニン」を分泌し始める時刻は、成人や子どもたちよりも遅い。そして、私たちは年齢を重ねるほど、朝早く目が覚めるようになる。また、一般的な傾向としては、女性は朝型、男性は夜型が多いという。
概日リズムと行動の「ずれ」
これまでの研究によって、ライフスタイルがその人の体内時計のリズムと合っていないことなどによる概日リズムの“ずれ”が、肥満や2型糖尿病、心血管疾患、不妊症、気分障害、認知機能障害など、さまざまな健康リスクを高めるとみられることが指摘されている。
『ジャーナル・オブ・スリープ・リサーチ』に発表されたある研究結果は、生理機能のほぼすべての側面において、調節する役割を果たしているのは概日システムであることが示されている。この論文の著者らは、「体内時計の健全性は、全般的な健康状態に等しい」とまで主張している。
ハリス氏は、自分のクロノタイプを理解することは病気の予防につながるだけでなく、自然な睡眠・覚醒リズムに合った1日のスケジュールを立てられるようになり、生産性やウェルビーイングを向上させることにもなるだろうと述べている。
これは、精神的・身体的なパフォーマンスの向上にもつながる。例えば、最も気分が良い状態でいられる時間に重要な会議や面接のスケジュールを入れたり、場合によっては、仕事全体のスケジュールを、自分のリズムに基づいて設定することもできるだろう。
こうしたことがより世界的なレベルで実現できれば、より多くの人たちに役立つものとなるはず。トロクセル氏は、「従業員の概日リズムを特定し、より柔軟な勤務スケジュールを認めることで、職場の生産性を最大限に高めることができるかもしれません」と話している。
専門家に相談を:
ハリス氏は、「睡眠をとるタイミングを変えるのが難しく、日常生活にも影響が及んでいると思うなら、専門家に相談してみて欲しい」と話している。そのほかマーティン氏によると、概日リズム障害を抱えている人は、約5~7%。これらの人たちには、専門家によるコーチングが必要だと考えられるそう。また、シフト勤務の人はぜひ専門家に相談し、概日リズムを整えるためのアドバイスを受けて欲しいという。
あなたの「クロノタイプ」は?
では、正確にはいくつのクロノタイプが存在し、それぞれどのように定義されているのだろうか? それは少し曖昧で、尋ねる相手によっても異なる答えが返ってくる。
ただマーティン氏はこれについて、よりシンプルに「朝型か、夜型か」を考えればいいと述べている。トロクセル氏も「直感に従うべき」だとしている。
例えば、朝5時に起きたくなるなら、その人は朝型と考えられる。午後11時が最も活発になる時刻だというなら、その人はおそらく夜型。ハリス氏は、さらにこれらを2つずつのタイプに分類。以下の4タイプに分けている。
ただしハリス氏は、これらは「あくまでガイドライン」と述べ、「あなた自身とあなたの生活にとって何がベストであるか、それは自分自身で見つける必要がある」と注意を促している。
タイプ1)朝型
どんな人?:朝5時30分に気分よく起床できる。午前7時前に散歩に出かけたり、ヨガを始めたりすることができる。
注意点は?:例えば午前8時~午後12時が最も生産性が高いと感じるなら、最も難しいタスクは、その時間帯に取り組むのがベスト。8時間の睡眠をとるためには、午後9時~10時にはベッドに入るようにすること。
トロクセル氏によると、午後にエネルギー不足を感じたときには、顔を水で冷やしたり、体を動かしたりするのがおすすめ(ジャンピングジャックを10回、プランクを30秒間、短時間のウォーキングなど)。
タイプ2)朝型寄り
どんな人?:就寝時刻は午後11時ごろ、起床は午前7時ごろ。
注意点は?:朝型の人のように、起床すればすぐにはっきり目が覚めるというわけではない。トロクセル氏によると、1時間ほどのウォーキングをして、そのうち少なくとも10分は日光を浴びるようにするといいそう。
そして、外でコーヒーを1杯飲んだり、犬と一緒に散歩に出かけるのもおすすめとのこと。
外出できないという人は、カーテンを開け、明かりをつけること。朝の光は体内時計のサイクルを固定するのに最も効果的であり、脳も覚醒させてくれるという。
タイプ3)夜型
どんな人?:始業がいつも正午だったらいいのに、と願っている。寝るのはたいてい真夜中か、それ以降。朝はできれば8時か9時近くまでベッドの中にいたい。
注意点は?:生産性が最も高まるのは、正午から午後3時まで。午前中はウォームアップの時間と捉えればいい。
注意事項:集中力が必要なことは、夜になってから取り組もうとする傾向があるかもしれない。だがそういう人でも、ブルーライトの影響を受けていないわけではない。少なくとも就寝時刻の数時間前からは、ブルーライトカットのメガネをかけるようにしよう。
タイプ4)不眠傾向
どんな人?:まさにこの名のとおり、緊張を緩めるのも、眠りにつくのも、睡眠を維持するのも難しい。規則正しい睡眠がとれていない。
注意点は?:トロクセル氏は、寝つきが悪いならまず眠くなる時刻を確認して、その時刻には必ずベッドに入るようにすることを推奨している。さらにハリス氏は、7~8時間は眠れるようにするため、なかなか寝つけないことを考慮して、真夜中までにベッドに入るようアドバイスしている。
そのほかトロクセル氏は、就寝前に試してみるべきこととして、ヨガ、瞑想、読書、入浴、リラックスできる音楽を聴くことを挙げている。
なお、重要なビジネスや、難しいプロジェクトに取り組むなら、適した時刻は午前10時から正午まで。
クロノタイプは変えられる?
もともと夜型の人でも、睡眠と覚醒のパターンを調整することによって、“どちらかといえば朝型”程度に変えることは可能だという。マーティン氏は、ポイントは2段階に分けて取り組み、体を「少しずつ慣らしていくこと」だとしている。
まず、就寝時刻と起床時刻を決め、定期的な睡眠をとるようにする。しばらく続けた後、数日に一度、いつもより30分早く寝て、30分早く起きるようにする。
また、起床したらまず外に出て、日光を浴びることもおすすめだという。例えば、午前6時15分から近所を散歩して、6時半には帰宅してプロテインスムージーを飲み、栄養を補給するなど。
そして、私たちの体内時計は「一貫性」が大好きであることから、起床後に運動するつもりがない場合でも、起きる時間は毎日、1時間以上の差がつかないようにすることが大切。
そして、もうひとつの重要なポイントは、食事と運動も、それぞれのクロノタイプに「理想的」と考えられる同じ時刻にすること(こちらも、一貫性が重要といえるかもしれない)。これは、睡眠のスケジュールを同時刻で維持するのと同じくらい重要だといえる。
トロクセル氏は、クロノタイプに関わらず、規則性と予測可能なルーティーンは、すべての人にとってのメリットだと話している。
※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。
From Women’s Health US
翻訳者。学業・仕事のため、5カ国の7都市でおよそ10年を過ごす。帰国後は経済・ビジネス関連の文書やニュース記事の翻訳を中心に、ウェルネス系の専門誌やアート関連の書籍、映像翻訳も手掛けるなど、長年にわたってフリーランスで活動。常に新たな情報に触れる仕事柄、心がけているのは、「浅くても、 何でも広く知ろうとすること」。