2018年の春に子宮摘出術を受けた58歳のボー・ロスは、その数週間後から極度の疲労と痛みに悩まされ、1日の大半をソファーの上で過ごしていた。シアトルに住むスピーチコーチのロスは、オピオイド鎮痛薬を飲む気になれず、タイレノールを選んだけれど効果はいまいち。そんなとき、チャットグループの女性たちがカンナビジオール(CBD)という大麻由来のオイルの話で盛り上がっていた。CBDは痛みに効いて、“ハイ”になることがないという。大麻なんて大学以来吸っていない。でも、大麻が合法の州に住むロスは、調剤薬局でCBDのチンキ剤を購入した。

「オイルを数滴口に垂らしたら、何週間も治まらなかった不快感と痛みが数時間のうちに軽くなり、コントロールしやすくなりました」とロスは当時を振り返る。その後も1日に数回、数滴を続けたら、数週間で普通の生活に戻ることができたそう。

CBDに関する広告や友達の熱弁に圧倒されたことがないのなら、時間の問題。大麻かヘンプから抽出されるCBDは全世界を席巻しており、CBDのカプセル、チンキ剤、ベイプ用の液体どころか、CBD配合のローション、美容製品、スナック、コーヒー、膣座剤まで登場している。大麻を取り締まる法律がない米国の州では、実店舗やオンラインショップに1000を超えるメーカーのCBD製品が並ぶ。でも、これは氷山の一角に過ぎない。

支持者いわく、大麻由来でハイにならない商品が注目を浴びているのは、そこに含まれるCBDという成分が痛みや吐き気、関節リウマチ、がん、クローン病、認知症といった“ありとあらゆる問題”に効くから。カンナビスドクターとして知られるジョセフ・コーヘン医師によると、CBDには抗炎症作用、抗不安作用、抗菌作用、免疫抑制作用などがある。

もはやインチキ薬の売り文句に聞こえるかもしれないけれど、予備調査の結果は、この成分に幅広い効果がある可能性を示している。でも、CBD商品が本当に評判通りで安全で合法なのかを私たちが調べたところ、その答えは想像以上に複雑だった。

CBDとは?

CBD(カンナビジオールの略称)は、大麻草(マリファナやヘンプ)のオイルに含まれる400以上の成分の1つ。ユーザーをハイにすることで知られているのは、大麻草の別の成分であるTHC(Δ9-テトラヒドロカンナビノールの略称)。

CBDを使うとハイになる?

THCと違い、CBDでハイになることはない。でも、米国際カンナビス&メンタルヘルス研究センター実験薬理学・行動学ディレクターのジャハーン・マルク博士によると、だからといってCBDに精神活性作用がまったくないわけではない。「CBDは我々の認知を変えます。気分にも作用するから、みんな不安対策で使っているわけですね。CBDを使うと、注意力が高くなると言う人もいます」

CBDが体に与える作用は?

CBDは、脳だけでなく多くの生体プロセスにも作用する。これは、科学者たちが大麻で人がハイになる理由を調べる中で、1990年代に発見した内因性カンナビノイド系(ECS)の働きによるもの。心血管系、生殖器系、呼吸器系ほど認知度は高くないけれど、ECSは非常に重要。「ECSは、私たちが食べて眠り、リラックスして、覚えておく必要のないことを忘れ、体を害から守るのを助けます」とマルク博士。脳には、オピオイド受容体やセロトニン受容体を凌ぐほどのECS受容体があり、腸、肝臓、膵臓、卵巣、骨細胞などにもECS受容体が存在する。

体内では、毎日膨大な数の内因性カンナビノイドが作られる。「“ランナーズハイ”はドーパミンとエンドルフィンの分泌によるものと考えられてきました」と話すのは、米ピッツバーグ大学付属病院の臨床教授で神経外科学長のジョセフ・マルーン医学博士。「でも、この高揚感はアナンドアミドという内因性カンナビノイドからも得られることが分かりました」。アナンドアミドの名は、“至福”を意味するサンスクリット語に由来する。内因性カンナビノイドは毎日産生されるけれど、酵素によって破壊され、すぐに消失してしまう。そこで役に立つのがCBD。CBDは、この酵素をブロックして内因性カンナビノイドの生存期間を延ばしてくれる。

これが理由で、がんコンサルタントのアマンダ・オリバー(31歳)は毎日寝る前にCBDのグミを食べている。「ベッドに入っても、あの仕事は大丈夫かな、家の防犯センサーはオンにしたかなと考えて寝付けない日が多かったんです」。オリバーのグミには1個あたり15mgのCBDが含まれている。これは、脳をシャットダウンして睡眠を促すには十分な量。生理痛がひどいときには、CBDオイルも使っているそう。

CBDの用途と健康上のメリットは?

