ときに社会は、「無条件の愛」がロマンチックかつプラトニックであり、家族のような深い絆の典型だという考えを私たちに押し付けてくることがある。とりわけ、“条件無しに”人を愛することに努めるべきであり、それは間違いなく、愛の頂点といえるだろう。とはいえ、このような概念を聞いたからといって、やみくもに無条件に誰かを愛することは、果たして本当に健全なこと?

ここで、子供に対する親の愛情を例に挙げてみる。「無条件の愛は、基本的に親の子供に対する愛を議論するときによく使われます。なぜなら、相手が間違いを犯したり、なんらかの形で期待に応えられなかったとしても、相手に対して積極的に与え続ける愛だからです」と説明するのは、マリッジ・ファミリーセラピストのジュリエット・キンケイド・ブラック。親は子供が過ちを犯し、そこから学んで成長するためのスペースを見守りそっと与えられることは、健康な子供に育てるうえでかなり重要な部分。子供に対し、過ちによって愛することを拒んだり、条件を付けて愛そうとしたりはしない(詳細は後述)。

とはいえ、さまざまなタイプや性質を持つ人間関係を経験してきた私たち大人からすれば、たとえ家族であっても、相手の悪事に関係なく愛するべきだという考えは、かなりこじつけのようにも思える。ときに過ちを犯してしまった他者に共感を示したり、優しさを与えることも大切なのは確かだけれど、その愛に 「条件」 がないことによって、自分の幸福や精神的な安定を犠牲にしているとしたら、それはどうなの? 多くの人は、「なにがあっても」相手をずっと愛することができると信じたいかもしれない。けれども、こうした感情や考え方が変わる出来事や状況だって起こりえる。

考えてみてほしい。もしパートナーが自分にウソをついていたり、友人に裏切られたり、家族が自分の大切な人にひどいことをした場合、それでもあなたは、無条件に彼らを愛して、彼らのすべてを受け入れることができる? 

無条件の愛とは、一見すると心温まるホールマーク映画から生まれたかのようにも見えるけれど、この種の愛をどのように実現させるのかという現実を少し深く掘り下げてみると、無条件の愛という概念は、やはり主観的であり抽象的で、紛れもなく複雑。

そこでアメリカ版ウィメンズヘルスは、無条件の愛とはなにか、健全な在り方で 「無条件に」 誰かを愛するにはどうすればいいのか、人間関係の専門家に話を聞いてみることにした。結局のところ、この漠然とした概念を実生活にどんなふうに取り入れていくべきかをまずは理解することが、この概念を自分のものにしながら、それが自分や人間関係にどういった利益をもたらすのかを判断できるようになる。さっそく読んでいこう。

「無条件の愛」を正確に言うと?

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Sasiistock//Getty Images

オックスフォード英語辞典では、愛を 「誰かに対して深い愛情や好意を抱く感情や気持ち」、無条件を 「いかなる条件や制限もない」と定義している。つまり無条件の愛とは、制限がない中で、ほかの誰かに対する深い献身を示すことを意味する。

とはいえ、この定義を実際の人間関係に当てはめようものなら、どんなふうに解釈されるだろう? 実のところ、すべての人間関係は異なるけれど、この言葉を一般的に理解するには、愛する人に対して「無私(我欲やエゴなど「自分のため」といった感情がない状態)」を実践することから始まる。「無条件の愛とは、相互依存や利得を期待することなく、条件を付けずに、誰かに愛を広げる積極的な選択となりえるでしょう」と、キンケード=ブラックは説明する。例えば、人間関係にスコアをつけないでいることは、無条件の愛の表現でもある。これは例えば、一日中仕事をして疲れているパートナーのために、夕食を作ってあげること。この裏で、明日の夕食はパートナーが作ってくれることを期待したりしない。純粋にパートナーのことを気遣っていて、パートナーの重荷を軽くさせてあげたいという気持ちからそうしているだけ。

また、誰かを無条件に愛するということは、純粋な意図があって、相手のために最善を尽くしたいからだといっても過言ではない。「私の見解では、無条件の愛とは、典型的な社会の期待を超える愛の一形態です」と説明するのは、マリッジ・ファミリーセラピストのレアンドラ・デシノード。「それは与えられた愛のもっとも純粋な形なのです」

この種の愛は、様々な形で現れる。例えば、二人のパートナーが、二人の関係においてどんな困難が立ちはだかったとしても、お互いをコミットすると誓い合うことや、家族間で深く傷ついたり不当な扱いを受けたとしても、お互いに許し合えること。なぜなら、それでもなお、その人を愛しているから。

条件付きの愛とは?

