ウソをつくことと、正直になること――この行動が私たちの心と体に及ぼす影響を、作家のニコール・C・キアーが、専門家の話とともに紐解いてゆく。


大なり小なり、私たちのほとんどは「ウソ」をつく。子どもたちには、あれこれ画策して“歯の妖精”は本当にいると信じさせておこうとする一方で、「正直であることこそ最善の策」だと教える。体に合わないニットをプレゼントしてくれたパートナーには、「とても気に入った」と伝えつつ、クローゼットの奥深くにしまい込むことを決意する。

私は自分のことを、かなり正直な人間だと思っている……だが、それでも大学に入って以降のこの十数年、実質的には親しい友人と家族を除くほぼすべての人に、ウソをついてきた。

私は10代のころ、いまだ治療法が確立されていない「網膜色素変性症」と診断され、少しずつではあるものの確実に視力を失っていくと知らされた。そして私はこのことを、「必要に応じて必要な人にだけ」知らせることに決めた。

妥当なことだと思う。ただ、次第に視力が低下していくなか、歩いている途中で友人と顔を合わせても気付かず、あいさつもしないなど、後で説明が必要になる厄介なことが増えていった。

lonely woman sitting in sunny window
Malte Mueller//Getty Images

病気のことを知らせていなかった人たちには、本当のことが言えず、私はその場で思いついた別の理由を伝えてきた。「とても小さな罪のないウソだ」「被害者なき犯罪だ」と考えて……。だが実際のところ、被害者はいた。それは、私自身だった。秘密を抱えている人なら誰でも知っているこの事実に、私もようやく気が付いたのだ。

実際のところ、このことは科学的な研究によって、証明されている。ウソをつくということの複雑な“真実の姿”を理解するため、ウソの何がそれほど悪いのかについて明らかにするため、私は「正直さ」について研究する2人の専門家に話を聞いた。そして、5つの驚くべき真実を知ることになった。

1. 最も難しいのは秘密を隠しておくことではない

人には平均13の秘密があるという。その“人”とは、毎晩あなたの隣で眠っている人も、あなた自身も含む。この数字を明らかにしたコロンビア大学ビジネススクールのマイケル・スレピアン准教授(行動科学)は、大抵の場合「ウソと秘密には関連性がある」と指摘する。

「ウソは大抵、秘密にされています。そして秘密は、ウソをつくことによって隠されています」

彼の発見のなかで特に驚くべきことは、秘密を持ち続けるために取る行動のなかで「最も簡単なのは、秘密を隠しておくこと」だと明らかにされたことだろう。何より扱いが難しいのは、「反芻(はんすう)思考」(嫌なことを繰り返し考え続けてしまうこと)と、「侵入思考」(勝手に浮かんでくる不愉快な考え)だという。

「誰でも、何かを“隠す”瞬間があることには、準備ができています」「何度も何度も、繰り返しその秘密のことばかり考えてしまうということには、準備ができていないのです」

2. 誰かを“救う”ためのウソは、恨みを買いかねない

私は先日、ニコール・ホロフセナー監督によるA24制作の映画『You Hurt My Feelings』(原題)を観た。作家である妻が、自分の作品が大好きだと何年も言い続けていた夫の言葉がウソだったと知り、夫婦関係が破綻に向かうというストーリーだ。妻は「夫への信頼を取り戻すことはない。それほど傷付いた」と主張する。一方の夫は、「妻を傷付けないためのウソだった」と訴える。

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You Hurt My Feelings | Official Trailer HD | A24
You Hurt My Feelings | Official Trailer HD | A24 thumnail
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相手のことを思ってつくウソには、「向社会的なウソ」という名前があるという。一般的には、こうした類のウソには問題がないと考えられているが、本当にそうだろうか?

「必ずしも、そうとは限りません」と話すのは、正直さについて研究するシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスのエマ・レヴィーン准教授(行動科学)。

こうしたウソは相手の心を傷付けることから守る一方で、その人が学び、成長する機会を奪うものだ。そして、成長する機会はその本人にとって、他人が思う以上に重要な場合がある。レヴィーン准教授の研究によれば、正直さのおかげで学んだり、何かを向上させたりすることができたとき、人はたとえ短期的には痛みを感じることであったとしても、真実を知ることを望むという。

つまり、この映画に登場する夫婦の場合、まだ本の書き直しが可能なうちに、夫は妻に本当の感想を伝えるべきだったということになる。レヴィーン准教授は、次のように説明する。

「そこから何か学べるはずだというときに、正直なフィードバックをもらえなかった場合、大抵の人は否定的な反応を示します。“相手が自分の自主性を奪い、経験をコントロールしようとした”と受け止めるためです」「これは、その相手に対する信頼感をなくし、あまり倫理的ではない人だと考えることにつながります」