オリバーのような成功体験は珍しくないけれど、そのような効果を裏付けるデータは少ない。これは、CBDが米国麻薬取締局のスケジュール1(制限がもっとも厳しいカテゴリー)に分類される薬物である大麻という植物から抽出されるものだから(このカテゴリーには他にもヘロイン、エクスタシー、ペヨーテなどが含まれる)。米国では、この分類が原因でCBDを含む大麻由来の商品の研究が滞っており、大麻の支持者たちは、この分類の変更を求めて何年も戦っている。

よって、現在謳われているCBDの有効性は、マウスとペトリ皿を用いた研究結果に基づくもの。その結果を見る限り、CBD(少量のTHCが含まれていることもある)は、痛み、不安やPTSDといった神経学的疾患、免疫系を改善し、関節炎、糖尿病、多発性硬化症、がんなどにも効く可能性がある。

CBDで本当に痛みは和らぐ?

CBDのヒト実験のほとんどは、てんかん患者に対して行われており、米国食品医薬品局は2018年、珍しい型のてんかん用に作られたエピディオレックス(Epidiolex)をCBDベースの薬として初めて認可した。他の疾患に対する臨床治験でも好ましい結果が出ているとはいえ、規模は小さい。2011年に結果が発表されたブラジルの実験でも、600mg(一般的なチンキ剤の用量より多め)のCBDを摂取した社会不安症の患者に症状の緩和が見られたけれど、参加者がプラセボ群と合わせて24名と少なかった。

コーヘン医師は、6mgのCBDチンキ剤を舌の裏に垂らす(もっとも速効性が高い方法)、あるいは25mgのCBDカプセルを1日2回飲むことで、自己免疫疾患や疼痛症候群といった慢性疾患の症状が緩和することを突き止めた。ローションのような外用剤の場合は、皮膚から体内に取り込まれるCBDの量が正確に分からないため、適切な用量を決めるのが特に難しい。

CBDで本当に不安は和らぐ?

大規模な実験が進まない中、大麻が合法の州の医師たちは、試行錯誤しながらCBDに関する知識を身につけている。コーヘン医師の患者には、CBDが炎症、痛み、不安に効くと信じてやまない人が多い。彼自身も、認知症の予防になることを期待して1日50mgのCBDの摂取を開始したところ、片頭痛がすぐに治まった。

米コロラド大学の臨床助教授スコット・シャノン医学博士は、CBDが不安障害に与える影響を調べるために、4つの病院で担当した患者のカルテを分析した。その結果、CBDを用いると「不安スコアの急速な低下が数カ月にわたって続く」ことが分かった。でも、CBDが「大々的に宣伝されている」いま、プラセボ効果を差し引いて考えることはできない。

CBDは安全?

質の高い治験結果がないため、それぞれの目的に沿った用量は専門家にも分かっていない。ロス行きつけの調剤薬局のスタッフは「1日1~2回使って様子を見てください」と言ったそう(ロスにはスポイト半滴で十分だった)。

でも、CBDが危険じゃないということは科学者たちも確信している。マルク博士によると、1日5000mg使っても生命の維持に不可欠な臓器が損傷することはなく、CBD商品の使いすぎで命を落とした人はいない。

CBDの副作用は?

CBDには副作用があるので、必要以上に摂取しないほうがいい。もっともよくある副作用は、疲労感、下痢、食欲と体重の変化。米メイヨークリニックの精神科医J・マイケル・ボストウィック医学博士は、CBDの流行に伴って「新しい副作用が出てくる可能性も高い」と考えている。

ニューヨーク州の宝石商でドゥーラ(産前産後のサポーター)のリサ・ハミルトンも、CBDの副作用を経験している。ハミルトンは5年前の事故で肩を痛めた。その痛みが続いていたため、かかりつけ医はニューヨーク州の調剤薬局からCBDを買うための条件である“慢性痛”と認定した。調剤薬局で10mgのCBDカプセルを1日2錠飲むように勧められた彼女は、金曜日と土曜日に2錠ずつ服用した。ところが「日曜日は朝からトラックに轢かれたような感じがしました。ありとあらゆる筋肉と関節がズキズキ痛くて」。その週から用量を半分に減らしても二日酔いのような不快感が治まらず、ハミルトンはCBDの服用を中止した。

CBDが他の薬に作用する可能性は?