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無条件の愛という考え方は、お互いを受け入れることと希望に基づいているが、そこにはいささか暗い側面もある。

「多くの人は、無条件の愛について、なにがあっても誰かを愛し続けることだと定義しているため、他人が自分の境界線(踏み込んでほしくないこと)を超えてきたり、不快感を与えたり、危害を加えたりする状況に自分が置かれているときに、この定義を自分に言い聞かせようとすることがあります」とデジノール。「ですがこの場合は、無条件の愛という概念になりません」『All About Love』の著書、ベル・フックスは書籍の中で、『愛と虐待は共存できない』ということをよく語っています」。例えば、あなたの気分が乗らないときでも、相手がセックスを強要することが多いとする。あなたはそれを、パートナーに自分に対する愛情表現だと正当化しようとしているなら、それは無条件の愛とは言わない。相手の 「愛」 には明らかに条件が存在していて、その行動は明らかにあなたの境界線を無視している。

同じように、「無条件の愛」という概念は、被害者が虐待的な状況や人間関係にとどまるように圧力をかけることもある。「無条件の愛は、不健康な、または虐待的な人間関係を続けることを正当化するために使われることがあります。『たとえパートナーが私を傷つけたり、私に不誠実であったとしても、私は無条件にパートナーを愛しています』という人もいるかもしれません」と、キンケイド=ブラックは説明し、有害な関係を続けることは、無条件の愛でないことの典型的な例だと指摘している。

どんな関係性においても、自分の境界線やエネルギー、そして究極自分自身を守ることが、まずはなによりも優先されるべきこと。無条件の愛とは、なにかを期待することなく誰かを愛することであり、人間関係の問題を無視したり、虐待的な行動を容認したり、自分のニーズを軽視するものではないことを忘れないで。

「無条件の愛を与え、受け取ること」の利点とは?

キンケイド=ブラックによると、欠点や短所などを含め、あなたの周りの人をありのままに愛し、感謝の気持ちを抱くことで、他者との絆を深めることができる。「すべての人間関係は、お互いが期待を持つことなく、自由に与えられる愛に基づくことができます。友人関係や家族関係、よりカジュアルな同僚との関係でさえも、期待から解放されたときには、誰にとってもより豊かでより楽しい関係を築くことができます」

一方で、恋愛関係において厳密な期待を持つことは、相手が満足してくれるためにその期待に応えようとしたり、特定の行動をとったりすることに大きなプレッシャーを与えることがある。無条件の愛とは、そういったストレスを解消してくれる。

さらには、無条件の愛を実践することにより、人間関係の質が高まるだけでなく、目に見える健康と感情のメリットも得られるとキンケイド=ブラックは話す。「無条件の愛を受け取ることには、とくに成長過程にいる子供たちにとって、身体的および精神的な健康上の驚くべき利点があります」と、キンケイド=ブラック。「これには、体調不良や病気に対する免疫力の向上、ストレスからの回復力の向上、より健康的な脳の発達、そして(もっとも)重要なことは、生涯にわたってより健全な人間関係を築けるようになることです」

愛は、本当に無条件になれる?

full length of mother reading picture book while sitting with children in bedroom
Maskot//Getty Images

簡単に答えるなら、それはわからない。

あなたの両親は 「無条件に」 あなたを愛しているかもしれないけれど、あなたが彼らの子供であるという事実自体が「条件」でもある。セラピスト養成施設「ゴットマン研究所」によると、人が愛情やつながりを感じたときに放出される脳内の化学物質オキシトシンは、親と子供がお互いの信頼やサポートを深めて絆を強くするのに役立つという。実際に、出産時や産後の期間において、オキシトシンは安全な出産と母子の健康を確保するプロセスを整えたり、制御するうえで重要な役割を果たしている。さらには、科学雑誌『Frontiers in Endocrinology』に掲載された2021年のレビュー記事によると、母体の脳でオキシトシンは、母子間の絆の形成から、母親の子供に対する感情的な反応までを管理していることがわかっている。