3. 秘密とウソがストレスの要因に

スレピアン准教授によると、最近の研究の結果、自分の秘密について考えるよう指示された人は「心拍数が増し、心拍出量が減り、全末梢血管抵抗が強まる(つまり、心臓が普段ほど効率的に働かなくなる)」ことがわかったという。

「秘密は、それについて考えるだけで、ストレス反応と同じような生理学的反応を引き起します」とのこと。それは、すでにほかの人たちに知られている自分の否定的な面について考えたとき以上の反応だという。

スレピアン准教授のこれまでの研究から、大半の人は「常に」自分の秘密について考えていることがわかっている。つまり、体は常に、小さいながらもストレス反応を経験している。

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Olga Strelnikova//Getty Images

ハーバード大学とカリフォルニア大学バークレー校の研究者が2015年に行った研究では、ウソをつくことでも「血圧の上昇、心拍数と呼吸数の増加、瞳瞳孔拡張」など同じような反応が示されることが報告されている。また、アメリカ心理学会によると、こうした慢性的なストレスは高血圧や心臓発作、脳卒中その他のリスクを高める可能性があるという。

スレピアン准教授の研究では、秘密を守ろうとすることによってもたらされる心理的な害をよりよく理解するため、秘密を次の3つの基準に基づいて分析している。

  • 不道徳かどうか(恥ずかしさを感じる)
  • 目標や願望との関連性の有無(ない場合はより感情的なものであり、不安感をもたらす)
  • 他者と無関係かどうか(孤独感につながる)

4. 真実を伝えることは思うほど難しくない

レヴィーン准教授は、調査対象者を「完全に正直でいる」「親切である」「普段どおりでいる」3つのグループにわけ、3日間をかけて実験を行った。

予想されたのは、「正直でいることは有意義なことだが、楽しめるものではない」ということと、そのために「社会的なつながりや幸福感は減るだろう」ということだった。だが実際には参加者たちは、「正直である」ことを好ましく感じるだけでなく、「楽しんでいた」という。そして予想以上に「社会的つながりを深めていた」そう。

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Malte Mueller//Getty Images

これについて、ひとつ例を挙げてみたい。私の妹には、常に人を見下したようなものの言い方をする同僚がおり、妹はその人に対していら立っていた。だが、それを伝えれば同僚は「侮辱された」と感じるのではないかと思い、妹は何もできずにいた。

だが、最終的に妹は、その危険を冒す価値はあると判断し、一晩かけてどう話すか練習したうえで、その同僚との1対1でのミーティングに臨んだ。同僚は妹の意見を聞くと、驚き、謝罪し、感謝の言葉を述べたという。そして、受け取ったフィードバックをすぐに行動に反映させたという。

妹はこの体験について「怖かった」としながらも、想像したより「ずっとよい結果が得られた」と話している――レヴィーン准教授の説明は、正しかったと言える。

5. 正直になることで孤独から解放されうる

秘密やウソが、広く言われているとおり「有害である」ということには、コンセンサスが得られているだろう。一般的に、「正直であることは、まさに最善の策」だと考えられる。

スレピアン准教授が提案するのは、小さなことから始めることだ。彼の研究によれば、誰かひとり(そう、たったひとり)に秘密を打ち明けることで、その人のウェルビーイングは大幅に改善し、一方で真実を隠すことは、自分自身に孤独を「課す」ことになるという。

「私たちが秘密を抱え、ひとりでいることを選択したとき、私たちは大抵、そのことについて最善の考え方をしていません」「秘密を打ち明けることで、前進するための道を見つけることが可能になります。精神的な負担が軽減されるのです」

open the door to the new path
hanabeni//Getty Images

視力を失っていくという秘密を長年にわたって抱えていた私は2014年、『Now I See You: A Memoir』と題した回想録を出版することで、その秘密を公表することにした(夫からはかなり批判される部分もあり、傷付きはしたものの、著書の内容はより良くなったと思う)。

スレピアン准教授の研究によって証明されたことを、私は実際に経験した。秘密を明かし、他者と共有することは、私が自ら作り、入った“隔離室”から、私を開放してくれた。

突然、私は同じような問題を抱えているほかの人たちと、自由につながることができるようになった。そして、その人たちからのアドバイスや与えられる知見、そして変化を起こす力から、恩恵を受けることができるようになった。

それまでの友人たちとの関係は、お互いの弱さを分かち合えたことや、私に対する正直な気持ちを明かしてくれたことで、一層深く、豊かなものになった。

それまで自分に貼っていた“バンドエイド”を剥がして正直になることは、恐れていたほど難しいことではなかった――つまり、“真実”は本当に、私たちを自由にしてくれるのだと考えられる。

※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。

Translation: Ryoko Kiuchi From Oprah Daily