CBDと薬の相互作用も懸念されているけれど、CBDを医療に用いる緩和ケア医のスニル・クマール・アガルワル医学博士いわく、CBDはほとんどの薬と併用可能。

例外は、抗凝血剤、静脈内に投与する抗生物質、そして用量が厳しく定められており、経過を注意深く観察する必要のある薬。もちろん、健康上の問題がある人は、CBDを使う前に必ず医師に相談すること。病院で診察を受ける代わりにCBDを摂取するのも絶対NG。

米国ではCBDが合法?

米国連邦法のもとで大麻(CBDとマリファナの原料)は違法。でも、マリファナが合法の州では、その法律が適用されない。一部のCBDメーカーは、合法的に輸入したヘンプから抽出され、THCをまったく、あるいはほとんど含まないCBDが米国全土に供給されることに問題はないと主張している。でも、ヘンプがマリファナと同じ種の植物(大麻)から作られており、いかなるCBDも麻薬取締局のスケジュール1に分類されていることから、多くの専門家はメーカーの意見に反対している。米シンクタンクの『Brookings Institution』が言うように、「この(大麻を取り締まる)法律のクリエイティブな解釈は、現実という壁に阻まれている」のかもしれない。

さらに、米国の9つの州(カリフォルニア州、ワシントン州、コロラド州など)では、THC含有の有無を問わず、大麻由来の商品が自由に購入できるからややこしい。また、医療大麻の使用が認められている他の約20の州では、認可された疾患(州によって異なるけれど、慢性痛、PTSD、がん、自閉症、クローン病、多発性硬化症など)を持つことが医師によって証明された人に対して、認可を受けた調剤薬局が大麻(CBDやTHCを含むカプセルやチンキ剤など)を販売できる。それ以外の16の州では、一部の疾患に対してのみCBDを使うことが法律で認められている。

でも、米国連邦法のもとではすべてのCBD商品が違法なので、CBDの支持者たちは気が気じゃない。「連邦政府は見て見ぬフリをしています」と語るのは、大麻取締法の改正を求める全国的な組織『NORML』推進官のポール・アルメンタノ。でも、連邦法が改正されるまでは「現在または次の政権がCBDの生産者、製造者、利用者を厳重に取り締まることができるでしょうし、それが合法とされるでしょう」


CBDオイルはどこで買う?

医学専門誌『JAMA』に掲載された2017年の論文によると、調査員がオンラインショップで購入した84個のCBD商品のうち、CBDの含有量がラベルに記載されている量を上回っていたのは43%、下回っていたのは26%だった。その中には、含まれていないはずのTHCが含まれているものもあった。この論文の共著者であるマルク博士は「要するに、不当表示のCBD商品を買ってしまう確率は75%もあるということです」と注意を促す。

マルク博士によると、大麻草には殺虫剤の重金属や他の有害物質を吸収しやすい性質があるため、CBD商品の品質も気になるところ。オンラインショップで購入するなら、商品の検査の様子を記録しているメーカーを探すこと。

「大麻草の栽培方法や加工方法は商品の質に影響を与えるので、信頼できるメーカーから買うことが大切です」とマルーン博士。値段が低すぎるのは、そのメーカーがどこかで手を抜いているサイン。良質なCBDは値段が高く、コーヘン医師の病院ではカプセルの瓶が140ドル(約2万円)で売られている。でも、多くの場合、お金をかけるだけの価値はある。ロスも小瓶に60ドル(9千円弱)を費やしたけれど、使った初日に活力が回復したことを考えれば安い買い物だったと言う。

※この記事は、2019年7月19日に、医学助教授で『Prevention』医療審査委員会メンバーのラジュ・ダスグプタ医学博士の査読を受けました。

※この記事は、アメリカ版『Prevention』から翻訳されました。

Text: Meryl Davids Landau Translation: Ai Igamoto