オキシトシンは通常、親が自分以外の子供を見ても放出されないので、ほかの誰かと同じ絆を共有することはない。そのため、無条件の愛のような感情的な反応を自分以外の子供に示すことはない。

恋愛関係でも同じことが言える(なぜなら、2012年の研究によると、恋愛関係がスタートする初期段階でオキシトシンの放出が増加するから)。そのため、パートナーにも、ときにあなたをイライラさせたりストレスを与えるような特定の癖や習慣があるかもしれない。だけど、相手を愛しているからこそ耐えることができる。

この「無条件の愛」の概念をよりよい言葉で表現するなら、それは間違いなく、「心からの愛」かもしれないとデジノールは話す。そうすれば、自分の平和が保たれ、境界線を守りながら、誰かを真剣に愛することができる。「私たちは人間なので、完全に無条件に愛するために最善の努力を尽くそうとしても、やはり条件は生じるものです」とキンケイド=ブラック。「ですが、心を込めて誰かを本気で愛するなら、自分の条件や期待は脇に置いておき、相手を真剣に愛するために努力するという選択を積極的にとることができるでしょう」

どうしたら、「無条件に」 誰かを愛せるの?

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「無条件の愛」 という概念は、現実よりも神話に過ぎないかもしれない。だけど、それでも心を込めて周囲の人を愛することはできる。専門家はあなたに以下のアドバイスを共有している。

1. あなたにとって愛が意味するものを定義する

関係から条件を取り除くことに焦点を置くのでなく、自分自身の内側を見つめながら、心から他者を愛する練習を始めてみるようにデジノールは提案している。「あなたにとって愛はなにを意味し、どういう形であるものなのかを定義したら、それをまずはあなた自身に与えていくのです」とデジノール。「自分に対する愛を持つことを一度マスターしたら、自分の境界線を維持しながら、自然と条件を超える(無条件の)愛を経験することになります」。さらに、自分に自信をつけて自分のニーズをしっかり把握することが、結果的に他人を愛し感謝をする多くの方法を学ぶことになる。自分のことを第一に考えながら。そしてこれは、決して自己中心的な在り方ではない。

2. 人間関係の焦点を見直す

人間関係のネガティブな部分にこだわるより、ポジティブな部分に時間とエネルギーを費やすことを選択するようにキンケイド=ブラックは勧めている。「目に見えるネガティブなものは否定したくもなりますが、あるものをなかったことにするのではなく、自分のエネルギーをどこに使うのかを選択できるようになることです」と、キンケイド=ブラック。「代わりに、うまくいっていることに焦点を当ててください。正しいことにエネルギーを向けると、人間関係でもポジティブな側面に目を向ける習慣が自然と身に付いていきます」

たとえば、いつもクチャクチャと音を立ててガムを噛む同僚が近くにいるとしよう。そしたら、イライラさせられる部分にだけ目を向けて、同僚の全体像が捉えられなくなるよりも、同僚の好きな部分にエネルギーを向けるようにする。例えば、いつも職場のみんなのために本やお菓子を持ってきてくれるところ。「時間をかけて、明るい側面に意識を向ける筋肉を鍛えることで、いずれは非常に純粋で本物の愛、つまり心からの愛を構築することができるようになりますよ」と、キンケイド=ブラック。

3. 共感を実践する

心からの愛を与え受け取れるようになるためのもう一つの重要なステップとは、共感力を育むことだとキンケイド=ブラックは言う。たとえば、パートナーが家に帰ってきて突然仕事を辞めたことをあなたに告げたとする。するとあなたは取り乱したり、別れを切り出したくなるかもしれない。だけど、共感力を駆使して相手の視点に立って状況を眺めることは、相手がなぜそのような難しい決断をしなければならなかったのかを理解するのに役立つかもしれない。「共感力の筋肉をつける練習をしていきましょう。それは、友人や家族、パートナーが経験していることに積極的に興味を持つことから始まりますよ」と、キンケイド=ブラック。

結論:あなたがあなた自身の境界線や感情的な限界を自覚している限り、無条件の愛、つまり心からの愛は、きっとあなたが経験できるもっとも深い愛情の1つになるはず。

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: JESSICA MIGALA, LINDSAY GELLER AND JACQUELINE TEMPERA
Translation : Yukie Kawabata